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第91話 狐のライバル現る 壱
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――狐の里――
青く澄み切った空にひつじ雲が広がっていた。トンビが2羽鳴きながら旋回している。白狐兎は、お屋敷を出てすぐの段差をポンとジャンプして、背伸びをした。
「あーー、よく寝たぁ。久しぶりにたっぷり寝て逆に腰が痛いわ」
ばきぼきと骨を鳴らしてストレッチをした白狐兎は、村の広場まで歩き進んだ。風狐と空狐がなわとびをしてどっちが多く飛べるか競争していた。
「なぁ、迅はまだ起きてないのか?」
「……え? 今、何回飛んだかわからないから声かけないで。ちょっと空狐、もう1回飛んで」
「やだ。今のは私の方が勝ちだから。風狐は負け」
「ああ、そう。もういいよ。もう、競うのやめるから」
風狐は気にせず、黙々となわとびを飛び続ける。空狐も、負けじとまた飛び始めた。競わないといいながら、ずっと沈黙の対決が続いている。
白狐兎は、間に入れないなと思い、つつつと蟹歩きでフェードアウトした。
村の端っこにある適当に拾った木で慌てて作った犬小屋の様子を見に行った。いつも朝起きて白狐兎の日課になっているのは犬の散歩だ。狐だが、人間になじむように人間と同じことをしようと犬を飼うようになっていた。案外相性がいいらしい。
「おーい、ラッキー? 散歩行くぞ?」
白狐兎は青いリードを持って、中を覗いた。見てはいけないものを見たと感じてしまう。柴犬の少し大きめの白いもふもふのラッキーは、迅の頭をお腹に乗せてすやすやと眠っていた。犬小屋の中は、いつの間にかラッキーのおもちゃや餌入れ以外に迅のパソコンや、お気に入りのアニメフィギュアやポスターなどの私物がたくさん並べられていた。もはや、迅の部屋がラッキーの小屋に侵食している。
「おい!! なんで、ここに住んでいるんだよ? お前の家はあっちだろ?!」
突然、家を失った迅は、住むところを探していたが、どこの不動産も噂を聞いてか貸してくれず、変な半分鬼の顔だと怖がって店にさえ入ることが許されなかった。実家である祖父が住む神社でさえも、鬼の妖気を感じて迅だと知らずに強烈な結界を張って入るのを拒否された。かわいそうに思った白狐兎は致し方なく、狐の里に住むことを許可したが、庭に置いた小さなテストしか用意できなかった。お屋敷に入れるには妖気が強すぎて無理だったらしい。テントで寒かった迅は、隣にあった柴犬のラッキーの犬小屋に居座った。餌付けやおもちゃで遊んで、一緒に夜を共にした。
「お?! 白狐兎。テントは寒すぎるって。ラッキーのそばはあったかいんだから。もう、寝袋より最高なんだぞ」
「……お前、そのうち、犬になるぞ。ここが快適って……」
「どこにも住めなくなるよりマシだわ」
白狐兎は、ため息をついて呆れかえる。
「白狐兎!!!」
お屋敷の向こうの方で、大声で呼ぶのは白狐兎の祖母、八重子《やえこ》だ。手にはトレイに乗せた湯気が沸き立つどんぶりが2つあった。
「ばぁちゃん! それ何よ。うまそうじゃん」
「これ、迅君に食べてもらいんしゃい。お腹空いてるだろう?」
「え? 2つもあるけど?」
「良いから。あんたが一緒に食べたらよかろう。中に入れることはできないが、せめてな。これくらいはおもてなししないとなぁ」
「本当に、あいつの妖力前より上がっててさ。結界厚くしないとやばいよな。父さんが手術した時はそうでもないのに……」
「あんたにはまやかしの術があるんやから、一緒にいても大丈夫やろ。まぁ、これからも一緒に働くんだから、大事にせえや。ほれ、うどん。一緒に食べな」
「おう。ありがとうなぁ。ばあちゃん」
白狐兎は、祖母が作った朝ごはんのうどんを静かに運んで、ラッキーの犬小屋まで歩いた。ラッキーの朝ごはんであるドックフードも忘れてはいない。入るとすぐにしっぽを振って興奮するラッキーが出てきた。
「待てまて。今やるから。お手、おすわり。よしよし。さぁ、お食べ」
ドックフードを与えると、何故か横で迅もラッキーの真似をして動作した。
「お前は何してんだよ。遂に犬になったか」
「……やべぇ、意識が犬のラッキーに取り込まれた」
頭をぶるぶると犬のように顔を動かした。
「……おいおい。ほら、ばあちゃんのお手製うどんだ」
白狐兎が持ってきたトレイの上には、卵と小ねぎ、ピンクのかまぼこと天かすがたくさん乗ったたぬきうどんと、卵と小ねぎ、白かまぼこと油揚げが乗ったきつねうどんがあった。横には七味唐辛子がある。
「迅、ちょっと待て。不吉な予感がする」
「は? どういうこと? 腹減ったからいただきます。共食いは良くないから俺がきつねうどんな。いただきます!!」
割り箸を割って勢いよくうどんをすする。かなりの時間お預けをくらっていた迅にとっては背中に羽根が生えたように幸福感に満たされた。一方、白狐兎は、たぬきうどんが出されたことに不信感を覚える。頬杖をついて、どんぶりとにらめっこだ。
「おい、うどん伸びちまうぞ。早く食べろよ」
「……来るぞ」
「は?」
うどんを食べながら、突然顔半分に痛みが走った。持っていた割り箸を下にぽろんと落とす。白狐兎は、警戒して体を身構え、ラッキーの前に立ちはばかった。邪悪な妖気が犬小屋全体を包み込んでいく。
青く澄み切った空にひつじ雲が広がっていた。トンビが2羽鳴きながら旋回している。白狐兎は、お屋敷を出てすぐの段差をポンとジャンプして、背伸びをした。
「あーー、よく寝たぁ。久しぶりにたっぷり寝て逆に腰が痛いわ」
ばきぼきと骨を鳴らしてストレッチをした白狐兎は、村の広場まで歩き進んだ。風狐と空狐がなわとびをしてどっちが多く飛べるか競争していた。
「なぁ、迅はまだ起きてないのか?」
「……え? 今、何回飛んだかわからないから声かけないで。ちょっと空狐、もう1回飛んで」
「やだ。今のは私の方が勝ちだから。風狐は負け」
「ああ、そう。もういいよ。もう、競うのやめるから」
風狐は気にせず、黙々となわとびを飛び続ける。空狐も、負けじとまた飛び始めた。競わないといいながら、ずっと沈黙の対決が続いている。
白狐兎は、間に入れないなと思い、つつつと蟹歩きでフェードアウトした。
村の端っこにある適当に拾った木で慌てて作った犬小屋の様子を見に行った。いつも朝起きて白狐兎の日課になっているのは犬の散歩だ。狐だが、人間になじむように人間と同じことをしようと犬を飼うようになっていた。案外相性がいいらしい。
「おーい、ラッキー? 散歩行くぞ?」
白狐兎は青いリードを持って、中を覗いた。見てはいけないものを見たと感じてしまう。柴犬の少し大きめの白いもふもふのラッキーは、迅の頭をお腹に乗せてすやすやと眠っていた。犬小屋の中は、いつの間にかラッキーのおもちゃや餌入れ以外に迅のパソコンや、お気に入りのアニメフィギュアやポスターなどの私物がたくさん並べられていた。もはや、迅の部屋がラッキーの小屋に侵食している。
「おい!! なんで、ここに住んでいるんだよ? お前の家はあっちだろ?!」
突然、家を失った迅は、住むところを探していたが、どこの不動産も噂を聞いてか貸してくれず、変な半分鬼の顔だと怖がって店にさえ入ることが許されなかった。実家である祖父が住む神社でさえも、鬼の妖気を感じて迅だと知らずに強烈な結界を張って入るのを拒否された。かわいそうに思った白狐兎は致し方なく、狐の里に住むことを許可したが、庭に置いた小さなテストしか用意できなかった。お屋敷に入れるには妖気が強すぎて無理だったらしい。テントで寒かった迅は、隣にあった柴犬のラッキーの犬小屋に居座った。餌付けやおもちゃで遊んで、一緒に夜を共にした。
「お?! 白狐兎。テントは寒すぎるって。ラッキーのそばはあったかいんだから。もう、寝袋より最高なんだぞ」
「……お前、そのうち、犬になるぞ。ここが快適って……」
「どこにも住めなくなるよりマシだわ」
白狐兎は、ため息をついて呆れかえる。
「白狐兎!!!」
お屋敷の向こうの方で、大声で呼ぶのは白狐兎の祖母、八重子《やえこ》だ。手にはトレイに乗せた湯気が沸き立つどんぶりが2つあった。
「ばぁちゃん! それ何よ。うまそうじゃん」
「これ、迅君に食べてもらいんしゃい。お腹空いてるだろう?」
「え? 2つもあるけど?」
「良いから。あんたが一緒に食べたらよかろう。中に入れることはできないが、せめてな。これくらいはおもてなししないとなぁ」
「本当に、あいつの妖力前より上がっててさ。結界厚くしないとやばいよな。父さんが手術した時はそうでもないのに……」
「あんたにはまやかしの術があるんやから、一緒にいても大丈夫やろ。まぁ、これからも一緒に働くんだから、大事にせえや。ほれ、うどん。一緒に食べな」
「おう。ありがとうなぁ。ばあちゃん」
白狐兎は、祖母が作った朝ごはんのうどんを静かに運んで、ラッキーの犬小屋まで歩いた。ラッキーの朝ごはんであるドックフードも忘れてはいない。入るとすぐにしっぽを振って興奮するラッキーが出てきた。
「待てまて。今やるから。お手、おすわり。よしよし。さぁ、お食べ」
ドックフードを与えると、何故か横で迅もラッキーの真似をして動作した。
「お前は何してんだよ。遂に犬になったか」
「……やべぇ、意識が犬のラッキーに取り込まれた」
頭をぶるぶると犬のように顔を動かした。
「……おいおい。ほら、ばあちゃんのお手製うどんだ」
白狐兎が持ってきたトレイの上には、卵と小ねぎ、ピンクのかまぼこと天かすがたくさん乗ったたぬきうどんと、卵と小ねぎ、白かまぼこと油揚げが乗ったきつねうどんがあった。横には七味唐辛子がある。
「迅、ちょっと待て。不吉な予感がする」
「は? どういうこと? 腹減ったからいただきます。共食いは良くないから俺がきつねうどんな。いただきます!!」
割り箸を割って勢いよくうどんをすする。かなりの時間お預けをくらっていた迅にとっては背中に羽根が生えたように幸福感に満たされた。一方、白狐兎は、たぬきうどんが出されたことに不信感を覚える。頬杖をついて、どんぶりとにらめっこだ。
「おい、うどん伸びちまうぞ。早く食べろよ」
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「は?」
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