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第27話 引きこもりVTuberの最期 弍
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アパートの1室の扇風機がカラカラと回っている。あと少しで寿命で壊れるんじゃないかというような音がしている。切タイマー予約していたエアコンが止まり、寝ていた体からじわじわと汗がにじみ出ていた。いつも寝坊する迅でさえもこの時ばかりはいつまでも寝ることはできなかった。
「暑い!!!」
白いシャツにハーフパンツで寝ていた。ぼりぼりとお腹をかく。
「あーーーーーー。マジでだるい……」
テーブルに置いていたエアコンのリモコンのスイッチを入れようとすると、誰かの手がパッと塞いだ。
「はいはいはい。もう、起きましょうねぇ。迅くーん」
「はぁ?!」
ワイシャツにネクタイ、黒のスラックスを履いた鬼柳兵吉がエアコンのスイッチを奪っていく。
「おい!! 何してんだよ。じじい」
「おいおいおいおい。何を言ってるのよ。迅くん? これでも年上よ。一応先輩ね」
「ここの俺の部屋。ホーム!! 何言ってもいいだろ。てか、そのリモコン返せ!!」
朝から低血圧の迅は、イライラが最上級になっていた。鍵を閉めていたはずの部屋の中になんで鬼柳が入って来たのか不明だ。もう一度寝ようとしても寝付くことができず、洗面所で歯磨きをし始めた。予想外に泡が立つ。何かがおかしい。鬼柳は扉の近くで腕を組んで、じっと見ていた。
「それ、髭剃りフォームだろ」
「……あ?!」
鬼の形相のように怒る迅に呆れた様子で両手をあげる。
「確かに味がおかしいな!」
すぐさまうがいをする。歯磨き粉の隣に髭剃りフォームがあることに気がついた。普段顔を泡で洗うことは無く、水で洗って終わらせていた迅は、まさかのミスを指摘されることにかなりのイライラを表した。
「ちくしょーーー……」
「今日は厄日だな」
「不吉だわ。隣にいるやつがめっちゃ不吉だ。鬼だ、鬼」
「何とでも言え。ほら、行くよ。早く来いって捜査一課様からの指令だ」
「……ちぇ。髭剃りもゆっくりできないのかよ」
腕を組みながら、ズルズルと首根っこをつかまれて進む鬼柳だ。
「わるいんだけど、普通に歩いてもらえるかい。迅くん」
「絶対いや」
「遊んでるでしょう」
「何のことですか、先輩」
そういって、体をぱっと起こして、迅は動き出す。鬼柳よりも先に走り出した。
「まったく……お前は息子と同じで動かすのが大変だ」
「え? 何か言いました?」
後ろを振り向くとすぐに鬼柳に追い抜かれた。アパートの通路がバタンと勢いよく閉まり、騒がしかった。
◇◇◇
「お母様が最後に見たのはいつですか? 亡くなる前の話です」
現場である木村家の地下室にて捜査一課の三浦 博が木村芹斗の母 木村美智子《きむらみちこ》を事情聴取をしていた。
「最後ですか……普段あまり関わることがないので……夕ご飯を届けた2日前ですかね」
「亡くなった当日はお会いしてないんですね」
「私も働いておりますし、食事を用意してもたべてくれることがないので気が付いた時に届けておりました。もう成人してるから私、虐待とか訴えられることはないですよね。そもそも芹斗は働きに出ていないので、一緒に暮らすのも億劫に感じてまして
……いつになったら自立してくれるのかと願っていたんですが」
目をあっちやこっちを泳がせて話す美智子を三浦は不信感しか感じなかった。ひきこもりとして扱う親は今の時代ごまんといる。もう成人してるからいいか。でも働いてほしいと願うものの一緒に向き合って就職先を探すわけでもない。精神的に病んでるからと病院に連れていくわけでもない。自分のことで間に合っていて放置する親がほとんどだ。外部に頼ろうにも世間体が気になって、ひきこもってることが周りに知られたくないと感じる。何を大事にしたいのかわかなくなっている。息子はそんな親の元にいるのも本当は嫌だと思いながらも行く場所もなく、ぬるま湯につかっていた。たくさん稼いでいるにも関わらず、一切の親と交流をもたなかった芹斗だ。
「本当に落ち着きました」
美智子は涙ながらに合掌する。意味深な言葉に眉をしかめる。迅と鬼柳は白い手袋をはめて現場に立ち入った。ピキンとこめかみに痛みが発する。
「かなり強力な念だな」
「警戒した方がいい。バリアを張った方がいいぞ」
鬼柳はすでにお札を体に張り付けて、念を唱えていた。迅は、準備をしておらず、瞬時に辺りが切り替わった。全体が灰色の空間に色づいていく。
警察と鑑識、芹斗の家族もすべて時が止まったようにかたまっている。鬼柳はその力を弾いたようで、動くことができていた。迅は、腕のぎりぎりまで灰色になりそうだったが、2本の指で持っていたお札でふせぐことができた。
「そういうのはもっと早く準備しておけよ」
「……朝の状態を知っての話ですか、先輩!」
念を唱えて、体全体がパリンと割れるように灰色からフルカラーに切り替わった。
時間がとまっているようだ。鬼柳と迅以外ほかの空間は動いていない。ボーンと大きな鐘の音が鳴る。
「何か来る!?」
神経をとがらせて、辺りを警戒する。景色は変わらず、念が強く送られてくる。
黄金の時計を3つも背中に乗せて、胡坐をかいて空中に体を浮かばせる。角が2つ、するどい牙を光らせた体の細い赤い鬼が現れた。
「暑い!!!」
白いシャツにハーフパンツで寝ていた。ぼりぼりとお腹をかく。
「あーーーーーー。マジでだるい……」
テーブルに置いていたエアコンのリモコンのスイッチを入れようとすると、誰かの手がパッと塞いだ。
「はいはいはい。もう、起きましょうねぇ。迅くーん」
「はぁ?!」
ワイシャツにネクタイ、黒のスラックスを履いた鬼柳兵吉がエアコンのスイッチを奪っていく。
「おい!! 何してんだよ。じじい」
「おいおいおいおい。何を言ってるのよ。迅くん? これでも年上よ。一応先輩ね」
「ここの俺の部屋。ホーム!! 何言ってもいいだろ。てか、そのリモコン返せ!!」
朝から低血圧の迅は、イライラが最上級になっていた。鍵を閉めていたはずの部屋の中になんで鬼柳が入って来たのか不明だ。もう一度寝ようとしても寝付くことができず、洗面所で歯磨きをし始めた。予想外に泡が立つ。何かがおかしい。鬼柳は扉の近くで腕を組んで、じっと見ていた。
「それ、髭剃りフォームだろ」
「……あ?!」
鬼の形相のように怒る迅に呆れた様子で両手をあげる。
「確かに味がおかしいな!」
すぐさまうがいをする。歯磨き粉の隣に髭剃りフォームがあることに気がついた。普段顔を泡で洗うことは無く、水で洗って終わらせていた迅は、まさかのミスを指摘されることにかなりのイライラを表した。
「ちくしょーーー……」
「今日は厄日だな」
「不吉だわ。隣にいるやつがめっちゃ不吉だ。鬼だ、鬼」
「何とでも言え。ほら、行くよ。早く来いって捜査一課様からの指令だ」
「……ちぇ。髭剃りもゆっくりできないのかよ」
腕を組みながら、ズルズルと首根っこをつかまれて進む鬼柳だ。
「わるいんだけど、普通に歩いてもらえるかい。迅くん」
「絶対いや」
「遊んでるでしょう」
「何のことですか、先輩」
そういって、体をぱっと起こして、迅は動き出す。鬼柳よりも先に走り出した。
「まったく……お前は息子と同じで動かすのが大変だ」
「え? 何か言いました?」
後ろを振り向くとすぐに鬼柳に追い抜かれた。アパートの通路がバタンと勢いよく閉まり、騒がしかった。
◇◇◇
「お母様が最後に見たのはいつですか? 亡くなる前の話です」
現場である木村家の地下室にて捜査一課の三浦 博が木村芹斗の母 木村美智子《きむらみちこ》を事情聴取をしていた。
「最後ですか……普段あまり関わることがないので……夕ご飯を届けた2日前ですかね」
「亡くなった当日はお会いしてないんですね」
「私も働いておりますし、食事を用意してもたべてくれることがないので気が付いた時に届けておりました。もう成人してるから私、虐待とか訴えられることはないですよね。そもそも芹斗は働きに出ていないので、一緒に暮らすのも億劫に感じてまして
……いつになったら自立してくれるのかと願っていたんですが」
目をあっちやこっちを泳がせて話す美智子を三浦は不信感しか感じなかった。ひきこもりとして扱う親は今の時代ごまんといる。もう成人してるからいいか。でも働いてほしいと願うものの一緒に向き合って就職先を探すわけでもない。精神的に病んでるからと病院に連れていくわけでもない。自分のことで間に合っていて放置する親がほとんどだ。外部に頼ろうにも世間体が気になって、ひきこもってることが周りに知られたくないと感じる。何を大事にしたいのかわかなくなっている。息子はそんな親の元にいるのも本当は嫌だと思いながらも行く場所もなく、ぬるま湯につかっていた。たくさん稼いでいるにも関わらず、一切の親と交流をもたなかった芹斗だ。
「本当に落ち着きました」
美智子は涙ながらに合掌する。意味深な言葉に眉をしかめる。迅と鬼柳は白い手袋をはめて現場に立ち入った。ピキンとこめかみに痛みが発する。
「かなり強力な念だな」
「警戒した方がいい。バリアを張った方がいいぞ」
鬼柳はすでにお札を体に張り付けて、念を唱えていた。迅は、準備をしておらず、瞬時に辺りが切り替わった。全体が灰色の空間に色づいていく。
警察と鑑識、芹斗の家族もすべて時が止まったようにかたまっている。鬼柳はその力を弾いたようで、動くことができていた。迅は、腕のぎりぎりまで灰色になりそうだったが、2本の指で持っていたお札でふせぐことができた。
「そういうのはもっと早く準備しておけよ」
「……朝の状態を知っての話ですか、先輩!」
念を唱えて、体全体がパリンと割れるように灰色からフルカラーに切り替わった。
時間がとまっているようだ。鬼柳と迅以外ほかの空間は動いていない。ボーンと大きな鐘の音が鳴る。
「何か来る!?」
神経をとがらせて、辺りを警戒する。景色は変わらず、念が強く送られてくる。
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