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第五話「運動会」
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世の中の人間がオリンピックに興味がなくなった。
商業的すぎるとか、政治的問題とか様々な問題で人々の不満が溜まっていたのは確かだが、ある選手の金メダルで人々のスポーツマンシップに対する興味が失われた。
その選手は、幼い頃から成長障害があり、ホルモン治療を行っていた。
そのため、身長は低いが明らかに筋力は異常に発達していた。
彼・・いや彼女はトランスジェンダーだった。テストステロンは値はあきらかに男性だったが、本人が女性だという主張をIOCは否定できなかった。
結果、彼女は女子100mで9秒72という、男子でも金メダルをとれるタイムでぶっちぎりの世界新記録で金メダリストになった。
世の中で議論が行われた。
「こうなってしまっては男女で分ける必要があるのか?」
「テストステロンで生物学上の男女をわけるべきではないのか?」
「男女だけでなくトランスジェンダーの枠を作るべきではないか?」
「ホルモン治療を受けた選手はドーピングなんじゃないか?」
IOCの判断はグダグダだった。
トランスジェンダーを認めたり、テストステロンで男女を分けてみたり、ドーピングの規定が大会ごとに変わったり。
『我々はスポーツマンシップにのっとり正々堂々と戦うことを誓います!!』
有名な選手宣誓だが、もはやスポーツマンシップも正々堂々という意味もよくわからなくなっていた。
同じようなことがパラリンピックでも起こった。
四肢がない選手がレギュレーションギリギリの最新義手、義足で100mで8秒92というオリンピックの記録よりも圧倒的に早いタイムで金メダルをとった。
彼の義手義足の金額は総額120億円だった。
さらに、その義手義足の能力を100%発揮するために、8回の手術総額12億円の治療費とそのためのトレーニングを行っていた。
いつのまにか、オリンピックはドーピングのルールをいかに守りながら薬物をつかう人体実験。パラリンピックはいかにレギュレーションの中で最高の義手、義足・・・義体を作れるか?ということに力が注がれることになった。
特にパラリンピックの変化が激しかった。
重度の障害を持った人間が、人間以上の能力を持つことができる義体技術やテクノロジーは企業にとっての絶好のアピールだった。
世界のロボット業界がこぞってパラリリストとスポンサー契約を結び、自社の最新技術のアピールを始めた。
ついに、一流アスリートが健常者であったのにもかかわらず、あえて両足を手術で切断し、オリンピックではなくパラリンピックに出場するという事態まで起こった。
最新の義足に合わせて最大の効果がある場所で足を切断、その後もそれに合わせたリハビリという名のトレーニングを行い、100mの世界新記録は8秒21まで短縮された。
元々のオリンピック、パラリンピックの思想などはもはや跡形もなくなっていった。
オリンピックは、ドーピングの範囲内(健康を害さない程度の)の投薬を争う人体実験ショー。
パラリンピックはレギュレーション内の義体やテクノロジーを争う改造人間ショーと化していた。
しかし・・姿を変えたこの運動会は思わぬ方向で盛り上がって行った。
とくにパラリンピック。
多くの大手企業、特にテクノロジー系の企業のスポンサーが付き、かつて盛り上がったオリンピックよりもさらに豪華に、派手に大会が行われることになった。
パラリンピックはいわば各国の最新技術のお披露目会だ。
人体改造・・・その技術はもちろん軍事転用も可能だ。
そういった側面でも各国パラリンピックには力を入れていた。
変わらないこともあった。
パラリンピックでも一番人気は100m走だった。
決勝レースのTV、ネットでの生中継は全世界で50%近い視聴率があった。
やはり単純でわかりやすい、世界で一番早い人間にみな興味があるんだろう。
選手たちのことを人間と呼んで良いかわからないが・・・
パラリンピックは大国が圧倒的に強かった。
アメリカ、中国、ロシア。次にインド。
彼らは技術力も資金力もある、そして、裏でかなりエグいことをしていたようだった。
俺もパラアスリートだ、100m日本代表だ。
日本は技術力は高く、アーチェリーなどの高度なセンサーやAIを使用した競技には強かったが、義体やアンドロイドが有利な競技では遅れをとっていた。
ああ、そうだ。パラリンピックはアンドロイドの参加も認められていた。
パラリンピックのレギュレーション内のアンドロイドの定義は、DNAが50%以上人間の物が使われている人造人間。
俺はそんな日本が100mで悲願の金メダルをとるために作られた人間だ。
大国が裏でエグいことをしていると言ったが、俺も相当なものだ。
まず俺はデザインベイビーだ、何百万人の中から選ばれた優秀な精子と卵子を人工授精して作られた、そして遺伝子操作で、腕は肘まで、足は太腿まで、義体を装着するために作られた身体で生まれてきた。
そして最新の技術で作られた義手と義足を装備している。
日本の最高傑作と言われた俺は周りの期待通り、金メダル、世界新記録を狙える選手となり、今100mの決勝のレーンに立っている・・・
しかし・・中国が恐ろしい選手を作り出した。
その選手は足が4本あった。
いや、正確には腕に足のような義手をつけている選手だった。
足を増やしてはいけないと言うレギュレーションは確かになかった。
しかし、単純に足を増やせば獣のように走れるわけではない。
この選手は俺以上に遺伝子を操作され、特殊なトレーニングを積んできたんだろう。
俺も体験したような、死にたくなるような辛いトレーニングを・・・・・
4本足の中国選手は準決勝で圧勝だった。
明らかに軽く流しているようにみえたが世界新記録に迫るタイムで決勝に上がってきた。
俺も準決勝は100%の力では走らなかったが、正直この選手に勝てる気はしなかった。
もう1人注目されている選手がいた。
ナミビアの選手だった、予選のタイムは4位とギリギリメダル争いをできるか?って感じだったが、注目を浴びた理由はその姿だった。
俺を含め全ての選手が機能を優先した『いかにも』という義体を装備している中、彼は完全な人型アンドロイドだった。
身長は2mくらいだろうか、走るために作られたであろう人間離れした長い手足、美しい筋肉、小さな顔、芸術品のような綺麗なフォルムだった。
ナミビアということも注目された理由だった、経済大国の大手企業が開発した義体を装備してる選手が多い中、大企業がないアフリカの国のアンドロイドが決勝に上がってきたのが稀なことだったからだ。ひょっとしたら天才的なアンドロイド技術者がナミビアに隠れているんじゃないか?と噂になっていた。
4レーンに中国選手、5レーンに俺、6レーンにナミビア選手
いよいよ決勝のスタートだ・・・・・・・
『On Your Marks』
『set』
パン!!!!
よし、完璧なスタートが切れた!
20m、俺はトップを走っていた。
タタンッタタンッ
聞いた事のない変なリズムの足音が聞こえた。
中国の選手だった、50mに差し掛かる前に俺は中国の選手に抜かれた
『早すぎる・・・あんなのに勝てるはずがない・・・』
そう思った時、俺は右側に風を感じた。
ナミビアの選手が俺を抜いて行った。
中国の選手の足音とは対照的に、いや、足音なんてほとんど聞こえない本当に風のように俺を追い抜いて行った。
そのフォームは美しかった、長い手足がムチのようにしなり、筋肉が躍動していた。
まるでチーター、いや褐色の肌のせいか黒豹のように美しかった。
完璧なプログラムで動いているんだろう・・・まさしく芸術品だ。
残り5m、ナミビアの選手はついに中国の選手を追い抜き、1位でゴールした。
記録は・・・7秒77!!世界新記録だった。
俺はギリギリ3位、銅メダルを獲ることができた。
ナミビアの国旗を掲げて喜んでいる選手に近づき、俺は祝福の言葉を掛けに話しかけた。
「おめでとう!!早かったよ!!」
「アリガトウゴザイマス!!」
「しかしすごい技術だね・・完全な人型でこんなすごいアンドロイドみたことないよ・・・なんて会社の製造?」
「カイシャ??」
「ああ・どこで作られたの?」
「ツクラレタ?・・・・・エート、パパトママガ、ツクッテクレマシタ笑」
「え?」
「ボクハ、タダノニンゲンデスヨ、キカイ、ツカッテナイ」
「え?生身の人間がオリンピックじゃなくてパラリンピックに?」
「ハイ!パラノホウガ、キロクハヤイシ、オリンピックハ、ドーピングシタニンゲンシカ、サンカデキナイルールデス」
「え?」
「パラ、カイゾウシテナイニンゲン、サンカシチャイケナイルールナイヨ」
オリンピックもパラリンピックもすっかり変わってしまった。
商業的すぎるとか、政治的問題とか様々な問題で人々の不満が溜まっていたのは確かだが、ある選手の金メダルで人々のスポーツマンシップに対する興味が失われた。
その選手は、幼い頃から成長障害があり、ホルモン治療を行っていた。
そのため、身長は低いが明らかに筋力は異常に発達していた。
彼・・いや彼女はトランスジェンダーだった。テストステロンは値はあきらかに男性だったが、本人が女性だという主張をIOCは否定できなかった。
結果、彼女は女子100mで9秒72という、男子でも金メダルをとれるタイムでぶっちぎりの世界新記録で金メダリストになった。
世の中で議論が行われた。
「こうなってしまっては男女で分ける必要があるのか?」
「テストステロンで生物学上の男女をわけるべきではないのか?」
「男女だけでなくトランスジェンダーの枠を作るべきではないか?」
「ホルモン治療を受けた選手はドーピングなんじゃないか?」
IOCの判断はグダグダだった。
トランスジェンダーを認めたり、テストステロンで男女を分けてみたり、ドーピングの規定が大会ごとに変わったり。
『我々はスポーツマンシップにのっとり正々堂々と戦うことを誓います!!』
有名な選手宣誓だが、もはやスポーツマンシップも正々堂々という意味もよくわからなくなっていた。
同じようなことがパラリンピックでも起こった。
四肢がない選手がレギュレーションギリギリの最新義手、義足で100mで8秒92というオリンピックの記録よりも圧倒的に早いタイムで金メダルをとった。
彼の義手義足の金額は総額120億円だった。
さらに、その義手義足の能力を100%発揮するために、8回の手術総額12億円の治療費とそのためのトレーニングを行っていた。
いつのまにか、オリンピックはドーピングのルールをいかに守りながら薬物をつかう人体実験。パラリンピックはいかにレギュレーションの中で最高の義手、義足・・・義体を作れるか?ということに力が注がれることになった。
特にパラリンピックの変化が激しかった。
重度の障害を持った人間が、人間以上の能力を持つことができる義体技術やテクノロジーは企業にとっての絶好のアピールだった。
世界のロボット業界がこぞってパラリリストとスポンサー契約を結び、自社の最新技術のアピールを始めた。
ついに、一流アスリートが健常者であったのにもかかわらず、あえて両足を手術で切断し、オリンピックではなくパラリンピックに出場するという事態まで起こった。
最新の義足に合わせて最大の効果がある場所で足を切断、その後もそれに合わせたリハビリという名のトレーニングを行い、100mの世界新記録は8秒21まで短縮された。
元々のオリンピック、パラリンピックの思想などはもはや跡形もなくなっていった。
オリンピックは、ドーピングの範囲内(健康を害さない程度の)の投薬を争う人体実験ショー。
パラリンピックはレギュレーション内の義体やテクノロジーを争う改造人間ショーと化していた。
しかし・・姿を変えたこの運動会は思わぬ方向で盛り上がって行った。
とくにパラリンピック。
多くの大手企業、特にテクノロジー系の企業のスポンサーが付き、かつて盛り上がったオリンピックよりもさらに豪華に、派手に大会が行われることになった。
パラリンピックはいわば各国の最新技術のお披露目会だ。
人体改造・・・その技術はもちろん軍事転用も可能だ。
そういった側面でも各国パラリンピックには力を入れていた。
変わらないこともあった。
パラリンピックでも一番人気は100m走だった。
決勝レースのTV、ネットでの生中継は全世界で50%近い視聴率があった。
やはり単純でわかりやすい、世界で一番早い人間にみな興味があるんだろう。
選手たちのことを人間と呼んで良いかわからないが・・・
パラリンピックは大国が圧倒的に強かった。
アメリカ、中国、ロシア。次にインド。
彼らは技術力も資金力もある、そして、裏でかなりエグいことをしていたようだった。
俺もパラアスリートだ、100m日本代表だ。
日本は技術力は高く、アーチェリーなどの高度なセンサーやAIを使用した競技には強かったが、義体やアンドロイドが有利な競技では遅れをとっていた。
ああ、そうだ。パラリンピックはアンドロイドの参加も認められていた。
パラリンピックのレギュレーション内のアンドロイドの定義は、DNAが50%以上人間の物が使われている人造人間。
俺はそんな日本が100mで悲願の金メダルをとるために作られた人間だ。
大国が裏でエグいことをしていると言ったが、俺も相当なものだ。
まず俺はデザインベイビーだ、何百万人の中から選ばれた優秀な精子と卵子を人工授精して作られた、そして遺伝子操作で、腕は肘まで、足は太腿まで、義体を装着するために作られた身体で生まれてきた。
そして最新の技術で作られた義手と義足を装備している。
日本の最高傑作と言われた俺は周りの期待通り、金メダル、世界新記録を狙える選手となり、今100mの決勝のレーンに立っている・・・
しかし・・中国が恐ろしい選手を作り出した。
その選手は足が4本あった。
いや、正確には腕に足のような義手をつけている選手だった。
足を増やしてはいけないと言うレギュレーションは確かになかった。
しかし、単純に足を増やせば獣のように走れるわけではない。
この選手は俺以上に遺伝子を操作され、特殊なトレーニングを積んできたんだろう。
俺も体験したような、死にたくなるような辛いトレーニングを・・・・・
4本足の中国選手は準決勝で圧勝だった。
明らかに軽く流しているようにみえたが世界新記録に迫るタイムで決勝に上がってきた。
俺も準決勝は100%の力では走らなかったが、正直この選手に勝てる気はしなかった。
もう1人注目されている選手がいた。
ナミビアの選手だった、予選のタイムは4位とギリギリメダル争いをできるか?って感じだったが、注目を浴びた理由はその姿だった。
俺を含め全ての選手が機能を優先した『いかにも』という義体を装備している中、彼は完全な人型アンドロイドだった。
身長は2mくらいだろうか、走るために作られたであろう人間離れした長い手足、美しい筋肉、小さな顔、芸術品のような綺麗なフォルムだった。
ナミビアということも注目された理由だった、経済大国の大手企業が開発した義体を装備してる選手が多い中、大企業がないアフリカの国のアンドロイドが決勝に上がってきたのが稀なことだったからだ。ひょっとしたら天才的なアンドロイド技術者がナミビアに隠れているんじゃないか?と噂になっていた。
4レーンに中国選手、5レーンに俺、6レーンにナミビア選手
いよいよ決勝のスタートだ・・・・・・・
『On Your Marks』
『set』
パン!!!!
よし、完璧なスタートが切れた!
20m、俺はトップを走っていた。
タタンッタタンッ
聞いた事のない変なリズムの足音が聞こえた。
中国の選手だった、50mに差し掛かる前に俺は中国の選手に抜かれた
『早すぎる・・・あんなのに勝てるはずがない・・・』
そう思った時、俺は右側に風を感じた。
ナミビアの選手が俺を抜いて行った。
中国の選手の足音とは対照的に、いや、足音なんてほとんど聞こえない本当に風のように俺を追い抜いて行った。
そのフォームは美しかった、長い手足がムチのようにしなり、筋肉が躍動していた。
まるでチーター、いや褐色の肌のせいか黒豹のように美しかった。
完璧なプログラムで動いているんだろう・・・まさしく芸術品だ。
残り5m、ナミビアの選手はついに中国の選手を追い抜き、1位でゴールした。
記録は・・・7秒77!!世界新記録だった。
俺はギリギリ3位、銅メダルを獲ることができた。
ナミビアの国旗を掲げて喜んでいる選手に近づき、俺は祝福の言葉を掛けに話しかけた。
「おめでとう!!早かったよ!!」
「アリガトウゴザイマス!!」
「しかしすごい技術だね・・完全な人型でこんなすごいアンドロイドみたことないよ・・・なんて会社の製造?」
「カイシャ??」
「ああ・どこで作られたの?」
「ツクラレタ?・・・・・エート、パパトママガ、ツクッテクレマシタ笑」
「え?」
「ボクハ、タダノニンゲンデスヨ、キカイ、ツカッテナイ」
「え?生身の人間がオリンピックじゃなくてパラリンピックに?」
「ハイ!パラノホウガ、キロクハヤイシ、オリンピックハ、ドーピングシタニンゲンシカ、サンカデキナイルールデス」
「え?」
「パラ、カイゾウシテナイニンゲン、サンカシチャイケナイルールナイヨ」
オリンピックもパラリンピックもすっかり変わってしまった。
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