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ひとり焼肉 トモサンカク10枚目
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数ヶ月後、
沢村瑞季は、思い切って、
7年も勤めていた会社に退職願を出した。
その封書を見た部長は口が開いたまま
塞がらず、瑞季は黙って、
部長のデスクから立ち去った。
ヒールの音がカツカツと響く。
退職日まで残り30日。
思い残すことのない業務をやりこなそうと
思った。
今ある人間関係もスッキリさせようと
スマホ端末や電話番号を変えた。
電話帳の1番上には、『碧斗』の文字が
見えた。
これまで、イヤイヤながら、
接待してきた部長の関わりをやめた。
やめたからと言って、
業務に支障をきたすことはなかった。
幼馴染の淳も連絡を絶った。
別に連絡しなくても全然困らなかった。
奥さんと何とかうまくやってるんだろう。
結局、私は、2人の相手をしていたけれど、
大事にはされていないことに気づいた。
どちらも二番煎じでストレス発散に
すぎなかったと現実を知る。
心機一転に
住んでいた家も引っ越しをした。
碧斗が1人暮らししているところに
もぐり込んだだけだったが、
まだ、キスより手を繋ぐより
先にすすめていない。
本気なのをすぐに進めるのは
もったいなくて、焦らしている。
会社を退職したら、そろそろかなと
考えている。
それでも、大事にしてくれることに
さらに惚れ直した。
仕事で忙しいのもわかる。
スマホが鳴ると
いつも家にいるときも部長からだとか
課長からだとか対応してる。
ちょっとこれは、
もしかして、
過去の私と同じなのか。
シャワーをしているときに
碧斗のスマホ画面を確認した。
パスコードが4桁。
覚えやすいものしかパスワードにしない
と言っていた。
誕生日の逆並びを試してみたら、
すぐに開いた。
ラインの返信メッセージを確認したら
『明日も会えるかな♡』と
女性らしいメッセージ。
名前は木村課長。
もうひとつのメッセージは
『明日は絶対パスタがいい。』
と男か女かわからない。
名前は鈴木部長。
本当にこの肩書きなのか。
確かめたくなった。
今まで嫉妬なんて興味なかったのに
気になった。
やっぱり本気で好きだからか。
「碧斗?
部長からラインだよー。」
スマホの画面を見せに脱衣所で体を拭く
碧斗のそばによる。
「え、なに。
スマホ?
瑞季、ラインなんて気にした事
なかったのに何かあった?」
髪をワシャワシャと拭きながら言う。
「うん。ちょっと気にしてみた。
この♡マークつけた木村課長って
本当に木村課長?」
「ハハハ…。本気にした??
それ、男の課長だよ。
浮気してるだろうって
彼女に見せたら
相手してくれんじゃないのって
冗談で送ったんだよ。」
「え、んじゃ、鈴木部長は?」
「それは、女性だけど男性…。
ごめんややこしいね。
頭は男性で体が女性の上司がいるのね。
女性なんだけど、めっちゃかっこいいのよ。
あ、僕はノーマルだけどね。
明日、ミーティングあるから
その時のランチはパスタが
いいってこと。
理解できた??」
腰にバスタオルをつけて、
鏡で自分の顔を見て、髭をそりはじめた。
「ったく、こんな真っ裸の男がいる
つぅーのに全然興味持たないのもね。
もしかして、瑞季、ノーマルじゃないの?
女性が好きなのかな。」
「ご、ごめん。」
「別に謝らなくてもいいけど。
一緒に住むって言うから
そのつもりだったと思っていたけど
全然そんな素ぶりないからさ。
ただ、単にご機嫌斜めかなと思ったり。
女性はいろいろ大変だと聞くからね。」
「理解があってよかったです。」
「なんで、敬語?」
「浮気、してたかと思って。」
「瑞季、そんなの気にしなそうじゃない?
今まで聞いたこともないのに…。
僕は、そんな2股かけるほど
元気じゃないって年も年だし。
無理無理。」
引き出しから
お気に入りの青のボクサーパンツを
取り出して、履いた。
「そっか、だから、1人で…。」
「え、何。見てたの?」
「見てないけど、想像で。」
「あー、そう。
あまりそういうこと
言わないでほしいんだけど。」
「なんで?」
碧斗は瑞季を背中からハグした。
上半身が裸のままだ。
「こうしたくなるから。」
「……。」
上を見上げ、じーと碧斗を見る。
「何?」
「んじゃ、あっち行こう。」
瑞季は別室のベッドを指差した。
「それは、
受け入れ可能ってことでいいの?」
何も言わずに何度も頷いた。
付き合い始めて3ヶ月、
そこから同棲して、さらに6ヶ月。
合計9ヶ月。
我ながらよく我慢できたと思う。
昨年の不倫に塗れた
ドロドロとした関係から断ちたくて、
瑞季も衝動をおさえていた。
欲に負けてはいけないと
本当に愛があるか確かめたかった。
2人で会話する量、デートする回数。
誕生日や記念日にプレゼント
してくれるかどうか。
碧斗は見事瑞季の彼氏候補に合格した
ようだ。
そろそろ、大丈夫かなと
受け入れスイッチをONにした。
あの男2人と比べると、
やはり、女性の扱い方は丁寧だった。
茶道をやっているかのような所作がある
みたいに細部までこだわって、
対応してくれた。
どうして、先に瀬戸碧斗と
出会わなかったのだろう。
なんで、ドロドロと不倫関係を続けて
いた最中に会ったのか。
シンプルに純粋な心で会いたかったが、
過去には戻れない。
むしろ、底辺まで落ちたようなものだから
今の幸せを感じているのかもしれない。
絶頂期を超えた2人はベッドに並んで、
天井を見つめた。
「実は、僕、瑞季と会う前は、
結婚してる女性と交際してたんだよ。
不倫って言うんだろうね。
会社の取引先の奥さんだったんだけど、
単身赴任してるからって理由で
誘われてさ。
会社絡みで
そこからずっと抜け出せなくて
困ってて…。
でも、瑞季に会ってから
全部清算しようって決めたんだ。
決心がついたんだよ。
瑞季に会えて本当によかった。
沼から抜け出せて本当に助かった。」
瑞季はそれを聞いて、
状況が少し似ていることに気づく。
切っても切れない関係に陥っている。
でも、瑞季も碧斗と出会って、
純粋な恋愛を見つけることができた。
「……ありがとう。
嬉しい。」
「大事にするよ。」
額同士をくっつけた。
「ねぇ、結婚してもいい?」
「…それってプロボーズ?」
「……ダメ?」
「ダメじゃないけど…
何だか…ロマンチックじゃないなぁ。」
「そっか。わかった。
んじゃ、やり直すから。
楽しみに待ってて。
正式な返事はその時で良いからね。」
(ほぼ、返事してるようなもんだけど…
まぁいいか。
楽しみにしておこう。)
碧斗の1つ1つの行動が無垢であって、
心洗われるようだった。
ぴったり磁石のように体と体を
くっつけた。
もうこのまま離したくない。
この人のことを一途に想おうと
決心した。
沢村瑞季は、思い切って、
7年も勤めていた会社に退職願を出した。
その封書を見た部長は口が開いたまま
塞がらず、瑞季は黙って、
部長のデスクから立ち去った。
ヒールの音がカツカツと響く。
退職日まで残り30日。
思い残すことのない業務をやりこなそうと
思った。
今ある人間関係もスッキリさせようと
スマホ端末や電話番号を変えた。
電話帳の1番上には、『碧斗』の文字が
見えた。
これまで、イヤイヤながら、
接待してきた部長の関わりをやめた。
やめたからと言って、
業務に支障をきたすことはなかった。
幼馴染の淳も連絡を絶った。
別に連絡しなくても全然困らなかった。
奥さんと何とかうまくやってるんだろう。
結局、私は、2人の相手をしていたけれど、
大事にはされていないことに気づいた。
どちらも二番煎じでストレス発散に
すぎなかったと現実を知る。
心機一転に
住んでいた家も引っ越しをした。
碧斗が1人暮らししているところに
もぐり込んだだけだったが、
まだ、キスより手を繋ぐより
先にすすめていない。
本気なのをすぐに進めるのは
もったいなくて、焦らしている。
会社を退職したら、そろそろかなと
考えている。
それでも、大事にしてくれることに
さらに惚れ直した。
仕事で忙しいのもわかる。
スマホが鳴ると
いつも家にいるときも部長からだとか
課長からだとか対応してる。
ちょっとこれは、
もしかして、
過去の私と同じなのか。
シャワーをしているときに
碧斗のスマホ画面を確認した。
パスコードが4桁。
覚えやすいものしかパスワードにしない
と言っていた。
誕生日の逆並びを試してみたら、
すぐに開いた。
ラインの返信メッセージを確認したら
『明日も会えるかな♡』と
女性らしいメッセージ。
名前は木村課長。
もうひとつのメッセージは
『明日は絶対パスタがいい。』
と男か女かわからない。
名前は鈴木部長。
本当にこの肩書きなのか。
確かめたくなった。
今まで嫉妬なんて興味なかったのに
気になった。
やっぱり本気で好きだからか。
「碧斗?
部長からラインだよー。」
スマホの画面を見せに脱衣所で体を拭く
碧斗のそばによる。
「え、なに。
スマホ?
瑞季、ラインなんて気にした事
なかったのに何かあった?」
髪をワシャワシャと拭きながら言う。
「うん。ちょっと気にしてみた。
この♡マークつけた木村課長って
本当に木村課長?」
「ハハハ…。本気にした??
それ、男の課長だよ。
浮気してるだろうって
彼女に見せたら
相手してくれんじゃないのって
冗談で送ったんだよ。」
「え、んじゃ、鈴木部長は?」
「それは、女性だけど男性…。
ごめんややこしいね。
頭は男性で体が女性の上司がいるのね。
女性なんだけど、めっちゃかっこいいのよ。
あ、僕はノーマルだけどね。
明日、ミーティングあるから
その時のランチはパスタが
いいってこと。
理解できた??」
腰にバスタオルをつけて、
鏡で自分の顔を見て、髭をそりはじめた。
「ったく、こんな真っ裸の男がいる
つぅーのに全然興味持たないのもね。
もしかして、瑞季、ノーマルじゃないの?
女性が好きなのかな。」
「ご、ごめん。」
「別に謝らなくてもいいけど。
一緒に住むって言うから
そのつもりだったと思っていたけど
全然そんな素ぶりないからさ。
ただ、単にご機嫌斜めかなと思ったり。
女性はいろいろ大変だと聞くからね。」
「理解があってよかったです。」
「なんで、敬語?」
「浮気、してたかと思って。」
「瑞季、そんなの気にしなそうじゃない?
今まで聞いたこともないのに…。
僕は、そんな2股かけるほど
元気じゃないって年も年だし。
無理無理。」
引き出しから
お気に入りの青のボクサーパンツを
取り出して、履いた。
「そっか、だから、1人で…。」
「え、何。見てたの?」
「見てないけど、想像で。」
「あー、そう。
あまりそういうこと
言わないでほしいんだけど。」
「なんで?」
碧斗は瑞季を背中からハグした。
上半身が裸のままだ。
「こうしたくなるから。」
「……。」
上を見上げ、じーと碧斗を見る。
「何?」
「んじゃ、あっち行こう。」
瑞季は別室のベッドを指差した。
「それは、
受け入れ可能ってことでいいの?」
何も言わずに何度も頷いた。
付き合い始めて3ヶ月、
そこから同棲して、さらに6ヶ月。
合計9ヶ月。
我ながらよく我慢できたと思う。
昨年の不倫に塗れた
ドロドロとした関係から断ちたくて、
瑞季も衝動をおさえていた。
欲に負けてはいけないと
本当に愛があるか確かめたかった。
2人で会話する量、デートする回数。
誕生日や記念日にプレゼント
してくれるかどうか。
碧斗は見事瑞季の彼氏候補に合格した
ようだ。
そろそろ、大丈夫かなと
受け入れスイッチをONにした。
あの男2人と比べると、
やはり、女性の扱い方は丁寧だった。
茶道をやっているかのような所作がある
みたいに細部までこだわって、
対応してくれた。
どうして、先に瀬戸碧斗と
出会わなかったのだろう。
なんで、ドロドロと不倫関係を続けて
いた最中に会ったのか。
シンプルに純粋な心で会いたかったが、
過去には戻れない。
むしろ、底辺まで落ちたようなものだから
今の幸せを感じているのかもしれない。
絶頂期を超えた2人はベッドに並んで、
天井を見つめた。
「実は、僕、瑞季と会う前は、
結婚してる女性と交際してたんだよ。
不倫って言うんだろうね。
会社の取引先の奥さんだったんだけど、
単身赴任してるからって理由で
誘われてさ。
会社絡みで
そこからずっと抜け出せなくて
困ってて…。
でも、瑞季に会ってから
全部清算しようって決めたんだ。
決心がついたんだよ。
瑞季に会えて本当によかった。
沼から抜け出せて本当に助かった。」
瑞季はそれを聞いて、
状況が少し似ていることに気づく。
切っても切れない関係に陥っている。
でも、瑞季も碧斗と出会って、
純粋な恋愛を見つけることができた。
「……ありがとう。
嬉しい。」
「大事にするよ。」
額同士をくっつけた。
「ねぇ、結婚してもいい?」
「…それってプロボーズ?」
「……ダメ?」
「ダメじゃないけど…
何だか…ロマンチックじゃないなぁ。」
「そっか。わかった。
んじゃ、やり直すから。
楽しみに待ってて。
正式な返事はその時で良いからね。」
(ほぼ、返事してるようなもんだけど…
まぁいいか。
楽しみにしておこう。)
碧斗の1つ1つの行動が無垢であって、
心洗われるようだった。
ぴったり磁石のように体と体を
くっつけた。
もうこのまま離したくない。
この人のことを一途に想おうと
決心した。
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