上 下
43 / 61

第43話

しおりを挟む
カザミドリがぐるぐるとまわる屋上で
緋奈子と雅俊は手すりに手をかけて
外を眺めた。

「嘘、なんでしょう?」

 髪をかきあげる緋奈子。
 雅俊は、じっと目を外に向けたままだった。

「……。」

両手を伸ばして組んでいた腕を
頭の後ろに置いた。

「半分嘘で、半分本当っす。」

「知ってるよ。
 本当は、雪菜にカマかけたかった
 でしょう。」

「近くにいて、ほとんどのことを
 あいつのこと知ってても、
 恋人にはなれないって
 悲しいですよね。
 幼馴染にならなきゃよかった。」

 天を仰いで、ため息をつく。

「うらやましいなぁ。
 逆を言えば、どんな状況でも
 ずっと近いところにいるじゃない。
 恋人という境界はこえられなくとも
 近い存在には変わりない。
 近すぎてダメになるよりちょうどいい。」

 緋奈子は、雅俊の肩に手を置いた。

「雪菜の代わりにはなれないけど、
 力にはなるよ?」

 肩に顔をうずめた。
 頭をなでなでされた。

 撫でた手をつかんだ。

「俺、歯止めきかないっすよ?」

 目と目が見つめ合った。

「いいよ。それで気が済むなら。」
 
 雅俊は、緋奈子の後頭部をおさえて、
 唇を重ね合わせた。

 叶わない恋など追いかける必要はない。
 受け止めてくれる誰かがいるのなら
 それでいいと思い始めていた。

 東の空で飛行機雲が少しずつでき始めている。


 ◇◇◇

 数日後、とある休み時間、移動教室で
 これから化学室に行こうと教室の机から
 教科書とノート、筆箱を出して、
 廊下に足を進めた。

「ほら、雪菜、化学室行くよ。」

 緋奈子が、手招きする。
 今日の緋奈子は、アップのおだんごで
 うなじが綺麗に見えていた。
 化粧がいつもよりツヤツヤしていた。

「あれ、緋奈子。今日、肌艶がいいね。
 ツルツルしてる気がする。
 うらやま~。」

 つんつんと指で頬を触った。
 そういわれて、少し頬を赤らめる。

「え、そうかなぁ?」

「化粧品変えた?
 ファンデとか?」

「うーんと…別に変わりないけど。」

「ふーん。そうなんだ。」

「あ、そういやぁ、
 最近の話と言えば、
 先輩とより戻したかな。」

 緋奈子は、大嘘をついた。
 本当のことを言うと、
 雪菜が傷つくのではないかと
 思って言えなかった。

「え、嘘。あんなに相手の彼氏のこと
 嫌がっていたのに?」

「……まぁ、いろいろあんのよ。
 それより、そっちはどうなの?
 凛汰郎くんとはどこまで?」

「……。」

 急に自分のこととなるとものすごく
 恥ずかしくなる雪菜は顔を真っ赤にして
 人差し指をつんつんと動かした。

「なんだ、進展なしか…。」

「そ、そんなことないよ。
 ここでは言えないだけだから。」

 近くを凛汰郎が通り過ぎる。
 噂をすればなんとやら。
 
 緋奈子は通り過ぎる凛汰郎の髪型を見ると
 前よりしゃれっ気があるなと思った。

「悪い、ぶつかった。」

 雪菜の肩にぶつかる凛汰郎。

「あ、うん。大丈夫。」

 恥ずかしいそうに下を向く。
 振り向き様に指をさす。

「放課後、ラウンジで待ってて。」

「え、あ、うん。わかった。」

 とっさに判断した。
 部活を引退して、ほぼ一緒に帰ることが
 多い2人。いつもは教室から一緒なのを、 
 ラウンジで待ち合わせるようだった。

「ふーん、ラブラブそうじゃん。」

「ふ、普通だよ。ただ、一緒に帰るだけだもん。」

「雪菜、可愛い。」

「えー?」

 化学室にそれぞれ、入って行く。
 移動する時間が濃密だった。

 授業が始まってもまだドキドキが止まっていなかった。


 放課後、ホームルームが終わって、
 凛汰郎は、忙しそうに教室を出た。
 どこかに用事があるんだろう。
 雪菜はそんなふうに思いながら、ラウンジに向かう。

「雪菜、また明日ね。」

「うん。緋奈子、
 あとで先輩のこと
 教えてね。
 んじゃ、また。」

「う、うん。んじゃね。」

 手を上げて、別れを告げた緋奈子は、
 教室を出て、雅俊がいる、
 2年の教室へ向かった。

 ガタガタといすを動かす音が響く。
 生徒たちが移動し始めた。
 廊下におしよせる。

「お待たせしました。
 行きますか。」

「別に待ってないよ。」

「先輩、化粧品変えました?
 やけに艶感がありすぎません?」

 背中にスクールバックを背負う雅俊。
 
「そういうの聞かないでいい。
 察して。大体わかるでしょう。」

「俺のおかげっすか。
 昨日は激しかったもんね。」

「ちょ、そういうの言わないで!!」

「ぷぷぷ…。」

 口を手でおさえて、笑う雅俊。
 いじるのを楽しんでいる。
 それを追いかける緋奈子。

 廊下で集まっていた同級生たちは
 その言葉を聞いて、どきまぎしていた。
 噂が広がりそうだった。

 緋奈子は今まで学校で、
 紺色ソックスで過ごしていたが、
 雅俊と付き合うようになって
 ルーズソックスに目覚めた。

 突然、ギャルっぽい印象になりたくなった。
 やったことのないつけまつげをつけたり、
 女子力があがっていた。

 その頃のラウンジでは、
 ベンチで足をぶらぶらと動かしながら、
 凛汰郎を待っていた。

 すると、見たこともない体格の良い
 めがねをした男子生徒が近づいてきた。

「あ、あの…3年の白狼先輩ですよね?
 弓道部の…。」

「え、あ、はい。
 そうですが。」

 男子生徒の額から汗が滴り落ちる。
 興奮しているようだ。
 どうしたらよいかわからず、雪菜は
 とりあえず適当に対応する。

「あ、あ、あ。あの、俺、前から
 見てたんですけど、そのクマのぬいぐるみ
 可愛いですね。」
 
 鼻息が荒い。顔を近づけてバックについてる
 ぬいぐるみを指さす。

「そ、そうかな。
 ありがとう。」

「先輩も可愛いですよ。」

 かなり顔が近い。
 興奮のせいか汗をたくさんかいている。
 何とも言えずに後ずさりする。

「おい、何してんだ?!」

「え、え、え、え。俺は何も。」

 お相撲のように体格のよい男子生徒は、
 焦って少し後ろに移動するが、
 凛汰郎は警戒心強く、雪菜を引き離して、
 自分の後ろに移動させた。

「少し近くスペース考えろよ。
 パーソナルスペースってあるだろ。
 気を付けろ。」

「あ、すいません。
 でも、俺何もしてませんけどね!!!
 というか、あなた、誰なんですか?
 最近、雪菜ちんにうろつきまわって、
 みんなの雪菜ちんなんですよ。
 掟破りです!!」

 急に態度が一変する男子生徒。
 どうやら、雪菜のファンクラブという噂は
 本当のようだ。雅俊と同じ境遇だ。

「みんなの雪菜だ?
 おかしなやつだな。
 俺は雪菜の彼氏だ!!!」

キレながら、話す凛汰郎。
なんだか性格に合わないセリフだった。
無理して言ってるのが手にとるようにわかる。

「!?」

 息をのんでびっくりする。

「それはファンクラブ隊長の許可を得ての
 発言ですか?!」

「ファンクラブの許可なんていらないだろ。
 好きかどうかは本人が判断するんだよ。
 ほら、行くぞ。」

「な、な、抜け駆けはずるいですよ。」

「……。」

 雪菜の腕をつかんで、
 凛汰郎は、ラウンジを出る。
 男子生徒は苦虫をつぶした
 ような顔をしていた。

 2人は、逃げるように
 昇降口に向かった。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...