上 下
11 / 61

第11話

しおりを挟む
雪菜が入院する病院の玄関の壁に背中を
つけて、雅俊と紗矢の様子を
伺っていたのは、
平澤凛汰郎だった。

上の方を見上げた。
雪菜がいる病室の2階の窓を見つめ、
贈った花が窓のふちに飾られていることに
安心していた。

自分ではなく、雅俊が贈ったと勘違い
されていることはつゆ知らず。

ズボンのポケットに手をつっこんで、
雪菜本人には会わずにそのまま、
東の方向へ歩いていく。

病院の駐車場でぼんやりと電灯が
地面を丸く照らし出していた。

茶色の石畳を
進むほど、真っ暗な夜道になっていく。

学校帰りに立ち寄った病院では、
仕事を終えたスタッフたちが職員玄関から
お疲れさまですと声をかけながら
帰っていく。

凛汰郎は気にせず、歩き続ける。

学校から病院までは、
歩いて30分以上の距離だった。

直接会わなくても満足して、
口角をあげていた。


***


乗客が多い路線バスの中、紗矢と雅俊は、
吊り革を持って、街灯が輝く窓の外を見た。

「ねぇ、齋藤くん。」
 
 紗矢が、話しかける。

「え、何?」

「嘘、なんでしょう。
 花贈ったって話。」

「…?!」

「齋藤くん、今日私を誘った時、
 まだお見舞い行けてないんだって
 言ってたじゃない。」

「あーーー…。
 うん。行けてなかったよ。
 菊地さんと。」

 後ろ頭をかきながら、
 目をキョロキョロさせて言う。

「ごまかすんだぁ。」

 雅俊は、パンと両手を合わせた。
 紗矢は、叩いた拍子に目をつぶった。

「頼む。言わないで!!
 お願い。ぜったい言わないでほしい。」

「えー…。」

「俺、雪菜にこっち向いてほしくて
 嘘ついたんだ。」

「それって……。」

「そう。俺、雪菜が好きだから。
 他の誰かに取られるの見てられない。
 きっと、あの花も男からだろ?
 俺が贈ったってことにすれば、
 消えるだろ。
 雪菜からその男。」

 鳥肌がとまらない紗矢。
 何だか、雅俊が怖くなった。

「なんか、それは卑怯って言うか…。
 執着がすごいね。」 

 そこまでして追いかける雅俊の執着に
 感心してしまう。

「そうでもしないといつまでも
 幼馴染のままは嫌なんだ。
 これで少しは、弟みたいな対応
 なくなるかな…。
 あ、そろそろ降りないと。
 ごめんな、今日は助かった。
 んじゃ、また明日、学校で。」

 雅俊は、降りますボタンを押すと
 出入り口付近に移動していた。

 去り際に、紗矢にラムネ味の
 キャンディーをポイッと投げた。
 
 慌てて、両手でキャッチした。

 雅俊はパタパタと手を振った。

 パッケージには
 占いが書いてあるキャンディだった。

 『大吉:恋がはじまる予感♡』と
 書いてあった。

 紗矢は、まさかなぁっと思いながら、
 ゴツゴツのキャンディを口に含んだ。

 炭酸のパチパチとした味が口いっぱいに
 広がった。

 バスが歩く雅俊を通り過ぎて走っていく。

 窓から見える彼の姿をなぜか目で
 ずっと追い続けていた。


▫︎▫︎▫︎

とある日曜日。
ホイッスルが鳴り響く。
白狼龍弥が顧問として所属する
サッカー部の練習試合が行われていた。

今、前半戦が終了して、
休憩するところだった。

「お疲れさまです。」

杉浦美琴が、
部員たち全員にタオルとスポーツドリンクを配り始めた。
最後のお楽しみに龍弥に渡した。

「はい、先生。
 熱中症対策にしっかり
 飲んでくださいね。」

「ああ。さんきゅー。
 というか、杉浦、いつの間に
 サッカー部のマネージャーに
 なってたんだ?」

「先生こそ、今日は、試合来られないって
 言ってませんでした?
 変更して、来てくれて
 みんなは喜んでますけど…。」

「質問の答えになってないけどな。
 娘の部活の試合に
 行く予定だったんだけど、
 交通事故で今入院してて、
 行けなくなったから、
 今ここにいるんだ。」


「え?!娘さん、大丈夫なんですか?
 先生、ここにいていいんですか?」

「大丈夫だよ。
 あと1週間したら退院だし、
 母さんが付き添いに行ってるから。
 別に長時間いない方がいいだろ。
 お年頃なんだし、父親なんて
 一緒にいても何もできないしな。
 そうだろ?
 杉浦はお父さんと長時間
 一緒にいないだろ?」

「まぁ、確かにそうですけど。
 心配じゃないのかなぁって。
 私は、全然、お父さんと一緒でも
 平気ですよ。
 優しいですもん。」

「そうか。それは良かった。
 んで、なんでマネージャーなんか…。」

「あーーー、先生、
 杉浦がマネージャーになった理由、
 知ってますよ!
 先生が…うごっむごっ。」

 キャプテンの佐々木和哉が、
 言おうとしたが、杉浦が口を塞いた。

「私は、マネージャーの仕事に
 興味あったんですよ。
 ねー、佐々木キャプテン!」

 モゴモゴと口を塞がれていたため、
 頷くことしかできなかった。

「へぇー、そうなのか?
 てっきり、俺の追っかけしてきたのかと
 思ったけど。
 ストーカーされてるかと思うだろ。」

 予想は的中している。
 杉浦はどうにかごまかそうとする。

「そ、そんなわけないじゃないですか。
 先生、自意識過剰ですぅ。」
(全くその通りですけどぉ。)
 
「んー、んー。」

 佐々木は口を塞ぐ杉浦の手を叩く。

「あ、ごめんなさい。」

「いつまで塞いでるかと思った。」

「余計なこと言うと思って。」

「俺が言わなくても先生は
 気づいてるだろ。」

「気づいてないよ。
 たぶん。」

「あまり、先生に迷惑かけるなよ。
 部活動に影響しないように頼むよ。」

「わかってるわよぉ。」

 杉浦は、口を膨らませて、
 ベンチに戻った。

 後半戦が始まろうとしていた。

 雲がない空で直射日光が強く
 照らしていた。

 まだまだ暑さが続くだろう。

 見上げると青い空では
 飛行機が南の方へ飛んでいくのが
 見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

処理中です...