ソネットフレージュに魅せられて

もちっぱち

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第34話

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目覚まし時計がジリリリリと部屋中に鳴り響く。

「姉ちゃん!!!うっさい!!」

ベッドから起きない雪菜。
寝返りを打っては、うーんと唸る。

隣の部屋から大きな声を出す徹平。
我慢できなくなって、扉をガンッと開けて
姉の部屋にズカズカと入る。
ベッドの宮に置いていた大きな目覚まし時計の
スイッチをオフにする。
一度だけ止めるボタンではない。
スヌーズ機能までオフになるものだ。

徹平はイライラしながら、
結局その行動で
1階のリビングへと移動する。

雪菜はずっと寝ている。起きもしない。

「徹平、おはよう。
 起きたのか。」

コーヒーを飲んでいた父の龍弥が声をかける。
台所で朝ごはんの準備をしていた母の菜穂は
後ろを振り向いて、声を出す。

「徹平、おはよう。
 お姉ちゃんはまだ起きないの?」

「おはよう!!
 あいつは、起きない。
 また目覚まし時計無視して寝続けてるから
 止めてやった。」

 どや顔で腕を組む。

「なんで起こさないのよ!!
 まったく、遅刻するじゃない。
 お父さん、起こしてきて!!」

「えー-、なんで、俺が。
 女子の部屋はお父さん入らない方が
 いいじゃないの?」

「いいから!!
 もう、雪菜にはそういうのないから
 早く、起こしてきて!!」

「はいはい。」

龍弥は、コーヒーを飲み干して、
階段をのぼっていく。

徹平は、ぶつぶつイライラしながら、
クローゼットで制服に着替えていた。

雪菜の部屋の前に着いて、軽くノックをする。
何の返事もない。
まぁいいかと思いながら、龍弥はそっと中に入った。

いつもより部屋の中が片付いている。
ベッドには、大きなぬいぐるみを
抱き枕のようにすやすや寝ている雪菜がいた。

「でっけーぬいぐるみだなぁ。
 ゲーセンでも行ってきたのか?
 …おーい、雪菜、朝だぞぉ。」

そっと近づいて、肩を軽くトントンとたたいた。

「むにゃむにゃ…凛汰郎くん…。」

〈寝言か?!寝言なのか。
 誰だ、りんたろうだと?!
 あのチャラい芸人のことか?
 雪菜、ああいうのが好きなのか?〉

 めらめらと父の計り知れない娘愛が
 湧き出てきた。
 炎が燃えるように目が熱くなる。

「…え? 何。
 なんで、お父さん、そこにいるの?!」

 雪菜は、ベッドの下に置いていたクッションを
 龍弥の顔めがけて投げた。

「ブハッ!!何投げてんだ?!」

「クッションを投げました!!
 勝手に入ってこないで。
 女子の部屋はお母さんだけって前に
 言わなかったっけ?!」

「なに?!
 聞いてないぞ。」

「もう、いやだ。
 制服着替えるから、
 あっちに行ってて。」

 背中を押して、部屋から追い出す。
 とりあえずは、起きたため、
 父のミッションは完了した。
 もやもやした気持ちを残したまま、
 龍弥は、1階におりていく。

 高校生というお年頃。
 親子関係は難しいものだ。

放っておいてはいけないし、近づきすぎても
いけない。反抗期なのだろうか。

ため息をつきながら、全身鏡を見ながら、
ワイシャツの袖に腕を通し、
制服のスカートに足を通す。

セミロングの寝ぐせのついたセミロングの髪に
ヘアスプレーをかけて、とかした。

目の下についていた目ヤニをティッシュで
ふき取る。

CCクリームを顔に塗りつけて、
眉毛を描いて、ビューラーでまつげをあげて
マスカラを使って目を大きくさせた。

「よし、これでいいな。」

リップクリームを塗って、
鏡をもう一度見た。
前髪の位置が気になった。
くしでとかして整えた。

「雪菜!!時間大丈夫なの?」

1階から、菜穂が叫ぶ。

「今行くー。」

 机に乗せていた茶色のバックの中に
 充電していたスマホを入れて、持ち上げた。
 
 もらったばかりの狼のぬいぐるみが揺れていた。

 ベッドに寝かせていた
 うさぎのぬいぐるみをハグして、部屋を出た。

「間に合わないから、今日、朝ごはんいらない。」

「はい、お弁当と水筒。」

「ありがとう。」

「このパンくらいなら食べられるでしょう?」

 菜穂は、小さなクリームパンを差し出した。

「うん。それなら、大丈夫。
 行ってきます。」

「行ってらっしゃい。」

 雪菜は、パンを口にくわえて、
玄関のドアを開けた。


「雪菜、行ったのか?」

「うん。今行ったよ。
 ほら、徹平、ごはんのんびり
 食べてないで準備しなさいよ。」

「ほぉーい。」
 パクパクとお茶碗を持って食べきった。

「ごちそうさまでした。」

「お父さんも、食べ終わったら、
 食器片づけてね。」

「ああ、わかってるよ。
 ったく、俺は雪菜起こしに
 行かない方いいだろ。
 クッション、顔に投げられたぞ。」

「え、そうなの。
 ごめんなさい。いろいろ準備して
 忙しくしてたから。
 お年頃だってこと忘れてたわ。」

「それに、さっき『りんたろう』とかって
 つぶやいてたし、雪菜、いつの間に
 チャラい芸人好きになったんだと思って…。」

ぶつぶつとつぶやく龍弥。

「え?!姉ちゃん、そんなこと言ってんの?」

 口に歯ブラシをくわえたまま、龍弥の声に反応する徹平。
 洗面所から食卓に移動している。

「徹平、歯磨き終わらせてから話せって。
 垂れてるぞ。」

「雪菜がりんたろうっていうの?
 ぜんぜん、テレビ見てても反応してないけど、
 むしろピンクの頭の人がいいって言ってたよ。
 聞き間違いじゃない?」

「え、それって、平澤先輩のことじゃねぇの?
 確か、まーくんが言ってた気がする。
 ムカつく先輩がいるとかって
 ライバルとか言ってて…。
 確かそれが、平澤凛汰郎先輩って
 言ってたような…。」

「ふーん。
 リアルな友達ってことか。
 なおさらだな。
 徹平、姉ちゃん、ちゃんと見て置けよ!!」

「え、なんで俺が……。
 まぁ、良いけど。」

「お父さん、雪菜の干渉しないの。
 親子関係崩れるわよ。
 様子見ておきなさいよ。」

「……もしそれが彼氏だったら、
 どうするんだよ。」

「どうもしないわよ。
 娘のことで嫉妬?
 やめなよ。
 父親として嫌われるわよ。」

「…マジか。」

 急にテンションが下がる龍弥。

「お父さん、俺がちゃんと監視するから
 安心して。ね。」

「おう、任せた。」

「放っておけばいいのに…。この親子は。」

 徹平は、歯磨きを終えて、
 寝ぐせを直すことも忘れて、学校に向かった。

 雪菜に彼氏ができることにもやもやする龍弥だった。
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