上 下
13 / 67

第13話

しおりを挟む
野球部の地区大会の試合が終わっての
翌日の昼休み

いつものように
星矢は、吹奏楽部の部長の翔子、
野球部のキャプテンの翔太とともに
中庭のテーブルで昼食をとっていた。

「昨日の試合頑張っていたよね。」

 お弁当に入っていたナポリタンを
 食べながら言う翔子は、
 口の周りにケチャップをつける。

「ああ、まぁな。
 翔子、口にケチャップついてるぞ。」

 翔太は何気ないこともよく気がつく。
 すぐにバックの中から
 ポケットティッシュを渡した。

「ああ、ありがとう。
 ついつい、美味しくて気づかなかった。
 翔太がティッシュ持ってるなんて
 意外だわ。星矢くんの方が女子力
 高いのよ?」

「え?」

 星矢はその発言にびっくりした。

「ね。
 ティッシュ、ハンカチはもちろん
 持っているし、絆創膏、
 ソーイングセットも
 バックに入れてるもんね。」

「ああ、まぁ。
 母がそういうのうるさくて、
 いつも入れてますけど、
 女子ではないです。」

「知ってるよぉ。
 きちんとしてるのをそう表現するの。
 気にした?ごめんね。」

 翔子は星矢の肩をバシッとたたいた。

「そうなんだ。
 しっかりしてるんだな。」

 テーブルの上、腕の中に顔をうずめて
 翔太は星矢を横から見る。
 なぜか翔太の顔がキラキラして見える。
 褒められたからか、頬を赤らめた。

「おっとぉ~、
 そろそろ私は退散しようかな。 
 んじゃ、また部活でね。」

 翔子は、2人の様子に
 邪魔してはいけないだろうと、
 ハンカチに包まれたお弁当を持って
 その場から離れようとした。

「あ、ちょっと待って。
 昨日の試合で気になってたことが
 あって…。」
 
 翔太は、立ち去ろうとする翔子の肩に
 触れて、戻るよう促した。 

「え?それ、私も関係するの?
 星矢くんに聞けばいいんじゃない?」

「2人に聞きたいんだよ。」

「あ、そう。」

 複雑な顔を浮かべて、ベンチに座る翔子。
 改めて、3人が顔を合わせる。

 昨日の地区大会試合では、
 キャプテンである翔太が先発ピッチャーを
 つとめたが、途中ランナーを増やしたことにより、クローザーに交代した。それにより、さよならホームランに持っていくことができた。でも、その先発としてピッチャーをしたことで試合に負けそうになったと不安で仕方なかった。

「もっと早い段階で交代した方
 良かったのかな。
 投球数が増えたこともあるし、
 体力がなくなってきたことで
 コントロールが効かなくなったんだよ。
 俺がミスしなければ、
 早く点数を取れたんじゃないかって
 後悔してるんだ。」

「翔太は、そんなことで悩んでるの。
 私は結果オーライだと思うわ。」

「すいません、先輩。
 僕も翔子先輩に同感します。」

「……考えすぎってことか。」

「そもそもさ、勝てたのは
 クローザーをした後輩だからって
 思ったから悔しいんじゃないの?」

 その言葉に星矢も頷く。

「野球てさ、9回まであって、
 その回数ごとにドラマがあるんだよ。
 最後の人がやったからその人の勝利、
 手柄とかじゃないんだなぁ。
 翔太が投げた分も勝利に繋がってるの。
 無駄なことはないと思う。
 自信持ってよ。
 途中、負けそうになったかも
 しれないけど、監督の匙加減で、
 軌道修正したわけだから、
 結果よかったじゃん。
 そのまま翔太がピッチャーやってたら
 負けてたよ。
 助けられたって思ったら
 ラッキーじゃん。」

「えーーー、
 負けてるって言ってるじゃん。」

「先輩、意外とナイーブなんですね。」
 
 星矢はボソッと言う。

「翔太は過大評価しすぎよ。
 いつでも自分が100%出せると思うの?
 野球はチームワークだよ。
 お互いに誰かに助けられて
 勝利を勝ち取るんだよ。 
 人間1人じゃ生きられないって
 野球で教えてくれてんじゃん。」

 翔子はコンコンと納得させた。
 翔太は聞いてると、何だか大丈夫なんじゃないかと思えてきた。
 
「おー、そうか。
 俺は、自分に厳しいのか。」

「何でもかんでも1人じゃないよ。
 生まれた時から親子で2人で
 出産がんばるんだよ。
 それが1人でできると思うの?」

「ん?翔子は俺の母さんだったか?」

「んなわけないでしょう。
 これは、私のお母さんの受け売りよ。
 そう教えてくれた。」

「だよな。わかっているけど、
 母さんに見えてきた。」

「先輩、僕も翔子先輩がお母さんに
 見えます。」

「崇めたまえ~。」

 お釈迦さまのような格好になる翔子に
 ハハーと土下座しようとしたが、慌てて
 体勢をもどす。

「冗談やめてよ。
 私は仏さまでもなければ観音さまでも
 ないわ。
 普通の高校3年の女子だよ。」

「……いい親御さんだな。
 きちんと教えてくれて。」

 翔太は、感心した。
 星矢も同様に何度も頷いた。

「まぁまぁ。
 人生平坦なことばかりじゃないし、
 むしろ失敗の方が多いっていうしね。
 明るく前向きに生きた方が
 楽しいでしょう。
 んじゃ、そろそろいくわ。今度こそ。」

 翔子は話が終わったと思うと
 颯爽と立ち去って行った。

 星矢は、翔子の発言に感動した。

「僕も前向きに生きようかな。」

 その言葉を聞いて、
 じっと、黙って星矢の顔を見る翔太。

「ん?何かついてます?」

「俺はいい友達を持ったよ。
 幸せだ。
 あ、星矢の場合は友達以上だけどな。」

 歯をにかっとさせて、さわやかな笑顔を
 見せた。顔の周りにキラキラとした
 星が見えそうだ。

 星矢は、翔太の言葉にドキドキして、
 顔を赤くして下を向いた。

「今日の帰りもフルート吹いて。
 下で聞いてるから。」

「え?」

「んー、モーツァルトでいいよ。」

「えー、練習したことないですって。」

「まぁまぁ、試しにね。」

 翔太は立ち上がって、
 お弁当を持ち上げる。

 立ち去ろうとする翔太を追いかけた。
 
 学校に来るのが楽しみになったのは、
 翔太と翔子のおかげかもしれない。


 同じ同級生がいる教室で
 話す友達がいなくても、
 毎日がウキウキしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒木くんと白崎くん

ハル*
BL
黒木くんは、男子にしてはちょっとだけ身長低めで、甘いもの好きなのに隠したがりなちょっと口が悪いのに面倒見がいい先輩。 白崎くんは、黒木くんより身長高めでキレー系の顔がコンプレックスの後輩。 中学1年の時に、委員会の先輩だった黒木くんが卒業する前に、白崎くんに残した言葉からうつむきがちだった生活が変わっていって…。 「先輩は何気ないつもりだったんでしょうけど、僕にとってはそれはまるで神様からの言葉みたいだったんです」 ノンケの先輩を好きになった、初恋が黒木先輩という白崎くん。 自分を意識してほしいけど、まるで子どもみたいなやり方でしか先輩の前に出られない。 …でも、男の僕が先輩を好きになってと望んでも、先輩を困らせたりしないかな。 女の子から意識されている先輩を見ていると、「僕の方が好きなのに!」とか、「僕の方が先に!」とか思う裏側で、「手をつなぎたいって言っても気持ち悪がられちゃうよね? だって、僕…男だし」って凹んでしまう。 それでもどんな形でもそばにいたい、黒木先輩のそばに…。 黒木くんのことを意識してから、追うように入学した高校で、ゆっくりと好きになってもらうための日々。 2歳差男子高校生二人の、卒業までの一年間のお話。 ※コンテストの関係で、なろうでも同作を連載開始しました。  こちらよりは更新ゆっくりめです。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

太陽に恋する花は口から出すには大きすぎる

きよひ
BL
片想い拗らせDK×親友を救おうと必死のDK 高校三年生の蒼井(あおい)は花吐き病を患っている。 花吐き病とは、片想いを拗らせると発症するという奇病だ。 親友の日向(ひゅうが)は蒼井の片想いの相手が自分だと知って、恋人ごっこを提案した。 両思いになるのを諦めている蒼井と、なんとしても両思いになりたい日向の行末は……。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...