無能な陰陽師

もちっぱち

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第76話 デジタルモンスター出現 弐

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 パソコンから出てきたデジタルモンスターは、芭蕉精。ポリゴンの状態でふわふわと飛び回っている。迅は、息を荒くさせて、階段をおりていく芭蕉精を追いかけた。途中、青い制服を着た婦人警官の2人にぶつかりそうになる。くるくると回転する彼女達をとめて、急いで追いかける。

「ごめんなさい。通りますね」
「ろ、廊下は走らないでください!!」
「すいません、ここは廊下じゃなくて階段です」
 走りながら、迅はまともな返答する。さらに後ろから静かに白狐兎もついてきていた。

「あ、え、そういうことじゃなくて、人にぶつかるので!!」
「美幸、諦めな。あれ、詛呪対策本部の人だよ。何やらかすかわからない人達だから止めようがないのよ」
「そ、そんな。みんなケガしちゃうじゃないですか。ほら、平気な顔して人にぶつかっている」
「うん。追いかけてるの、人間じゃないから。きっと見てないのよ。人間の私たち」
「人間の方大事でしょうが」
「そりゃ、誰だって思うわよ。私たち凡人には見えないものがたくさん見えるからよ。お疲れ様ですだわ」
「えー、涼子なんでそんなふうに言えるの?」
「まぁ、長いからね。もう、どんと構えるしかないってことよ」
「……涼子様だね。感心する」
「なんとでも言って」
 美幸は涼子に拍手をした。何だかうれしくなる涼子は鼻高々だ。


「白狐兎、そっち行けって」
「言われなくもそうする」
 
 ちくいち、迅に反抗的な態度をとるようになる白狐兎に迅は複雑な顔をする。

「おい、今は、俺、先輩だかんな。言うこと聞けよ」
「…………」

 芭蕉精が玄関のドアから出ようとするのを2人で挟み込みで捕まえようとするが、上に高くジャンプされて、外に逃げられてしまう。太陽の光に弱い芭蕉精は、地面に落ちた瞬間動きが鈍くなったが、そのまま逃げる。

「わぁ、可愛い。なにこれ。面白い。キーホルダーにしたいなぁ」

 目の前に現れたのは、空狐だ。白狐兎を追いかけて、外でたまたま芭蕉精と向い合わせになり、小さな体をつかんでいた。偶然に鉢合わせた。素材はキーホルダーのようにプラスチックでできていた。それでも動きは俊敏だ。

「空狐!! そいつ、捕まえて!!」

 白狐兎が叫ぶ。迅は、札を取り出して、術を唱えようとした。空狐が、しっかりと捕まえようとした瞬間、ぱっと空高くジャンプした。

「あ、逃げられた。待てー。私のキーホルダー」
「お前のキーホルダーじゃないって」
「ちょっと、離れて! 危ないから」

 さっきまでオフィス内の机やいすを散らかして、人に危害を加えようとしていた芭蕉精だ。今は、攻撃してこなくても、油断はできない。地面にスタッと足をつけて、警戒している。

 迅は、地面に魔法陣を描いて、術を唱えた。

『朱雀の舞』
 
 札を取り出し、念じて、四神の朱雀を召喚した。炎をまとわりつかせて、翼を広げると、一気に炎が舞い上がった。芭蕉精は、勢いのある炎に包み込まれて、砂のようにさらさらと消えていった。一瞬の出来事だった。

 迅は、逃げ足が速いやつだったと仰向けになって寝転んだ。汗がしたたり落ちた。
警視庁の前の石畳がぼろぼろになった。その様子をしっかりと九十九部長は見ていた。

「土御門!!!」
「九十九部長、俺、やりましたよ」
「あぁ、そうだな。しっかりとお前に請求させてもらうぞ。修理費用」
「ま、マジっすか。なんで? 俺、除霊したのに。こんな時になんで鬼先輩いないんだよぉーーーー」

 頭を抱えて、天を仰いだ。九十九部長は迅に請求書を何枚もある紙をぺらぺらと見せた。白狐兎は、まさか自分はないだろうとそっとにげようとするとしっかりと見ていた九十九部長が、首根っこをつかんだ。

「まさか、逃げる気じゃないよね。バディは一緒に責任負うのよ?」
「ひぃーーーーー」
 白狐兎は声にならない声をあげた。空狐は私は関係ないっと口笛を吹いた。

 一方、審判の間の行列に並んでいた鬼柳 兵吉は、可愛い胸が大きい女の子と雑談をしていると、急に大きなくしゃみをした。

「ぶっはっっしょん!! あれぇ、俺、噂されてんのかなぁ。ねぇ、いい噂だといいね」
「キャハハハ……」
 すると、下界から何故か白い紙が送られてきた。

「ん? なんだ、これ。請求書? 俺、もう死んでるのに、なんで下界の請求書なんか……土御門 迅が2本線で消されて、俺の名前になってるんだけど、なんでよ」

 迅は、絶対自分で払いたくなかった請求書を書き直して鬼柳の元に念力で送り届けた。閻魔様の審判の順番になって請求書が閻魔様の顔に飛んで行った。

「鬼柳くん。これは、しっかり支払いを終えなさい。そうしないと、地獄行きだよ」
「ちょっと待ってください!! 閻魔様。なんで、そういうことになるんですか」
「うん。わしの気まぐれ。はい、次の人ーー」
「き、気まぐれだ?? くそじじいい!!!」
「口の慎みたまえ。今すぐ地獄ね!!」

 閻魔様は、杖を振り上げて、術で鬼柳の両手が背中で縛り上げた。

「払います、払います。すぐに払います!!!」
「徳を積めるなら、いいのよ。やっぱ地獄はやめよっか」
 閻魔様はスナック菓子をもしゃもしゃ食べながら、鬼柳を天国の方へ案内した。

 下界の迅のデスクでは、どこからともなくきた請求書とお金が降り落ちてきた。

「お。さすが、鬼さん。仕事早いじゃないっすか。ラッキー」

 迅は、指をパチンと鳴らして、口笛を吹く。白狐兎は相変わらず、ニュートンのゆりかごを見つめていた。電話が九十九部長のデスクで鳴る。平和な詛呪対策本部だった。
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