71 / 105
第71話 審判の間 壱
しおりを挟む
赤く大きな柱の横で次元が開く。迅と白狐兎は、土埃が舞う審判の間に降り立った。あたりは下界から長く連なっている霊魂の行列でざわついていた。奥の方では、閻魔様と大嶽丸が槍と斧で戦いが始まっている。取り囲むたくさんの赤鬼と青鬼たちはあわてふためき右往左往していた。行列を作っていた霊魂たちもどうすればいいか困惑して、審判の間はひっちゃかめっちゃかだ。
「これ、どういうことよ。あっちの方、何だか騒がしそうだな」
「風狐は一体どこまで連れていかれたんだ?」
迅は行ったり来たりしている鬼たちを様子伺いしていたが、霊魂たちの行列にならんで怪しまれないようにごまかしていた。生きている人間だとわかると、鬼に食われてしまう。見つからないように気配を消す術を使った。そこに並んでいたおじいさんの霊魂が近づいてきた。
「迅? 迅なのか?」
迅は、そっと近づく霊魂に警戒して危なく除霊しそうになった。
「ちょ、ちょっと待って。もしかして、茂《しげる》おっぴじいか?! てか、亡くなったのずいぶん前だろ。なんでこんなところにいるんだよ」
土御門 茂土御門 嘉将の父だ。先代の清明神社の神主だ。何十年も前に亡くなっているはずだった。
「いやぁ、審判の間に来る前花畑でさ、可愛いねえちゃんに会って、ずっと話してたら、このありさまよ。この世界では時間感覚ゼロだからなぁ。ほほほ」
「すけべじじいだな。早く天国行けよ」
「口が悪いな」
あきれた迅に急に態度を変える茂は、迅の顔をまじまじに睨みつける。
「ごめんなさい。ごめんなさい。私が悪うございました」
「だろう? 年上にはきちんと敬うべきだぞ、迅。せっかく、いいこと教えてあげようと思ったのによぉ」
「いいこと? まさか、新しい術とか教えてくれるんのか?」
「まさか。教えるわけなかろう。可愛いねえちゃんの名前は、フミさんじゃ」
「ちょっと、待て。それ、おっぴばぁの名前だろ。なんで、同じ名前の人にひょいひょいついていくんだよ」
「は? そうだったっけか。そんなの忘れたわい」
すると、白狐兎がせかすように迅の服の裾をくいっと引っ張った。ここでまたコミュ障の症状が発生する。知らない人とわかると、冷や汗をかく白狐兎だ。
「あー、分かったって。今行く。じいちゃん、俺。こっちの世界に来たやつ助けないといけないからさ!」
「え? なんだって。もしかして、狐の面かぶったねぇちゃんか? 可愛かったけども」
「え、じいちゃん。風狐のこと見たのか?」
「おっきな鬼に抱えられて、奥の方に入っていくのは見たさ。その子がどうしたっていうんだ」
白狐兎は急に茂のそばのギリギリまで近づき、どこに行ったか聞き出そうとした。興味あることには積極的になる。
「おい、じいさん。それはどっちに行けばいいんだ」
「なんだ、この狐男は。どっちってあっちだ」
大きな赤い柱が何本も続く通路の奥の方を指さした。
「じいちゃん、あっちだな。よし、白狐兎! 行くぞ」
「呼ばれなくても行くつもりだ」
迅と白狐兎は巡回する鬼たちにつかまらないように、恐る恐る近づいた。霊魂の行列に紛れて、追い越して、紛れて追い越しての繰り返しに素早く動いた。遠くから茂は手を振って別れを告げた。大きな声を出した瞬間、巡回していた青鬼に声をかけられた。
「おい、お前、何をしている」
「え、あ、いやあ、えっとなぁ。ストレッチじゃよ。ほれ、年寄は運動しないとなぁ。長生きできんから」
「ここ、天国と地獄の審判の間だけどなぁ。お前、もう死んでるだろ」
「あ、そうじゃった、そうじゃった。ハハハハ……」
「おとなしく列に戻れ!」
「はいはい。わかりましたよぉ」
茂は元々並んでいた列に静かに戻ると、仲良くしていたフミさんと談笑して心落ち着かせた。
(無事でいてくれよ、迅)
地獄の大変さは元陰陽師の茂でもよく知っていた。生半可な気持ちでは、進めない。よっぽどのことのない限り、地獄の世界にはいかないからだ。奥の奥まで行ったら最期、元の世界に戻れなくなる。そのことを迅も白狐兎も知らなかった。
風狐の居場所を突き止めた2人は鬼につかまらないように忍者のように慎重に奥の審判の間へと足を進めていた。
「これ、どういうことよ。あっちの方、何だか騒がしそうだな」
「風狐は一体どこまで連れていかれたんだ?」
迅は行ったり来たりしている鬼たちを様子伺いしていたが、霊魂たちの行列にならんで怪しまれないようにごまかしていた。生きている人間だとわかると、鬼に食われてしまう。見つからないように気配を消す術を使った。そこに並んでいたおじいさんの霊魂が近づいてきた。
「迅? 迅なのか?」
迅は、そっと近づく霊魂に警戒して危なく除霊しそうになった。
「ちょ、ちょっと待って。もしかして、茂《しげる》おっぴじいか?! てか、亡くなったのずいぶん前だろ。なんでこんなところにいるんだよ」
土御門 茂土御門 嘉将の父だ。先代の清明神社の神主だ。何十年も前に亡くなっているはずだった。
「いやぁ、審判の間に来る前花畑でさ、可愛いねえちゃんに会って、ずっと話してたら、このありさまよ。この世界では時間感覚ゼロだからなぁ。ほほほ」
「すけべじじいだな。早く天国行けよ」
「口が悪いな」
あきれた迅に急に態度を変える茂は、迅の顔をまじまじに睨みつける。
「ごめんなさい。ごめんなさい。私が悪うございました」
「だろう? 年上にはきちんと敬うべきだぞ、迅。せっかく、いいこと教えてあげようと思ったのによぉ」
「いいこと? まさか、新しい術とか教えてくれるんのか?」
「まさか。教えるわけなかろう。可愛いねえちゃんの名前は、フミさんじゃ」
「ちょっと、待て。それ、おっぴばぁの名前だろ。なんで、同じ名前の人にひょいひょいついていくんだよ」
「は? そうだったっけか。そんなの忘れたわい」
すると、白狐兎がせかすように迅の服の裾をくいっと引っ張った。ここでまたコミュ障の症状が発生する。知らない人とわかると、冷や汗をかく白狐兎だ。
「あー、分かったって。今行く。じいちゃん、俺。こっちの世界に来たやつ助けないといけないからさ!」
「え? なんだって。もしかして、狐の面かぶったねぇちゃんか? 可愛かったけども」
「え、じいちゃん。風狐のこと見たのか?」
「おっきな鬼に抱えられて、奥の方に入っていくのは見たさ。その子がどうしたっていうんだ」
白狐兎は急に茂のそばのギリギリまで近づき、どこに行ったか聞き出そうとした。興味あることには積極的になる。
「おい、じいさん。それはどっちに行けばいいんだ」
「なんだ、この狐男は。どっちってあっちだ」
大きな赤い柱が何本も続く通路の奥の方を指さした。
「じいちゃん、あっちだな。よし、白狐兎! 行くぞ」
「呼ばれなくても行くつもりだ」
迅と白狐兎は巡回する鬼たちにつかまらないように、恐る恐る近づいた。霊魂の行列に紛れて、追い越して、紛れて追い越しての繰り返しに素早く動いた。遠くから茂は手を振って別れを告げた。大きな声を出した瞬間、巡回していた青鬼に声をかけられた。
「おい、お前、何をしている」
「え、あ、いやあ、えっとなぁ。ストレッチじゃよ。ほれ、年寄は運動しないとなぁ。長生きできんから」
「ここ、天国と地獄の審判の間だけどなぁ。お前、もう死んでるだろ」
「あ、そうじゃった、そうじゃった。ハハハハ……」
「おとなしく列に戻れ!」
「はいはい。わかりましたよぉ」
茂は元々並んでいた列に静かに戻ると、仲良くしていたフミさんと談笑して心落ち着かせた。
(無事でいてくれよ、迅)
地獄の大変さは元陰陽師の茂でもよく知っていた。生半可な気持ちでは、進めない。よっぽどのことのない限り、地獄の世界にはいかないからだ。奥の奥まで行ったら最期、元の世界に戻れなくなる。そのことを迅も白狐兎も知らなかった。
風狐の居場所を突き止めた2人は鬼につかまらないように忍者のように慎重に奥の審判の間へと足を進めていた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし
響ぴあの
ホラー
【1分読書】
意味が分かるとこわいおとぎ話。
意外な事実や知らなかった裏話。
浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。
どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。

意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる