15 / 15
閑話4 壁際のスノーフレーク -1-
しおりを挟む僕の名前はアルフレッド。
コルベール侯爵家の長男だ。
先日僕は運命的な出会いを果たした。
あれはそう、忘れもしない冬の晴れた日の事だった。
「アルフレッド、急で申し訳ないが明日モンロー伯爵家へ向かってくれないか?お前の婚約者候補をモンロー伯爵夫人が紹介してくれるそうだ」
書斎に呼び出された僕は父にそう告げられた。
婚約者候補の紹介という言葉に舞い上がった僕の心は、その後父の口から出た名前に落胆する事になる。
”アーレンハイム子爵家三女、メリッサ・アーレンハイム”
彼女と直接の面識はなかったが、その悪名はこの国に住む貴族であればおそらく全員一度は耳にした事があるだろう。
”貧乏子爵家の阿婆擦れ。”
それが彼女に対する世間の評価だった。
正直に言えば、なんで僕がそんな奴の婚約者候補としてお見合いをしなければならないのかと、この時ばかりは自分の父親を恨まずにはいられなかった。
大方、モンロー伯爵夫人の頼みを断れなかったのであろうと予測はついたが、それでもやはり納得はできない。
モンロー伯爵家と言えば直轄領、アルトシュタイン公爵領に次ぐ王国内で3番目に広い領土を持ち、豊かな土壌と整備された交通網を持った王国西部の中心地である。
家格で言えば当家の方が上であるが、力関係で言えばあちらの方が上である事は何よりも自分たちがよく知っている。
土地ばかりが広く、人口もモンロー伯爵領よりも少ない。
領内に目立った産業もなく、モンロー伯爵家にが持っていなくて我が家が持っている物など、価格と外海に面した港くらいである。
何より、塩害の被害が深刻な我が領地では食料の多くをモンロー伯爵領からの輸入に頼っている為、どうしても彼らに強く出ることができない。
しかし、それでも侯爵家の長兄である自分に対して子爵家の三女を充てがうとは余りにも失礼ではないだろうか。
それもよりにもよって悪名高いアーレンハイム家の三女である。
”父上はなんて情けないのだろうか、侯爵家の嫡男に対して子爵家の娘を当てがうなどと言う話を聞かされておめおめと引き下がるなど”
父への恨みはやがて、モンロー伯爵夫人、そしてメリッサ・アーレンハイムへの怒りと変わっていった。
”そちらにどんな思惑があるかは知らないが、コルベール侯爵家も随分と安く見られたものだ。父上は丸めこめたかもしれないが、僕まで思い通りになるとは思うなよ”
手酷くフってやろう。
僕はそう決意を固め、お見合いへと向かうのだった。
0
お気に入りに追加
908
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(11件)
あなたにおすすめの小説
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
【完結】貴方と貴方のとなりのあの子を見倣います!
乙
恋愛
え?
何をしているのか?ですか?
貴方があの方をお褒めになるので、私も彼女を見習って改める事にしましたの。
喜んでくれると思っていた婚約者様は何故か不機嫌そうです。
何故なのでしょう_____?
※ゆるふわ設定
※1話と2話少し内容を修正いたしました
※お待たせしてしまい申し訳ございません。
完結まで毎日予約投稿済みです。
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
どうぞご勝手になさってくださいまし
志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。
辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。
やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。
アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。
風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。
しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。
ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。
ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。
ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。
果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか……
他サイトでも公開しています。
R15は保険です。
表紙は写真ACより転載しています。
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
王室の醜聞に巻き込まれるのはごめんです。浮気者の殿下とはお別れします。
あお
恋愛
8歳の時、第二王子の婚約者に選ばれたアリーナだが、15歳になって王立学園に入学するまで第二王子に会うことがなかった。
会えなくても交流をしたいと思って出した手紙の返事は従者の代筆。内容も本人が書いたとは思えない。
それでも王立学園に入学したら第二王子との仲を深めようとしていた矢先。
第二王子の浮気が発覚した。
この国の王室は女癖の悪さには定評がある。
学生時代に婚約破棄され貴族令嬢としての人生が終わった女性も数知れず。
蒼白になったアリーナは、父に相談して婚約を白紙に戻してもらった。
しかし騒ぎは第二王子の浮気にとどまらない。
友人のミルシテイン子爵令嬢の婚約者も第二王子の浮気相手に誘惑されたと聞いて、友人5人と魔導士のクライスを巻き込んで、子爵令嬢の婚約者を助け出す。
全14話。
番外編2話。第二王子ルーカスのざまぁ?とヤンデレ化。
タイトル変更しました。
前タイトルは「会ってすぐに殿下が浮気なんて?! 王室の醜聞に巻き込まれると公爵令嬢としての人生が終わる。婚約破棄? 解消? ともかく縁を切らなくちゃ!」。
【完結】公爵令嬢は王太子殿下との婚約解消を望む
むとうみつき
恋愛
「お父様、どうかアラン王太子殿下との婚約を解消してください」
ローゼリアは、公爵である父にそう告げる。
「わたくしは王太子殿下に全く信頼されなくなってしまったのです」
その頃王太子のアランは、婚約者である公爵令嬢ローゼリアの悪事の証拠を見つけるため調査を始めた…。
初めての作品です。
どうぞよろしくお願いします。
本編12話、番外編3話、全15話で完結します。
カクヨムにも投稿しています。
【完結】27王女様の護衛は、私の彼だった。
華蓮
恋愛
ラビートは、アリエンスのことが好きで、結婚したら少しでも贅沢できるように出世いいしたかった。
王女の護衛になる事になり、出世できたことを喜んだ。
王女は、ラビートのことを気に入り、休みの日も呼び出すようになり、ラビートは、休みも王女の護衛になり、アリエンスといる時間が少なくなっていった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
完結しますか…?
どうしても気になるので、確認させていただきたいのですが、人ずれ、は人と感性や反応などが違う、という意味ではありませんよ。
人とズレがあるのではなく、人との関係などに慣れすぎて、スレている様だという意味です。
アバズレも、貞操観念の無い尻軽という感じの言葉で貴族女性として、また、その家としてもとても看過できない表現なので、子爵や、庇護を与えている伯爵家が放置している理由がわかりません。
貴族の頂点であり王族でもある公爵の対応も、あまりにも傲慢かつ無礼過ぎて、本当に優良物件なのか疑問。
お話の筋は面白いので、更新をお待ちしてます。
誤字報告
15話
モンロー伯爵家「にが」持っていなくて我が家が持っている物など、価格と外海に面した → モンロー伯爵家「が」持っていなくて我が家が持っている物など、「家格」と外海に面した
食料の多くをモンロー伯爵領からの輸入に頼っている為 → 食料の多くをモンロー伯爵領に頼っている為 …かなぁ? 「輸入」は外国から買うことなので、他領とはいえ国内からの購入には使用しないと思います。
情報は力だというのに、貴族が誰も彼も噂に踊らされているようではこの国も知れてますね。
少なくとも貴族家の当主がメリッサの価値に気付かないようではダメでしょう。
多分ちょっと調べたらモンロー伯爵領の発展が誰の功績かは判ると思うんですけどね、例え隠していたとしても…。