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第3章

第10話 更なる依頼

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 〝魔法耐性〟を持つ魔物でも、耐性で耐えきれない威力の魔法で倒して仕舞えば良い。それに、温暖な忌蟲の森の魔物は冷気に対する耐性がない為、氷属性の魔法には弱い様だ。
 凍った魔物と糸、全てに風魔法を放つ。魔物達は、パキィンという音を上げ、砕け散った。

 俺が姿を現すと、3人が駆け寄って来る。
 
「相変わらず、凄い魔法だな」
「威力は漸く及第点になったけど、コントロールにまだ不安があるよ」

 第七階梯魔法は、第六階梯までの魔法と比べても格段に強力な物が多い。その中でも、〝氷閉領域〟の様に領域――空間干渉を行う魔法は特に強力だが、コントロールが難しい。
 その為、発動する直前に動かれると、敵味方関係なく巻き込んでしまう可能性がある。

「取り敢えず、無事みたいだな」
 
 俺の視線が、ヴィルヘルム達の後ろに向かう。

「まぁ、ギリギリだったけどね」
「一応、治療も解毒も終わってます」

 メデルの言う通り、応急処置ではあるが動く事が出来る程度には魔法で回復している。
 
「助かった。礼を言わせてくれ」

 立ち上がって俺達の元にやって来たのは、冒険者組合で『新人試し』を仕掛けて来たカシムという男だった。

「いえ、大した事はしていないので。礼なら、貴方達を護った3人にして下さい」
「そ、そうか」
「別に、私もお礼が欲しくてした訳じゃないから」

 ヴィルヘルムやメデルも同意をする様に頷く。

 だが、カシムは「だがな……」「先輩の冒険者として……」「このまま何もしないのは……」など、何か形としてお礼がしたい、と話す。
 俺は、相手にするだけ面倒だと思い、視線をヴィルヘルムに向ける。それに気付いたヴィルヘルムは、少し考えた後に口を開いた。

「では、俺達の必要な時に、力を貸して欲しい」
「……それだけか?」
「寧ろ、厄介な約束ではないか?」

 ヴィルヘルムの言う通り、具体的な内容がない分、厄介な約束の様に思える。
 だが、カシムは大した事のない様に話す。

「お前等は、命の恩人だ。多少の厄介事になら、喜んで協力してやるよ」
「冒険者とは、そう言うものか」
「いや、俺にとっちゃそんなもんだ」

 裏の無さそうな表情を浮かべるカシムに、ヴィルヘルムは微笑を浮かべる。

「お互いそれで良いなら、早く森から出ましょ」

 自分にとって苦手な魔物むしが多い忌蟲の森に長くいた所為か、リツェアは隠し切れない苛立ちを見せる。
 強い視線を向けられたカシムは、「ぉ、おう」と僅かに後ずさった。
 
「所で、魔物の手応えはどうだった?」

 先頭を歩きながら、後ろを歩くヴィルヘルムに問う。

「やはり、人が使う武器や魔法に対する耐性を持つ魔物が多かったな」
「他には?」
「厄介な事に、こっちの弱点を突く知恵はあったわね」

 独立した個体其の物は弱くても、あれだけ数が増えれば押し負ける冒険者がいても不思議ではない。
『1人の刃は届かなくても、3人の刃なら届く』と言うのは、戦時中最も有名な言葉の1つだった。その意味通り、1では勝てない格上相手でも、3人で戦えば勝てる可能性が生まれる。
 その数が10や100と増えれば、言うまでもない。

「元々、この辺りの魔物は人の真似が上手いんでしょうか?」
「いや、あんな魔物は今まで見た事ねぇし、聞いた事もねぇぞ。忌蟲の森には、調査村もあるし、冒険者が適宜間引きもしてるから、変化があれば直ぐに分かる筈だ」
「カシムさんの言う通りですねぇ」

 随分とのんびりした喋り方をするのは、ウェーブのかかった金髪の少女だ。

「あ、私は、ハイリと言いますぅ。先ほどは、助けて頂いてありがとうございましたぁ」
「私は、ミル・マクベル。エルフ族。よろしく」

 次に自己紹介をしてきたのは、短い金髪に眠そうな反目の少女だった。その後の会話はメデル達に任せ、俺は周辺の警戒を行いながら進む。


 ▫︎▫︎▫︎▫︎


 森の外に出た頃には、空は既に茜色に染まっており、今日中に国に戻る事は難しい時刻となっていた。その為、カシム達を加えた俺達は、野営の準備を進める。

 森の調査で疲れ切っていたのか、見張り役以外は直ぐに眠りに着いた。


 翌日、カシム達と一緒に辺境都市へと戻る道中で、魔物に何度か襲われたが、殆ど足止めにもならず順調に進む。
 辺境都市に到着した俺達は、直ぐに冒険者ギルドへ行き報告を行う。

 報告書と共に、カシムと俺達の話を聞いた受付の女性は、驚きつつも真剣に話を聞いてくれた。

 冒険者組合を出た時点で、カシム達と別れる。
 その後、今回の依頼の得た報酬を使い日用品や食材を買い、自宅である館に向かう。

 だが、家の戸締りは確実にした筈だったが、鍵が開いており見覚えのある魔力を感じる。

「あら、早かったじゃない」

 リビングのソファーには、何故か我が物顔でフォンティーヌ商会の長であるクローリアが寛いでいた。

「何か御用ですか?」
「面白い話を聞いたから、当事者の話も聞いてみようと思ったのよ」
「報告は、先程組合に行ったばかりですが……」
「商会っていうのは、大きくなるほど、優れた情報網を持っているのよ。それで、調査の方はどうだったのかしら?」

 話を切り出したクローリアに、今回の調査で分かった事を伝える。話を聞き終えたクローリアの表情は、曇っていた。そして、俺達には聞き取れない声で、「もしかして……と、関係……ら?」と呟く。

「何の話だ?」

 ヴィルヘルムの問いに、クローリアの普段通りの笑みを浮かべる。
 
「……良い儲け話が聞けたわって、話」
「?」

 いや、悪い笑みを浮かべていた。
 確かに、クローリアのフォンティーヌ商会は、ポーションや薬草を中心に売っている商会だ。
 冒険者や国の危機は、ポーションを主力商品として売るクローリアの商会にとっては稼ぎ時となる。
 なんとも複雑な商売だ。

「それと、貴方達にお願いしたい依頼があるの」

 そう言うなり、クローリアはテーブルの上に10数枚の依頼書を置いた。

「これは、明日冒険者組合に掲示される予定のフォンティーヌ商会の依頼よ」
「これをどうしろと?」
「決まってるでしょ」

 つまり、此処に置いてある依頼を全て受けろ、という事らしい。
 俺達は、依頼書を手に取りそれぞれ目を通して行く。依頼者は、全てフォンティーヌ商会であり、内容も当然ポーションの作成に必要な材料の採取だった。

 だが、1日や2日で採取できる量ではない。

「報酬も悪くないでしょ?」
「……まぁ、そうですね。でも、時間はかかりますよ」
「構わないわ。他にも人手の当てはあるしね」

 俺が依頼を承諾すると、クローリアは当然とばかりに頷いた。

「他の依頼を受けても構わないけど、暫くは私の依頼を優先してくれるかしら」
「勿論です」
「なら良いわ。それじゃ、これ」

 クローリアは、空間収納の魔法道具ふくろから銀貨の入った皮袋を取り出しテーブルに置いた。

「情報料よ」

 「これから忙しくなるわね」と言ったクローリアの顔には、真剣な物だった。

「それじゃ、私は失礼するわ」

 颯爽とクローリアが屋敷から出ていく。

「嵐のような方ですね」

 メデルの呟きに、ヴィルヘルムとリツェアが同意する。

「これは、2組に分かれた方が効率的ではないか?」

 ヴィルヘルムが、依頼書を数枚眺めながら提案する。
 確かに量が多い分、何箇所かに分かれて採取した方が効率的だ。

「ですが、薬草採取と言うのは簡単な物なのでしょうか?」
「正直言って、殆ど見分けがつかないし、魔物も襲って来るだろうから大変よ」
「そ、そうですか」

 リツェアの言葉に、メデルはヴィルヘルムが持つ依頼の紙を見てため息を吐いた。
 
「虎男は詳しくないの?」
「悪いが、薬学には疎いな」
「まぁ、頭を使うのは苦手そうだものね」
「お前こそ、知らぬのだろ?」

 何故か睨み合い、火花を散らす2人の事は放って置きメデルに声をかける。

「また少し出かけて来る」
「私もお供致します」
「いや、メデルは一旦天界に帰って休んでろ」

 メデルは少し残念そうにしていたが、了承の礼を取ると光に包まれて消えた。
 その後、犬猿の様に睨み合う2人を無視し家を出た。
 

 
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