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第54話 鬼柳の秘密 伍
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―――河岡心咲の回想シーン―――
青く澄み渡る空に入道雲が浮かんでいた。
通学路には雨あがりに傘を持ち歩き、長靴を履いて、水たまりで遊ぶ小学生の男の子とその母親の姿があった。
「ほら、お家に帰るよ。おやつは何にしようか」
「今、この水たまりに入ったら行くから。バシャン!」
男の子は水たまりをアスレチックのようにして遊びながら、母の元へ駆け出した。その横を通りすぎるのは、通学バスからおりたばかりの河岡心咲だった。ランドセルの肩ベルトを握りしめて、ゆっくりと歩く。水たまりにははねないようにとゆっくり長靴を入れている。
5分ほど車が行きかう道路を歩いて、玄関のドアを開けた。
「心咲、おかえり」
「ただいま」
母がエプロンをつけて、手を拭きながら玄関に来る。心咲は、ランドセルをごろんと床に置く。すぐに洗面所に移動して手を洗った。
「ちょっと、どこにランドセル置いてるのよ。まったく」
そう言いながら、ぶつぶつと文句言いながら母はランドセルラックに運んでいる。
「心咲、おやつ食べる?」
冷蔵庫の牛乳を取り出し、コップに注ぎ入れた。
「いらない」
「えー、なんで? ホットケーキ作ってみたのよ。心咲好きでしょう」
「食べたくない」
ごくごくと牛乳を飲む。母はがっかりした顔をして、1人2人分のホットケーキをナイフとフォークで食べ始めた。
「何よ。心咲が好きだと思って作ったのに……もうおやつ用意しないからね」
半分泣きながら、ぶつぶつと食べる母の後ろを通り過ぎて、自分の2階の部屋に駆け上がる。
手には、お菓子ケースから取り出したポテトチップスの袋を取り出した。心咲は母の作ったものをすべて食べたくなかった。恩を着せられる。好きな物を用意したと言われるのが好きじゃない。特に今は反抗期が強かった。おやつだけではない。普段の食事もまともに食べない。昔からずっとそうだった。物心ついた頃から食事に興味がなく、お腹がすいたらおやつばかり。母が一生懸命に食べさせようとあの手この手を使って準備するが、まるまんま食べようとしない。母の発する言葉に敏感に反応して食べたくなくなる。神経質だった。まずいものではない。ごくごく一般的な食事だ。料理は得意な母なのにも関わらず、食べない。お腹を満たすこともなく、心も満たされない日々を過ごしていた。食事を残されるたびに残飯処理をするが、食べきれず、生ごみの入れ物がいつもパンパンになる。もったいないと思いながら、母は捨てている。
「戦後は、芋とかしか食べられなかったんだよ!」
と叫ぶが、心咲にとっては戦後の話なんて知らない。現代の日本に戦争はない。コンビニに行けば、好きな食べ物がたくさんある。なんで、嫌いな芋を食べなければならないのかと不思議で仕方ない。それくらい母に反抗していた。
勉強机、漢字練習帳のノートを広げて、脇にはポテトチップスの袋があった。
◇◇◇視点変更◇◇◇
部屋の天井には、ふたくちおんなに殺された大人になった心咲の霊体がふわっと浮かんでいた。河岡心咲は、過去の自分を見せられていた。
閻魔様の審判の間で地獄か天国かという判断を下される前に眩しい光が目の前に現れると、いつの間にか幼少期の自分の姿を見た。母の食べ物を食べなくなった瞬間だった。その頃から心咲の心は乱れていた。真っ暗でどろどろの闇深い心だった。
「私はあの時から母にひどいことばっかり言っていた。本当はお菓子でお腹は膨れてなかったのに、嘘ついてずっと食べたくないって言っていた」
ボソッとつぶやくと、心咲の霊体は真っ白い光とともに審判の間に飛ばされる。
≪決断の時だ。お前は―――≫
人間の体の数倍大きい閻魔様は木槌のガベルをたたこうとする。
「私は悪くない!! 私が悪くないの。母が私をいじめるからよ。こんな体にしたのは母のせいよ。食べなくていいとか、もうご飯用意しないとか言うからよ」
心咲は、目から大量の涙を流しながら訴えた。本当は悪いのは自分自身だと知っていたが、嘘をついた。天国に行きたかったからだ。その嘘は閻魔様に気づかれていた。目が怨念を含んで心咲を睨みつけていた。
≪それで許されると思っているのか!!≫
閻魔様は持っていたガベルを地面にたたきつけると同時に、心咲の霊体にふたくちおんなが地面から黒い念を出しながらどんどん増幅していった。分身の術を使ったように次から次へと増えていく。
空中に現実世界から異空間へつながるガラスを割るようにこちらに入ってきたのは土御門迅だった。
迅は、とっさに心咲の体を大量のふたくちおんなから引き剥がした。
後ろから着いてきていた烏兎翔が迅の背中をくちばしでくわえて高く飛んだ。
閻魔様は予期もしない出来事に癇癪を起して大声で叫んでいた。
青く澄み渡る空に入道雲が浮かんでいた。
通学路には雨あがりに傘を持ち歩き、長靴を履いて、水たまりで遊ぶ小学生の男の子とその母親の姿があった。
「ほら、お家に帰るよ。おやつは何にしようか」
「今、この水たまりに入ったら行くから。バシャン!」
男の子は水たまりをアスレチックのようにして遊びながら、母の元へ駆け出した。その横を通りすぎるのは、通学バスからおりたばかりの河岡心咲だった。ランドセルの肩ベルトを握りしめて、ゆっくりと歩く。水たまりにははねないようにとゆっくり長靴を入れている。
5分ほど車が行きかう道路を歩いて、玄関のドアを開けた。
「心咲、おかえり」
「ただいま」
母がエプロンをつけて、手を拭きながら玄関に来る。心咲は、ランドセルをごろんと床に置く。すぐに洗面所に移動して手を洗った。
「ちょっと、どこにランドセル置いてるのよ。まったく」
そう言いながら、ぶつぶつと文句言いながら母はランドセルラックに運んでいる。
「心咲、おやつ食べる?」
冷蔵庫の牛乳を取り出し、コップに注ぎ入れた。
「いらない」
「えー、なんで? ホットケーキ作ってみたのよ。心咲好きでしょう」
「食べたくない」
ごくごくと牛乳を飲む。母はがっかりした顔をして、1人2人分のホットケーキをナイフとフォークで食べ始めた。
「何よ。心咲が好きだと思って作ったのに……もうおやつ用意しないからね」
半分泣きながら、ぶつぶつと食べる母の後ろを通り過ぎて、自分の2階の部屋に駆け上がる。
手には、お菓子ケースから取り出したポテトチップスの袋を取り出した。心咲は母の作ったものをすべて食べたくなかった。恩を着せられる。好きな物を用意したと言われるのが好きじゃない。特に今は反抗期が強かった。おやつだけではない。普段の食事もまともに食べない。昔からずっとそうだった。物心ついた頃から食事に興味がなく、お腹がすいたらおやつばかり。母が一生懸命に食べさせようとあの手この手を使って準備するが、まるまんま食べようとしない。母の発する言葉に敏感に反応して食べたくなくなる。神経質だった。まずいものではない。ごくごく一般的な食事だ。料理は得意な母なのにも関わらず、食べない。お腹を満たすこともなく、心も満たされない日々を過ごしていた。食事を残されるたびに残飯処理をするが、食べきれず、生ごみの入れ物がいつもパンパンになる。もったいないと思いながら、母は捨てている。
「戦後は、芋とかしか食べられなかったんだよ!」
と叫ぶが、心咲にとっては戦後の話なんて知らない。現代の日本に戦争はない。コンビニに行けば、好きな食べ物がたくさんある。なんで、嫌いな芋を食べなければならないのかと不思議で仕方ない。それくらい母に反抗していた。
勉強机、漢字練習帳のノートを広げて、脇にはポテトチップスの袋があった。
◇◇◇視点変更◇◇◇
部屋の天井には、ふたくちおんなに殺された大人になった心咲の霊体がふわっと浮かんでいた。河岡心咲は、過去の自分を見せられていた。
閻魔様の審判の間で地獄か天国かという判断を下される前に眩しい光が目の前に現れると、いつの間にか幼少期の自分の姿を見た。母の食べ物を食べなくなった瞬間だった。その頃から心咲の心は乱れていた。真っ暗でどろどろの闇深い心だった。
「私はあの時から母にひどいことばっかり言っていた。本当はお菓子でお腹は膨れてなかったのに、嘘ついてずっと食べたくないって言っていた」
ボソッとつぶやくと、心咲の霊体は真っ白い光とともに審判の間に飛ばされる。
≪決断の時だ。お前は―――≫
人間の体の数倍大きい閻魔様は木槌のガベルをたたこうとする。
「私は悪くない!! 私が悪くないの。母が私をいじめるからよ。こんな体にしたのは母のせいよ。食べなくていいとか、もうご飯用意しないとか言うからよ」
心咲は、目から大量の涙を流しながら訴えた。本当は悪いのは自分自身だと知っていたが、嘘をついた。天国に行きたかったからだ。その嘘は閻魔様に気づかれていた。目が怨念を含んで心咲を睨みつけていた。
≪それで許されると思っているのか!!≫
閻魔様は持っていたガベルを地面にたたきつけると同時に、心咲の霊体にふたくちおんなが地面から黒い念を出しながらどんどん増幅していった。分身の術を使ったように次から次へと増えていく。
空中に現実世界から異空間へつながるガラスを割るようにこちらに入ってきたのは土御門迅だった。
迅は、とっさに心咲の体を大量のふたくちおんなから引き剥がした。
後ろから着いてきていた烏兎翔が迅の背中をくちばしでくわえて高く飛んだ。
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