愛の充電器がほしい

もちっぱち

文字の大きさ
上 下
63 / 63

第63話

しおりを挟む

カチャカチャと食器を洗う音がシンクに
響いた。
オレンジのスポンジにもう一度洗剤を
つけた。

マグカップが3つ、どんぶりが3つ、
小皿が3つ、箸が3人分を丁寧に洗う。

颯太が食器につけて、
琉久が洗い流していた。

「食器、いつもより少ないね。」

琉久がボソッと言った。

「琉久、姉ちゃんがいないの寂しいのか?」

「べ、別に。
 洗い物が減って楽だなって思った
 だけだよ。」

 颯太は洗い物を終えて、
 壁にかかったカレンダーをめくる。
 琉久は本音と裏腹だった。

「姉ちゃんが同棲し始めて、半年か。」

「俺は勉強に集中できるし、
 静かになっていいよ。」

「嘘だ。
 いつもゲームしてるくせに…。」

「いいの!
 それでもいいの!」

 そう言いながら、洗い物を終えて、
 慌てて、自分の部屋に戻っていく。

 颯太は、残った後片付けをした。
 美羽は、飲み終わったマグカップを
 台所に運ぶ。

「琉久、どうしたって?
 紬いないのが寂しいって話?」

「うん。
 琉久、食器の数、
 いつも洗いものするから
 少ないって気づいて、
 寂しくなったらしいよ。
 もうすぐ結婚式だってあるのに、
 俺よりも号泣してたりな?」

「そっか、琉久、寂しいんだね。
 小さい頃から一緒だったから。」

 美羽は、しみじみと琉久の心中を察した。

「あ、そうそう。
 今日、流れ星出るんだってよ?
 ベランダに行ってみてみよう?」

 美羽は、ネット情報で流れてきた
 流星群の見ていた。
 夜の天気もよく、
 絶好の星空観測日和らしい。

「流れ星か。
 ああ、見てみるか。」

 簡易ベンチを倉庫から出して、
 ベランダに置いた。
 颯太は、2つのマグカップに
 温かいコーヒーを
 淹れる。

「はい、飲みながら、見よう?」

「あ、ありがとう。」

 外に出ると湯気がふわふわと浮いている。
 ふーと口で冷ましてから飲んだ。
 コーヒーの香りが広がって、
 ちょうど良い苦味があった。

「紬、結婚しちゃうんだなぁ。
 あんなに小さかったのに…。」

「そんな昔にさかのぼる?」

「というかさ、ウチで
 本当複雑な家族だよな。
 血つながらないに、こんなにべったり
 仲良くいられるのも珍しいんじゃない?
 まぁ、俺は血のつながりとか関係なしに
 紬も琉久も一緒にいられて
 幸せだけどな。
 本当の親子より親子って感じするし!」

 颯太はにかっと歯を見せて笑った。

「え、でも紬と颯太は
 本当の親子でしょう?
 私と紬が血のつながりはないのは
 当たり前だけど…。」

「……俺、美羽に言ってなかったけど
 無精子症なんだよ。
 年取ってからの調べて
 わかったことなんだけどさ。」

「え?!!
 嘘、それ本当??」


「あと、知ってるよ。
 琉久と俺も親子じゃないんだろ?」


「え?!」


「何年か前に書類の入った引き出し見てて、
 匿名で遺伝子検査結果見つけたんだ。
 美羽だろ?気になって検査出したの。
 聞いたら、びっくりするだろうなって
 言わなかった。
 そろそろいいかなって
 今話してるんだけどさ。」

「そ、そんな…嘘。
 いや、その…ごめんなさい。」

「もう、時効だよ。
 俺にとっては。
 今までの生活そのもので
 十分償ってるって思ってる。
 というか、俺も知ってて
 そういう状況になった…。
 悪い、策士は俺かもな。
 紬も、誰の子かわからないまま
 父親役にさせられてたんだ。
 懐いてくっついてきたから
 戸籍上では俺が父親だし、
 病気のこと上原家族には
 直接言えなかったんだ。
 元嫁のあいつも知らない。
 騙されていたに等しいんだけどさ。」

 美羽は、衝撃的な話を聞いて
 信じられなかった。
 天涯孤独な颯太がより一層、かわいそうで
 抱きしめたくなった。母性本能が働く。

 血縁関係じゃない繋がりを
 維持させることの方が難しいはずだ。
 颯太は心が広い。

 器が大きい。
 
 美羽がしてきたことを許した。


「美羽、俺は、ずっと一緒にいるよ。
 離れないから。
 
 夫婦なんて血なんて繋がってなくても
 一緒にいるんだから。 
 
 俺は、それだけで十分、幸せだ。」

「あ、ありがとう。
 私も同じだよ。
 絶対離れない。
 許してくれてありがとう。
 一瞬、生きた心地がしなかったよ。
 ものすごく責められるかと思った。」

「いろんな夫婦の形があるんだから。
 結果幸せならそれでいいんだよ。
 そうだなぁ、どう責めようかなあ。」

 ジリジリと顔を近づけた。

「やめてー。
 顔近い。」

「冗談だよ。
 でも、この話は琉久と紬には
 言わないでおこうな。」

「うん、そうだね。」

「2人の秘密。
 絶対。
 墓場まで持っていく。
 もちろん拓海くんにもだぞ。」

「う、うん。
 あ、流れ星!」

「星に願おう。
 未来を見よう。
 過去は振り返らない!」
 
 手を合わせて、流れ星が降り注ぐ
 満天の星空に願った。

「でも、なんで私たちは
 純粋に出会ってシンプルに結婚まで
 至らなかったのかな。
 レールがあるんなら、ストレートに
 来たかったかなって思ってしまう。」

「そうなってしまったら、
 紬が結婚できなかったかもしれないだろ?
 美羽と交際してなかったら
 会わなかったんだから。
 生きてる中での出会いは偶然なんてなくて
 全部必然なのかもしれないな。
 なるべきして起こった出来事なんだよ。」

「…そうかもしれないね。
 神様はチェス板の上でこうして
 ああしてって私たちを動かしてるかも
 しれないわ。」

 雲の上で白い髭を生やした神様を
 イメージする。

 もしかしたら、
 今生きている人は、
 本当に神様が操作して
 いろんなミッションを
 引き起こしてるかもしれない。

 その中で心が満たされる人は
 将来の結婚相手なのかもしれない。


 数ヶ月して、
 楠家の棚には
 どんどん写真が増えていった。

 紬と拓海の結婚式で家族集合写真。
 
 初孫が生まれた瞬間、
 美羽と颯太が抱っこ争いしている写真
 
 琉久がサッカーで
 U-18の全国大会で優勝した写真。


 そんな風にごくごく普通の家族の
 過ごし方を送って行った。




 ある日の朝、
 
 鳥のさえずりが聞こえた。

 「あ、昨日、
 スマホに充電器さすの
 忘れてた。
 どこだっけかな。」

 美羽は、目を覚めて 
 スマホが赤く光ってるのを見た。

 寝ぼけ眼の颯太がメガネをかけて、
 ベッドの宮に置いてあった充電器を
 美羽に渡す。

「ほら、ここにあるよ。」

「あ、ありがとう!!
 助かった。
 もうあと1%しかないんだよ。」

 美羽はすぐにスマホに充電器をさす。

「1%もあるじゃん。」

「くぅ~、その考えた方、いいよね!!」

「わぁー!」

 起こしたばかりの体が倒れた。

 美羽が颯太をいきなり抱きしめた。

「これでいい。
 私は満たされるのよ。」

 小声でつぶやいた。

「ん?」

「なんでもない。」

 なんでもない大切な1日が
 また始まろうとしていた。



【 完 】
しおりを挟む
感想 6

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(6件)

ぷりん
2023.12.25 ぷりん
ネタバレ含む
2023.12.25 もちっぱち

チョコプリン様
コメントありがとうございます。

そうですね。
複雑な家庭環境ですから
さらに複雑に…。

そんな流れになっています。


引き続き
物語をお楽しみくださいませ。

解除
ぷりん
2023.12.21 ぷりん
ネタバレ含む
2023.12.21 もちっぱち

チョコプリン様

おはようございます⭐︎

お忙しい中のコメント
ありがとうございます。

さてはて
どうなるかは
次の話をご覧くださいませ。

本当に深く読んでいただき
ありがとうございます(*´꒳`*)

嬉しいです!


さっき
物語の続きのひらめき💡が
ふってきたので
楽しんでいただけるかと
思います!


引き続き
よろしくお願いします(*´∀`*)

解除
ぷりん
2023.12.03 ぷりん
ネタバレ含む
2023.12.03 もちっぱち

チョコプリン 様

いつもコメントを
記入していただき
ありがとうございます。

かなり読み込んで
いただいてるようで
嬉しいです。


そうですね。
今後の展開にご期待くださいませ


引き続き
よろしくお願いします(*´꒳`*)

解除

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~

けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。 してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。 そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる… ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。 有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。 美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。 真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。 家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。 こんな私でもやり直せるの? 幸せを願っても…いいの? 動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。