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第59話

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歓声が沸き上がる。
雲ひとつない青空の下でイルカショーが
行われていた。

水しぶきが客席にかかる。
冬でも水にかかりたい人がいるのかと
驚いた。

雪菜と凛汰郎は、水族館に来ていた。

イルカがジャンプして高いところにある
ボールを触ると拍手が沸き起こる。
雪菜も一緒になって拍手した。

「すごいね。
 イルカって頭いいんだね。」

「…独占するっていうから
 どこに行くと思ったら
 水族館だったのか。」

「そうだよ。
 え、苦手だった?」

「いや、俺、こうやって来るのは
 初めてだから。
 学校の行事以来、来たことない。」

「そうだった。
 んじゃ楽しもうよ。
 って、さっき色々見て来たけど、
 何かほかに見たいものあった?」

「……特にないな。」

「興味ないんだね。
 んじゃ、私の好きなもの見ていい?」

「まぁ、いいけど。」

「イルカショー終わったらね。」

「あぁ。」

 雪菜はスマホを片手に動画を撮った。
 イルカだけではなく、
 アシカもしっかり活躍していた。

 客席には小さい子どもたちを連れた家族が
 たくさん来ていた。
 冬休みということもあって、
 にぎやかだった。

 凛汰郎は、腕組しながら、ずっと見続ける。
 雪菜はテンション高めに終始ニコニコしながら
 見ていた。

 イルカショーが終了すると、雪菜は、
 凛汰郎の腕をつかんでは子どものように
 あっちあっちと指さした。

「はいはい。今、行くから。」

「あっちでお散歩するだって。」

「え、誰が?
 雪菜が?」

「違うぅ。ペンギンが。
 お散歩を披露してくれるの。」

「ふーん。」
 
「全然興味なさそう。
 私、コウテイペンギンが好きだから
 見たいの。」

「わかったから、ひっぱらないで
 ちゃんと着いていくから。」

「だって、早く見たいから。」

「はいはい。」

 保護者のように対応する。
 雪菜はうれしくなって、
 興奮しながら、スマホでパシャパシャと
 夢中になってペンギンの散歩を撮り続けた。

 よちよち歩きが可愛くて惚れ惚れしていた。
 後ろからため息をついては、
 よかったねと思いながら見ている凛汰郎だった。

 思い出したように、凛汰郎は話す。

「そしたらさ、これ見た後、
 もう1回くらげ見てもいい?」

「うん。凛汰郎くんも興味出て来たの?
 よかった。ちょっと写真も撮りたいから、
 待っててね。」

「うん。わかった。」

数分後、そんなにかいてもない
額の汗を拭く素振りをしては
やりきった顔をする雪菜。

「私、これ見たからすごく満足。
 次は凛汰郎くん見たいくらげに行こう。」

「うん。」

 満足そうな雪菜を見て
 何だか笑えてくる凛汰郎だった。
 くらげコーナーに行くと外国人のお客さんで
 にぎわっていた。
 さーっとよけるのを待ってから、
 優雅にくらげが泳ぐのをただただ眺めていた。
 動きがのんびりで、激しくない。
 凛汰郎はなぜか癒された。
 雪菜は、くらげよりもほかのコーナーが
 気になって、遠くに行ってしまった。

 少し価値観が違うのかなと思ってしまう。
 しばらくくらげを見ては写真を撮って、
 周りを見渡すと雪菜がいないことに気づく。

「いつの間に…。
 ったく、どこに行ったんだ?」

 水族館の中を行ったり来たりすると、
 シロイルカのコーナーに夢中になって
 見ている雪菜がいた。

「ちょっと、俺、置いていくなって。」

「ごめん。
 何か動きがのんびりしてて、
 動きがほら、早いのが見たくなって…。
 何回もここに来てるからさ。
 次から気を付けるよ。」

「別にいいけど、突然いなくならないでよ。」

 人目を気にせずに
 手をつないでは額同士をくっつけた。

「うん。本当にごめんって。
 手つないだままがいいね。」

順路通りに次のコーナーへと進んで行く。
少しでも離れただけで不安になることが
多くなる凛汰郎。

卒業したら、
別々の環境になってしまうことが
今から心配で多少の離れる時間さえも
不安になるようになっていた。

一通り、水族館の中を見渡して、
お土産コーナーで
ぬいぐるみを買った。
小さな可愛いイルカと
ペンギンのキーホルダーだった。
お互いにお土産の物々交換をした。
凛汰郎はくらげの置物を
雪菜に買ってもらった。
 
「これでいいの?
 小さいけど。」

「うん。小さくてもくらげってわかるから。」

透明な四角い黒いケースの中に
白いくらげが浮かび上がるものだった。

「くらげ好きなんだね。」

「ふわふわしてるからね。
 雪菜みたいじゃん。
 白いし。」

「白いのと雪は同じだけどさ。
 ちょっと違うよね。
 もっと可愛いのがよかったな。」

「えーくらげ好きなのに?
 可愛いじゃん。」

「ペンギンのかわいさと違うじゃん。」

「まぁ、雪菜は変わり種ってことで。」

「え?どういうこと?」

 笑いがとまらなくなる凛汰郎。
 水族館の出入り口にある階段を
 急いで駆け下りた。
 逃げる凛汰郎を追いかけては、
 おにごっこように楽しんだ。

 2人にとっては、その日は
 とても楽しい思い出になった。



 空では低空な位置で飛行機が
 大きな音を立てて飛んでいた。

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