無能な陰陽師

もちっぱち

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第79話 車輪に巻き込まれるな 参

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 迅は、地面に魔法陣を出して、札を持ちながら、念誦を唱えた。物々しい空気の中、十二天将の大きな白虎が姿を現した。車輪に炎をまとわりつけた落ち武者の片輪車は、恐ろしい顔をして、白狐兎に向かっていく。迅は、白虎に攻撃するよう、指示を仰いだ。少し遅かったようで、鋭利な車輪が、白狐兎のお面を割ってしまった。

「のろまなやつはお仕置きじゃぁーーー」

 叫びながら、白狐兎を横を通り過ぎる。幸いにも、お面が割れただけで、傷ひとつつかなかった。次は油断はできない。大事なお面が割れて、絶望状態の白狐兎は、ノックアウトされたボクサーのように両膝を地面につけてうなだれていた。迅は、白狐兎の素顔を見れると興奮していた。そうしてる間にも片輪車はブロック塀をこちらに折り返して向かってくる。白虎は、勢いよく迫ろうとした。時間がない。間に合わないと思った迅は、指パッチンをして、術返しをした。現実世界に一瞬にして、切り替わった。白狐兎は未だ立ち直っていないが、すぐ横で、白虎が片輪車の体を大きな口で噛みついて、攻撃していた。バキバキと車輪が崩れていく。刃物のように切れ味の良い車輪を噛む際に、白虎の口も血だらけになった。ゴロンと、地面に片輪車の頭が転がった。

「首とった!!」

 迅は、片輪車の首を落として、戦国時代の将軍になった気分で、テンションがあがった。烏兎翔は迅の頭をこつんとクチバシで何度もつついた。

「ふざけるんじゃない。ささっと除霊しろ!!」
「わかった、わかったって。まったく。やればいいんだろ」

『急急如律令《きゅうきゅうにょりつりょう》』

 札を取り出して、念を唱えた瞬間にそばにあった片輪車の頭は一瞬にして消え去った。

「おっしゃー、ミッションクリア……と思ったけど?」

 無事、片輪車の妖怪を現実世界での除霊を完了させた。白狐兎の仮面は、現実世界に戻ってきてしまった故、壊れたままだった。これが夢と現実の真ん中の世界にいたのなら、再生して戻すことは可能だった。無理だとわかっていた白狐兎は魂が抜けたように地面にひれ伏していた。顔をうなだれていて、素顔を見ることができない。迅は、見たことがなかった白狐兎の顔をやっとこそ見えると、じわじわと近づいてみた。近づけば、近づくほど、遠ざかる。これはどういうことかと混乱していると、いつ唱えたのか、白狐兎のまやかしの術だった。

「ちくしょー!」
 
 迅は、悔しくなって、術返しをして、まやかしの術を解いた。すると、体が瞬間移動して、地面に仰向けの状態で寝転んだ。見上げた先に四つん這いになった白狐兎の姿があり、これでもかと間近で素顔を拝むことができた。

「嘘だろ?! マジかよ。全然ひょっとこの顔じゃねぇ!」

 白狐兎はまさか迅に見られるとはと慌てて、両手で顔を隠して、烏兎翔の足をつかんで飛んで行った。

「あ、俺の式神、盗むんじゃねぇ!! 返せよ!」
「やなこった!!」

 着物で隠して、顔を見せずにそのまま飛んで行った。あまりにもイケメン姿の白狐兎に式神カラスの烏兎翔でさえもメロメロでどこにでも連れていくわとメスの本能が出ていた。迅は、男子だったが、なぜかよだれが垂れてきた。

「あぶねぇ、あぶねぇ、違う路線に行くところだった。違う違う。俺は女好き、俺は女好き。男じゃない。女好き」
 
 変な呪文ができあがってしまった。迅は、仕方なしに徒歩で帰ることにした。その頃の警視庁の詛呪対策本部では九十九部長が仕事依頼の電話対応に追われていた。

「もしもし、またこっちに依頼?! 人少ないんだからすぐに対応できないわよ。順番待ちですからね」
 イライラしながら、受話器を置いてため息をつく。

「なんで、こんなに除霊依頼が増えてるの? 何かおかしなこと起きてる?」
「俺、霊感少ないんで、なんとも言えないっす」
「私も、わからない」

 大津智司と大春日舞子は、首をかしげて顔を見合わせる。窓の外を見ると、さっきまで青空が広がっていた景色がもくもくと灰色の雲に覆われ始めた。九十九部長は、からからと音を立てて、窓を開けた。

「私、霊感とかないほうだけど、よくないものが近づいてる気がするわ」
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