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第39話 神隠しが発生する 弐
しおりを挟む―狐《きつね》の里《さと》ー
神社の大きなお屋敷がそびえたっていた。
ここは、白い狐の仮面をかぶった白狐兎《びゃっこぼう》の古里だ。空狐と
風狐の姉妹は鳥居付近でじゃれ合っていた。その頃、白狐兎は今まさに食べようとしていたお弁当の中を覗いて怒り心頭だ。
「誰だ、俺の稲荷寿司を食べたやつは。ひじき入りで大好物なのに……」
持っていたお箸をボキッと折る。背中からまがまがしい煙のようなオーラが湧き出て来る。妖怪も発生していないのに念を使おうとしている。犯人を探そうと外に出ると、眉間にしわが寄る。目がギラギラと光っている。
「空狐、今、タッチしたでしょう」
「してないよ。鬼さんこちら、手の鳴る方へ!」
空狐と風狐の2人は、鬼ごっこを楽しんでいた。後ろの方から険しい顔の白狐兎がズンズン近づいて来る。妖怪もいないのに念が強い。
「ちょ、ちょっと、白狐兎の顔見てよぉ。怖いんだけど!」
「なんで、あんなに険しい顔しているの」
「し、知らないよ。今にも刺されそう……」
姉妹は抱き合いながら、怖がっていた。
「俺の稲荷寿司食べたのは、お前らか!?」
「……へ?」
空狐の頬の横にはご飯粒が一つ付いていた。白狐兎の分のお弁当にまで手をつけたのは空狐だった。
「誰のことかなぁ。あたいじゃないよぉ。私もお弁当食べたけどぉ、白狐兎の分まで食べる訳ないじゃない」
大ウソつきのことを言っている。斜め上をむいて、口笛を吹く。白狐兎の怒りは倍増する。背中から今までかつてない灰色の念が湧き出している。
「俺の―――稲荷を食べたなぁ~~~!!!」
食べ物の恨みは怖い。白狐兎は札を取り出し、式神を出そうとすると、長老が白狐兎の腕をがっちりとつかむ。灰色のオーラが一瞬にして、小さくなっていく。念が小さくなっていく。狐の里の長老、氷狐竜《ひょうこりゅう》は白く長いひげを撫でながら、そっと白狐兎の力をおさえた。
「やめなさい」
「……長老!! 俺の稲荷が食われたんです」
「そんなの何個もわしが持っている。怒りを鎮めなさい。無駄に念力使うんじゃない」
「はッ!」
冷静に戻った白狐兎は、膝を地面について、お辞儀した。目の前に差し出された大量の稲荷に食べずとも心は満足している。
「無駄に強い力を放出するんじゃない。稲荷が食べたければ、わしの所にすぐに来なさい。いくらでも用意してやるから」
「感情取り乱して申し訳ありませんでした。あまりにも空腹だったもので、自分を制御できませんでした。ありがとうございます」
「気づけばいいんだよ。次から気をつけなさい。ほら、目を閉じてみなさい。今、すべきこと、分かるだろう?」
氷狐竜はそっと目を閉じ、黙想する。また人里おりた街に妖怪が現れた。妖怪が発する気が高い山のここまで漂っている。白狐兎は、膝をついたまま下を向いて、神経を研ぎ澄ませた。どこからの妖気かを調べた。北北西だ。目をクワッと見開いた。
「行ってきます」
「健闘を祈る」
白狐兎は、瞬間移動の術を使い、風を巻き起こして、途端に消えた。
「おじいちゃん!! 白狐兎、怖かった!! あたいは、足りなくて食べちゃっただけなのに。あんなに怒らなくてもいいでしょう?」
「空狐、人の食べものを取ってはいけない。以後、気をつけなさい」
「はぁい。気を付けます」
いつも優しい氷狐竜が少しイライラしている雰囲気を感じとった。しゅんと落ち込む空狐に風狐が頭をなでなでした。
「間違いは誰でもあるよ。次、気をつけようね」
「うん。わかった」
空狐は仮面をかぶって顔を隠した。涙を流してるのを見られたくなかった。稲荷が食べたくなったら、氷狐竜に言いに行くと誓った。
白狐兎は迅のいる現場に向かっていた。強い風が吹き荒れていた。
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