78 / 105
第78話 車輪に巻き込まれるな 弐
しおりを挟む
血のように真っ赤な鳥居の上を烏兎翔が飛び立った。そっと、高い位置に迅を下すと、物々しい光景に目を疑った。参拝者が拝礼する拝殿が焦熱地獄のように燃え盛っていた。誰かが放火していたのであろう。自然発火ではありえないくらいの規模だ。遠くで消防車のサイレンが聞こえる。パチパチと燃える音が大きくなっていた。
「通報した人がいるんだよな」
「この炎は大元を消さないと霧がないぞ」
「そ、それはどういうことだよ」
白狐兎は、おおよその犯人を把握していたようだ。つけていた狐の面を深くかぶって、煙を吸わないように配慮した。何も持っていなかった迅は、腕で鼻と口をふさいだ。烏兎翔は突然、激しく鳴いた。強い妖力がこちらに近づいてくるのがわかった。体中にどんと響いてくる。
「来るぞ」
「……!?」
ごうごうと燃え盛る拝殿の奥の方から、大きな片輪のみの牛車が炎を包み込んで車輪の中央に顔だけ乗せて、目をギラギラさせていた。髪型は落ち武者のようになっていて、その顔は凄まじく恐ろしい近寄りがたいものだった。人間の姿を見つけると、よだれを垂らして近づいてくる。鳥肌がとまらない。
この妖怪の名前は片輪車。迅と白狐兎の真ん中を通り抜けて、挑発した。
「美味しそうなやつらだなぁ。ぬけぬけと我の餌食になりに来たか!!」
「……くっ、気持ち悪い奴め」
「構えろ」
迅が悠長にしている間に一目散に車輪が炎を巻き込んでこちらに近づいてきた。刃物に鋭い車輪が体を真っ二つにした。想像以上に体中の血液が飛び出して、一瞬のうちに地面は血の絨毯に化した。声を発することなく、迅は、体は半分になって倒れていく。景色はスローモーションになる。ここで死ぬのかと迅の霊体が肉体から抜けようとした。こんなところで死にたくない。まだやりきってない。誰かに憑依してでも長生きしてやろうかと考えもあった。
すると、パチンと指を鳴らす音がした。炎に包まれた神社で片輪車と戦っていたはず。むしろ、これから戦おうとしていた矢先だった。白狐兎が「構えろ」と言った瞬間にまやかしの術を使って、異次元空間に飛ばしていた。まったく同じ景色の現実とは異なる世界。夢に近い場所。肉体も霊体も自由に操ることができる。さっきの真っ二つに切られた迅は、本当に死んだわけではない。白狐兎の指パッチンで、元の迅の姿に戻っていた。意識が戻った迅は、自分の体を確かめた。確かに体が割れた感覚はある。
「俺、どこ。ここ、どこよ。いや、生きてる?!」
「落ち着け、何回もやられるな。俺も何回も術は使いたくない」
「……は?」
「いいから、倒せ」
白狐兎は、指をパチンとまた鳴らして、分身の術を使った。5体の白狐兎が、片輪
車の目をくらました。何度も起き上がりこぼしのように倒すが、すぐに再生している。
「ちくしょー。何回もしつこいやつらめーーー!!」
片輪車はイライラしながら、分身の術で増えた白狐兎を倒していくが、すぐに復活している。その様子を見て、迅は、面白さを感じる。さっきまで自分が倒されたとは思えなかった。
「今度は俺の番だな」
迅は、地面に魔法陣を青白く光らせた。深呼吸して、顔の目の前に2本の指でつかんだ札を差し出した。
「通報した人がいるんだよな」
「この炎は大元を消さないと霧がないぞ」
「そ、それはどういうことだよ」
白狐兎は、おおよその犯人を把握していたようだ。つけていた狐の面を深くかぶって、煙を吸わないように配慮した。何も持っていなかった迅は、腕で鼻と口をふさいだ。烏兎翔は突然、激しく鳴いた。強い妖力がこちらに近づいてくるのがわかった。体中にどんと響いてくる。
「来るぞ」
「……!?」
ごうごうと燃え盛る拝殿の奥の方から、大きな片輪のみの牛車が炎を包み込んで車輪の中央に顔だけ乗せて、目をギラギラさせていた。髪型は落ち武者のようになっていて、その顔は凄まじく恐ろしい近寄りがたいものだった。人間の姿を見つけると、よだれを垂らして近づいてくる。鳥肌がとまらない。
この妖怪の名前は片輪車。迅と白狐兎の真ん中を通り抜けて、挑発した。
「美味しそうなやつらだなぁ。ぬけぬけと我の餌食になりに来たか!!」
「……くっ、気持ち悪い奴め」
「構えろ」
迅が悠長にしている間に一目散に車輪が炎を巻き込んでこちらに近づいてきた。刃物に鋭い車輪が体を真っ二つにした。想像以上に体中の血液が飛び出して、一瞬のうちに地面は血の絨毯に化した。声を発することなく、迅は、体は半分になって倒れていく。景色はスローモーションになる。ここで死ぬのかと迅の霊体が肉体から抜けようとした。こんなところで死にたくない。まだやりきってない。誰かに憑依してでも長生きしてやろうかと考えもあった。
すると、パチンと指を鳴らす音がした。炎に包まれた神社で片輪車と戦っていたはず。むしろ、これから戦おうとしていた矢先だった。白狐兎が「構えろ」と言った瞬間にまやかしの術を使って、異次元空間に飛ばしていた。まったく同じ景色の現実とは異なる世界。夢に近い場所。肉体も霊体も自由に操ることができる。さっきの真っ二つに切られた迅は、本当に死んだわけではない。白狐兎の指パッチンで、元の迅の姿に戻っていた。意識が戻った迅は、自分の体を確かめた。確かに体が割れた感覚はある。
「俺、どこ。ここ、どこよ。いや、生きてる?!」
「落ち着け、何回もやられるな。俺も何回も術は使いたくない」
「……は?」
「いいから、倒せ」
白狐兎は、指をパチンとまた鳴らして、分身の術を使った。5体の白狐兎が、片輪
車の目をくらました。何度も起き上がりこぼしのように倒すが、すぐに再生している。
「ちくしょー。何回もしつこいやつらめーーー!!」
片輪車はイライラしながら、分身の術で増えた白狐兎を倒していくが、すぐに復活している。その様子を見て、迅は、面白さを感じる。さっきまで自分が倒されたとは思えなかった。
「今度は俺の番だな」
迅は、地面に魔法陣を青白く光らせた。深呼吸して、顔の目の前に2本の指でつかんだ札を差し出した。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
視える棺―この世とあの世の狭間で起こる12の奇譚
中岡 始
ホラー
この短編集に登場するのは、「気づいてしまった者たち」 である。
誰もいないはずの部屋に届く手紙。
鏡の中で先に笑う「もうひとりの自分」。
数え間違えたはずの足音。
夜のバスで揺れる「灰色の手」。
撮ったはずのない「3枚目の写真」。
どの話にも共通するのは、「この世に残るべきでない存在」 の気配。
それは時に、死者の残した痕跡であり、時に、境界を越えてしまった者の行き場のない魂でもある。
だが、"それ"に気づいた者は、もう後戻りができない。
見てはいけないものを見た者は、見られる側に回るのだから。
そして、最終話「最期のページ」。
読み進めることで、読者は気づくことになる。
なぜ、この短編集のタイトルが『視える棺』なのか。
なぜ、彼らは"見えてしまった"のか。
そして、最後のページに書かれていたのは——
「そして、彼が振り返った瞬間——」
その瞬間、あなたは気づくだろう。
この物語の本当の意味に。
熾ーおこりー
ようさん
ホラー
【第8回ホラー・ミステリー小説大賞参加予定作品(リライト)】
幕末一の剣客集団、新撰組。
疾風怒濤の時代、徳川幕府への忠誠を頑なに貫き時に鉄の掟の下同志の粛清も辞さない戦闘派治安組織として、倒幕派から庶民にまで恐れられた。
組織の転機となった初代局長・芹澤鴨暗殺事件を、原田左之助の視点で描く。
志と名誉のためなら死をも厭わず、やがて新政府軍との絶望的な戦争に飲み込まれていった彼らを蝕む闇とはーー
※史実をヒントにしたフィクション(心理ホラー)です
【登場人物】(ネタバレを含みます)
原田左之助(二三歳) 伊代松山藩出身で槍の名手。新撰組隊士(試衛館派)
芹澤鴨(三七歳) 新撰組筆頭局長。文武両道の北辰一刀流師範。刀を抜くまでもない戦闘の際には鉄製の軍扇を武器とする。水戸派のリーダー。
沖田総司(二一歳) 江戸出身。新撰組隊士の中では最年少だが剣の腕前は五本の指に入る(試衛館派)
山南敬助(二七歳) 仙台藩出身。土方と共に新撰組副長を務める。温厚な調整役(試衛館派)
土方歳三(二八歳)武州出身。新撰組副長。冷静沈着で自分にも他人にも厳しい。試衛館の弟子筆頭で一本気な男だが、策士の一面も(試衛館派)
近藤勇(二九歳) 新撰組局長。土方とは同郷。江戸に上り天然理心流の名門道場・試衛館を継ぐ。
井上源三郎(三四歳) 新撰組では一番年長の隊士。近藤とは先代の兄弟弟子にあたり、唯一の相談役でもある。
新見錦 芹沢の腹心。頭脳派で水戸派のブレインでもある
平山五郎 芹澤の腹心。直情的な男(水戸派)
平間(水戸派)
野口(水戸派)
(画像・速水御舟「炎舞」部分)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

りんこにあったちょっと怖い話☆
更科りんこ
ホラー
【おいしいスイーツ☆ときどきホラー】
ゆるゆる日常系ホラー小説☆彡
田舎の女子高生りんこと、友だちのれいちゃんが経験する、怖いような怖くないような、ちょっと怖いお話です。
あま~い日常の中に潜むピリリと怖い物語。
おいしいお茶とお菓子をいただきながら、のんびりとお楽しみください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる