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第30話
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「比奈子、着いたよ。」
果歩は、軽自動車の助手席に
比奈子を乗せて、
曽祖母が入院しているという
病院の駐車場に停めた。
仕事のため、晃は一緒に行けなかったが、
比奈子と2人で一緒にやってきた。
小松家の父母とは病室で
待ち合わせしていた。
「忘れ物ないかな?
ハンカチとか念のため、
持っておいてね。」
後部座席に置いていたバックを
取り出し、背中に背負う。
「大丈夫だね。
んじゃ行こうか。」
果歩は、比奈子の手を繋いで、
病室に向かう。
病院の出入り口に行くと、
検温の機械と消毒液が置かれていた。
いつからか、毎回しなくてはいけない
風潮になっている。
果歩と比奈子は順番に検温と消毒をした。
病院内に入るとお昼の準備が始まっているのか、調理室から漏れる食事の匂いが漂ってくる。
受付では会計で患者を呼ぶ声が聞こえる。
待合室には、ベンチにたくさんの患者が
座っていた。
診察室前を通ると高齢者が
順番だと呼ばれている。
付き添いの娘さんと一緒に診察室に
入っていくおばあちゃんがいた。
いろんな景色、人間観察をして、
比奈子はジロジロとあたりを見渡して、
果歩の後ろを着いて行く。
「比奈子、迷子になるから手、繋いで。」
果歩は、
比奈子の右手を左手で握りしめた。
黙って着いていく。
「果歩!」
比奈子から見て、
祖父の小松朔太郎と祖母の小松 紗が
病室から顔を出して、こちらを見ていた。
声をかけたのは朔太郎だった。
「お父さん。そんな大きな声出さないで。
恥ずかしいでしょう。」
「あ、ごめんごめん。
いや、もう久しぶりだったもんで
嬉しくてね。
比奈子、ずいぶん、大きくなったな。
元気にしていたか?」
頭を豪快に撫でられた。
比奈子は満面の笑みをこぼした。
「果歩、2人で来たの?
晃くんは、今日、仕事?」
紗が心配そうな顔で近づいた。
「うん、そう。
今日、仕事だから一緒に来れなくて。
大丈夫、これくらいの距離なら
家から近いから。」
「近いってあなた、車で40分は結構
遠いわよ?
比奈子ちゃんも一緒でね。
見ないうちに
大きくなったね。」
紗は、屈んで、比奈子の顔を覗いた。
作り笑顔でやり過ごす。
「それで、
おっぴおばあちゃんはどうなの?」
「ほら、顔見てって。
割と元気いいわよ。
怪我したことが原因だから。」
果歩は病室の中に案内された。
「あらぁ、果歩ちゃん?!」
足にギプスをつけた曽祖母の小松 琴が横になって寝ていた。
「おばあちゃん。
なんだ、足以外は元気そうじゃない。」
「随分とべっぴんさんになって…。
あら、可愛い子。
果歩ちゃんの子かな?」
琴はニコニコと嬉しいそうな顔を
していた。
声を出せない比奈子はぺこりと
お辞儀した。
「その足の怪我はどうしたの?」
「おばあちゃん、無理して、
庭の木なんか切るから、
ハシゴから落ちて、
怪我したのよ。
私たちに頼めばいいのに
暇だから、できるからって意地張って
この通り。
全く、無理すると
怪我するってことを考えてから
行動してほしいわ。」
「…そうだったのね。」
「どうしても、柿の木の枝が気になって
切ってしまいたかったの。
でも、まだまだばあちゃん元気だと
思ってたら、良くなかったわ。」
「そうだよ、無理は禁物だよ、
おばあちゃん。」
果歩は琴に忠告する。
「……それより、比奈子ちゃん
何かしたの?」
「え、何が?」
「全然、おしゃべりしないわね。
前は元気よくこんにちはって
言ってくれてたのに…。
恥ずかしいのかしら?」
「そうだな。確かに。
比奈子ちゃん、じいじが
飲み物買ってあげるから
一緒に行くか?」
「……やめて!!」
果歩は感情的にさけんだ。
「どうした、果歩。
別に、飲み物買いに行くだけだろ?」
果歩は、比奈子が話せないことを両親に
バレたくなかったため、
苛立ちを隠せなかった。
「あ、ごめんなさい。
最近、比奈子、虫歯ができちゃって、
ジュースとか控えてるの。
バックにお茶が入った水筒入ってるから
大丈夫。」
冷静になって、納得するようなことを
言った。
虫歯なんて嘘だった。
比奈子の歯は、全部、真っ白で、
黒いところなんて1つもない。
そういえば、ジュースは飲めないんだぞと
訴えたかったのだ。
「そうか。虫歯、できちゃったんだな。
でも、大人の歯が生えるから大丈夫だぞ!
じいじも現在進行形で虫歯あるから
今度、部分入れ歯作りに行く予定だよ。」
「そうなのよ。お父さん、
さっぱり歯医者行かないから。
仕事忙しいのもわかるけど
きちんとしてほしいわ。」
朔太郎は、市議会議員で忙しく働いてる。
紗は、公務員で市役所勤めだ。
共働きで家に落ち着いて
過ごすことが少ない2人だった。
「ちょっと、トイレ行ってくる。
比奈子、行くよ?」
果歩は、比奈子を連れて、
トイレに行く。
果歩は、気が気ではない。
もし、声が出ないことを知ったら
なんて言われるだろうという心配が
頭を巡る。
「比奈子、絶対、ばあば、じいじには
声、出ないことを知られては
いけないよ?」
比奈子は黙って頷いた。
そこへ紗がトイレに入ろうとしてた。
後ろを振り返って果歩は息をのんだ。
果歩は、軽自動車の助手席に
比奈子を乗せて、
曽祖母が入院しているという
病院の駐車場に停めた。
仕事のため、晃は一緒に行けなかったが、
比奈子と2人で一緒にやってきた。
小松家の父母とは病室で
待ち合わせしていた。
「忘れ物ないかな?
ハンカチとか念のため、
持っておいてね。」
後部座席に置いていたバックを
取り出し、背中に背負う。
「大丈夫だね。
んじゃ行こうか。」
果歩は、比奈子の手を繋いで、
病室に向かう。
病院の出入り口に行くと、
検温の機械と消毒液が置かれていた。
いつからか、毎回しなくてはいけない
風潮になっている。
果歩と比奈子は順番に検温と消毒をした。
病院内に入るとお昼の準備が始まっているのか、調理室から漏れる食事の匂いが漂ってくる。
受付では会計で患者を呼ぶ声が聞こえる。
待合室には、ベンチにたくさんの患者が
座っていた。
診察室前を通ると高齢者が
順番だと呼ばれている。
付き添いの娘さんと一緒に診察室に
入っていくおばあちゃんがいた。
いろんな景色、人間観察をして、
比奈子はジロジロとあたりを見渡して、
果歩の後ろを着いて行く。
「比奈子、迷子になるから手、繋いで。」
果歩は、
比奈子の右手を左手で握りしめた。
黙って着いていく。
「果歩!」
比奈子から見て、
祖父の小松朔太郎と祖母の小松 紗が
病室から顔を出して、こちらを見ていた。
声をかけたのは朔太郎だった。
「お父さん。そんな大きな声出さないで。
恥ずかしいでしょう。」
「あ、ごめんごめん。
いや、もう久しぶりだったもんで
嬉しくてね。
比奈子、ずいぶん、大きくなったな。
元気にしていたか?」
頭を豪快に撫でられた。
比奈子は満面の笑みをこぼした。
「果歩、2人で来たの?
晃くんは、今日、仕事?」
紗が心配そうな顔で近づいた。
「うん、そう。
今日、仕事だから一緒に来れなくて。
大丈夫、これくらいの距離なら
家から近いから。」
「近いってあなた、車で40分は結構
遠いわよ?
比奈子ちゃんも一緒でね。
見ないうちに
大きくなったね。」
紗は、屈んで、比奈子の顔を覗いた。
作り笑顔でやり過ごす。
「それで、
おっぴおばあちゃんはどうなの?」
「ほら、顔見てって。
割と元気いいわよ。
怪我したことが原因だから。」
果歩は病室の中に案内された。
「あらぁ、果歩ちゃん?!」
足にギプスをつけた曽祖母の小松 琴が横になって寝ていた。
「おばあちゃん。
なんだ、足以外は元気そうじゃない。」
「随分とべっぴんさんになって…。
あら、可愛い子。
果歩ちゃんの子かな?」
琴はニコニコと嬉しいそうな顔を
していた。
声を出せない比奈子はぺこりと
お辞儀した。
「その足の怪我はどうしたの?」
「おばあちゃん、無理して、
庭の木なんか切るから、
ハシゴから落ちて、
怪我したのよ。
私たちに頼めばいいのに
暇だから、できるからって意地張って
この通り。
全く、無理すると
怪我するってことを考えてから
行動してほしいわ。」
「…そうだったのね。」
「どうしても、柿の木の枝が気になって
切ってしまいたかったの。
でも、まだまだばあちゃん元気だと
思ってたら、良くなかったわ。」
「そうだよ、無理は禁物だよ、
おばあちゃん。」
果歩は琴に忠告する。
「……それより、比奈子ちゃん
何かしたの?」
「え、何が?」
「全然、おしゃべりしないわね。
前は元気よくこんにちはって
言ってくれてたのに…。
恥ずかしいのかしら?」
「そうだな。確かに。
比奈子ちゃん、じいじが
飲み物買ってあげるから
一緒に行くか?」
「……やめて!!」
果歩は感情的にさけんだ。
「どうした、果歩。
別に、飲み物買いに行くだけだろ?」
果歩は、比奈子が話せないことを両親に
バレたくなかったため、
苛立ちを隠せなかった。
「あ、ごめんなさい。
最近、比奈子、虫歯ができちゃって、
ジュースとか控えてるの。
バックにお茶が入った水筒入ってるから
大丈夫。」
冷静になって、納得するようなことを
言った。
虫歯なんて嘘だった。
比奈子の歯は、全部、真っ白で、
黒いところなんて1つもない。
そういえば、ジュースは飲めないんだぞと
訴えたかったのだ。
「そうか。虫歯、できちゃったんだな。
でも、大人の歯が生えるから大丈夫だぞ!
じいじも現在進行形で虫歯あるから
今度、部分入れ歯作りに行く予定だよ。」
「そうなのよ。お父さん、
さっぱり歯医者行かないから。
仕事忙しいのもわかるけど
きちんとしてほしいわ。」
朔太郎は、市議会議員で忙しく働いてる。
紗は、公務員で市役所勤めだ。
共働きで家に落ち着いて
過ごすことが少ない2人だった。
「ちょっと、トイレ行ってくる。
比奈子、行くよ?」
果歩は、比奈子を連れて、
トイレに行く。
果歩は、気が気ではない。
もし、声が出ないことを知ったら
なんて言われるだろうという心配が
頭を巡る。
「比奈子、絶対、ばあば、じいじには
声、出ないことを知られては
いけないよ?」
比奈子は黙って頷いた。
そこへ紗がトイレに入ろうとしてた。
後ろを振り返って果歩は息をのんだ。
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スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
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