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第9話 サッカー少年の好きなもの 前編
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赤い鳥居の上に烏兎翔が静かに羽根を休めていた。
ここは土御門迅の祖父が神主として務める安倍晴明神社だ。
今日も厄払いの儀式が行われていた。迅はその外側の賽銭箱に小銭を入れて、鐘を鳴らした。丁寧に一礼二拍手をし、願いを込める。
(じいちゃんより強くなりますように! じいちゃんより強くなりますように……)
「……ほかにも願うことあるだろうに」
狛犬の上に乗っていた烏兎翔がぼそぼそ喋っていた。
「願うことはたくさんあるんだけどな。今は術師として強くなりたいのが本命だわ。ライバルみたいなやつもいるしなぁ……ん? お前話せるのかよ?!」
ほとんど会話してるようなそぶりを見せて、誰が話したのかと烏兎翔を見た。今まで、会話ひとつして来なかったのに、確かに烏という生き物から発するとは思わなかった。口を大きく開けた。
「……お前と話したくなかっただけだ」
「メスのくせに口悪いな……」
「……もういい」
「あ、ごめんなさい。すいません、申し訳ございません。
烏兎翔様、仏様、神様ぁ!! ご機嫌直してください!!」
少々、ご機嫌斜めになった烏兎翔は、空高く飛んでいき、迅のことなどほおっておこうとしたが、しつこく着いてきていた。人間業ではないくらいのジャンプ力だ。
「私は仏ではない」
「分かってますって……許してちょ」
「誰に向かって言ってる?」
怒りがさらに増えた烏兎翔だったが、迅は別な方向を見ていた。こめかみに痛みが発した。
「待て、今。感じた。あっちにいる」
鬼や妖怪の念を感じるとこめかみに痛みが発する。気が感じる方へと瞬時に移動する。烏兎翔は、人間のように不機嫌になって、まっすぐ別な方向へと飛び続けていた。扱いにくい烏だ。
足を地面につけたその場所は河川敷に広がるサッカーの人工芝のグラウンドだった。小学生の子どもたちが楽しそうにユニホームを着て試合をしていた。スポーツ少年のクラブなんだろう。保護者や監督、コーチも周りで見守っている。そんな場所からの念を感じる。一体どこから現れるというのか。しばらく堤防から眺めていた。
「あがれあがれ、直弥!! パスだ!!」
「ディフェス固めろ!」
「ゴール目指して!」
「動いて!!」
サッカーボールは次々とパスで回されていく。ディフェスの子にカットをされて、タッチラインからボールが出てしまう。スローインでボールを中に入れた。その瞬間、風が強く吹き荒れて、誰もボールを受け取ることができなかった。人口芝だと思われていた地面が波打つようにめきめきと盛り上がり、どんどんはがれていく。土が見え始めてきた。サッカーをしていた子たちは試合どころではない。地面があらぬ方向に波のように揺れ動き、立つことさえもままならない。どどんと土の中から見たこともない巨大なミミズのような茶色いものがうようよと動き始める。あちこちで悲鳴が聞こえた。
『野槌《のづち》』
蛇のようなツチノコのような大きな体格の妖怪。シカやイノシシの動物はもちろん、人間も食いつくす恐ろしいものだ。サッカーグランウドの下から人工芝を土からはがし取って人間欲しさに現れた。
「うわぁ、気持ち悪いな……。さて、やりがいのある敵が出て来たということでやりますかね」
今日は非番の日。仕事は進んでやらない迅も、こういう時は活躍したいらしい。そもそも、神社にいたのは祖父から呼び出しがあったわけだが、それさえも忘れて、ポケットからお札を出して、戦闘を開始した。
『疾風の舞・弐』
体を宙に浮かせて、力をためる。悲鳴が響くグランウドに技を繰り広げた。
なかなかこれっという会心技が出せない。風を巻き起こして、野槌を宙に浮かせて地面におろしたが、何のダメージを与えられなかった。今日は不調なのだろうか。
そうこうしているうちに、1人の少年が野槌の口の中に吸い込まれていき、バキボキと体が食べられてしまった。体がバラバラになり、顔さえもわからなくなってしまった。図体が大きい割に動きが俊敏だった。迅は助けられなかったことに悔いが残るとともに怒りが強まり、攻撃力があがった。
「今、戦ってるのは、俺だろ!!!! なんで、子供を食べるんだよ!!!」
急いで、駆け出して、走りながら、手のひらから霊剣を取り出した。青白く光る剣が迅の強さを増す。左から右で野槌を切りこんだ。2分割して、地面でうねうねしているが、すぐに再生して、今度は2匹の野槌になった。
「な?!」
まさかの1体が2体になったことに驚愕する。そこへ、青白い弓矢が野槌の体に飛んできて、一つは砂のように消えていく。
「え?! この弓矢ってまさか」
堤防の上の方、前にあった白狐の仮面をかぶる男 『白狐兎』が何本の白い念を込めた矢を放った。危なく、迅の頬にあたりそうになったが、そのまま野槌の体に当たる。軽く負傷した。
「げっ、ちくしょー! 俺が先に倒すだってーの」
白狐兎の弓矢を霊剣で跳ね返して、お札を挟んだ2本の指を顔の前に出した。
『急急如律令《きゅうきゅうにょりつりょう》』
白狐兎が技を繰り出す前に迅の技で一瞬にして、野槌は風の技に巻き込まれた。空中を飛んだかと思うとすぐさま地面にたたきつけられた。
会心の一撃で砂のように消えていった。
高くジャンプした先から足を大きく広げ、地面に手をついた。
白狐兎にドヤ顔でアピールしたが、仮面をかぶっていて見えなかったのか技を使って瞬間移動していた。もう、姿は見えなくなった。
「ちっ……俺が活躍したから嫉妬してるんだな。どーせ」
野槌がいなくなった後、サッカーグランウドを術式で直す修復に追われた。
「これ何時間かかるんだよぉ……」
泣き泣き最後までやり切った。そんな迅の前に野槌に食べられた小学生の亡霊が現れた。
修復作業が終わった後、芝生の上に胡坐をかいていた迅が顔をあげた。
「ん?」
「おにいちゃんは僕が見えるの?」
「おう。見えるぞ。思いっきりな」
「あのさ、僕死んだんだよね?」
「あ、ああ。うん。そうだな。ごめんな、助けられなくて……」
「そ、そんなことより、僕ものすごく後悔してるんだけど、死にきれない!!」
「え?」
なんでそんなことを言うのだと迅は拍子抜けをして詳しく男の子の話を聞いた。
「わかったよ、俺がやりきってやるから。助けられなかったお詫びでな」
「やったー」
ため息をついて立ち上がった。小学生の男の子の坂本 樹は迅の肩にしがみついて自宅へと誘導した。周りには幽霊になった樹のことは見えていない。亡くなった坂本樹のサッカーの仲間たちは涙を流して悲しんでいる。
亡くなった樹は、今はそれどころではない。
空では飛行機がカーテンレールのような飛行機雲を作って飛んでいた。
ここは土御門迅の祖父が神主として務める安倍晴明神社だ。
今日も厄払いの儀式が行われていた。迅はその外側の賽銭箱に小銭を入れて、鐘を鳴らした。丁寧に一礼二拍手をし、願いを込める。
(じいちゃんより強くなりますように! じいちゃんより強くなりますように……)
「……ほかにも願うことあるだろうに」
狛犬の上に乗っていた烏兎翔がぼそぼそ喋っていた。
「願うことはたくさんあるんだけどな。今は術師として強くなりたいのが本命だわ。ライバルみたいなやつもいるしなぁ……ん? お前話せるのかよ?!」
ほとんど会話してるようなそぶりを見せて、誰が話したのかと烏兎翔を見た。今まで、会話ひとつして来なかったのに、確かに烏という生き物から発するとは思わなかった。口を大きく開けた。
「……お前と話したくなかっただけだ」
「メスのくせに口悪いな……」
「……もういい」
「あ、ごめんなさい。すいません、申し訳ございません。
烏兎翔様、仏様、神様ぁ!! ご機嫌直してください!!」
少々、ご機嫌斜めになった烏兎翔は、空高く飛んでいき、迅のことなどほおっておこうとしたが、しつこく着いてきていた。人間業ではないくらいのジャンプ力だ。
「私は仏ではない」
「分かってますって……許してちょ」
「誰に向かって言ってる?」
怒りがさらに増えた烏兎翔だったが、迅は別な方向を見ていた。こめかみに痛みが発した。
「待て、今。感じた。あっちにいる」
鬼や妖怪の念を感じるとこめかみに痛みが発する。気が感じる方へと瞬時に移動する。烏兎翔は、人間のように不機嫌になって、まっすぐ別な方向へと飛び続けていた。扱いにくい烏だ。
足を地面につけたその場所は河川敷に広がるサッカーの人工芝のグラウンドだった。小学生の子どもたちが楽しそうにユニホームを着て試合をしていた。スポーツ少年のクラブなんだろう。保護者や監督、コーチも周りで見守っている。そんな場所からの念を感じる。一体どこから現れるというのか。しばらく堤防から眺めていた。
「あがれあがれ、直弥!! パスだ!!」
「ディフェス固めろ!」
「ゴール目指して!」
「動いて!!」
サッカーボールは次々とパスで回されていく。ディフェスの子にカットをされて、タッチラインからボールが出てしまう。スローインでボールを中に入れた。その瞬間、風が強く吹き荒れて、誰もボールを受け取ることができなかった。人口芝だと思われていた地面が波打つようにめきめきと盛り上がり、どんどんはがれていく。土が見え始めてきた。サッカーをしていた子たちは試合どころではない。地面があらぬ方向に波のように揺れ動き、立つことさえもままならない。どどんと土の中から見たこともない巨大なミミズのような茶色いものがうようよと動き始める。あちこちで悲鳴が聞こえた。
『野槌《のづち》』
蛇のようなツチノコのような大きな体格の妖怪。シカやイノシシの動物はもちろん、人間も食いつくす恐ろしいものだ。サッカーグランウドの下から人工芝を土からはがし取って人間欲しさに現れた。
「うわぁ、気持ち悪いな……。さて、やりがいのある敵が出て来たということでやりますかね」
今日は非番の日。仕事は進んでやらない迅も、こういう時は活躍したいらしい。そもそも、神社にいたのは祖父から呼び出しがあったわけだが、それさえも忘れて、ポケットからお札を出して、戦闘を開始した。
『疾風の舞・弐』
体を宙に浮かせて、力をためる。悲鳴が響くグランウドに技を繰り広げた。
なかなかこれっという会心技が出せない。風を巻き起こして、野槌を宙に浮かせて地面におろしたが、何のダメージを与えられなかった。今日は不調なのだろうか。
そうこうしているうちに、1人の少年が野槌の口の中に吸い込まれていき、バキボキと体が食べられてしまった。体がバラバラになり、顔さえもわからなくなってしまった。図体が大きい割に動きが俊敏だった。迅は助けられなかったことに悔いが残るとともに怒りが強まり、攻撃力があがった。
「今、戦ってるのは、俺だろ!!!! なんで、子供を食べるんだよ!!!」
急いで、駆け出して、走りながら、手のひらから霊剣を取り出した。青白く光る剣が迅の強さを増す。左から右で野槌を切りこんだ。2分割して、地面でうねうねしているが、すぐに再生して、今度は2匹の野槌になった。
「な?!」
まさかの1体が2体になったことに驚愕する。そこへ、青白い弓矢が野槌の体に飛んできて、一つは砂のように消えていく。
「え?! この弓矢ってまさか」
堤防の上の方、前にあった白狐の仮面をかぶる男 『白狐兎』が何本の白い念を込めた矢を放った。危なく、迅の頬にあたりそうになったが、そのまま野槌の体に当たる。軽く負傷した。
「げっ、ちくしょー! 俺が先に倒すだってーの」
白狐兎の弓矢を霊剣で跳ね返して、お札を挟んだ2本の指を顔の前に出した。
『急急如律令《きゅうきゅうにょりつりょう》』
白狐兎が技を繰り出す前に迅の技で一瞬にして、野槌は風の技に巻き込まれた。空中を飛んだかと思うとすぐさま地面にたたきつけられた。
会心の一撃で砂のように消えていった。
高くジャンプした先から足を大きく広げ、地面に手をついた。
白狐兎にドヤ顔でアピールしたが、仮面をかぶっていて見えなかったのか技を使って瞬間移動していた。もう、姿は見えなくなった。
「ちっ……俺が活躍したから嫉妬してるんだな。どーせ」
野槌がいなくなった後、サッカーグランウドを術式で直す修復に追われた。
「これ何時間かかるんだよぉ……」
泣き泣き最後までやり切った。そんな迅の前に野槌に食べられた小学生の亡霊が現れた。
修復作業が終わった後、芝生の上に胡坐をかいていた迅が顔をあげた。
「ん?」
「おにいちゃんは僕が見えるの?」
「おう。見えるぞ。思いっきりな」
「あのさ、僕死んだんだよね?」
「あ、ああ。うん。そうだな。ごめんな、助けられなくて……」
「そ、そんなことより、僕ものすごく後悔してるんだけど、死にきれない!!」
「え?」
なんでそんなことを言うのだと迅は拍子抜けをして詳しく男の子の話を聞いた。
「わかったよ、俺がやりきってやるから。助けられなかったお詫びでな」
「やったー」
ため息をついて立ち上がった。小学生の男の子の坂本 樹は迅の肩にしがみついて自宅へと誘導した。周りには幽霊になった樹のことは見えていない。亡くなった坂本樹のサッカーの仲間たちは涙を流して悲しんでいる。
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