ソネットフレージュに魅せられて

もちっぱち

文字の大きさ
上 下
28 / 61

第28話

しおりを挟む
学校の屋上で、
カザミドリが右回りしたかと思えば、
左回りしていた。

今日は、風が強く吹いていた。

遠くで、飛行機が雲を作らずに低空飛行していた。

彼女を見ていると心が洗われるようだ。

教室の席に座り、窓際に座る彼女を
いつも見ていた。
登校してすぐワイヤレスイヤホンを
外して机に置いた瞬間、部屋の空気が
変わった。

「雪菜、昨日のドラマ見た?
 最後、あんな感じで終わる
 なんて寂しかった。
 ライバルの幼馴染と結ばれると
 思ったのに!」

高橋緋奈子が登校してすぐの雪菜に
声をかける。
横にいた酒本美花や、伊藤あゆみの
雪菜の周りには、
2人の友達が集まっていた。

「えー、私は、あのままの
 彼氏で良かったと思ったよ。
 主人公はあの人と
 結ばれたいんだって
 わかったもん。」

「とか、言って?
 リアルで、雪菜は
 幼馴染いるじゃん。
 雅俊くん。」

「幼馴染だからって必ずしも
 恋愛対象にはならないもの。
 今、実際付き合ってないし。」

「確かに…。
 そういや、聞いた?
 昨日、フラッシュモブみたいに
 雅俊くん、2年の女子に
 大人数の前で
 告白されてたみたいだよ。
 なんだっけ。
 雅俊くんファンクラブに
 選ばれた人って言ってたよ。」

「うっそぉ。
 それは知らなかった。
 それ、どうなったの?」

 幼馴染でも、
 告白はどうなったか気になる雪菜。

「なんか、返事はOK 
 出したらしいけど。」

「へぇ、そうなんだ。
 それは、ようござんした。」

「えー、雪菜それ何語?
 うけるー。」

「それはよかったねって意味だよ。
 知らない?」

「知らないよぉ。」

 いつも、雪菜の周りは
 にぎわっていた。
 それを凛汰郎は、
 遠くから見ていて
 ほほえましかった。
 まるで保護者目線のよう。

「あ、そうだ。」

雪菜はバックを机の脇にかけると、
凛汰郎の前に歩き進めた。

昨日のことはなかったように
話しかける。

「凛汰郎くん、
 おはよう。
 弓道部の引退セレモニーのこと
 しっかり聞いてなかったんだけど、
 いけるの?」

「……行かない。
 塾あるから。」

「……あ、そっか。
 んじゃ、紗矢ちゃんに伝えて
 おくね。」

 あっさり食い下がる雪菜が
 いつもらしくないなと思い、
 凛汰郎は、声を発した。

「あ、あのさ。」

 立ち去ろうとする雪菜に
 手をのばす。

「え、あー、もしかして
 昨日のこと?」

「え?」

「昨日、一緒に帰るとかって
 言ってなかった?
 私の聞き間違いだったかな。」

「…言ってないし。」

 目を合わせることなくいう。

「そうだっけ。
 ごめん、聞き間違いで。
 んじゃ、席、戻るね。」

 チャイムが鳴り、授業が始まろうとしていた。

 凛汰郎は、思いと反対なことをいう。
恥ずかしいやプライドが邪魔して
話すことができなかった。

 誰とも付き合ったことのない
凛汰郎にとってハードルが高かった。

 交際ってなんだろう。

 もう部活は引退してしまったし、
 会うことも授業の教室以外ない。

いつも花がある彼女の斜め後ろから
眺めては、微笑んで、アイドルを
見ているかのように片思いのまま
動くことができない。

雪菜もどうしたらよいか
わかなぬまま、毎日を過ごしていた。


◇◇◇

 夕日が沈み、真っ暗になった夜、
 家族団らんで
 夕食を食べ、お風呂も入り、
 まったり部屋で休憩していた
 雪菜は、椅子によりかかって
 のけぞった。

 隣の部屋では、
 いつものように弟の徹平が
 オンラインゲームを楽しんでいた。
 耳を澄ますとまさかの雅俊の声も
 する。
 聞き耳を立てて、
 ずっと聞いていると、
 ゲームをしながら雅俊が
 ものすごい話をして戦っている。

「ちょ、そこのハンドルネーム
 『よわいですよ』さん、
 名前と行動が合ってないですよ!」

『うっさいんですけど…。
 及川、さっきから話してる人
 どうにかして。』

『先輩、本名やめてもらえます?
 一応俺にも<ゼウス>っていう
 ハンドルネームあるんですから。
 な、雅俊。』

『なんでギリシャ神話のゼウスなのか
よくわからないんだが…。』

「浩平、先輩ってどういうこと?
 学校のリアル先輩なの?」

 雅俊がゲームをずっとやっていて
 今更ながら確認する。

『あれ、言ってなかったっけ。
 先輩は、弓道部の平澤凛汰郎先輩だよ。
 知らない?』

「げげ、マジで?」

『ちょっと、待て。
 及川、雅俊って、
 斎藤雅俊のことか?』

「呼び捨てっすか?」

「え、何、何?
 もしかして、2人知り合いですか?」

 徹平が雅俊にさらりと聞く。

「知り合いも何も、
 雪菜が入ってた弓道部員だよ。」

「へぇ、マジっすか。」

『悪い、俺抜けるわ。』

 凛汰郎は、不機嫌になり、
 ゲームから回線落ちしようとした。

「ちょっと待ってください。
 。」

 急に丁寧に声をかける雅俊。

『待たないけど。』

「せめて、この1ゲームの第1位
 取ってからにしましょう。
 途中で抜けるとペナルティで
 ランクも下がってしまいますよ。」

『……わかった。』

 ランクが下がることはしたくなかった
 凛汰郎はゲームを続けた。
 他の2人もため息をついて、
 安心していた。

 雪菜はその声を聴いて、徹平の部屋の
 扉を少しあけて、のぞき見していた。

 はっと気づく雅俊。

「徹平、お前の部屋に座敷童がいるぞ。」

 扉の近くにいる雪菜を指さした。

「うっわ、こわ。
 ちょっとねえちゃん。 
 入ってくるなよ。」

 徹平はバタンと扉を閉めた。

「えー--。なんで見ちゃいけないのよ。」

 扉の向こうの方で雪菜が騒ぐ。

『白狼の声するな。』

「お?気づきましたか。
 平澤先輩もといよわいですよさん。
 なんと、俺は、白狼家の弟の部屋で
 ゲーム中です。
 いいだろう?」

 『な、なに?!
  あいつに弟いたのか。』

「なぁ、まーくん。
 いいだろうってなんの自慢してるん?」

「え、別に。気にすんなって。」

 スマホ越しになぜか殺意を感じる雅俊。
 悪寒がし始めた。

「なんか寒くない?」

「全然。」

 そのゲームでは、
 凛汰郎の脅威の殺意も込みで、
 見事に第1位を獲得した。

雪菜は不満になりながら、徹平の部屋の扉の前で
ずっと話を聞いていた。

 夜は長く感じられた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

28メートル先のキミへ

佑佳
青春
弓道部の友達の応援をしに大会に来た青磁。 女子個人の最後の一矢を放ったのは、とても美しい引き方をした人。 その一矢で、彼女の優勝が決まったのがわかると、青磁は溜め息のように独り言を漏らした。 「かっ、けぇー……」 はい、自覚なしの一目惚れをしました。 何も持っていない(自己評価)・僕、佐々井青磁は、唯一無二を持ち孤高に輝き続ける永澤さんを知りたくなった。 でも、声をかける勇気すら持っていないって気が付いた。 これでいいのかよ? ん? ハンディキャップと共に生きる先に、青磁は何を手にするか。 クスッと笑えてたまーーにシリアス、そんな、『佑佳』を始めた最初の完結物語を大幅改稿リメイクでお披露目です!

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...