無能な陰陽師

もちっぱち

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第41話 神隠しが発生する 肆

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マンションの屋上で飛び降り自殺をした菅原 駿が小さな祠の後ろに膝を抱えて座っていた。肉体ではなく霊体だ。迅は致し方なく、ブランコに乗りながら、駿の話をじっくりと聞く。ベンチに座ってタバコをふかす鬼柳は少し離れたところで終わるのを待っていた。

「———んで、なんで自殺なんかしたんだよ?」
「僕は確かにマンションの屋上にいました。もちろん、飛び降りようとしましたよ。でも、やっぱり怖くなって飛ぶのをやめようとしたんです。そしたら、強く風が吹いて、さっきの黒いマントかぶった奴に誘導されたんですよ。本当は僕は死にたくなかった。生きたかった!! 確かに人生に悲観して嫌になった。学校では孤立するし、親には煙たがられるし、妹には足蹴にされて死ねとか言われるし……何が悲しくてこの世界で生きていかなくちゃいけないだって思った。でも、でも、マンションの屋上は高すぎて、怖かった。やめようとしたんだ!! そしたら、あいつが、手招きしてきて、僕は縮こまった体は知らず知らずのうちに空中に浮かんだ。あっという間に落ちたんだ。死にたくなかったのに!!!」

 迅の両肩をぶんぶん振って、訴えた。死んでいるにも関わらず、パワーが強い。まだ生きているようだ。

「おいおいおい。やめろって、服が伸びる……。わかったよ。あいつのせいなんだな。なんだっけ、奴延鳥《ぬえ》の仕業だろ、きっと。神隠しの力を持っているからな。まだ高校生だから、子供扱いされたんだな。んで? お前は死ぬ前に何をしたかった? 生きたかったんだろ」
 
 迅の肩を持っていた手を離した。

「……友達が欲しかった。クラスメイトの友達。ずっと高校1年生から友達作れなくて……高校2年生からデビューみたいにいきってみたけど、誰にも相手されなかった。ばかみたいってクラスの女子から言われた。それからずっと1人。何をすればいいかわからなかったんだ。誰かに話しかけても無視されるし、俺は透明人間のような存在に」

「あー、あいつも透明人間だもんな。共鳴したんだろ。同じ思いでな」

 鬼柳はひげを触りながら、考える。迅は、しゃがみ込み、ため息をついた。

「だからさ!! お前はどうするわけ。今から友達作れないだろ。クラスメイトになれってか。俺が?」

「ああ!! あんたなら、人が寄ってきそうだよな。友達も嫌って程近寄りそう」
「何?!」

 迅に有無も言わすこともせずに瞬時に憑依した。迅は納得ができなかった。大の大人が高校生になるなんて、たまったもんじゃない。迅の体の中にある水晶の中で迅の霊体は閉じ込められた。外側から駿の霊体がのぞき込んでいる。

「すいませんが、しばらくその中に入っててくださいね」
「なんだと!? 乗っ取るんじゃねえ!! 俺は許可した覚えないぞ」
 水晶を四方八方、パンチキックするが、外に出ることはできなかった。駿の執念は強いようだ。隣にいた鬼柳は呆れた顔をして、駿の後ろを着いて行った。

「おじさん、何着いてきてるんですか。僕1人で平気ですよ」

 迅の体を乗っ取った駿は、睨みをきかせて鬼柳を見た。

「まぁまぁまぁ、あまり悪さすると地獄に行くよぉー? 監視させてもらおうかな」

 鬼柳がその言葉を発すると駿は、すぐに迅の体を使って、魔力を使い、手をかざして鬼柳を吹っ飛ばした。木に思いっきりぶつかり、背中を負傷した。

「邪魔すんじゃねぇ!!」
 鬼の形相で立ち去っていた。

「いたたたた……。迅の体を乗っ取られた。まずいなぁ」

 鬼柳は九十九部長に電話を入れる。迅の式神のカラスの烏兎翔は自由の身になれたと喜んでいた。その様子を呆れた顔をして、九十九部長に報告する。

『何をやってるんですか。土御門は、無能なんだから、きちんと監視してないとだめですよ。先輩なんだから。自分で何とかしてくださいね』

 電話に出たかと思うとすぐに電話を切られてしまう。鬼柳は舌打ちをして、砂をいじいじしていた。もう1匹の鬼柳の式神が頭をつんつんくちばしでつついた。

「わかりましたよ。追いかければいいでしょう。まったく、土御門の尻ぬぐい勘弁してほしいわぁ……」

 ぶつぶつ文句を言いながら、2匹のカラスに両肩をつかまれながら、空を飛んで移動する。まだ近くだろうと、迅に乗り移った駿を追いかけた。

 向かった星舞う夜空には、煌々と満月が光輝いていた。
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