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第9話
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目を覚ますと、真っ白い天井があった。
ここは、どこだろう。
まさか天国じゃないよなぁと思いながら、
体を動かそうとすると、左足が思うように
動かなかった。
自転車と車の
交通事故でどこをぶつけたのかわからない。
確かに足に激痛が走ったのを覚えてる。
頭も打ったのか事故当時はどうだったか、
覚えていない。
上半身を起こすと、病院のベッドだと
いうことに気づいた。
個室の病室には外の見える
大きな窓があった。
部屋の中にはトイレもあるようだった。
病室のドアが開いた。
「入るよ~。」
ノックと共に母の菜穂の声が聞こえた。
ビニール袋と大きな紙袋を両手に持ち、
入ってきた。
「お母さん…。」
「目、覚めたのね。
本当、びっくりしたよ。
交通事故に遭って、足怪我したって。
学校から電話連絡もらってさ。
さっきお父さんと病院に着いたところ。
前もって、引率の先生に入院に必要な
着替えとか色々入れてきたから。」
「えっ…。」
「雪菜、状況、理解してないでしょう。
学校の前の交差点で
右折してきた車に轢かれてたんだよ?
そして、左足にサイドミラーの
ガラス破片が刺さって出血。
ついでに体を飛ばされた時に多分骨折。
病院に救急車で運ばれて
ギプスしてるよ?
全治1ヶ月だそうよ。」
痛みがある左足を見ると、
大きなギプスがつけられていた。
通りで足が自由に動かせないなと感じた。
「…!?
嘘、全治1ヶ月なの?
弓道の試合出られないじゃん。」
「そうね。
その怪我では
すぐには弓道できないわよ。」
ドアのノックが聞こえる。
父の龍弥と担任の杉本先生が
病室に入ってきた。
「目、覚めたんだな。
調子はどうだ?
雪菜の好きなアイス買ってきたぞ。」
「お父さん、先生と一緒に来たの?
やった、お気に入りのアイス。
これ、好きなんだよねぇ。
雪見だいふくぅ。」
「共食いだな。」
杉本先生がボソッと言う。
「え?!雪菜だから雪見だいふくが
共食いってこと?
嘘、何それ、先生
面白いんですけどぉ。」
いじったつもりの言葉が笑いに変わった。
今時の女子高生の、
笑いのツボが分からない。
「杉本、1文字しか合ってないから
共食いには程遠くないか?」
「まあ、確かに。
でも、良かったな。
大事に至らなくて…。
担任としても安心だ。」
「え?!なに、なに。
お父さんと先生、知り合い?
タメ口だよね?」
「杉本政伸《すぎもとまさのぶ》、
高校の時の同級生だよ。
あれ、杉本、システムエンジニアに
なってなかったっけ?
教員免許持ってたんだな。」
「高校の同級生かぁ。
杉本先生若い格好してるから
分からなかった。
お父さんと一緒だったんだ。」
「俺って若いの?
幼いってことかな…。
教員免許取ってから好きな職に
つきなさいって親に言われててさ。
システムエンジニアって、
俺の想像と違ってたわけよ。
理想と現実は別物よね。
教員も悪くないかなって思ってさ。
好きな教科だけ教えるなら、
良いなって。
って、俺のことは良いんだよ。
雪菜、学校は1か月は欠席だろうから
みっちり宿題準備しておくからなぁ。
どーせ、病室いても暇だろうから
タブレットに毎日課題送るから。」
「えーーーー。
病人なのに、宿題あるの?!
やりたくないよぉ。」
「ぼんやりしすぎると認知症になって
高校生に戻れなくなるぞ?」
杉本は、コツンと雪菜の額を指で押した。
腕を組んで父の龍弥は話し出す。
「どっちにしろ、怪我して学校来ても
体育も出れないし、教室の授業が
ほとんどだろ。
俺も、生徒が怪我したら
タブレットの宿題くらいは出すかもな。」
「私、お父さんに聞いてない!!」
「はいはい、そうですか。
まぁ、そう言うことだから、
手間かけるけど、よろしくな。」
「了解。
とりま、お大事に。
あれ、菜穂ちゃん。
ずっと無言で…。」
杉本は病室を立ち去ろうとすると、
パイプ椅子に座っていた菜穂に話しかける。
「なんで教えてくれなかったのよ。
私、全然知らなかったよ。
雪菜の担任が杉本くんなんて!!
真面目に先生って電話する時とか
言ってたわ!」
「あははは。そうだった?
ごめんね。
気づいてないんだろうなって思って。
普通に過ごしてたよ。
菜穂ちゃん、
きちんと子どものこと見てるじゃん。
立派に成長してるよ、娘さんは。」
「あ、ありがとう。」
2本の指を斜めに上げて、別れを告げる。
「あと、校長先生には、事故のこと
報告しておくから。
ゆっくり静養してね。」
ドアの横から顔をのぞかせて、
すぐに病室のドアが閉まった。
「んじゃ、俺たちもそろそろ帰るか。
徹平も帰ってくるだろ。」
「そうね。
雪菜、
何かあったら、
ラインでメッセージ送ってね。
あと、紙袋の中にラウンジとか病院内に
あるコンビニで買い物できるように
小銭の入った財布入れておいたから。」
「ありがとう。すごく助かる。」
菜穂は頷いて、立ち上がった。
「ほら、母さん、行くぞ。」
「私はあなたの母さんじゃないよ?」
「はいはい。菜穂、ほら、帰る支度して。」
龍弥は言い直して、病室を後にした。
菜穂の名前が書いてある病室番号の下の
名札を確認した。
真下を見ると、
大きな花束がラッピングされた状態で
置かれていた。
宛名には『白狼雪菜 様』と書かれていて
差出人は書かれていなかった。
「雪菜、出入り口に花束
置かれているぞ。
誰か、お見舞いに
来ていたんじゃないか?」
龍弥が持ち上げて、雪菜のテーブルの
近くに運んだ。
それは、かすみ草と一緒に
カーネーションによく似た
ピンクのソネットフレーズの花束だった。
透明フィルムとピンクのリボンに
包まれて可愛かった。
メッセージカードを見ると手書きで
名前を書かれていた。
筆跡を見ると、どこかで見たことが
あるような字だった。
「誰だろう。
名前書いてくれないと分からないよね。
この交通事故知ってる人ってわかる?」
「そうだなぁ、事故の連絡くれたのは、
担任の杉本だから。
でも、電話の向こうで
雅俊くんの声もしたような…。
隣の家の幼馴染だろ?
齋藤家のおばあちゃんがよく漬物を
分けてくれるよな?」
「そう。
雅俊だよ。
そっか。
んじゃ、これ、
雅俊買ってくれたのかな。」
「あいつ、花好きだっけか?
いつか、うちに遊びに来た時
平気な顔して、踏まれなかったっけ?
花壇に植えてたスノーフレークの花…。
サッカーしてただろ?」
龍弥は、顎に指をつけて考える。
「そうだ。雅俊、花には興味なかった
気がする。
そんな人がお見舞いにって
送ってくれるかな。」
「どちらかといえば、直接来るだろう?
あいつは。
騒がしいんだから。
めっちゃおしゃべりだし。
…って、雪菜も夕ご飯の時間だろ。
俺らも帰ろう。」
「そうね。
何かわかったら連絡するわ。」
両親は病院食を運ぶ調理員さんの横を
そっと通り過ぎた。
廊下は混み合っている。
良い匂いが漂ってきていた。
今日のメニューは、
メカジキのステーキとニラ玉スープ、
ポテトサラダが出てきていた。
特に胃腸の調子は悪くなかったため、
お腹いっぱい食べられた。
ご飯を食べながら、
可愛いソネットフレーズの花を
見つめた。
見ているだけで元気が出そうだった。
スマホで記念に撮っておこうと
写真におさめた。
しばらくは待ち受け画面に
なりそうだった。
なんで、送り主は、
差出人を書かなかったのか
疑問で仕方なかった。
窓の外を見ると、夜空には
大きな満月が光り輝いていた。
足が動かなくても景色は楽しめるなと
しみじみ感じた。
ここは、どこだろう。
まさか天国じゃないよなぁと思いながら、
体を動かそうとすると、左足が思うように
動かなかった。
自転車と車の
交通事故でどこをぶつけたのかわからない。
確かに足に激痛が走ったのを覚えてる。
頭も打ったのか事故当時はどうだったか、
覚えていない。
上半身を起こすと、病院のベッドだと
いうことに気づいた。
個室の病室には外の見える
大きな窓があった。
部屋の中にはトイレもあるようだった。
病室のドアが開いた。
「入るよ~。」
ノックと共に母の菜穂の声が聞こえた。
ビニール袋と大きな紙袋を両手に持ち、
入ってきた。
「お母さん…。」
「目、覚めたのね。
本当、びっくりしたよ。
交通事故に遭って、足怪我したって。
学校から電話連絡もらってさ。
さっきお父さんと病院に着いたところ。
前もって、引率の先生に入院に必要な
着替えとか色々入れてきたから。」
「えっ…。」
「雪菜、状況、理解してないでしょう。
学校の前の交差点で
右折してきた車に轢かれてたんだよ?
そして、左足にサイドミラーの
ガラス破片が刺さって出血。
ついでに体を飛ばされた時に多分骨折。
病院に救急車で運ばれて
ギプスしてるよ?
全治1ヶ月だそうよ。」
痛みがある左足を見ると、
大きなギプスがつけられていた。
通りで足が自由に動かせないなと感じた。
「…!?
嘘、全治1ヶ月なの?
弓道の試合出られないじゃん。」
「そうね。
その怪我では
すぐには弓道できないわよ。」
ドアのノックが聞こえる。
父の龍弥と担任の杉本先生が
病室に入ってきた。
「目、覚めたんだな。
調子はどうだ?
雪菜の好きなアイス買ってきたぞ。」
「お父さん、先生と一緒に来たの?
やった、お気に入りのアイス。
これ、好きなんだよねぇ。
雪見だいふくぅ。」
「共食いだな。」
杉本先生がボソッと言う。
「え?!雪菜だから雪見だいふくが
共食いってこと?
嘘、何それ、先生
面白いんですけどぉ。」
いじったつもりの言葉が笑いに変わった。
今時の女子高生の、
笑いのツボが分からない。
「杉本、1文字しか合ってないから
共食いには程遠くないか?」
「まあ、確かに。
でも、良かったな。
大事に至らなくて…。
担任としても安心だ。」
「え?!なに、なに。
お父さんと先生、知り合い?
タメ口だよね?」
「杉本政伸《すぎもとまさのぶ》、
高校の時の同級生だよ。
あれ、杉本、システムエンジニアに
なってなかったっけ?
教員免許持ってたんだな。」
「高校の同級生かぁ。
杉本先生若い格好してるから
分からなかった。
お父さんと一緒だったんだ。」
「俺って若いの?
幼いってことかな…。
教員免許取ってから好きな職に
つきなさいって親に言われててさ。
システムエンジニアって、
俺の想像と違ってたわけよ。
理想と現実は別物よね。
教員も悪くないかなって思ってさ。
好きな教科だけ教えるなら、
良いなって。
って、俺のことは良いんだよ。
雪菜、学校は1か月は欠席だろうから
みっちり宿題準備しておくからなぁ。
どーせ、病室いても暇だろうから
タブレットに毎日課題送るから。」
「えーーーー。
病人なのに、宿題あるの?!
やりたくないよぉ。」
「ぼんやりしすぎると認知症になって
高校生に戻れなくなるぞ?」
杉本は、コツンと雪菜の額を指で押した。
腕を組んで父の龍弥は話し出す。
「どっちにしろ、怪我して学校来ても
体育も出れないし、教室の授業が
ほとんどだろ。
俺も、生徒が怪我したら
タブレットの宿題くらいは出すかもな。」
「私、お父さんに聞いてない!!」
「はいはい、そうですか。
まぁ、そう言うことだから、
手間かけるけど、よろしくな。」
「了解。
とりま、お大事に。
あれ、菜穂ちゃん。
ずっと無言で…。」
杉本は病室を立ち去ろうとすると、
パイプ椅子に座っていた菜穂に話しかける。
「なんで教えてくれなかったのよ。
私、全然知らなかったよ。
雪菜の担任が杉本くんなんて!!
真面目に先生って電話する時とか
言ってたわ!」
「あははは。そうだった?
ごめんね。
気づいてないんだろうなって思って。
普通に過ごしてたよ。
菜穂ちゃん、
きちんと子どものこと見てるじゃん。
立派に成長してるよ、娘さんは。」
「あ、ありがとう。」
2本の指を斜めに上げて、別れを告げる。
「あと、校長先生には、事故のこと
報告しておくから。
ゆっくり静養してね。」
ドアの横から顔をのぞかせて、
すぐに病室のドアが閉まった。
「んじゃ、俺たちもそろそろ帰るか。
徹平も帰ってくるだろ。」
「そうね。
雪菜、
何かあったら、
ラインでメッセージ送ってね。
あと、紙袋の中にラウンジとか病院内に
あるコンビニで買い物できるように
小銭の入った財布入れておいたから。」
「ありがとう。すごく助かる。」
菜穂は頷いて、立ち上がった。
「ほら、母さん、行くぞ。」
「私はあなたの母さんじゃないよ?」
「はいはい。菜穂、ほら、帰る支度して。」
龍弥は言い直して、病室を後にした。
菜穂の名前が書いてある病室番号の下の
名札を確認した。
真下を見ると、
大きな花束がラッピングされた状態で
置かれていた。
宛名には『白狼雪菜 様』と書かれていて
差出人は書かれていなかった。
「雪菜、出入り口に花束
置かれているぞ。
誰か、お見舞いに
来ていたんじゃないか?」
龍弥が持ち上げて、雪菜のテーブルの
近くに運んだ。
それは、かすみ草と一緒に
カーネーションによく似た
ピンクのソネットフレーズの花束だった。
透明フィルムとピンクのリボンに
包まれて可愛かった。
メッセージカードを見ると手書きで
名前を書かれていた。
筆跡を見ると、どこかで見たことが
あるような字だった。
「誰だろう。
名前書いてくれないと分からないよね。
この交通事故知ってる人ってわかる?」
「そうだなぁ、事故の連絡くれたのは、
担任の杉本だから。
でも、電話の向こうで
雅俊くんの声もしたような…。
隣の家の幼馴染だろ?
齋藤家のおばあちゃんがよく漬物を
分けてくれるよな?」
「そう。
雅俊だよ。
そっか。
んじゃ、これ、
雅俊買ってくれたのかな。」
「あいつ、花好きだっけか?
いつか、うちに遊びに来た時
平気な顔して、踏まれなかったっけ?
花壇に植えてたスノーフレークの花…。
サッカーしてただろ?」
龍弥は、顎に指をつけて考える。
「そうだ。雅俊、花には興味なかった
気がする。
そんな人がお見舞いにって
送ってくれるかな。」
「どちらかといえば、直接来るだろう?
あいつは。
騒がしいんだから。
めっちゃおしゃべりだし。
…って、雪菜も夕ご飯の時間だろ。
俺らも帰ろう。」
「そうね。
何かわかったら連絡するわ。」
両親は病院食を運ぶ調理員さんの横を
そっと通り過ぎた。
廊下は混み合っている。
良い匂いが漂ってきていた。
今日のメニューは、
メカジキのステーキとニラ玉スープ、
ポテトサラダが出てきていた。
特に胃腸の調子は悪くなかったため、
お腹いっぱい食べられた。
ご飯を食べながら、
可愛いソネットフレーズの花を
見つめた。
見ているだけで元気が出そうだった。
スマホで記念に撮っておこうと
写真におさめた。
しばらくは待ち受け画面に
なりそうだった。
なんで、送り主は、
差出人を書かなかったのか
疑問で仕方なかった。
窓の外を見ると、夜空には
大きな満月が光り輝いていた。
足が動かなくても景色は楽しめるなと
しみじみ感じた。
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