無能な陰陽師

もちっぱち

文字の大きさ
上 下
52 / 105

第52話 鬼柳の秘密 参

しおりを挟む
 がやがやとお客さんの会話で騒がしくなっていたのは、ドリンクバーが常駐しているファミレスだった。ボックス席に4人座っていたのは、高校から同級生同士の集まりだった。

「ねぇねぇ、何食べる?」
 佐野華愛《さのゆな》が、テーブルに置かれていたメニューを2枚中央に広げた。バックをソファにそれぞれ脇に置いて、次から次へと話題が途切れなかった。会えなかった5年を埋めるように思い出話から始まった。

「最近、高校行った? エンカツって先生いたでしょう。あの人、定年退職したらしいよ」

 そう、話を切り出したのは、吉村優菜よしむらゆうなだった。

「え?! エンカツって遠藤勝弘《えんどうかつひろ》?」

 目を大きくしてびっくりしたのは、坂田七海《さかたななみ》だった。

「そうだよ、知らなかったの?」

 河岡心咲かわおかみさきは顔をにょきっと出して言った。

「ちょっと、ちょっと。メニューそろそろ決めようよぉ。お腹空いたよぉ」
 佐野 華愛が少しイライラしてきた。一番リーダーとして仕切り屋になるポジションだった。話が途切れないのを止めるのが、いつものお役目だった。

「よっ! さすがはリーダーの華愛だね」

 吉村 優菜はいつも話したがりで空気を読めない。また話題を振ろうとしたが、河岡 心咲が口を塞ぐ。

「ごめん、次々決めちゃお。この子、話がとまらなくなるから。急いで」
「むぐむぐ……」
「心咲も相変わらずだね」
「そうそう、いつも止める役」
「みんな変わらなくて安心する」
「ちょ、ごめん。私ここのレストランで食べられるの無いかもしれないよ」
「そうやって、食べ物の心咲のこだわりも前と一緒」
 笑いながら、華愛は心咲を指さす。学生の頃となんら変わりないメンバーだった。

「だって、アレルギーあるわけじゃないんだけど、見た目で受け付けられなかったら、おえっと吐いちゃうんだよね。みんなが美味しいと言ってたとしても……。かろうじて、このサラダは行けるかな」
「ポテトサラダやん。誰が、それだけ食べるのよ。好き嫌い激しすぎ。おふくろの味やん」
「だってー……」
「仕方ないよ。みんな集まって食べられるだけでもよしとしよう。はい、心咲はポテトサラダね」

 ブツブツ言いながら、お店のチャイムを押す。華愛が仕切って、店員が伝票を持って来ると、次々とみんなメニューを確認して注文する。その間、他の3人は恋バナで盛り上がる。1人だけ抜けていて寂しい思いを少しだけ感じていた。このメンバーのリーダーはこういうものだと割り切っていた。

 数分後、それぞれ注文したメニューがテーブルに置かれた。

「ご注文のお品は以上でよろしいですね」
「はい。大丈夫です」

 この店員の返事もいつも華愛だった。背中に暗雲が立ち込める。ネガティブなオーラがわき出て来た。じわじわと迫る霊感のあるものしか見えない灰色のオーラが、隣の心咲にうつった。
 ポテトサラダをちびちびと小さいスプーンで食べていると、背中から大きな手が2本現れた。
 後頭部にもう一つの大きな口があり、テーブルに乗っていた食べ物を全部両手で持っていこうとしていた。霊感のない者にはハンバーグやピザ、ステーキなどの食べ物が空中に浮かんで、消えていくのが見える。それを心咲にはなぜか何も見えていない。

「「「きゃーーーーーー」」」

 河岡 心咲以外の3人は悲鳴を上げて、逃げ回った。

「え?! みんなどうしたの?」

 心咲の一言であたりは一層恐怖に見舞われた。霊感の強いホールスタッフの熊谷 麻美くまがいあさみは恐怖のあまり持参していた数珠を何度もこすり合わせて、体を震わせていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

怨念がおんねん〜祓い屋アベの記録〜

君影 ルナ
ホラー
・事例 壱 『自分』は真冬に似合わない服装で、見知らぬ集落に向かって歩いているらしい。 何故『自分』はあの集落に向かっている? 何故『自分』のことが分からない? 何故…… ・事例 弍 ?? ────────── ・ホラー編と解決編とに分かれております。 ・純粋にホラーを楽しみたい方は漢数字の話だけを、解決編も楽しみたい方は数字を気にせず読んでいただけたらと思います。 ・フィクションです。

特別。

月芝
ホラー
正義のヒーローに変身して悪と戦う。 一流のスポーツ選手となって活躍する。 ゲームのような異世界で勇者となって魔王と闘う。 すごい発明をして大金持ちになる。 歴史に名を刻むほどの偉人となる。 現実という物語の中で、主人公になる。 自分はみんなとはちがう。 この世に生まれたからには、何かを成し遂げたい。 自分が生きた証が欲しい。 特別な存在になりたい。 特別な存在でありたい。 特別な存在だったらいいな。 そんな願望、誰だって少しは持っているだろう? でも、もしも本当に自分が世界にとっての「特別」だとしたら…… 自宅の地下であるモノを見つけてしまったことを境にして、日常が変貌していく。まるでオセロのように白が黒に、黒が白へと裏返る。 次々と明らかになっていく真実。 特別なボクの心はいつまで耐えられるのだろうか…… 伝奇ホラー作品。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

りんこにあったちょっと怖い話☆

更科りんこ
ホラー
【おいしいスイーツ☆ときどきホラー】 ゆるゆる日常系ホラー小説☆彡 田舎の女子高生りんこと、友だちのれいちゃんが経験する、怖いような怖くないような、ちょっと怖いお話です。 あま~い日常の中に潜むピリリと怖い物語。 おいしいお茶とお菓子をいただきながら、のんびりとお楽しみください。

処理中です...