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第3章
第7話 依頼
しおりを挟むクローリアから屋敷を貰った翌日。
マンドラゴラを買い取って貰ったお金で、ヴィルヘルムとリツェアの服と装備を整えた。
いつまでもサイズの合わない服を着て街を歩かれるのは、一緒に歩く俺達まで悪目立ちしてしまう。
ヴィルヘルムとリツェアの装備を整えた俺達は、冒険者組合に向かい、クローリアが書いてくれた推薦書を受付に提出した。
最初は訝しんだ受付の女性も、中身に目を通すに連れて驚きを隠せなくなっていた。
一度、「お待ち下さい」と奥に戻り、暫くして、『一定期間の活動状況を確認した後に、金級に昇格』という内容の説明がされた。それに伴って、受注出来る依頼の等級も金級までが可能ととなる。
説明を聞いた俺達は、様々な感情が混ざった視線を受けつつ、未受注の依頼が張り出された掲示板の元へと向かう。
「主、どれにしますか?」
一通り目を通したが、やはり傾向として討伐や護衛の依頼が多い。
流石に、駆け出し冒険者――鉄級は、城壁近くで採取出来る薬草や城壁内で達成出来る雑用の様な簡単な依頼が多かった。
だが、実力が低い者――下級の冒険者である鉄~銅級でも魔物が出没し易い危険地帯に接する場所への依頼は幾つかある。
金級以上となると、危険性の高い依頼が殆どの様だ。
「最初の依頼だ、手頃な物の方が良いんじゃないか?」
「……」
俺は、掲示板に貼られた依頼書を手に取る。それを他の3人が覗き込む。
「何の依頼ですか?」
「どれどれ……忌蟲の森の調査?定員 2人以上のパーティ 5組まで?」
「どうやら、森に生息する魔物の異変や繁殖状況などを調査する依頼みたいだ」
この依頼を受けられる等級の条件は、現状の俺達が受けられる最高の等級――金級だが、調査が主な目的だ。無理に戦闘をする必要もない為、討伐などの依頼よりは安全だと思われる。
「しかし、調査の依頼にしては報酬が高い様だな」
ヴィルヘルムは、掲示板に貼られた他の依頼を確認しながら疑問を口にする。
「まあ、詳しいことは聞けば分かるだろ」
という訳で、受付に依頼書を見せて説明を受けた。
「元々、忌蟲の森に住む魔物は、繁殖力が強い個体が多いんです。過去には、森から溢れ出して、辺境都市周辺に被害を出した事もあるんです。その為、辺境伯様は、調査村を忌蟲の森の中に作って監視をされているのですが、流石に森全体を監視するには限界があります。なので、森の中の定期的な調査と間引きを行う依頼には、辺境伯様からの報酬が上乗せされているんですよ」
手慣れたように、受付の女性は説明を行った、
「なるほど。だから、依頼内容の割に報酬が高いのか」
「はい。では、依頼の方はどうされますか?」
「これを受けます」
「畏まりました。他にも、同じ依頼を受けている冒険者の方々がいますが、報酬は変わりませんので、御安心下さい」
受付嬢が手際良く依頼の処理をする。
「最近は、国境の樹海での異変もあり、魔物の動きも活発なので、お気を付けください」
樹海の異変、というのは、執行者と俺達が争った事かもしれないが、顔には出さずに頷く。そして、冒険者組合を後にした。
冒険者ギルドを出た俺達は、早速行動を開始する。
「忌蟲の森は、アテラから歩いて3時間くらいね」
「治癒のポーションは、雪とメデルがいるから必要ないが、最低限の食料とポーションは買った方が良いな」
事前に聞いた情報によると、忌蟲の森には、その名の通り蟲系の魔物が多い。
蟲系の魔物は、繁殖力や生命力が強く、しかも敵を状態異常にする魔法やスキルを持つ個体が多く厄介だ。だから、本来は状態異常を治癒できる光属性の魔法を使える魔導師やポーションを準備するのが必須となる。
だが、状態異常を治せる治癒のポーションは高価であり、安価なポーションは効果が薄い為、オススメはされていない。
光属性も希少属性と呼ばれる珍しい属性の魔法だ。その為、状態異常を仕掛けて来る魔物は、お金に余裕がない新人冒険者には鬼門とも言える。
それ故に、この依頼は金級冒険者以上に指定されているのだろうと予想できる。
「なら、食料の買い出しは任せる。俺とメデルは、フォンティーヌ商会で、ポーションや薬を買って来る」
俺とメデルは、2人と別れてフォンティーヌ商会に向かった。
◻︎◻︎◻︎◻︎
「僅かだが、甘い匂いがするな」
辺境都市から離れて数時間歩き続けた所で、ヴィルヘルムが周囲の森から漂う匂いに、獣人族のヴィルヘルムが逸早く反応した。
「本当だ。熟した果物?、みたいな匂いですね」
俺は周辺の魔力と気配を探る。それによって、森の中にも魔物の魔力を複数感知した。
「……雪」
「何だ?」
「すまないが、俺の鼻はあまり役に立ちそうにない」
俺は、ヴィルヘルムを見ずに返答をする。
「そうか」
「まぁ、俺の鼻など、元から役に立った事などなかったがな」
「……」
「面白くなかったか?」
「何処を笑えば良かったんだ?」
ヴィルヘルムなりの冗談だった様だが、笑えるポイントが独特過ぎて自虐ネタだとしても反応に困った。
「まぁ、それより、敵だ」
俺は空中に、〝風矢〟を創り出し森の茂みへと放つ。
〝風矢〟は真っ直ぐに空を切り、俺の狙っていた場所に吸い込まれた。その瞬間、森の中から硬い物が草木と擦れる音や獣や人とは違う鳴き声が響き、バッタやムカデのような蟲型の魔物が現れた。
確か、あの魔物は、ワイルドホッパーとムルカデと呼ばれる名前の魔物だ。
「うわ、気持ち悪い」
「あんな蟲系の魔物初めて見ました!」
リツェアとメデルの声が交差する。
その間に、ヴィルヘルムは手に槍を構え魔物に向かって走る。身体強化とスキルを発動し、瞬時にワイルドホッパーを両断した。
「第四階梯魔法 〝土柱《アース・ピラー》〟」
地面から突き出た先の尖った〝土柱〟が、ムルカデを貫いた。
だが、流石の生命力で必死に抜け出そうと足掻くムルカデの姿を見たリツェアが、悲鳴似た声と共に魔法を連続で撃ち込む。
「最悪……」
「リツェアは、蟲が苦手だったのか」
辺りを警戒しながらこちらに戻って来るなり、ヴィルヘルムはリツェアに声をかけた。
「苦手で悪かったわね」
「まぁ、しょうがないですよね。私も少し気持ち悪いですし」
メデルの場合は、好奇心が気持ち悪さを軽く凌駕している。
「苦手なのは別に良いが、あんなグチャグチャにされたらどうやって解体するんだ?」
俺の視線の先には、リツェアの闇属性の魔法によって無残に切り刻まれ、無事に回収できそうな部位が殆ど残っていないムルカデが横たわっていた。
「お前が解体するのか?」とリツェアに聞いてみる。
すると、涙目になりながら首を横に振った。
「ごめんなさい!それだけは、それだけはイヤ!」
「主、揶揄い過ぎですよ」
「……半分は本気だ」
それを聞いたリツェアの顔が青褪める。
戦闘後は、素材の回収は諦め、森には入らず辺りの調査を行った。
討伐ならいきなり森に入っても良かったが、今回の依頼は調査なので、周辺の環境や魔物の出没率なども調べた方が良いと判断した。
この依頼には、明確な裁定基準がない。つまり、調査内容が有用かどうかを決めるのは、ギルドなのだ。となると、もし大規模な討伐が行われる時や近くを商人が通る場合に、役立つような情報の方がギルド側が好むと考えた。
周辺を調査していると、森に入らなくても何度か蟲系の魔物と戦闘となった。
俺達からすれば、大した事のない魔物ばかりだったが、蟲系魔物特有の高い生命力とトリッキーな動きが他の冒険者には厄介だろう。
だが、こんな頻繁に森の中に生息する魔物が、森の外に出没するのが、異常なのかどうかは良く分からない。
「普段の状況をもっと把握しておくべきだったな」
俺の呟きが聞こえたヴィルヘルム達は、こちらに視線を向け口を開いた。
「そうね。私も忌蟲の森には、あまり来た事がないから」
「うーん、近くに他の冒険者さんがいればいれば良いんですけど……」
「一旦戻った方が良いかもな」
空を見れば、日が傾き始めていた。少し早いが、夜営の準備を始める。
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