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第20話 謎の油揚げと9本の尻尾 肆
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――—警視庁の詛呪対策本部
窓の外では零雨が降っていた。
迅は東京タワーで一仕事を終えて、タクシーに乗って帰ろうとしたが、タクシー代が高くなるのを恐れて、職場に戻ることにした。終電も無くなって、帰るのも億劫になった迅は部屋の隅の方に置いていたソファに横になって朝まで眠っていた。
カチコチと時計の針がする。何となく、ㇵッと霊の気配を感じた。目を大きく開くと、知らないおじさん霊が顔の目の前に現れた。
「わぁ?!」
ソファからどんと落ちてしまう。
「ごめんなさい」
「いてててて……。なんだっていうんだよ。びっくりするだろ」
「すいません、私、会社経営してます。阪本康二郎と申します。あ、生きている時の話ですが……」
迅に名刺を見せた。つい数時間前に九尾の狐に殺されたホテルでの遺体がまさに阪本康二郎だ。ホステス通いに明け暮れて、No1のしょうこにハマった。忙しい合間に会った新人のえみりとともに過ごしたことに嫉妬して、しょうこは阪本康二郎を追いかけて殺した。さっき除霊をして事は済んだはずだが、なんで現れたのか。
「あー、まぁ。何かやり残したことはあるんですか?」
迅はもう仕事は終わったじゃないかと思いながら、念のため聞いた。
「かなり心残りのことがありまして……」
「え……それって簡単にできますよね」
「できます、できます。きっと!」
「本当だよね?」
迅は何度も確認した。難しいミッションではないことを祈りたかった。阪本康二郎は、迅にどうしてもやってほしくて懇願する。いつの間にか静かに出勤する
「おはようございます」
大津智司は静かにデスクに座る。大春日舞子は挨拶なしにヘッドホンをしながら部屋に入った。迅がいても気にしていない。いつもいない人がいるなんてことさえも気にしてなかった。
「おはようございます。今日の依頼は割と簡単なミッションかな……。って土御門また来てんの?!」
九十九部長は依頼資料を見ながら、 顔を見上げると、端の方にソファでくつろぐ迅を見た。体が斜めになるくらい驚いていた。
「九十九部長!」
「あ、目覚めてる。今日は普通だ。え、何よ」
「ちょっと、出かけてきます。昨日の九尾の狐の事件でやり残したことありました」「あー、別にいいけど。交通費出せないからね?!」
「分かってますよ」
迅は手をパタパタと振って、扉を通り抜ける阪本康二郎の後ろを着いて行った。
「ねぇ、今寒気したんだけど」
「え? そうなんですか。別に、エアコンが効きすぎるからじゃないですか?」
「そ、そうかなぁ」
大春日舞子と大津智司は幽霊が目の前を通り過ぎた様子を見ることができない。霊感をもっていなかった。そこへ、あくびをしながら、部屋の中に入ってきたのは鬼柳だ。
「おはようございます。九十九部長? 何か土御門ですが、2日前に亡くなった阪本康二郎さんの霊と一緒に行くって言うんですけど何か聞いてます?」
「「「え!?」」」
九十九部長と大春日舞子と大津智司は背筋が凍る。
「さっきの寒気ってそういうこと? やめてよ。お清めしないと!!」
九十九部長はバックの中に忍ばせておいた塩をあたりに振りまいた。大春日舞子は数珠をすりすりとお祈りする。大津智司は魂が抜けたように呆然としていた。霊感のない3人にとっては恐怖でしかなかった。
「そんなおびえなくても今日中に土御門が除霊しますよ、きっと」
霊感のある鬼柳は平気な顔をして言っていた。
「わからないでしょう。土御門の背後霊になったらどうするのよ」
九十九部長はがたがたぶるぶる震えていた。
「……戻ってこないことを祈りたいですね」
「同感」
大春日舞子と大津智司はパソコンとスマホ業務に戻った。鬼柳はなんで怖がるんだろうと不思議で仕方なかった。
◇◇◇
「————試合に先立ちまして、これより始球式を行います」
迅は会社経営の阪本康二郎に代わり、プロ野球の楽天とロッテ試合の始球式に参加していた。 専用ユニホームを支給されて、選手と同じ更衣室で着替えた。幼少期から野球に打ち込んできた阪本康二郎は、会社の株式上場を機会に絶対に始球式をお願いすると決めていた。その矢先だった。まさかの夢の始球式に出られなくなるなんて死んでも死にきれないと迅の前に現れた。間近でその様子をしっかり眺める。
緊張しながら、スタジアムのマウンドに立つ。
「俺、野球じゃなくてさ、中学の部活は剣道しかやってこないわけよ。コントロールできるわけが……でも待てよ?」
迅は、ふとひらめいて、いいことを思いついた。ボールに念じて魔球を投げればいいと考えたのだ。烏兎翔はろくなことを考えないなとスタジアムの観客席から眺めていた。
「不動産会社経営の阪本康二郎の代わりに投げます。土御門迅さんお願いします!」
アナウンスが響いた。
「よっしゃ」
迅はグローブの中にボールを忍ばせて、念じた。青白くボールが光る。アンダースローの恰好でキャッチャーに向かって投げた。素人とは思えないほどの速さで飛んで行った。バッターとキャッチャーは嘘だろというような顔をして驚いていた。キャッチャーのグローブが少し穴が開いていた。
「ストライク!!」
審判が横向きにかっこよく判定した。まさかの歓声があがる。
「ああーー……。良かった。本当に良かった。連れて来てくれてありがとう。もう満足だよ」
阪本康二郎は心の底から満足して、頭から順番に消えていった。除霊完了する。迅は、面白くなってグローブの中のボールを何度も繰り返しポンポン投げた。
「俺、野球の素質あるかも?」
「運動音痴ができるわけない」
烏兎翔がぼそっと肩の上に乗って言う。
「言ったなぁ!? 焼き鳥にしてやるぞーー!!」
ばさばさと逃げ惑う烏兎翔を追いかけた。急いで退場を差し向けられた。
「す、すいません」
スタジアムの観客席は迅がいなくなった後も外まで響くくらい盛り上がっていた。
「今日も終わったな」
笑みをこぼして、タバコをくわえた。烏兎翔の飛ぶ夜空には下弦の月が輝いていた。
窓の外では零雨が降っていた。
迅は東京タワーで一仕事を終えて、タクシーに乗って帰ろうとしたが、タクシー代が高くなるのを恐れて、職場に戻ることにした。終電も無くなって、帰るのも億劫になった迅は部屋の隅の方に置いていたソファに横になって朝まで眠っていた。
カチコチと時計の針がする。何となく、ㇵッと霊の気配を感じた。目を大きく開くと、知らないおじさん霊が顔の目の前に現れた。
「わぁ?!」
ソファからどんと落ちてしまう。
「ごめんなさい」
「いてててて……。なんだっていうんだよ。びっくりするだろ」
「すいません、私、会社経営してます。阪本康二郎と申します。あ、生きている時の話ですが……」
迅に名刺を見せた。つい数時間前に九尾の狐に殺されたホテルでの遺体がまさに阪本康二郎だ。ホステス通いに明け暮れて、No1のしょうこにハマった。忙しい合間に会った新人のえみりとともに過ごしたことに嫉妬して、しょうこは阪本康二郎を追いかけて殺した。さっき除霊をして事は済んだはずだが、なんで現れたのか。
「あー、まぁ。何かやり残したことはあるんですか?」
迅はもう仕事は終わったじゃないかと思いながら、念のため聞いた。
「かなり心残りのことがありまして……」
「え……それって簡単にできますよね」
「できます、できます。きっと!」
「本当だよね?」
迅は何度も確認した。難しいミッションではないことを祈りたかった。阪本康二郎は、迅にどうしてもやってほしくて懇願する。いつの間にか静かに出勤する
「おはようございます」
大津智司は静かにデスクに座る。大春日舞子は挨拶なしにヘッドホンをしながら部屋に入った。迅がいても気にしていない。いつもいない人がいるなんてことさえも気にしてなかった。
「おはようございます。今日の依頼は割と簡単なミッションかな……。って土御門また来てんの?!」
九十九部長は依頼資料を見ながら、 顔を見上げると、端の方にソファでくつろぐ迅を見た。体が斜めになるくらい驚いていた。
「九十九部長!」
「あ、目覚めてる。今日は普通だ。え、何よ」
「ちょっと、出かけてきます。昨日の九尾の狐の事件でやり残したことありました」「あー、別にいいけど。交通費出せないからね?!」
「分かってますよ」
迅は手をパタパタと振って、扉を通り抜ける阪本康二郎の後ろを着いて行った。
「ねぇ、今寒気したんだけど」
「え? そうなんですか。別に、エアコンが効きすぎるからじゃないですか?」
「そ、そうかなぁ」
大春日舞子と大津智司は幽霊が目の前を通り過ぎた様子を見ることができない。霊感をもっていなかった。そこへ、あくびをしながら、部屋の中に入ってきたのは鬼柳だ。
「おはようございます。九十九部長? 何か土御門ですが、2日前に亡くなった阪本康二郎さんの霊と一緒に行くって言うんですけど何か聞いてます?」
「「「え!?」」」
九十九部長と大春日舞子と大津智司は背筋が凍る。
「さっきの寒気ってそういうこと? やめてよ。お清めしないと!!」
九十九部長はバックの中に忍ばせておいた塩をあたりに振りまいた。大春日舞子は数珠をすりすりとお祈りする。大津智司は魂が抜けたように呆然としていた。霊感のない3人にとっては恐怖でしかなかった。
「そんなおびえなくても今日中に土御門が除霊しますよ、きっと」
霊感のある鬼柳は平気な顔をして言っていた。
「わからないでしょう。土御門の背後霊になったらどうするのよ」
九十九部長はがたがたぶるぶる震えていた。
「……戻ってこないことを祈りたいですね」
「同感」
大春日舞子と大津智司はパソコンとスマホ業務に戻った。鬼柳はなんで怖がるんだろうと不思議で仕方なかった。
◇◇◇
「————試合に先立ちまして、これより始球式を行います」
迅は会社経営の阪本康二郎に代わり、プロ野球の楽天とロッテ試合の始球式に参加していた。 専用ユニホームを支給されて、選手と同じ更衣室で着替えた。幼少期から野球に打ち込んできた阪本康二郎は、会社の株式上場を機会に絶対に始球式をお願いすると決めていた。その矢先だった。まさかの夢の始球式に出られなくなるなんて死んでも死にきれないと迅の前に現れた。間近でその様子をしっかり眺める。
緊張しながら、スタジアムのマウンドに立つ。
「俺、野球じゃなくてさ、中学の部活は剣道しかやってこないわけよ。コントロールできるわけが……でも待てよ?」
迅は、ふとひらめいて、いいことを思いついた。ボールに念じて魔球を投げればいいと考えたのだ。烏兎翔はろくなことを考えないなとスタジアムの観客席から眺めていた。
「不動産会社経営の阪本康二郎の代わりに投げます。土御門迅さんお願いします!」
アナウンスが響いた。
「よっしゃ」
迅はグローブの中にボールを忍ばせて、念じた。青白くボールが光る。アンダースローの恰好でキャッチャーに向かって投げた。素人とは思えないほどの速さで飛んで行った。バッターとキャッチャーは嘘だろというような顔をして驚いていた。キャッチャーのグローブが少し穴が開いていた。
「ストライク!!」
審判が横向きにかっこよく判定した。まさかの歓声があがる。
「ああーー……。良かった。本当に良かった。連れて来てくれてありがとう。もう満足だよ」
阪本康二郎は心の底から満足して、頭から順番に消えていった。除霊完了する。迅は、面白くなってグローブの中のボールを何度も繰り返しポンポン投げた。
「俺、野球の素質あるかも?」
「運動音痴ができるわけない」
烏兎翔がぼそっと肩の上に乗って言う。
「言ったなぁ!? 焼き鳥にしてやるぞーー!!」
ばさばさと逃げ惑う烏兎翔を追いかけた。急いで退場を差し向けられた。
「す、すいません」
スタジアムの観客席は迅がいなくなった後も外まで響くくらい盛り上がっていた。
「今日も終わったな」
笑みをこぼして、タバコをくわえた。烏兎翔の飛ぶ夜空には下弦の月が輝いていた。
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