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第22話 鏡の中の憎悪 弐
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すじ雲が浮かぶ青空の下、赤い鳥居の上に烏兎翔が乗っていた。
ここは迅の実家でもある晴明神社だ。鳥居の横が左右に雌雄一対の狛犬が睨みをきかせている。参道を抜けると、手水舎の水がちょろちょろと流れている。社務所では神職や巫女が控えていた。
厄払いの儀式の声が外にまで漏れていた。
迅の祖父 土御門 嘉将は、狩衣《かりぎぬ》をまとい、厄払い儀式に集中していた。迅は、手元に持つ札が切れて、祖父の嘉将から受け取ろうと畳の隅の隅で正座して待っていた。久々に正座した迅は、だんだん足が痺れて来ていた。
参拝客が立ち去った後、嘉将は、大きな声で迅を呼んだ。
「迅!! 終わったぞ」
「あ、はい!!」
「札が切れたってもっと無くなる前に連絡をよこしなさいよ」
「す、すいません」
「こっちは儀式の合間に描かないといけないから。暇そうにして、結構忙しいだぞ。今じゃ、御朱印帳ブームで人気でさ。もう、ラッシュだわ」
「……何か嬉しそうっすね」
「ほれ、100枚あればいいだろ」
「めっちゃ、早!?」
「ストックあるんだわ。お前がすぐに欲しがるからちょこちょこ貯金のように描いてたわ」
「ありがとうございます」
「おう、100万円な」
「高いッ。1枚1万かよ」
「冗談だけどな。それくらい念を込めてるわ」
「最近の妖怪や鬼は、念が強まってるから。じいちゃんの札じゃないと倒せないわ。俺の描いたへろへろの札は浮遊霊くらいしか……」
「当たり前だ。修行の差だ」
立ち上がり狩衣のすそをこすりながら移動する。迅は追いかけながら話す。
「じいちゃん、父さんとの確執はどうなったんだ?」
「…………私に聞くな。お前がどうにかしろ」
「えーー、親子の問題だろ? なんで孫がしゃしゃり出なくちゃいけないんだよ」
「ふん、そんなの知ったこっちゃない。あいつが悪い。私が気に食わないとか。ありえないし。出てって便りがないなら元気な証拠だろ」
「あー……いつまで経っても2人は大人になりきれないのか」
「お前も大人になれてないからな!」
嘉将はふくれっ面で話していた。ご機嫌斜めだ。ふと、スマホの着信が鳴る。
「はい、こちら土御門。え? わかりました。すぐ向かいます」
迅は、珍しく仕事に真面目だ。嘉将は感心する。こめかみが痛み始めた。
「出たのか?」
「ああ、今度のは結構厄介な感じがする。念が強い」
「確かに。気をつけろ。女の怨念は強いんだ」
「じいちゃん、わかるのか」
「遠いけどな。今の電話から伝わって来る。雲外鏡《うんがいきょう》だな」
「雲外鏡?」
「これを持っていけ」
嘉将はタンスの引き出しから取り出した。古めかしい手鏡だ。
「古い鏡だな」
「役に立つはずだ」
「ああ、わかった。んじゃ、行ってくる」
「鬼柳さんにはよろしく頼むぞ」
「わかったよ」
手をパタパタと振って立ち去った。外に出ると鳥居で羽を休めていた烏兎翔が迅の肩に乗る。
「気をつけろ。既に人間が2体やられている」
「何だって、やばいな。急がないと……烏兎翔、飛べ」
「言われんでも飛ぶわ」
「俺を置いていくなって」
烏兎翔が飛び立とうとすると手を伸ばす迅を忘れていた。
「世話が焼けるやつだ」
「お前もな……」
「……」
迅は、静かに烏兎翔の足をつかみ、そのまま空中を飛んで殺人現場に向かった。 神社の周りの数羽のカラスが鳴いた。
『雲外鏡《うんがいきょう》』
100年を経た鏡が妖怪と化した付喪神《つくもがみ》とされ、 息を吸い込んで腹を大きくふくらませて様々な場所の様子をテレビのように映す能力をもっている。所説あるが、現代は進化し続け、真似するだけじゃ飽き足らず、鏡の中から飛び出し、鬼のような形相になっている。
ここは迅の実家でもある晴明神社だ。鳥居の横が左右に雌雄一対の狛犬が睨みをきかせている。参道を抜けると、手水舎の水がちょろちょろと流れている。社務所では神職や巫女が控えていた。
厄払いの儀式の声が外にまで漏れていた。
迅の祖父 土御門 嘉将は、狩衣《かりぎぬ》をまとい、厄払い儀式に集中していた。迅は、手元に持つ札が切れて、祖父の嘉将から受け取ろうと畳の隅の隅で正座して待っていた。久々に正座した迅は、だんだん足が痺れて来ていた。
参拝客が立ち去った後、嘉将は、大きな声で迅を呼んだ。
「迅!! 終わったぞ」
「あ、はい!!」
「札が切れたってもっと無くなる前に連絡をよこしなさいよ」
「す、すいません」
「こっちは儀式の合間に描かないといけないから。暇そうにして、結構忙しいだぞ。今じゃ、御朱印帳ブームで人気でさ。もう、ラッシュだわ」
「……何か嬉しそうっすね」
「ほれ、100枚あればいいだろ」
「めっちゃ、早!?」
「ストックあるんだわ。お前がすぐに欲しがるからちょこちょこ貯金のように描いてたわ」
「ありがとうございます」
「おう、100万円な」
「高いッ。1枚1万かよ」
「冗談だけどな。それくらい念を込めてるわ」
「最近の妖怪や鬼は、念が強まってるから。じいちゃんの札じゃないと倒せないわ。俺の描いたへろへろの札は浮遊霊くらいしか……」
「当たり前だ。修行の差だ」
立ち上がり狩衣のすそをこすりながら移動する。迅は追いかけながら話す。
「じいちゃん、父さんとの確執はどうなったんだ?」
「…………私に聞くな。お前がどうにかしろ」
「えーー、親子の問題だろ? なんで孫がしゃしゃり出なくちゃいけないんだよ」
「ふん、そんなの知ったこっちゃない。あいつが悪い。私が気に食わないとか。ありえないし。出てって便りがないなら元気な証拠だろ」
「あー……いつまで経っても2人は大人になりきれないのか」
「お前も大人になれてないからな!」
嘉将はふくれっ面で話していた。ご機嫌斜めだ。ふと、スマホの着信が鳴る。
「はい、こちら土御門。え? わかりました。すぐ向かいます」
迅は、珍しく仕事に真面目だ。嘉将は感心する。こめかみが痛み始めた。
「出たのか?」
「ああ、今度のは結構厄介な感じがする。念が強い」
「確かに。気をつけろ。女の怨念は強いんだ」
「じいちゃん、わかるのか」
「遠いけどな。今の電話から伝わって来る。雲外鏡《うんがいきょう》だな」
「雲外鏡?」
「これを持っていけ」
嘉将はタンスの引き出しから取り出した。古めかしい手鏡だ。
「古い鏡だな」
「役に立つはずだ」
「ああ、わかった。んじゃ、行ってくる」
「鬼柳さんにはよろしく頼むぞ」
「わかったよ」
手をパタパタと振って立ち去った。外に出ると鳥居で羽を休めていた烏兎翔が迅の肩に乗る。
「気をつけろ。既に人間が2体やられている」
「何だって、やばいな。急がないと……烏兎翔、飛べ」
「言われんでも飛ぶわ」
「俺を置いていくなって」
烏兎翔が飛び立とうとすると手を伸ばす迅を忘れていた。
「世話が焼けるやつだ」
「お前もな……」
「……」
迅は、静かに烏兎翔の足をつかみ、そのまま空中を飛んで殺人現場に向かった。 神社の周りの数羽のカラスが鳴いた。
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100年を経た鏡が妖怪と化した付喪神《つくもがみ》とされ、 息を吸い込んで腹を大きくふくらませて様々な場所の様子をテレビのように映す能力をもっている。所説あるが、現代は進化し続け、真似するだけじゃ飽き足らず、鏡の中から飛び出し、鬼のような形相になっている。
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