上 下
15 / 51

第15話 カラオケでの出来事

しおりを挟む
昭和の懐かしいメロディが
カラオケのスピーカーが流れ始める。
咲夜は、スマホをいじりながら、
何の曲を歌おうかなと考えていた。

マイクを持って歌い始めたのは、
歌手を目指す琉偉だった。
文化祭の軽音部が披露した時はボーカルを
担当していた。
練習も本格的にボイストレーニングに通いはじめていたため、聞き心地は一般の人より上手かった。
そんな琉偉の歌はあまり興味なかった咲夜は聞き流して選曲するタブレット端末をポチポチと押していた。

「咲夜、本当に久しぶりだよな。」

ソフトドリンクのコーラを飲んでいたやっさんと言われる幼馴染の康行は、咲夜の隣に座って声をかけた。

「そ、そうだね。
 小学生の低学年ぶりだから。
9年ぶりかな?
見ない間にやっさんは体が
マッチョになっているね」

気の知れた幼馴染。
男として意識することなく接することが
できていた。
筋肉トレーニングを欠かせないやっさんはガタイが良かった。
スポーツジムに通うのが日課らしい。

「ああ、そうだな。
  将来は消防士って思ってるから。
  公務員目指すからさ」

「そうなんだ。
  昔はひょろっとしてたもんね。
 本当に、琉偉に言われなかったら、
 絶対会ってなかったよ」

「咲夜、先輩だろ。
 呼び捨てかよ。
 え、まさか付き合ってるのか?」

「あ、無意識に言っちゃった。
 だって、琉偉は泣き虫で小さかったから
 なかなか先輩って思えなくて。
 付き合ってないよぉ。
 イケメンって言われてる人と
 付き合えないから」

「むかー!ムカムカするぞ」

 マイク越しに冗談めいて話す琉偉。
 咲夜は気にしていないようだ。

「なんで、イケメンならいいだろう。
 なぁ、もっくん」

 基裕は1人黙々と
メロンクリームソーダを
飲んでいた。

「へ?何か言った?」

「聞いてないのか。
 お前、女子に興味なさそうだもんな。
 メガネして、ガリ勉かよ」

 康行は拍子抜けする。

「俺は、興味ないんじゃなくて
 余裕がないの。
 大学受験控えてるのに
 こうやってる時間も惜しいなって
 思ってたところだけど、
 どうしても来いって
 琉偉がうるさいから」

「だって、大学行ったら
 みんなバラバラになるって思ったから
 最後に会っておきたいなって
 思ってさ」

 琉偉は、マイクをテーブルに置いて、
 咲夜の隣に座った。
 少し自分の太ももに足が当たって、
 どきっとした。
 琉偉は、気にもせず、
 コーラをガブガブと飲む。
 目が合って、ちらっと咲夜を見た。

「てかさ、先輩って
 なんで呼んでくれないわけ?」

「だから、まだ幼い頃の記憶が」

「俺、背、伸びただろ?
 咲夜、追い越したって」

 身振り手振りで背伸びした。
 数センチだけの違いはあった。
 まだ康行の方がガタイもよく、
 背も高かった。

「ま、まぁ、そうだけど。
 全然会ってなかったし、
 先輩って言われても、慣れないよ。
 接点なかったし、むしろ、
 呼びもできないし」

「呼べって。俺のこと。
 同じ学校にいるだろ。
 まぁ、あと数ヶ月で
 卒業しちゃうけどな」

「……」

 突然にそんなこと言われて
 もっと複雑な表情を浮かべる。

「咲夜、聞いていい?」

「え?」

「咲夜は、彼氏いんの?」

「え、まぁ、彼氏っていうか」

「彼氏じゃないの?」

「うーん。彼氏、いるよ」

「あ、まだ確認してないってこと?」

「そ、そういうわけじゃないけど」

「お?んじゃ、見込みあるってことかな」

「は?え?ん?」

「あ、次、俺の番だ。歌うから」

 琉偉は話の途中でマイクを持ち始めた。
 気持ちよさそうに歌を歌っている。
 魂を入れた歌を歌っていて、
 惚れ惚れとした。
 
 そんな様子を見ながら、
 テーブルの下で悠からのラインスタンプを
 確認した。
 完全にヤキモチを妬いていた。
 ごめんというイラストの
 ラインを送ったが、
 既読すらつかなかった。

 ため息をついて、
 スマホをバックに入れた。
 咲夜は、マイクを握って、
 好きなバラードの曲を歌った。

 紅一点の男子に囲まれた咲夜は、
 みんなうっとり咲夜の歌を聴いていた。

 ジュースが入ったコップの氷が
 揺れてカランという音が響いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

その花は、夜にこそ咲き、強く香る。

木立 花音
青春
『なんで、アイツの顔見えるんだよ』  相貌失認(そうぼうしつにん)。  女性の顔だけ上手く認識できないという先天性の病を発症している少年、早坂翔(はやさかしょう)。  夏休みが終わった後の八月。彼の前に現れたのは、なぜか顔が見える女の子、水瀬茉莉(みなせまつり)だった。  他の女の子と違うという特異性から、次第に彼女に惹かれていく翔。  中学に進学したのち、クラスアート実行委員として再び一緒になった二人は、夜に芳香を強めるという匂蕃茉莉(においばんまつり)の花が咲き乱れる丘を題材にして作業にはいる。  ところが、クラスアートの完成も間近となったある日、水瀬が不登校に陥ってしまう。  それは、彼女がずっと隠し続けていた、心の傷が開いた瞬間だった。 ※第12回ドリーム小説大賞奨励賞受賞作品 ※表紙画像は、ミカスケ様のフリーアイコンを使わせて頂きました。 ※「交錯する想い」の挿絵として、テン(西湖鳴)様に頂いたファンアートを、「彼女を好きだ、と自覚したあの夜の記憶」の挿絵として、騰成様に頂いたファンアートを使わせて頂きました。ありがとうございました。

サンスポット【完結】

中畑 道
青春
校内一静で暗い場所に部室を構える竹ヶ鼻商店街歴史文化研究部。入学以来詳しい理由を聞かされることなく下校時刻まで部室で過ごすことを義務付けられた唯一の部員入間川息吹は、日課の筋トレ後ただ静かに時間が過ぎるのを待つ生活を一年以上続けていた。 そんな誰も寄り付かない部室を訪れた女生徒北条志摩子。彼女との出会いが切っ掛けで入間川は気付かされる。   この部の意義、自分が居る理由、そして、何をすべきかを。    ※この物語は、全四章で構成されています。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

坊主女子:スポーツ女子短編集[短編集]

S.H.L
青春
野球部以外の部活の女の子が坊主にする話をまとめました

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...