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第七話「eスポーツ」
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メタバースは大分進化して世の中に浸透していった。
メタバースが浸透するハードルはゴーグルだった。
あのゴツいゴーグルをしてまでVR空間を経験したいとは思わない・・・・という人間が多かったが、流石に莫大な投資をした大企業は対応をした。
初めはメガネ、サングラス型のゴーグル。
見た目も悪くないし、お手軽にVRを体験できた。
その次に出てきたのがコンタクトレンズ型だった。
メガネ型よりも没入感が圧倒的に上がった。
これにより大幅にメタバースへの参加者が増えたが、ある時画期的な商品が発売された。
その商品は『帽子型VRゴーグル』だった。
帽子?と思うかもしてなれないが、その帽子の内側には無数の極細の針がついていた。
その針はもちろん頭皮に刺さるのだが、あまりにも細くて痛みは感じなかった。
もちろん血が出ることもない。
そしてその無数の針から微弱な電気を脳みそに送った。
そう、VR空間を直接脳に伝えるデバイスだった。
没入感は圧倒的に上がった。
本当にVR空間に自分が存在するような体験をできるようになった。
『脳みそに直接・・・』と思うユーザーは多かったが、企業の大々的な広告などによりこのデバイスは多くの人が使うようになった。
ファッションブランドとのコラボも多く行われ『帽子型VRゴーグル』は世界的大ヒットとなった。
イコールそれは多くの人間がメタバースの世界に参加することを意味していた。
メタバースのおかげでその価値が飛躍的に上がったものがあった。
eスポーツだった。
『ただのゲームだろ、スポーツと呼ぶのはバカげてる』
などと揶揄されていたeスポーツだったが、ある一つのスポーツがeスポーツと提携を結んで世間の見方が変わった。
それはモータースポーツだった。
あるモータースポーツが面白い取り組みを始めた。
レースはメタバースのなか、いわゆるゲーム空間で行われるのだが、そのゲームの内容を全くシンクロさせてリアルのレースも行うというものだった。
つまり・・・・すごいラジコンレースをメタバースとリアルの世界で同時に行うというものだ。
メタバース上ではゲームの設定、プログラムでいくらでも早い車を作ることはできるが、このシステムは、実際に作った車の性能がゲームに反映される。
各チームがレギュレーションを守り車を設計してレースをする。そこまでは今までの物とは変わらないないものだったが、ドライバーがいなかった。
コックピットにはセンサーが搭載され遠隔操作、メタバースの中のドライバーが運転をするのだ。
レース開催当初、実際のドライバーがレースを行っていたが、あるeスポーツ選手が参戦した。しかし、結果はあまり残せずやはりリアルな経験を積んできた人間には勝てない。eスポーツなんて所詮、ゲーム、遊び。という論調になりかけた時、一人の天才少年がその雰囲気をぶち壊した。
インドに住む、車どころか自転車に乗ったこともない6歳の少年が、このレースで優勝したのだ。
実際の運転技術ではなく、反射神経や、運転センス。それがあれば一流ドライバーにもレースに勝てることを少年が証明した。
このことをきっかけに、リアルとメタバースをつなぐ新しいeスポーツが流行した。
次に流行ったのは『ドローンレース』と『ドローンドックファイト』だった。
言葉の通り、ドローン、飛行機型無人機のレースと、1体1のドックファイトだ。
車と違って飛行機の方が、操縦する人間の能力を必要とした。
G、重力がない分、身体的影響は少なく、単純に操縦能力、空間感知能力が高ければレース、ゲームに勝てた。
そして、今流行しているのが、ロボット同士のボクシング『ロボクシング』だ。
ロボット開発をするメーカーと、ボクサーつまりプレイヤーがタッグを組んで戦うのだが、なぜ盛り上がったかというと、人間で行っていたボクシングは階級があったからだ。
ある階級でどんなに強くても体重の軽い選手は体重の重い選手には勝てない。
つまり、どんなに強いフライ級の選手でも、ヘビー級の選手と戦うのは、戦う前から結果が見えている。
『真のパウンドフォーパウンドを決める』という触れ込みで作られたスポーツだった。
『パウンドフォーパウンド』とは『もし体重差がないと仮定し、全階級のボクサーが同じ条件で戦った場合誰が一番強いのか』ということだ。
同じレギュレーションで作られたロボット同士で階級の違うボクサーが戦う。
ボクシングファンは大いに盛り上がった。
実際に、日本のストロー級のボクサーがスーパーヘヴィ級のボクサーを倒した試合は、その年のベストバウトとなり、大きな話題になった。
こういったリアルとメタバースを組み合わせた新しいeスポーツが流行ったのにはもう一つ理由があった。
『人が死なない』ということだった。
過酷なカーレース、飛行機レース、飛行機のドックファイト、体重差のある格闘技。
リアルで行えば事故で人が死んでしまう可能性のあるリスクの高い競技だ。
そのリスクがなくなり、純粋にその技術やテクニックを追求できる。
しかも、プログラムだけの世界だけじゃない、チートが存在しないスポーツ。
この新しいeスポーツ選手を目指す子供たちがどんどん増えていった。
俺もその一人だ。
小さい頃から運動はあんまり得意じゃなかった。
小学生の頃なんかは、足が早いだけでバカでもスクールカーストは上位だ。
中学に入っても、スポーツ部の特にサッカーやバスケをやっている奴らがモテていた。
でも、ゲームでは負けたことはなかった。
俺はeスポーツの選手を目指すことにした。
親には反対されたが、いろんな情報を見せ、説明して本気だってことを伝えた。
『大学に行きながらなら』という条件で俺はeスポーツ選手を目指した。
eスポーツには金がかかった。
高スペックのパソコンも必要だったし、まあ、ゲーミングチェアとかも?
大学には落第しない程度に通ったが、ほとんどはゲームとバイトに時間を費やした。
いろんなゲームを試したが、どうやらドローン系のシューティングが一番向いているようだった。
それでもやはりプロになるのは大変だった。
大会に出てもなかなか勝てない。
大学は無事卒業した。
就職は・・・勤務時間を見てきめた。
どれだけ、ゲームに時間を費やせれるか?そこを重視して就職先を決めた。
最新のパソコン、機材が欲しかったから、お金は少しでも節約したかった。
一人暮らしをせずに実家から会社に通った。
社会人になって2年・・・・・
ついにこの時が来た・・・・
『ドローンドックファイト』の大会で優勝した。
賞金は50万。
俺の2ヶ月分の金額だ。
これをきっかけに俺は調子を上げていった。
優勝はできなくても、2位や3位、いわゆる入賞を続けることができるようになった。
賞金もそこそこ稼げるようになっていた。
そろそろスポンサーから声がかかるんじゃないか・・・・
そんなことを欲が出てきた時だった、ある大会への招待が送られてきた。
普通の大会は自由参加だ。
誰でも参加できる代わりに、予選を何度も行い決勝にいくまで負けられない。
しかし、この大会はいきなり決勝大会からの参加の招待状だった。
いわばシード選手での参加だった、参加費も無料。
俺は大会の詳細を調べてみた。
・・・・世界でもトップレベルの選手たちが招待されている・・・・
『この大会で結果を残せたら・・・・』
俺は使える有給を全て使って大会に向けて練習をした。
今までの人生の中で一番努力した1週間だったかもしれない。
大会当日、俺はベスト32のトーナメントからの参加だ。
優勝するためには5回勝てば良い・・
まあ、最悪3回勝ってベスト8・・・・
いや、そんな弱気じゃダメだな・・・・
初戦は対戦したことのある選手だった。
結構クセのある選手だったので、対応は楽だった。
俺は勝利して、ベスト16。
次だな・・これに勝てばベスト8。
俺の中ではこのレベルの大会では最高の結果だ。
流石にこのレベルの相手は苦戦した・・・
しかし、なんとか勝利することができた。
これでベスト8・・・
しかし、トーナメント表をみた時からわかっていたんだけど、やはり彼が上がってきた。
世界ランク1位、今ナンバーワンの選手だ。
正直勝つのは難しいだろう、でももし勝つことができれば優勝も見えてくる。
負けたとしても、善戦をすればスポンサーが付くかもしれない。
俺は精一杯の力を出して戦った・・・
しかしやっぱり世界一は強かった・・・
惨敗という訳でもなければ、前線という訳でもない・・・
なんとも微妙な試合内容だった。
それでも俺は一応8位入賞という結果を残すことができた。
これをみていたスポンサーがいてくれれば良いのだが・・・・・
大会を終え、次の日久々に会社にいって仕事をしてきた。
有給を取りまくったせいで仕事が溜まっていた。
仕事を片付けて家に帰ってきて、携帯を確認すると気になるメッセージが届いていた。
『先日の大会を拝見しました』
おっ!!!!スポンサーか????
俺はすぐにそのメッセージを確認した。
『先日の大会を拝見させていただきました。ベスト8という結果でしたが、その戦い方は素晴らしいと感じました。その実力を弊社のイベントでも発揮させていただけないでしょうか?』
うん?スポンサーじゃないのか・・・イベント?
『弊社は、最新のAIとドローンを開発しております。その技術は世界のどの企業にも劣らない物と思っております。そこで、今回、優秀なドローンパイロット様と、弊社のAIドローンの対戦するイベントを開催しようと思っております。
貴殿は先日の大会でも世界トップクラスのドローンパイロットだと感じましたので、イベントのインビテーションを送らせていただきました。」
なんだ?しかも聞いたことの会社だな・・・スパムか?
『ルールは簡単です、弊社が用意したバトルフィールドに設置された基地を破壊していただければあなた方の勝ちです。しかし、それを阻止するために私たちはAIドローンであなたたちを攻撃します。
前回の大会のベスト8に残った選手にこのメッセージを送らせていただいています。
オッケーをいただいた選手の数の分、こちらもドローンを飛ばせていただきます』
なるほど・・・企業の広告用のイベントか・・・
まあ・・・ありえる話か・・・
俺は、この間の大会のベスト8に残った選手たちSNSをチェックした。
・・・確かにみんなに同じメッセージは届いているようだった。
参加するかどうかは・・・半々って感じか・・・
名前を売るためには・・こういうことも大事かもな・・・
俺は、メッセージに書いてある手順に従いイベント参加の意志を伝えた。
すぐに返信のメッセージが来た。
『ありがとうございます。参加費として100万円口座に振り込みをしております。イベントで勝利をすればボーナスで1000万を振り込みますので、ぜひ頑張ってください!!』
え?マジで?
俺はすぐに口座を確認した。
確かに100万円が振り込まれていた・・・
イベントは1週間後。
有給はもうあまり使えないので、寝る間を惜しんで練習をした。
いよいよイベント当日時間通りにメタバース内のイベント会場に到着した。
「初めてくるゲームエリアだな・・」
『選ばれし5名のプレイヤーのみなさん、ようこそ!!
早速ですが、ゲームのルールを説明します。あなた方のターゲットは、この基地です。
この基地を破壊できればあなた方の勝利!!!
もちろん、邪魔をしないわけはありません、こちら側はAIドローンを20機用意させていただきました。AIドローンを全て撃墜するか、攻撃かいくぐって基地を攻撃するか?
ちなみに基地を破壊できた場合は1人1000万円さし上げます、途中で撃墜された方も対象です。全員が撃墜された場合は残念賞として100万円差し上げます』
『あと、このイベントの模様は全世界に生配信されます。みなさんしっかりアピールしてくださいね』
「誰か1人でもクリアできれば1000万・・・撃墜されても100万・・・全世界生配信・・・・」
俺はテンションが上がっていた、クリアして1000万、そして活躍をしたら今度こそ確実にスポンサーから連絡がくるだろう。そして、勝てる可能性を感じていた。
俺を含めた5人のメンバーの中に、この間の大会、準々決勝で俺に勝ってそのまま優勝した、ナンバーワンプレイヤー『あらん(๑>◡<๑)』がいたからだ。
そうだな『あらん(๑>◡<๑)』の近くで、彼を守りながら様子を伺おう。
悔しいけどこの中でも彼がナンバーワンだ。
あと、今回俺には秘策があった。AIドローンと聞いて何も対応してこないはずはないと思っていた。おそらくこの間の大会の俺たちのデータは分析されているだろう。
ということは・・・俺はこの1週間、自分の癖を変える練習をひたすらやっていた。
特に攻撃するタイミング、0.数秒だが、遅らせたり、早めたりしても命中精度を下げないようにする練習を。
『GAME START!!!!』
さあ・・いよいよだ
AIドローンは?20機で編隊を組んで飛行してきたが、俺たちを発見すると4機づつの編隊に変更して襲いかかっていた。
ゲームエリアの至る所でドックファイトが始まった。
「よし!!!1機撃墜!!!」
「ビンゴーーーー!!!」
「くそっ・・・やられた・・・・」
俺は『あらん(๑>◡<๑)』を守りながら攻撃をしていた。
俺の予想は的中していた、俺の攻撃は次々と命中していた。
微妙にずらした攻撃のタイミングにAIドローンは対応できてなかった。
『あらん(๑>◡<๑)』もさすがだ・・・
次々と撃墜している。
3分くらいたっただろうか・・・
気がつくと残っているのは俺と『あらん(๑>◡<๑)』だけになっていた。
AIドローンは5機・・・・・
今日の調子なら・・・
俺がさらに1機のドローンを撃墜し残り4機・・・・
『あらん(๑>◡<๑)』が1機を撃墜した・・・・
その瞬間・・・・『あらん(๑>◡<๑)』が撃墜されてしまった。
3対1・・・・
俺は作戦変更して、このまま逃げ切りながら基地を攻撃することにした。
基地は目の前だ・・・・
俺は懸命の攻撃を回避しながら、基地に向かった・・・
もう少し・・・
『ボム発射射程圏内!!!ボム発射射程圏内!!!』
来た!!!!!カチッ!!!!
ボムが発射され基地が大爆発を起こした!!!!!!!!!
「やった!!!!」
『YOU WIN! Congratulations!!』
俺は早速メタバースから出て口座を確認した・・・・
1000万振り込まれてる!!!
しかも俺は今回五機も撃破した、最後の基地も俺が破壊した。
確実にスポンサーは俺に注目するだろう・・・
そういえば生配信をやっていたと言っていたな・・・
俺はモニターをつけた。
モニターにはリアルのドローンの対戦映像が流れていた。
「リアルはこんな場所でやっていたのか・・・・え?・・・ここって・・・」
「ただいまご覧にいただいている映像は、先ほど起こった、国会議事堂爆破事件の映像です。先ほど、正体不明の5機のドローンが国会議事堂を襲いました。自衛隊もドローンで応戦しましたが・・・・』
「あ・・・この後俺が・・・・・」
『ドカーーーーーーーン』
国会議事堂が木っ端微塵になった・・・・
「新しい情報が入りました。現在死亡を確認されている68人の中に・・・鈴木総理を確認したとのことです・・・総理暗殺です!!!」
「え?え?」
「なお、安否不明者も現在120人ほどいるということです、あ・・・警察が、実行犯に対して、破壊活動防止法、国際テロリスト法、内乱罪・・・その他多数の罪状で指名手配をしました。犯人はメタバース中のから犯行を行ったとみられ、現在メタバース内を解析中とのことです」
え?どういうことだ・・・俺がテロリストだって・・・・
『人が死ぬ心配がない』ことがeスポーツの良いところじゃなかったのか・・・
数分後、夥しいほどのサイレンの音がどんどん近づいてきた・・・
メタバースが浸透するハードルはゴーグルだった。
あのゴツいゴーグルをしてまでVR空間を経験したいとは思わない・・・・という人間が多かったが、流石に莫大な投資をした大企業は対応をした。
初めはメガネ、サングラス型のゴーグル。
見た目も悪くないし、お手軽にVRを体験できた。
その次に出てきたのがコンタクトレンズ型だった。
メガネ型よりも没入感が圧倒的に上がった。
これにより大幅にメタバースへの参加者が増えたが、ある時画期的な商品が発売された。
その商品は『帽子型VRゴーグル』だった。
帽子?と思うかもしてなれないが、その帽子の内側には無数の極細の針がついていた。
その針はもちろん頭皮に刺さるのだが、あまりにも細くて痛みは感じなかった。
もちろん血が出ることもない。
そしてその無数の針から微弱な電気を脳みそに送った。
そう、VR空間を直接脳に伝えるデバイスだった。
没入感は圧倒的に上がった。
本当にVR空間に自分が存在するような体験をできるようになった。
『脳みそに直接・・・』と思うユーザーは多かったが、企業の大々的な広告などによりこのデバイスは多くの人が使うようになった。
ファッションブランドとのコラボも多く行われ『帽子型VRゴーグル』は世界的大ヒットとなった。
イコールそれは多くの人間がメタバースの世界に参加することを意味していた。
メタバースのおかげでその価値が飛躍的に上がったものがあった。
eスポーツだった。
『ただのゲームだろ、スポーツと呼ぶのはバカげてる』
などと揶揄されていたeスポーツだったが、ある一つのスポーツがeスポーツと提携を結んで世間の見方が変わった。
それはモータースポーツだった。
あるモータースポーツが面白い取り組みを始めた。
レースはメタバースのなか、いわゆるゲーム空間で行われるのだが、そのゲームの内容を全くシンクロさせてリアルのレースも行うというものだった。
つまり・・・・すごいラジコンレースをメタバースとリアルの世界で同時に行うというものだ。
メタバース上ではゲームの設定、プログラムでいくらでも早い車を作ることはできるが、このシステムは、実際に作った車の性能がゲームに反映される。
各チームがレギュレーションを守り車を設計してレースをする。そこまでは今までの物とは変わらないないものだったが、ドライバーがいなかった。
コックピットにはセンサーが搭載され遠隔操作、メタバースの中のドライバーが運転をするのだ。
レース開催当初、実際のドライバーがレースを行っていたが、あるeスポーツ選手が参戦した。しかし、結果はあまり残せずやはりリアルな経験を積んできた人間には勝てない。eスポーツなんて所詮、ゲーム、遊び。という論調になりかけた時、一人の天才少年がその雰囲気をぶち壊した。
インドに住む、車どころか自転車に乗ったこともない6歳の少年が、このレースで優勝したのだ。
実際の運転技術ではなく、反射神経や、運転センス。それがあれば一流ドライバーにもレースに勝てることを少年が証明した。
このことをきっかけに、リアルとメタバースをつなぐ新しいeスポーツが流行した。
次に流行ったのは『ドローンレース』と『ドローンドックファイト』だった。
言葉の通り、ドローン、飛行機型無人機のレースと、1体1のドックファイトだ。
車と違って飛行機の方が、操縦する人間の能力を必要とした。
G、重力がない分、身体的影響は少なく、単純に操縦能力、空間感知能力が高ければレース、ゲームに勝てた。
そして、今流行しているのが、ロボット同士のボクシング『ロボクシング』だ。
ロボット開発をするメーカーと、ボクサーつまりプレイヤーがタッグを組んで戦うのだが、なぜ盛り上がったかというと、人間で行っていたボクシングは階級があったからだ。
ある階級でどんなに強くても体重の軽い選手は体重の重い選手には勝てない。
つまり、どんなに強いフライ級の選手でも、ヘビー級の選手と戦うのは、戦う前から結果が見えている。
『真のパウンドフォーパウンドを決める』という触れ込みで作られたスポーツだった。
『パウンドフォーパウンド』とは『もし体重差がないと仮定し、全階級のボクサーが同じ条件で戦った場合誰が一番強いのか』ということだ。
同じレギュレーションで作られたロボット同士で階級の違うボクサーが戦う。
ボクシングファンは大いに盛り上がった。
実際に、日本のストロー級のボクサーがスーパーヘヴィ級のボクサーを倒した試合は、その年のベストバウトとなり、大きな話題になった。
こういったリアルとメタバースを組み合わせた新しいeスポーツが流行ったのにはもう一つ理由があった。
『人が死なない』ということだった。
過酷なカーレース、飛行機レース、飛行機のドックファイト、体重差のある格闘技。
リアルで行えば事故で人が死んでしまう可能性のあるリスクの高い競技だ。
そのリスクがなくなり、純粋にその技術やテクニックを追求できる。
しかも、プログラムだけの世界だけじゃない、チートが存在しないスポーツ。
この新しいeスポーツ選手を目指す子供たちがどんどん増えていった。
俺もその一人だ。
小さい頃から運動はあんまり得意じゃなかった。
小学生の頃なんかは、足が早いだけでバカでもスクールカーストは上位だ。
中学に入っても、スポーツ部の特にサッカーやバスケをやっている奴らがモテていた。
でも、ゲームでは負けたことはなかった。
俺はeスポーツの選手を目指すことにした。
親には反対されたが、いろんな情報を見せ、説明して本気だってことを伝えた。
『大学に行きながらなら』という条件で俺はeスポーツ選手を目指した。
eスポーツには金がかかった。
高スペックのパソコンも必要だったし、まあ、ゲーミングチェアとかも?
大学には落第しない程度に通ったが、ほとんどはゲームとバイトに時間を費やした。
いろんなゲームを試したが、どうやらドローン系のシューティングが一番向いているようだった。
それでもやはりプロになるのは大変だった。
大会に出てもなかなか勝てない。
大学は無事卒業した。
就職は・・・勤務時間を見てきめた。
どれだけ、ゲームに時間を費やせれるか?そこを重視して就職先を決めた。
最新のパソコン、機材が欲しかったから、お金は少しでも節約したかった。
一人暮らしをせずに実家から会社に通った。
社会人になって2年・・・・・
ついにこの時が来た・・・・
『ドローンドックファイト』の大会で優勝した。
賞金は50万。
俺の2ヶ月分の金額だ。
これをきっかけに俺は調子を上げていった。
優勝はできなくても、2位や3位、いわゆる入賞を続けることができるようになった。
賞金もそこそこ稼げるようになっていた。
そろそろスポンサーから声がかかるんじゃないか・・・・
そんなことを欲が出てきた時だった、ある大会への招待が送られてきた。
普通の大会は自由参加だ。
誰でも参加できる代わりに、予選を何度も行い決勝にいくまで負けられない。
しかし、この大会はいきなり決勝大会からの参加の招待状だった。
いわばシード選手での参加だった、参加費も無料。
俺は大会の詳細を調べてみた。
・・・・世界でもトップレベルの選手たちが招待されている・・・・
『この大会で結果を残せたら・・・・』
俺は使える有給を全て使って大会に向けて練習をした。
今までの人生の中で一番努力した1週間だったかもしれない。
大会当日、俺はベスト32のトーナメントからの参加だ。
優勝するためには5回勝てば良い・・
まあ、最悪3回勝ってベスト8・・・・
いや、そんな弱気じゃダメだな・・・・
初戦は対戦したことのある選手だった。
結構クセのある選手だったので、対応は楽だった。
俺は勝利して、ベスト16。
次だな・・これに勝てばベスト8。
俺の中ではこのレベルの大会では最高の結果だ。
流石にこのレベルの相手は苦戦した・・・
しかし、なんとか勝利することができた。
これでベスト8・・・
しかし、トーナメント表をみた時からわかっていたんだけど、やはり彼が上がってきた。
世界ランク1位、今ナンバーワンの選手だ。
正直勝つのは難しいだろう、でももし勝つことができれば優勝も見えてくる。
負けたとしても、善戦をすればスポンサーが付くかもしれない。
俺は精一杯の力を出して戦った・・・
しかしやっぱり世界一は強かった・・・
惨敗という訳でもなければ、前線という訳でもない・・・
なんとも微妙な試合内容だった。
それでも俺は一応8位入賞という結果を残すことができた。
これをみていたスポンサーがいてくれれば良いのだが・・・・・
大会を終え、次の日久々に会社にいって仕事をしてきた。
有給を取りまくったせいで仕事が溜まっていた。
仕事を片付けて家に帰ってきて、携帯を確認すると気になるメッセージが届いていた。
『先日の大会を拝見しました』
おっ!!!!スポンサーか????
俺はすぐにそのメッセージを確認した。
『先日の大会を拝見させていただきました。ベスト8という結果でしたが、その戦い方は素晴らしいと感じました。その実力を弊社のイベントでも発揮させていただけないでしょうか?』
うん?スポンサーじゃないのか・・・イベント?
『弊社は、最新のAIとドローンを開発しております。その技術は世界のどの企業にも劣らない物と思っております。そこで、今回、優秀なドローンパイロット様と、弊社のAIドローンの対戦するイベントを開催しようと思っております。
貴殿は先日の大会でも世界トップクラスのドローンパイロットだと感じましたので、イベントのインビテーションを送らせていただきました。」
なんだ?しかも聞いたことの会社だな・・・スパムか?
『ルールは簡単です、弊社が用意したバトルフィールドに設置された基地を破壊していただければあなた方の勝ちです。しかし、それを阻止するために私たちはAIドローンであなたたちを攻撃します。
前回の大会のベスト8に残った選手にこのメッセージを送らせていただいています。
オッケーをいただいた選手の数の分、こちらもドローンを飛ばせていただきます』
なるほど・・・企業の広告用のイベントか・・・
まあ・・・ありえる話か・・・
俺は、この間の大会のベスト8に残った選手たちSNSをチェックした。
・・・確かにみんなに同じメッセージは届いているようだった。
参加するかどうかは・・・半々って感じか・・・
名前を売るためには・・こういうことも大事かもな・・・
俺は、メッセージに書いてある手順に従いイベント参加の意志を伝えた。
すぐに返信のメッセージが来た。
『ありがとうございます。参加費として100万円口座に振り込みをしております。イベントで勝利をすればボーナスで1000万を振り込みますので、ぜひ頑張ってください!!』
え?マジで?
俺はすぐに口座を確認した。
確かに100万円が振り込まれていた・・・
イベントは1週間後。
有給はもうあまり使えないので、寝る間を惜しんで練習をした。
いよいよイベント当日時間通りにメタバース内のイベント会場に到着した。
「初めてくるゲームエリアだな・・」
『選ばれし5名のプレイヤーのみなさん、ようこそ!!
早速ですが、ゲームのルールを説明します。あなた方のターゲットは、この基地です。
この基地を破壊できればあなた方の勝利!!!
もちろん、邪魔をしないわけはありません、こちら側はAIドローンを20機用意させていただきました。AIドローンを全て撃墜するか、攻撃かいくぐって基地を攻撃するか?
ちなみに基地を破壊できた場合は1人1000万円さし上げます、途中で撃墜された方も対象です。全員が撃墜された場合は残念賞として100万円差し上げます』
『あと、このイベントの模様は全世界に生配信されます。みなさんしっかりアピールしてくださいね』
「誰か1人でもクリアできれば1000万・・・撃墜されても100万・・・全世界生配信・・・・」
俺はテンションが上がっていた、クリアして1000万、そして活躍をしたら今度こそ確実にスポンサーから連絡がくるだろう。そして、勝てる可能性を感じていた。
俺を含めた5人のメンバーの中に、この間の大会、準々決勝で俺に勝ってそのまま優勝した、ナンバーワンプレイヤー『あらん(๑>◡<๑)』がいたからだ。
そうだな『あらん(๑>◡<๑)』の近くで、彼を守りながら様子を伺おう。
悔しいけどこの中でも彼がナンバーワンだ。
あと、今回俺には秘策があった。AIドローンと聞いて何も対応してこないはずはないと思っていた。おそらくこの間の大会の俺たちのデータは分析されているだろう。
ということは・・・俺はこの1週間、自分の癖を変える練習をひたすらやっていた。
特に攻撃するタイミング、0.数秒だが、遅らせたり、早めたりしても命中精度を下げないようにする練習を。
『GAME START!!!!』
さあ・・いよいよだ
AIドローンは?20機で編隊を組んで飛行してきたが、俺たちを発見すると4機づつの編隊に変更して襲いかかっていた。
ゲームエリアの至る所でドックファイトが始まった。
「よし!!!1機撃墜!!!」
「ビンゴーーーー!!!」
「くそっ・・・やられた・・・・」
俺は『あらん(๑>◡<๑)』を守りながら攻撃をしていた。
俺の予想は的中していた、俺の攻撃は次々と命中していた。
微妙にずらした攻撃のタイミングにAIドローンは対応できてなかった。
『あらん(๑>◡<๑)』もさすがだ・・・
次々と撃墜している。
3分くらいたっただろうか・・・
気がつくと残っているのは俺と『あらん(๑>◡<๑)』だけになっていた。
AIドローンは5機・・・・・
今日の調子なら・・・
俺がさらに1機のドローンを撃墜し残り4機・・・・
『あらん(๑>◡<๑)』が1機を撃墜した・・・・
その瞬間・・・・『あらん(๑>◡<๑)』が撃墜されてしまった。
3対1・・・・
俺は作戦変更して、このまま逃げ切りながら基地を攻撃することにした。
基地は目の前だ・・・・
俺は懸命の攻撃を回避しながら、基地に向かった・・・
もう少し・・・
『ボム発射射程圏内!!!ボム発射射程圏内!!!』
来た!!!!!カチッ!!!!
ボムが発射され基地が大爆発を起こした!!!!!!!!!
「やった!!!!」
『YOU WIN! Congratulations!!』
俺は早速メタバースから出て口座を確認した・・・・
1000万振り込まれてる!!!
しかも俺は今回五機も撃破した、最後の基地も俺が破壊した。
確実にスポンサーは俺に注目するだろう・・・
そういえば生配信をやっていたと言っていたな・・・
俺はモニターをつけた。
モニターにはリアルのドローンの対戦映像が流れていた。
「リアルはこんな場所でやっていたのか・・・・え?・・・ここって・・・」
「ただいまご覧にいただいている映像は、先ほど起こった、国会議事堂爆破事件の映像です。先ほど、正体不明の5機のドローンが国会議事堂を襲いました。自衛隊もドローンで応戦しましたが・・・・』
「あ・・・この後俺が・・・・・」
『ドカーーーーーーーン』
国会議事堂が木っ端微塵になった・・・・
「新しい情報が入りました。現在死亡を確認されている68人の中に・・・鈴木総理を確認したとのことです・・・総理暗殺です!!!」
「え?え?」
「なお、安否不明者も現在120人ほどいるということです、あ・・・警察が、実行犯に対して、破壊活動防止法、国際テロリスト法、内乱罪・・・その他多数の罪状で指名手配をしました。犯人はメタバース中のから犯行を行ったとみられ、現在メタバース内を解析中とのことです」
え?どういうことだ・・・俺がテロリストだって・・・・
『人が死ぬ心配がない』ことがeスポーツの良いところじゃなかったのか・・・
数分後、夥しいほどのサイレンの音がどんどん近づいてきた・・・
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