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第3章

第2話 組合

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 人通りの多い道をリツェアは、迷う事なく歩いて行く。俺もその後ろを離れる事なく着いて行くが、後ろから「あるじ~」と呼ぶ声が聞こえる。
 リツェアと共に足を止めて振り返れば、メデルを肩車したヴィルヘルムが、人の動きに流されながらこちらに向かっていた。
 
「人が多くて歩き難い」

  体の大きいヴィルヘルムにとって、人混みの中を歩くのは一苦労の様だ。

「門から離れれば、人の数も減るから。ほら、行くわよ」

 迷う事なく進んで行くリツェアの背中を眺め、ヴィルヘルムはため息を吐いた。

「すみません、ヴィルヘルムさん。私重いですよね?」
「いや、槍よりも軽い」
「や、槍、ですか?それなら良かった?」

 槍を普段使わないメデルにとっては、分かりにくい返答だった様だ。
 それでも、ヴィルヘルムが平気だと言いたかった事は伝わったのか、振り落とされない様に頭に捕まる。

「所で、目的の組合は遠いのか?」
「確か、大通りに面している所にあった筈……あ、あれよ」

 リツェアが指差す先は、古めかしく威圧感のある建物に向けられていた。大通りに向けて両開きの扉が作られた大きな建物には、看板が掲げられ、大きく『冒険者組合』と書かれている。そして、冒険者組合の象徴と思われる――『剣と槍が交差した背景を背に、吠える虎』が足掻かれていた。

「冒険者組合?」
「ヴァルフリート王国独自の名前だから、他国だと、傭兵ギルドや義勇兵組合、猟兵団……とか色々な名前で似た様な組織があるわ」
「えと、冒険者は、どんな事をするんですか?」
「主には、依頼された仕事をこなす――何でも屋、かな」

 メデルは、初めて見聞きする組合の名前や建物に興味津々となっている。

「まぁ、ここなら、ある程度の素材は買い取って貰えると思うわ。もし、ここで買い取れない物は、直接店に行って交渉するしかないわね」

 リツェアの言う通り、冒険者組合にやって来た理由は、旅の途中で得た素材などを買い取って貰う為だ。
 聖王国にいた頃に預けられていたお金は、殆ど旅の準備で使ってしまった。同行者のヴィルヘルムとリツェアは、元々一文無し。
 今手元にある金では、せっかく都市に到着したのに野宿をする事になる上、装備を整える事も出来ない。

 冒険者組合の扉を開き、僅かに軋んだ様な音がする床を歩いて進む。
 時刻は、夕刻前という事もあり、依頼を終わらせた冒険者達が併設されている酒場で食事をしていた。そちらから、値踏みする様な視線が向けられる。
 視線以外にも、『子供が3人?』『あれは、白虎じゃねえのか?』『可笑しな取り合わせだ』『貴族か?』『いや、他国の王族って可能性も……』『あの服装でか?』など、小声ではあるが、耳をすませば、聴き取る事の出来る声で話をしていた。

 聞こえて来る声は無視して、空いていた窓口の女性に話しかける。

「すみません。素材の買取をお願いしたいのですが」
「それでは、冒険者登録を示すプレートを提示して頂けますか?」
「俺達は、今日都市に到着したばかりで、登録をしてないんです」
「他の国で、似た様な登録はしていませんでしたか?」
「はい」

 一応ヴィルヘルムとリツェアにも確認したが、2人とも冒険者の様な組織・組合には所属していなかった。

「それでは、こちらで冒険者の登録を行い、後に買取の方に移らせて頂きます」
「分かりました」

 受付の女性は、俺達の前にペンと用紙を並べた。
 用紙の記入欄には、『名前』『種族』『職業』『推薦者』と書かれている。
 特に、何らかの細工がある訳ではなかったが、俺達の手は『推薦者』の欄で止まった。

「うーん、すいせんしゃ?」

 メデルの声に、受付の女性は微笑みを浮かべながら説明をしてくれた。

「推薦者とは、皆さんの身分と実力を証明してくれる人の事です。主に、中堅以上の冒険者や名のある商人。中には、辺境伯様の私兵である領土軍の騎士からの推薦書がありますね」
「推薦者がいなければどうなる?」
「ご安心下さい。推薦者がいなくても、組合に登録は可能です。しかし、階級は最低位から始まり、昇級速度にも差が生まれる可能性はあります」
「同じ冒険者でも、有利不利が出来てしまうんじゃないか?」

 当然の様に、表情を変えずに受付の女性はヴィルヘルムの言葉に頷く。

「知っているとは思いますが、辺境都市アテラの周辺は、危険な魔物が生息する――危険地帯です。その為、領土軍や冒険者の死傷者数は、王国国内でも特に多い都市となります」

 一度言葉を切った受付の女性は、俺達1人1人を眺める。

「有利不利がある程度で、腐る様な人材は論外ですが、この程度の逆行に立ち向かう気概のない人は、辺境都市アテラの冒険者として相応しくございません」
「それが、冒険者組合の総意か?」
「はい」

 威圧感のあるヴィルヘルムの視線を受けて尚、受付の女性は表情を崩す事なく返答を行った。それを見て、ヴィルヘルムが視線をこちらに向けて来る。

 厳しい様だが、懸命な判断とも思える。
 聖王国の資料によると――レイヴァース辺境伯の領土は、人間族、魔族、獣人族、妖精族の領土が接し合う場所だ。その上、常に危険性と高い魔物が目撃され、出没する魔物の数・魔物による被害が他都市と比べて多い。
 となると、冒険者に求められる資質も自然と定まる。

 身分のある者達から、推薦を得られるだけの実力者。
 自身に不利な状況――逆境であっても、抗う気概のある心の持ち主。

 「分かりました。それでは、推薦者がいない状態で登録をお願いします」
 「承りました」

 頷いた受付の女性は、手早く書類の整理や必要な情報の書かれた書類の準備を始める。

「まずは、こちらをご覧下さい」

 =========

アイアン=登録初期。駆け出し。
カッパー=新人。
シルバー=冒険者の中での実力は、並。
ゴールド=冒険者の中でも、中堅級の実力者。
白金プラチナ=国内の冒険者の中での割合は、20%程度。
ミスリル=冒険者の中でも、かなりの実力を持った精鋭。
オリハルコン=アダマンタイト級には及ばないが、英雄の領域に近い超精鋭冒険者。
アダマンタイト=偉業を成し遂げた英雄的存在。

=========


 俺達は、紙に書かれた内容を確認する。

「冒険者の等級の中でも、ゴールドが冒険者達の区切りとなるランクです」
「区切り?」
「受注する依頼や、ギルド側から斡旋される依頼の危険度が増す事になります」

 受付の女性は、金、と書かれた文字を指差しながら説明を続ける。

「そして、ゴールド以上と未満の冒険者達の大きな違いは、組合からの強制的な依頼の有無にあります」
「つまり、ゴールド以上になると、断る事が出来ない依頼があるという事ですか?」
「その通りです」

 現状では、俺達――アイアンの駆け出しには関係ない話だが、辺境都市アテラに長く滞在する事になった場合には考えなければいけない。
 
 
 
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