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第2章

第3話 スキルと今

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 エスティファム聖国。
 大陸の北西にある大国で、世界の全てを創ったとされる創造神を信仰する創神教の総本山である。
 階級制度――身分などの違いはあるものの治安が良く、教育などを誰もが平等に受ける権利がある国だ。
 10年前に旅の途中何度か立ち寄った事があるが、人間にとっては、この世界の中で最も恵まれている国と言っても過言ではない。

 しかし、嘗ての俺は聖国の人間が苦手だった。
 その理由は、国教である創神教の教えにある。
 創神教では、人間は創造神によって最も早く創られた事から〝始まりの種族〟と呼ばれ、最も優れた種族だと信じられている。それ以外の種族は、人の道から堕落し、穢れた種族だと幼い頃から教え込まれていた。それ故に、聖王国の民は、多種族への偏見や差別意識を持っている。
 特に、上流階級になればなるほど、その傾向が顕著だ。老人や女性、子供であっても他種族なら一切の躊躇なく殺す。

 嘗ての俺は、人間だろうと他種族だろうと敵でなければ殺さなかったし、差別もしなかった。その所為で、聖王国とはそりが合わず、何度も衝突した。

 それだけではない。

 俺を 『魔に堕落した人ーー魔人』と呼び始めたのは、聖王国だ。

 もしも正体がバレた場合、俺の命の保証はないかもしれない。

 俺は、3年前に知り得た聖王国の情報や印象を当てがわれた部屋のベッドに腰掛けながら思い出していた。

 一度考えを整理する間、部屋の内装を確認しておく。
 まず初めに、腰掛けている1人用の高級そうなベッドがあり、その近くには机と椅子がある。
 机に置いてあるのはランプと水差し、それとコップか。ランプにはボタンがついていて、それを押すと淡い光を放ち出した。

 この世界に、地球の人間達の様な化石燃料から電気を作り出す、という発想や技術はない。

 しかし、だからと言って遅れている訳ではなく、魔力を使う事で独自の技術が発達している。

 次は部屋の端にある怪しげな扉を見つけた。開けてみると、そこは少し広さのある子部屋でトイレと洗面台、それと上半身が見えるくらいの鏡があった。

 流石に、シャワーがあってもお風呂はない。

 洗面台の蛇口を捻ってみれば、常に一定の量の綺麗な水が出た。

 10年で進歩した技術に感動しつつ、部屋に置いてある水差しから水をコップに注ぎ一口飲む。

 普通の水だった。

 別に水の味を調べた訳ではない。もしも聖王国が、俺達を裏切れなくする為に、この水の中に地球で言う所の麻薬や魔法でも込めているんじゃないかと思ったが、特に何の変哲もない唯の水だった。

 考えすぎかもしれないが、警戒心を緩める様な愚行を犯す訳にはいかない。

 コップを机に置き、先程確認し終わった称号を確認する。



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『異世界人』
 効果
 ・異世界の共通言語を理解し、話せるようになる。また文字の読み書きも可能になる。
 ・アイテムボックスを使用が可能となる。
 ※アイテムボックス内は、時間が経過する。生物の収納は不可能。
 ・アイテムボックスの容量は、潜在的な魔力量で変化する。出し入れする場合は、魔力を多少使う。


『再臨の勇者』
 効果
 ・[聖剣]の使用が可能になる。
 ・支配耐性を取得する。


『医神の加護』
 効果
 ・$♪×¥●&%#?◼︎
 ・生命や魂に関する補正を受ける。
 ・『聖獣召喚』を取得する。
 

『神導』
 効果
 ・その歩みは、神も妨げる事能わず。

=========

 本来、称号とは、何かを成し遂げた称号でしかない。その為、『異世界人』の称号が異常なだけで、効果のない称号が普通だ。

 だが、『医神の加護』と『神導』の効果は理解出来ない部分が多過ぎる。

 称号の理解困難な部分について考えていると、頭の中に無機質な声が響く。

 《ステータスが更新されました。》

 《『全能なる魔導師オール・デウス・ザーヴェラー
の封印が一部解除。スキル『全属性魔法』を取得しました。》

 その声を聞いた俺は、ステータスを開いた。

 =========

 名前:トウヤ・イチノセ
 種族:人間

 極限《エクストリーム》スキル
全能なる魔術師オール・デウス・ザーヴェラー
+[全属性魔法]
+[????]
+[????]
+[????]
+[????]
 『神血之医術アスクレーピオス

 固有スキル
『聖獣召喚』
 

 耐性スキル
『支配耐性』

 
 称号
『異世界人』『再臨の勇者』『医神の加護』


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 全属性魔法は、火・水・風・土・光・闇という基本の属性と派生する様々な属性の魔法全てを扱う事が出来るスキルではなく、全属性の魔法を扱う際に補正がかかるスキルだ。
 つまり、異世界ルーファスにおいて、魔法のスキルを得たから魔法が使えるのではなく、魔法を使えた事で得る事が出来るのが魔法系のスキルになる。
 例外として、産まれつきスキルを持った子供や異世界から召喚された俺達の様な存在はいるが、それは稀なケースだ。
 

 次は、固有スキルを試す。

  
俺は早速固有スキル『聖獣召喚』を使用する前に、部屋に防音の魔法をかける。

「〝静音サイレント〟」

 魔法は第一~第十階梯に分けられ、今俺が使った魔法〝静音サイレント〟は、魔法の階梯で言う第三階梯に位置している。
 効果は、一定範囲内の音を外に聞こえにくくする事だ。

 この世界では一般的に、人間が第五階梯の魔法が使えるようになれば才能がある――優秀だと言われている。
 だが、魔法が得意な一部の魔族であれば、第六階梯の魔法までなら簡単に使いこなしてしまう。

 魔法の発動を確認した俺は、早速『聖獣召喚』を使用する。

 すると、足下に少し小さめの魔法陣が現れ、そこから綺麗な白蛇が現れた。大きさは思ったよりも小さいが、スベスベとした白い肌と赤い双眼が何とも可愛らしい。
 足下から俺の顔を確認した白蛇は、俺に向かって小さな頭を下げる。

「初めまして、主様。私は、蛇の聖獣、メデューサ・デル・カーリス・シールバーと申します。周りの聖獣様方からは、メデルと呼ばれております」

 白蛇が喋った事は、聖獣だからと直ぐに納得したが、名前がメデューサ、ね。
 確か、ギリシャ神話に登場するアスクレピオスはメデューサの血を使い、死者すら蘇らせたって話しがある。

 そんな事を思いながらメデルを見つめていると――

「申し訳ありません!」

 急に謝り出した。

「どうした?」
「はい。見た通り、私は聖獣の中でも特に幼く、対した力も持っていません」

 なるほど。メデルが小さいんじゃなくて、メデルはまだ子供なのか。というか、俺は他の聖蛇を知らんのだが。

「つまり、お前は下っ端な訳か」
「はい。聖蛇の中で最も未熟だと自負している私が、召喚されるなど夢にも思っておりませんでした……ぅぅ」

 顔が蛇で表情は分からないが、声が泣きそうである。

「んじゃ何か?俺は他の聖獣を呼べば良いのか?」
「いいえ。この『聖獣召喚』のスキルは、1番初めに召喚した聖獣と契約をしなければならない様です。そして、他の聖獣を召喚する場合は……その」

 だいたいメデルの言いたい事が分かった。

「お前より弱い聖獣しか召喚出来ないんだろ?」
「ご明察の通りです」

 これは予想外だ。
 確かに、スキルの熟練度が低いとスキルの詳細が全て表示されない事がある。これでは、他の聖獣を呼ぶ事は出来ず、実質俺の使い魔はメデルだけどなる。

 メデルは見上げていた頭を床に垂らし、落ち込んでいる。
 小声で「アスレティア様、お母様、お父様、お兄様、お姉様、お爺様、お婆様、おじ様、その他大勢の皆様方、誠に申し訳ありません!この恥晒しのメデルにどうか罰を!!」とブツブツ言っている。
「自己嫌悪の所悪いんだけど、早くその契約をしてくれないか?」
「……はい。その、右手を出して下さい」

 俺は言われた通り、メデルの前に手を出す。

「少し痛いですが、直ぐに終わりますので」

 そう言うなり、メデルは俺の右人差し指に噛み付いた。

「っ」

 すると、メデルの体が一瞬赤く光り、牙を抜く。
 噛み付かれた後に、自然と傷は残っていなかった。

「契約はこれで成立です。今より私は主様の僕です。私を思い浮かべ、ステータスの念じ下さい」

 俺はメデルの言う通りステータスと念じた。
 すると、目の前にメデルのステータスが表示された。

 
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 名前:メデューサ・デル・カーリス・シールバー
 種族: 聖獣

 固有スキル
『聖蛇の脱皮』 

 耐性スキル
 神聖属性無効
 魅了無効化
 支配耐性
 隷属耐性

 スキル
 光魔法LV:3
 隠遁LV:5

 称号
『聖獣』『勇者の眷属』

=========


 効果の確認ををする。


=========

『聖蛇の脱皮』
 効果
 ・状態異常に陥った際、直ぐに治癒する。
 ・隷属、支配、呪いの治癒は出来無い。
 ・ダメージも少し回復する。
 ・聖蛇の固有スキルである。

 神聖属性無効
 効果
 ・神聖属性の魔法、スキルを無効化する。

 光魔法
 効果
 ・光属性の魔法が使用出来る。

 隠遁
 効果
 ・他人から姿を隠す事が出来る。
 ・見破るには、隠遁以上のレベルの看破などのスキルが必要である。

『聖獣』
 効果
 ・魔に傾いた存在に対して攻撃力倍加。
 ・魅了を無効化する。

『勇者の眷属』
 効果
 ・支配、隷属効果を受け難くなる。

=========


 全てのスキルと称号に目を通したが、メデルは決して弱くはない。
 寧ろ、自分を過小評価し過ぎているように感じる。
 何よりメデルはまだ幼い。だったら、現時点で周りより弱くても、いずれは他の聖獣達と同じ位には強くなれる可能性がある。

「メデル、お前は自分で思うほど弱くないと思うんだが……」

 これは同情でも何でも無い、客観的に見て思った事だ。

「ありがとうございます、主」

 しかし、他人である俺がいくら声をかけても結局は本人次第である。

「私はまず、他の聖獣様方に報告する事が御座いますので、失礼致します」

 メデルは出現した魔法陣の光の中に消えた。
 俺はそれを見送った後、ベッドに横になり、今後の計画を練る。
 
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