無能な陰陽師

もちっぱち

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第37話 顔が綺麗かどうか自分次第 参

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 大きな青龍がのっぺらぼうにぐるぐると巻き付いて、身動きが取れなくなる。白狐の仮面をかぶった着物の女の子は、再びもう一つの札を取り出した。青龍がのっぺらぼうをとらえられているときにトドメをさそうとした。

『火炎の舞!』

 足元の丸い魔法陣が青く光り出す。女の子は、目を青く光らせて、地面に札を張り付けた。下から炎が巻きあがり、青龍にぐるぐる巻きにされたのっぺらぼうに火がついた。するりと青龍は抜け出して空に飛び出した。外は未だに雨が降り続いているが、それでも炎は消えずに燃え続けている。

「うわぁああああああ~~~!!」
 
 黒いマントを翻して、体もろとも炎に包まれて、黒く焦げ付いた。バタンと倒れてると砂のように一瞬にして消えていく。細く透明なピアノ線のようなもので縛りつけられていた迅と鬼柳はやっと術が解けて、地面にたたきつけられた。

「助かった……」
「俺、いつ高架水槽の中に入れられるかヒヤヒヤしたっすよ」
「…………」

 鬼柳と迅は、体に巻き付いたピアノ線をほどいて、白狐の着物の女の子に近づいた。バサバサに着崩れた着物を直していた。

「あんた、白狐兎の妹か」
「……空狐《くうこ》。白狐兎は知らない。絶対知らない!!」
 そう言って、ささっと走っていなくなった。迅は、呆れた様子でため息をついた。

「あいつ、めっちゃ知ってるな。白狐兎。兄妹じゃないのか?」
「幼馴染ってやつじゃないの」
「おっさんがそう言うこと言うんじゃない!」
「おっさんじゃない。おっちゃんだ」
「変わらねぇよ」
 迅がそう発すると、物々しい空気の中後ろから声がかかった。
「……あの、すいません」
「わぁ!? びっくりした。生きてるやつよりもびっくりするわ」
 亡くなった柿崎美玲が目玉を飛び出た状態で、迅の後ろに現れた。

「すいません、驚かして……なんだか亡くなったのに、後ろから声がかかって、あなたに話すといいって言われたので」
「誰から?」
 柿崎は、後ろにいる大きな青龍を指さした。迅はオーバーリアクションで驚いた。

「なんで、青龍が? あいつ、空狐の式神じゃないのか?」
『まだ除霊が済んでいないから残っていた』
「……あんたがやるのかよ。まぁいいや。とりあえず、聞きますか」
 迅は、足を大きく広げてしゃがんだ。ヤンキー座りだ。

「えっと……私は顔にコンプレックスを抱えていて、化粧品販売員になったんですけど、実は亡くなる直後に美容整形の予約してまして……やり残してしまいました。ものすごく悔いが残ります」
「待て待て待て。俺が美容整形するとか言わないよね」
「た、確かに。私の顔じゃなくて、あなたが言ったら意味がないというか。かと言って、行けないですし、でも予約が……」
「わかった。仕方ない。俺に憑依して、整形すればいい。何とかなるだろう」
「え? そんなことしたら、あなたが霊界にひっぱれませんか?」
「俺は平気だ。魔力強いし、ここに見届け人いるから。な? 先輩」
「はぁ? 俺が見届け人?」
 鬼柳は自分の顔に指をさす。ドヤ顔をして任せなさいというような態度をとる迅。

「それは心強いですね。んじゃ、お願いします」
 柿崎は迅の体にすぅーっと中に入った。外側は迅だが、中身は柿崎だ。数時間ぶりに入った肉体に、深呼吸する。

「んじゃ、行きますか」
 鬼柳は慎重に柿崎が入った迅を連れていく。なんとなく、鬼柳の背中がぞわぞわする。両頬をバシバシとたたいて切り替えた。

 ◆◇◆

「いらっしゃませ。ご予約いただいてた柿崎様ですね。あー、えっと女性だと思ったのですが……」
 美容整形の受付に迅の体に入った柿崎は平然とした顔をして、診察券を出した。
「あ、はい。そうですね……」
(鬼柳さん、この方の保険証ってありますか?)
「へ? あぁー、土御門のね。たぶん、そのバックに入ってるよ」
 セカンドバックを持っていた柿崎は慌てて、財布に入っていた保険証を出した。

「遠い親戚なんです。この名前でお願いします」
「と、遠い親戚? えっと……施術内容が変わってしまうので、そういうことはできないんですが」
「な、それは困ります」
 柿崎は迅の体を使って受付の人に訴えた。鬼柳は、その様子を見て、できるわけがないだろうと思いながら、外へと誘導する。

「どうすればいいんですか。ものすごく楽しみにしてたのに……」
「うーん。まぁまぁ……ここで解決できなくても他にあるから」

 鬼柳は何となく無理だろうと感じていたが、どうにかすっきりさせたいと、迅に憑依した柿崎をある場所に連れて行った。よく見慣れた空間だった。

「ここですか?」
 
 連れて来たのは柿崎の職場である、デパートの化粧品売り場だ。

「ここで綺麗になりましょう」

 鬼柳は、迅を化粧品売り場に座らせた。整形をしたいと言っていた要望ではないが、綺麗になるのは間違いない。迅の顔が白くなっていく。男でも今は化粧をする時代だ、柿崎も納得はできていないが、元々肌の白い迅の姿とまつげの長い顔に見惚れていた。アイシャドウを入れて、完成した。

「お待たせしました。いかがですか?」
 柿崎が働いていたさらに隣の化粧品販売員の渡辺に化粧をしてもらった。

「満足です」
 迅の体に憑依した柿崎は、整形をしなくてもこんなにきれいな顔になるなんて、自分のしていた仕事は無駄ではない。間違ってはいないと感じた。隣にいた鬼柳は、改めて聞く。

「柿崎さん、整形しなくてもいいですよね」
「はい」

 柿崎は迅の体を使って涙を流した。急に泣く姿を見た販売員の渡辺は目を見開いて驚いた。ふわふわと空へと成仏していった。

「整形しなくても、やり方次第で綺麗になるって仕事していたのに、わからなかった。ありがとうございます」
「それは良かった」
 
 鬼柳は合掌をして黙とうした。迅の体から柿崎が抜けて、切り替わると、目の前の鏡を見て、驚愕した。

「厚化粧!?」
「綺麗だぞ、土御門」
「俺、案外、行けるかも。韓国のシンガー目指しちゃう?」
 じっと見ると案外行けるかと調子を乗り始めた。どこから用意したのかハリセンで迅のバシンと鬼柳はたたいた。

「あ、悪い。除霊終わってないと思っていたわ」
「んな、あほな!?」

 鬼柳はにやりと笑って立ち去った。迅は、急いで追いかける。天から2人の様子を眺めた柿崎は感謝と思いを込めて手を合わせた。
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