翡翠の紋章

もちっぱち

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第30話

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フィンレーは、たいまつを持った男を
見て、息をのんだ。

「テオドール王!
 どうしてここに?」

 膝を床について、啓礼をする。
 とっさに叩き込まれた儀式を思い出す。
 
 王を目の前にすると、
 オーラが違う。
 
 騎士の試験の真っ只中のはずだったが、
 今は囚われの身である。
 もう、それどころではない。
 命の危機が迫っている。

「私の命も狙われている。
 君を助けに来た。
 君が我がメンフィリア帝国の
 騎士であることは知っていたんだ。
 その手錠を外すんだ。
 私は、このカギを開けて置く。」

 テオドールの姿は、
 フィンレーと同じ囚人服を
 着せられている。
 持っていた短剣をフィンレーがいる
 部屋に投げ入れた。
 細い金属のようなもので、
 南京錠を開けている。

「は、はい。
 すいません。
 お願いします。」

 カキンと高い音が鳴る。

 階段にいた見張り役の
 兵士は未だフルフェイスを
 顔までさげて、うとうとと眠っている。

 手錠をほどき、南京錠も一瞬にして
 解除した。

「さあ、ここから脱出しよう。」

「ありがとうございます。
 まさか、テオドール王様直々にお会いできて
 助けていただけるとは、思っていませんでした。
 一生、忘れません。」

「あ、そうか。
 すまん。
 今は手放しで喜べるところでは
 なさそうだ。
 今の私には、兵士を操る義務はないんだ。
 脱出するには、
 ちょっと手荒な真似をしなければ
 ならない。
 大丈夫か?」

「え、あ、はい!
 仰せのままに!」

 渡された短剣を腰に巻き付けた。
 テオドールは、フィンレーを前にして、 
 進む道を指示する。

 ところどころで城中を
 見張っていた兵士が
 追ってくる。
 みな、テオドールを見つけても、
 捕まえようとしていて、
 崇拝するものはいなかった。
 
 フィンレーは言われるがままに
 テオドールをSPのように守った。
 短剣でも力は変わりなく、
 攻撃することができた。

 兵力はフィンレーのレベルの方が
 上だったようだ。
 簡単に倒せた。

 途中、兵士が持っていた槍や鎧を装備して、
 攻撃力と防御力が上がった。
 装備していると、城にいる兵士となんら変わりない。
 ついでにテオドールも兵士の鎧とフルフェイスの兜を
 装備して、影武者のようにして、襲いかかる兵士から
 城の中を逃げ回った。

 逃げている中、フィンレーとテオドールは
 反逆者だと叫ばれるようになる。

「な、なんでこんなことに。
 俺は、ただ、メンフィリアの騎士に
 なりたかった。
 テオドール様、あなたを尊敬していて
 側近まで成り上りたかった。
 それだけなんです!!
 どうして、俺たちは今、兵士のみんなから
 反逆者とまで言われなくてはいけないのですか。」

 お城の赤いじゅうたんが敷かれた
 廊下を走りながら、フィンレーは嘆く。

「今、一緒にいて、戦ってくれている。 
 側近のようなものだ。
 やり方は違えど、やっていることは、一緒だ。
 すまん。でも、今は、王の役割を果たせていない。 
 私はもう、王座に戻ることは許されない。
 とにかく、今は、ここから逃げることを考えてくれ。」

「なぜ、なぜですか!?
 テオドール様、
 なぜ、あなたは王座に
 戻れないんですか。」

 それを聞くや否や、
 後ろから一人の兵士が
 矢を放った。
 フィンレーの目の前を危なく矢が通り過ぎる。

「あぶな。
 ったく、今度は俺の番だ。」

 頭の上から足の先まで
 装備品を手に入れた今、
 フィンレーの力が
 みなぎっている。

「おりゃー--!!」

 持っていた槍を振り回し、
 3人の兵士にきりかかっていく。
 味方だと思っていたメンフィリアの兵士に
 なんで戦っているのか不思議だった。
 姿形はお互い同じ服装。
 何が違うのか。
 
 フィンレーは、テオドールの護衛に専念している。

 それに力を注いでいる。

 テオドールは自らは攻撃はしない。
 フィンレーの後ろで防御の構えをするだけだった。

 戦っていくうちに、頑丈な大きな扉を見つけた。
 お城の裏口だった。

 扉を開けると、そこは、だだ広い砂漠地帯。

 真夜中に外に出ると昼間と打って変わって
 ものすごく寒い。
 太陽が出た瞬間は、ものすごい暑い。
 着ていた鎧が温かかったが、
 難点があった。

 砂の上では、鎧は重くて歩きにくい。
 それでも走り続けた。

 テオドールとフィンレーは、
 360°砂漠しかない場所で、寝ころんだ。
 息を荒くさせて、空を見上げた。

 街の光が届かない空には、
 天の川が見えた。

 空気が澄み切っているからか、
 星がきれいに見えた。

 呼吸を整えて、深呼吸をした。


「すまなかった。
 君に過酷なミッションを
 与えてしまったようだね。」

「いえ、大丈夫です。
 これくらい。」

 仰向けに寝ていた体を起こした。
 
「ソフィア…元気に過ごしていたかね。」

「え……。」

「私がずっとGPSで追いかけていたんだ。
 君たちが、ソフィアと
 一緒にいることは知っていたのだよ。」

「……。
 ちょっと待ってください。
 それってどういう?」

「君が1人になる機会を探していた。
 さて、ここで、
 最期ということになるかもしれないな。
 娘を誘拐した罪だ。」

「な?!」

 まさかの罠。
 おかしいなとは思っていた。
 
 フィンレーはとっさに体を
 戦闘態勢に切り替えた。
 テオドールは短剣を握りしめている。
 
 フィンレーは
 襲われるのではと思い、
 持っていた槍を
 見構えた。

「テオドール様、
 俺はあなたと戦いたくはない!!」

「君は兵士だろ。
 目の前にいる敵と戦うのが 
 すべてなんだ。」

 テオドールは、フィンレーの胸に
 向かって短剣を差し向けた。

 それと同時に正当防衛で槍をテオドールの肩に
 突き刺した。

 しばらくして、フィンレーは、
 自分の胸を確かめた。
 鎧を装備していたからか、

 いや、違う。
 テオドールの持っていた短剣は、
 精巧なおもちゃで出来ていた。
 
 まさかのフィンレーの刺した槍は、
 肩を貫いて、大量の血が流れていた。

「これで、いいんだ。
 これで…。」

「テオドール様!!!!」

 駆け寄って、すぐに槍を引き抜いた。
 介抱しようと、優しく横に寝かせた。
 持っていた布切れで、慌てて止血する。

「どうして、こんなことを!!」

 フィンレーの目から涙が大量に出始めた。

「私は、国同士の戦争も
 止められなかったのもあるが、
 側近であるルァントを
 悪魔にしてしまった罪だ。
 私には、あいつは手に負えない。
 頼む、あいつを止めてくれ。
 そして、この国をこの世界を
 君が守って、作り上げてくれ。
 フィンレー、我が息子よ。
 私の代わりに王の役目を…。
 ソフィアを頼んだぞ…。」

「…な?!息子?!
 どういうことですか?!
 テオドール様!!
 死なないでください。
 残された俺たちは…!?」

 テオドールは、すでに息絶えていた。
 口もとに手を当てても呼吸をしていない。
 

 冷たい風が吹いている
 広い広い砂漠の真ん中で、
 テオドールは、天国に旅立った。
 
 自死することに勇気が出ず、フィンレーに託した。
 
 防げなかった国同士の
 これから始まる
 戦争の罪、
 そしてテオドールは、
 ルァントが王の座を奪ってしまったことで
 居場所がなくなり追いやられた。


 亡くなったテオドールに祈りをささげて、
 フィンレーは、満月の夜空を背にして、
 メンフィリア帝国に向かった。


 自分の生まれ育ったふるさとが、
 まさかの最後のミッションに
 なるとは思いもしなかった。

 

 








 


 
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