愛の充電器がほしい

もちっぱち

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第46話

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福島から東京へ帰宅して
数週間後、
美羽は、大きな鏡の前にある
ふわふわのソファに座った。

いつもと違う服装。


真っ白いサテン生地の
Aラインの肩出しドレス。
両腕にはバルーンのような袖を
身につけていた。

お腹の赤ちゃんはまだまだ小さい。

性別はまだ分からない。


お腹が大きくならないうちに
早めに式を挙げてしまおうという
美羽自身が決めたことだ。

小さい頃に約束したことが
本当に叶うとは
夢にも思わなかった。

おままごとを
一緒に付き合ってくれた
あのそうちゃんの
本当にお嫁さんなるなんて。

ドレスの着付けを終えて、
柔らかい腰掛けたソファは
優しく包み込んでくれた。

お腹をさすっては
ため息をついた。

緊張してきていた。

心臓の鼓動が鳴り止まない。

メイクさんが、
別部屋から
化粧を道具を持って、
美羽の前に立った。


「お待たせしました。
 ドレスお似合いですね。
 早速ですが、
 メイクさせてもらって良いですか?」

「はい。
 お願いします。」

大人しく、いつもより口数が少ない。

プロのメイクに頼んだことが
今まで無かった美羽は
どんな化粧をされるんだろうと
ドキドキした。

時間がゆっくり流れていた。
時計の針が妙にカチカチと聞こえる。

ノリの良いファンデーションと
マスカラ、アイブロー、アイシャドウ
アイライナー、チーク、口紅を
丁寧につけてもらっていた。

普段
こんなに化粧しないなぁと思いながら、
手鏡を渡されて改めて自分の顔を
確かめる。

「あとは、ヘアアレンジですね。
 少し編み込みさせていただきますね。
 あと上の方に上げて、
 ディズニーに出てくるヒロインみたいに
 なりますよ。」

「ありがとうございます。」

 プリンセスになりたいと
 思っていた。
 大人になって本当になれるんだと
 笑みがこぼれる。

 メイクさんは、
 テキパキとこなしていく。
 最後には、白いヴェールを被せられて、
 手元には、ピンク色の
 花束のブーケを持たせられた。

 ドアのノックがした。

「すいません、入っても良いですか?」

 着替えを終えた新郎の颯太が
 ネイビーのタキシードを着て、
 外で待っていた。
 横にはヒラヒラと
 レインボー色でできた
 グラデーションドレスを
 着た紬がいた。
 
「あ、はい。
 今、出来上がります。
 どーぞ。」

 慌てて、観音開きの扉を開けた。

「失礼します…。」

 颯太は絶句した。
 鏡の前に立つ美羽が
 別人に見えた。

 中に颯太が入ると、
 待合室にいた恭子が
 ハッと気づいて
 紬の腕をつかみ
 中に入るのを阻止した。

「紬ちゃん、こっちで写真撮りましょう。」

「えー、私、美羽ママのドレス見たいぃ。」

「良いから、おばちゃんと撮ろうよ。
 ねぇ、後でご褒美あげるからぁ。」

 恭子は
 2人きりに少しでもして
 あげたいという
 計らいだった。

「ご、ご褒美!?
 うん。わかった。
 恭子さん、どのポーズで撮る?」

 急にノリノリになる紬。
 壁際に立ってモデルポーズをとる。
 横にいた琴音が
 カメラマンになった。

「ほらほら、2人笑顔でね。」

 紬と恭子は血のつながりはないが、
 戸籍上おばあちゃんと孫となる。

 突然できた孫に最初は
 ちょっと違和感を感じた
 恭子だったが、
 賢く空気を読む紬を
 大層気に入った。
 2人の結婚式を挙げる
 今この瞬間から
 信頼度が上がった。


「近く、行って良い?」

 颯太は、
 初めて見る美羽の
 ウエディングドレス姿に
 目が潤んできた。

「うん、いいよ。」

 鏡の前で2人は並んだ。

「俺、この瞬間。
 夢で見てたかも…。」

 目から涙が溢れる。

「ちょっと、まだ式始まってないんだけど、
 感動するの早すぎだよ。」

 美羽も颯太の涙を見て、
 目が潤んできた。

「俺、生きててよかった。」

「私も同じ。」

 両手を繋いだ。

「もう、幸せすぎてこわい。」

「こわがらないでよ。
 そばにいるでしょう。
 むしろ、私の方が心配だよ。
 もう、どこにも行かないよね?」

「え?」


「小さい頃の公園で遊んだ時を
 思い出したんだけど、
 結婚しようって
 本当は言ってくれてたんだよね。
 約束してたのに、
 いなくなっちゃったから。」

「…あー、折り紙の指輪?」

「そうだよ。思い出した?
 私、ショックでしばらく公園遊びと
 折り紙できなかったんだから。」

「そうだったの?
 …もう、どこにも行かないよ。
 待たせてごめんな。」

 颯太は美羽をぎゅっと抱きしめた。

 すると、扉がバタンと開いた。
 扉の前で写真を撮るのに
 盛り上がり、
 あっち行ったり
 こっち行ったりで
 紬と恭子、琴音が
 不意に扉を開けてしまった。

「あ、パパ。ずるい!!
 紬も美羽ママとハグするんだから!!」

 ぎゅーと抱きしめていたのを
 バッチリ見られてしまった。
 紬はすぐに駆けつけて
 2人のそばによる。

 恥ずかしくなった颯太と美羽は
 パッと手を離した。

「ごめんごめん。」

 紬の頭をなでなでした。


「お待たせいたしました。
 会場の準備が整いましたので、
 みなさま中の方へお入りください。
 新婦様と新婦のお父様は、
 こちらでお待ちください。
 新郎様とご列席のみなさまは、
 会場の方へご移動お願いします。」

 スタッフが大きな扉を開けては、
 手を向けて案内する。

 ゾロゾロと参列者が中の方へ移動する。
 美羽の家族をはじめ、友人数名と
 会社の同僚が招待されていた。
 
 颯太の家族は祖父母のみのため、
 少人数の結婚式となっていた。

 バージンロードを歩くことを
 恥ずかしがっていた美羽の父の和哉は
 どうにか恭子の説得で歩く決意をした。

「父さん、ごめんね。
 ありがとう。」

「あ、ああ。いいんだ。
 こういうのは、
 人生で1回あるかないか。
 いや、1回で済ませてほしいけど。」

「何、言ってるの。
 冗談やめてよ。」

「ドレス、良いの選んだな。
 似合ってるぞ。」

「そう。
 良かった。
 ありがとう。
 父さん、寂しい?」

「ううん。
 嬉しいよ。
 娘が旅立つんだから。」

 和哉の目から涙が流れる。
 寂しさが染み渡っていた。

「言ってることと反応が違うよ。
 無理しないでよ。」

「いいや、俺は泣いてない。
 汗かいてるんだ。
 ほら、行くぞ。」

 和哉は右腕を曲げた。 
 美羽は和哉の腕に手を添えた。

「お願いします。」


「新婦様の入場です。」

 盛大な拍手とともに
 美羽と和哉は音楽に合わせて
 バージンロードを歩いた。
 美羽の後ろでは
 ドレスの裾を持ち上げる
 紬の姿があった。


 両親と一緒に過ごして
 3歳に出会ってから
 21年過ぎた。
 数々の思い出が走馬灯のように
 思い出す。
 血は繋がっていなくても
 朝井家は本当の家族だったと
 改めて感じる。
 
 祭壇には新郎の颯太
 牧師さんが立っていた。

 たくさんの列席者の中で
 和哉の手から美羽の手が離れていく。
 颯太の左手にそっと添えた。

 段の上にゆっくりと登った。

「夫たる者よ。
 汝、健やかなる時も、病める時も、
 常にこの者を愛し続けることを
 誓いますか。」

 牧師は言う。

「誓います。」

 颯太は迷いなく言う。

 「妻たる者よ。
  汝、健やかなる時も、病める時も、
  常にこの者を愛し続けることを
  誓いますか。」

「誓います。」

恥ずかしさがあったため、
小さい声で話す美羽。

「それでは、指輪の交換を。」

 牧師は白いリングピローを
 2人の前に出した。
 颯太は美羽に
 美羽は颯太にそれぞれの指輪を
 つけた。

 つけ終えると向かい合い、
 美羽のヴェールをそっと
 あげた。

 両肩に手を触れて、
 そっと横から顔を近づけて
 誓いのキスをした。

 拍手喝采で
 会場はお祝いムード一色となった。

 口笛を吹いたり、
 おめでとうという声がかかる。 
 カメラで写真を撮り
 フラッシュが何度も光った。

 結婚式をしたことの無かった颯太は
 気持ちが一層盛り上がった。
 
 美羽のことを大事にしようと
 意思が強く出た。


 美羽をお姫様抱っこをして
 場を盛り上げた。

 
 この幸せだという気持ちが
 長く続けばいいのになと強く願った。


 

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