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第35話 顔が綺麗かどうか自分次第 壱
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「いらっしゃいませ。こちらはいかがですか? 新作ですよ」
とあるデパートの1階で新作のファンデーションを売る化粧品販売員の柿崎美玲《かきざきみれい》が通りかかるお客様に声をかけた。今のファンデーションの売りは肌を白く見せること、しわの改善はもちろん、持ち歩くコンパクトがキラキラと可愛いことだ。だんだんと年齢層が若さに合わせたものにしないと誰も買ってくれないと企画したものだ。一日の売り上げノルマを伸ばすために必死だった。
「これってお高いんでしょう?」
「このお値段の高さには理由があるんですよ、奥様!」
柿崎は、商品の良さをパンフレットを出して、事細かに説明する。通りかかったマダムは身に着けている服も高級感たっぷり人だった。この人なら買ってもらえるんじゃないかと想像した。推しに推して商品の魅力にキラキラと輝きを増していた。昔のアニメに出て来た呪文を唱えると変身するじゃないかというようなビーズがちりばめられた宝石箱のようなコンパクトは年齢にかかわらず、人気の商品だ。
「あなたは商売上手ね。ぜひ買わせていただくわ」
「お買い上げありがとうございます!!」
両手を頬の横に合わせて喜んだ。化粧品販売の仕事に就いて2年目。だんだん仕事の波に乗れてきていたところだった。
そんな中、黒いマントのような服を着た女性が、トイレの通路で佇み、こちらをじっと伺っている。自社の化粧品が気になっただろうか。マダムに商品が入った紙袋を渡すと魔女のような姿の女性に声をかけた。
「お客様? 商品ご覧になりませんか?」
「あんたに売れるわけがない!!」
下の方向から顔を覗くと、黒マントを身につけたその女性の顔は、目も鼻も口もないのっぺらぼうだった。声だけは女性の声だ。どこから出しているのか気になったが、腰が抜けてその場に倒れた。
「な、な……顔がない!?」
じわじわと体を近づけて、黒い煙のようなものを両手から漂わせた。みるみるうちに柿崎の体は肉体から吸い込まれていく。一瞬の出来事だった。着ていた服だけ足元に落ちる。肉体はどこに消えたかわからない。隣の店の販売員の悲鳴が響いた。その声に驚いた黒マントの女性はそそくさと店の外に逃げ出した。犯人だと追いかけたが、誰も捕まえることができなかった。2人の警備員が追いかけようとしたが、路地裏で煙のように姿を消した。目を見合わせて他の場所を探しに向かう。
◇◇◇
「茉莉《まつり》ちゃん可愛いなぁ……」
「土御門~、仕事しろぉー」
警視庁の詛呪対策本部のデスクの上で堂々とスマホのRPGゲームを楽しむ迅に鬼柳は声をかけた。大津智司と大春日舞子も一緒になってゲームにはまっている。この発端はもちろん迅の影響だ。
「おーい。ここは仕事場だぞー」
「この背景イラスト綺麗ですよね」
「確かにキャラクターも多いよな」
「俺はさ、ビジュアルで選んだんだわ」
大津と大春日と迅は、ゲームの話で盛り上がる。コミュニケーションは取れているようだ。あんなに陰キャラだった2人を丸め込む迅の姿に鬼柳はかなり嫉妬する。
「おじさん……置いてきぼり? 混ぜてほしいなぁ」
指をくわえて遠くから3人の姿を見る。最初は仕事中にゲームするなんて言語道断と思っていたが、まだ九十九部長が出勤していない。アウェイな気分で寂しくなる。
「智司、ガチャで良いの引いた? 俺はまだSランクしか引いてない」
「俺は……SSSランク引きました」
「マジで? いいなぁ……。舞子ちんは?」
「私はSSランクです」
「うっそー。俺よりもいいやつ引いてるじゃん。2人でやりこみすぎでしょう」
その言葉を発した後に、後ろに悪寒を感じた。鬼の形相の顔が迅の横に現れた。九十九部長がお怒りだ。
「ぎゃぁーーーー!!」
迅は、本気でおびえた。妖怪よりも生きている人間の方が断然怖いと感じる。
「土御門ーーーー!! 仕事しろぉおおおお」
こぶしを振り上げて、まるで鬼の面をかぶっているみたいな顔をした九十九部長だった。いつも以上に恐ろしい顔だった。
「申し訳ございません!!」
泣きながら、部屋を飛び出して、現場に向かった。鬼柳はため息をついて、ジャケットを背中に持ち、迅の後ろに着いて行った。
(俺は何も悪いことしてないからな。怒られない)
「あ、鬼柳さん?」
九十九部長は鬼柳の肩をたたく。領収証の山を見せる。
「オーロラだかなんだか知りませんが、これ経費で落ちませんからね」
念押しで厳重注意する。仕事で行ったはずが経費でおりないことが悔しかった。
「そこを何とかお願いできませんかねぇ」
「絶対無理です。飛行機代が半端ないですから」
「はぁ……嫁ちゃんに怒られるわ」
「怒られてください」
「そんなぁ、殺生なぁ」
「知りません」
ぐすんと涙を流して、迅の後ろをくっついて歩く。
「土御門ぉ、俺の金稼いでよ」
「無理っす」
「……誰も救ってくれないのね」
泣きながら、デパートで起きた事件の現場へと向かった。
とあるデパートの1階で新作のファンデーションを売る化粧品販売員の柿崎美玲《かきざきみれい》が通りかかるお客様に声をかけた。今のファンデーションの売りは肌を白く見せること、しわの改善はもちろん、持ち歩くコンパクトがキラキラと可愛いことだ。だんだんと年齢層が若さに合わせたものにしないと誰も買ってくれないと企画したものだ。一日の売り上げノルマを伸ばすために必死だった。
「これってお高いんでしょう?」
「このお値段の高さには理由があるんですよ、奥様!」
柿崎は、商品の良さをパンフレットを出して、事細かに説明する。通りかかったマダムは身に着けている服も高級感たっぷり人だった。この人なら買ってもらえるんじゃないかと想像した。推しに推して商品の魅力にキラキラと輝きを増していた。昔のアニメに出て来た呪文を唱えると変身するじゃないかというようなビーズがちりばめられた宝石箱のようなコンパクトは年齢にかかわらず、人気の商品だ。
「あなたは商売上手ね。ぜひ買わせていただくわ」
「お買い上げありがとうございます!!」
両手を頬の横に合わせて喜んだ。化粧品販売の仕事に就いて2年目。だんだん仕事の波に乗れてきていたところだった。
そんな中、黒いマントのような服を着た女性が、トイレの通路で佇み、こちらをじっと伺っている。自社の化粧品が気になっただろうか。マダムに商品が入った紙袋を渡すと魔女のような姿の女性に声をかけた。
「お客様? 商品ご覧になりませんか?」
「あんたに売れるわけがない!!」
下の方向から顔を覗くと、黒マントを身につけたその女性の顔は、目も鼻も口もないのっぺらぼうだった。声だけは女性の声だ。どこから出しているのか気になったが、腰が抜けてその場に倒れた。
「な、な……顔がない!?」
じわじわと体を近づけて、黒い煙のようなものを両手から漂わせた。みるみるうちに柿崎の体は肉体から吸い込まれていく。一瞬の出来事だった。着ていた服だけ足元に落ちる。肉体はどこに消えたかわからない。隣の店の販売員の悲鳴が響いた。その声に驚いた黒マントの女性はそそくさと店の外に逃げ出した。犯人だと追いかけたが、誰も捕まえることができなかった。2人の警備員が追いかけようとしたが、路地裏で煙のように姿を消した。目を見合わせて他の場所を探しに向かう。
◇◇◇
「茉莉《まつり》ちゃん可愛いなぁ……」
「土御門~、仕事しろぉー」
警視庁の詛呪対策本部のデスクの上で堂々とスマホのRPGゲームを楽しむ迅に鬼柳は声をかけた。大津智司と大春日舞子も一緒になってゲームにはまっている。この発端はもちろん迅の影響だ。
「おーい。ここは仕事場だぞー」
「この背景イラスト綺麗ですよね」
「確かにキャラクターも多いよな」
「俺はさ、ビジュアルで選んだんだわ」
大津と大春日と迅は、ゲームの話で盛り上がる。コミュニケーションは取れているようだ。あんなに陰キャラだった2人を丸め込む迅の姿に鬼柳はかなり嫉妬する。
「おじさん……置いてきぼり? 混ぜてほしいなぁ」
指をくわえて遠くから3人の姿を見る。最初は仕事中にゲームするなんて言語道断と思っていたが、まだ九十九部長が出勤していない。アウェイな気分で寂しくなる。
「智司、ガチャで良いの引いた? 俺はまだSランクしか引いてない」
「俺は……SSSランク引きました」
「マジで? いいなぁ……。舞子ちんは?」
「私はSSランクです」
「うっそー。俺よりもいいやつ引いてるじゃん。2人でやりこみすぎでしょう」
その言葉を発した後に、後ろに悪寒を感じた。鬼の形相の顔が迅の横に現れた。九十九部長がお怒りだ。
「ぎゃぁーーーー!!」
迅は、本気でおびえた。妖怪よりも生きている人間の方が断然怖いと感じる。
「土御門ーーーー!! 仕事しろぉおおおお」
こぶしを振り上げて、まるで鬼の面をかぶっているみたいな顔をした九十九部長だった。いつも以上に恐ろしい顔だった。
「申し訳ございません!!」
泣きながら、部屋を飛び出して、現場に向かった。鬼柳はため息をついて、ジャケットを背中に持ち、迅の後ろに着いて行った。
(俺は何も悪いことしてないからな。怒られない)
「あ、鬼柳さん?」
九十九部長は鬼柳の肩をたたく。領収証の山を見せる。
「オーロラだかなんだか知りませんが、これ経費で落ちませんからね」
念押しで厳重注意する。仕事で行ったはずが経費でおりないことが悔しかった。
「そこを何とかお願いできませんかねぇ」
「絶対無理です。飛行機代が半端ないですから」
「はぁ……嫁ちゃんに怒られるわ」
「怒られてください」
「そんなぁ、殺生なぁ」
「知りません」
ぐすんと涙を流して、迅の後ろをくっついて歩く。
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