79 / 105
第79話 車輪に巻き込まれるな 参
しおりを挟む
迅は、地面に魔法陣を出して、札を持ちながら、念誦を唱えた。物々しい空気の中、十二天将の大きな白虎が姿を現した。車輪に炎をまとわりつけた落ち武者の片輪車は、恐ろしい顔をして、白狐兎に向かっていく。迅は、白虎に攻撃するよう、指示を仰いだ。少し遅かったようで、鋭利な車輪が、白狐兎のお面を割ってしまった。
「のろまなやつはお仕置きじゃぁーーー」
叫びながら、白狐兎を横を通り過ぎる。幸いにも、お面が割れただけで、傷ひとつつかなかった。次は油断はできない。大事なお面が割れて、絶望状態の白狐兎は、ノックアウトされたボクサーのように両膝を地面につけてうなだれていた。迅は、白狐兎の素顔を見れると興奮していた。そうしてる間にも片輪車はブロック塀をこちらに折り返して向かってくる。白虎は、勢いよく迫ろうとした。時間がない。間に合わないと思った迅は、指パッチンをして、術返しをした。現実世界に一瞬にして、切り替わった。白狐兎は未だ立ち直っていないが、すぐ横で、白虎が片輪車の体を大きな口で噛みついて、攻撃していた。バキバキと車輪が崩れていく。刃物のように切れ味の良い車輪を噛む際に、白虎の口も血だらけになった。ゴロンと、地面に片輪車の頭が転がった。
「首とった!!」
迅は、片輪車の首を落として、戦国時代の将軍になった気分で、テンションがあがった。烏兎翔は迅の頭をこつんとクチバシで何度もつついた。
「ふざけるんじゃない。ささっと除霊しろ!!」
「わかった、わかったって。まったく。やればいいんだろ」
『急急如律令《きゅうきゅうにょりつりょう》』
札を取り出して、念を唱えた瞬間にそばにあった片輪車の頭は一瞬にして消え去った。
「おっしゃー、ミッションクリア……と思ったけど?」
無事、片輪車の妖怪を現実世界での除霊を完了させた。白狐兎の仮面は、現実世界に戻ってきてしまった故、壊れたままだった。これが夢と現実の真ん中の世界にいたのなら、再生して戻すことは可能だった。無理だとわかっていた白狐兎は魂が抜けたように地面にひれ伏していた。顔をうなだれていて、素顔を見ることができない。迅は、見たことがなかった白狐兎の顔をやっとこそ見えると、じわじわと近づいてみた。近づけば、近づくほど、遠ざかる。これはどういうことかと混乱していると、いつ唱えたのか、白狐兎のまやかしの術だった。
「ちくしょー!」
迅は、悔しくなって、術返しをして、まやかしの術を解いた。すると、体が瞬間移動して、地面に仰向けの状態で寝転んだ。見上げた先に四つん這いになった白狐兎の姿があり、これでもかと間近で素顔を拝むことができた。
「嘘だろ?! マジかよ。全然ひょっとこの顔じゃねぇ!」
白狐兎はまさか迅に見られるとはと慌てて、両手で顔を隠して、烏兎翔の足をつかんで飛んで行った。
「あ、俺の式神、盗むんじゃねぇ!! 返せよ!」
「やなこった!!」
着物で隠して、顔を見せずにそのまま飛んで行った。あまりにもイケメン姿の白狐兎に式神カラスの烏兎翔でさえもメロメロでどこにでも連れていくわとメスの本能が出ていた。迅は、男子だったが、なぜかよだれが垂れてきた。
「あぶねぇ、あぶねぇ、違う路線に行くところだった。違う違う。俺は女好き、俺は女好き。男じゃない。女好き」
変な呪文ができあがってしまった。迅は、仕方なしに徒歩で帰ることにした。その頃の警視庁の詛呪対策本部では九十九部長が仕事依頼の電話対応に追われていた。
「もしもし、またこっちに依頼?! 人少ないんだからすぐに対応できないわよ。順番待ちですからね」
イライラしながら、受話器を置いてため息をつく。
「なんで、こんなに除霊依頼が増えてるの? 何かおかしなこと起きてる?」
「俺、霊感少ないんで、なんとも言えないっす」
「私も、わからない」
大津智司と大春日舞子は、首をかしげて顔を見合わせる。窓の外を見ると、さっきまで青空が広がっていた景色がもくもくと灰色の雲に覆われ始めた。九十九部長は、からからと音を立てて、窓を開けた。
「私、霊感とかないほうだけど、よくないものが近づいてる気がするわ」
「のろまなやつはお仕置きじゃぁーーー」
叫びながら、白狐兎を横を通り過ぎる。幸いにも、お面が割れただけで、傷ひとつつかなかった。次は油断はできない。大事なお面が割れて、絶望状態の白狐兎は、ノックアウトされたボクサーのように両膝を地面につけてうなだれていた。迅は、白狐兎の素顔を見れると興奮していた。そうしてる間にも片輪車はブロック塀をこちらに折り返して向かってくる。白虎は、勢いよく迫ろうとした。時間がない。間に合わないと思った迅は、指パッチンをして、術返しをした。現実世界に一瞬にして、切り替わった。白狐兎は未だ立ち直っていないが、すぐ横で、白虎が片輪車の体を大きな口で噛みついて、攻撃していた。バキバキと車輪が崩れていく。刃物のように切れ味の良い車輪を噛む際に、白虎の口も血だらけになった。ゴロンと、地面に片輪車の頭が転がった。
「首とった!!」
迅は、片輪車の首を落として、戦国時代の将軍になった気分で、テンションがあがった。烏兎翔は迅の頭をこつんとクチバシで何度もつついた。
「ふざけるんじゃない。ささっと除霊しろ!!」
「わかった、わかったって。まったく。やればいいんだろ」
『急急如律令《きゅうきゅうにょりつりょう》』
札を取り出して、念を唱えた瞬間にそばにあった片輪車の頭は一瞬にして消え去った。
「おっしゃー、ミッションクリア……と思ったけど?」
無事、片輪車の妖怪を現実世界での除霊を完了させた。白狐兎の仮面は、現実世界に戻ってきてしまった故、壊れたままだった。これが夢と現実の真ん中の世界にいたのなら、再生して戻すことは可能だった。無理だとわかっていた白狐兎は魂が抜けたように地面にひれ伏していた。顔をうなだれていて、素顔を見ることができない。迅は、見たことがなかった白狐兎の顔をやっとこそ見えると、じわじわと近づいてみた。近づけば、近づくほど、遠ざかる。これはどういうことかと混乱していると、いつ唱えたのか、白狐兎のまやかしの術だった。
「ちくしょー!」
迅は、悔しくなって、術返しをして、まやかしの術を解いた。すると、体が瞬間移動して、地面に仰向けの状態で寝転んだ。見上げた先に四つん這いになった白狐兎の姿があり、これでもかと間近で素顔を拝むことができた。
「嘘だろ?! マジかよ。全然ひょっとこの顔じゃねぇ!」
白狐兎はまさか迅に見られるとはと慌てて、両手で顔を隠して、烏兎翔の足をつかんで飛んで行った。
「あ、俺の式神、盗むんじゃねぇ!! 返せよ!」
「やなこった!!」
着物で隠して、顔を見せずにそのまま飛んで行った。あまりにもイケメン姿の白狐兎に式神カラスの烏兎翔でさえもメロメロでどこにでも連れていくわとメスの本能が出ていた。迅は、男子だったが、なぜかよだれが垂れてきた。
「あぶねぇ、あぶねぇ、違う路線に行くところだった。違う違う。俺は女好き、俺は女好き。男じゃない。女好き」
変な呪文ができあがってしまった。迅は、仕方なしに徒歩で帰ることにした。その頃の警視庁の詛呪対策本部では九十九部長が仕事依頼の電話対応に追われていた。
「もしもし、またこっちに依頼?! 人少ないんだからすぐに対応できないわよ。順番待ちですからね」
イライラしながら、受話器を置いてため息をつく。
「なんで、こんなに除霊依頼が増えてるの? 何かおかしなこと起きてる?」
「俺、霊感少ないんで、なんとも言えないっす」
「私も、わからない」
大津智司と大春日舞子は、首をかしげて顔を見合わせる。窓の外を見ると、さっきまで青空が広がっていた景色がもくもくと灰色の雲に覆われ始めた。九十九部長は、からからと音を立てて、窓を開けた。
「私、霊感とかないほうだけど、よくないものが近づいてる気がするわ」
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【短編】露出は黙して、饒舌に語らせる
常に移動する点P
ホラー
老夫婦殺害の容疑で逮捕された関谷は、黙秘を貫いていた。取調にあたっていた担当刑事の桂は、上司から本件をQ課に任せるよう命じられた。
本館と別棟にあるQ課、出迎えたのは露出という男。桂と同世代のひょろっとした優男は、容疑者関谷の犯行をどうやって立証するのか?
その取調室で行われた、露出の自白の方法とは。
そして、Q課・露出が企む本当の目的とは?
といった、密室型のホラーミステリーです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
女だけど生活のために男装して陰陽師してますー続・只今、陰陽師修行中!ー
イトカワジンカイ
ホラー
「妖の調伏には因果と真名が必要」
時は平安。
養父である叔父の家の跡取りとして養子となり男装をして暮らしていた少女―暁。
散財癖のある叔父の代わりに生活を支えるため、女であることを隠したまま陰陽師見習いとして陰陽寮で働くことになる。
働き始めてしばらくたったある日、暁にの元にある事件が舞い込む。
人体自然発火焼死事件―
発見されたのは身元不明の焼死体。不思議なことに体は身元が分からないほど黒く焼けているのに
着衣は全く燃えていないというものだった。
この事件を解決するよう命が下り事件解決のため動き出す暁。
この怪異は妖の仕業か…それとも人為的なものか…
妖が生まれる心の因果を暁の推理と陰陽師の力で紐解いていく。
※「女だけど男装して陰陽師してます!―只今、陰陽師修行中‼―」
(https://www.alphapolis.co.jp/mypage/content/detail/892377141)
の第2弾となります。
※単品でも楽しんでいただけますが、お時間と興味がありましたら第1作も読んでいただけると嬉しいです
※ノベルアップ+でも掲載しています
※表紙イラスト:雨神あきら様
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる