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天界 編

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カミーユの気持ちが固まってから数日後、ふたりは白亜の宮殿にいた。
いつもカミーユのいる城とは違い、きらびやかで華やかなそこへ黒虎と転移してみれば、迎えに現れた仔馬たちが申し訳なさそうに頭を下げる。
「恐れ入りますがしばらくお待ちいただけますでしょうか」
「約束の刻だが?」
「大変申し訳ございません。もう暫くこちらで」
仔馬たちを目力だけで下がらせた黒虎が、目の前の大きく豪奢な扉を触れもせずに開ける。
扉を開けた先の状態に、大きな目をさらに大きくしたカミーユは慌てて俯いた。
広い部屋の大きな寝台に幾人もの影が蠢いていて、甘ったるいにおいに混じり、肌同士がぶつかる音と、艶めかしい女の声が飛び込んできたからだ。

衛兵養成所に続き、最中を目の当たりにするとは!
正確には、養成所では女の声と寝台の軋む音だけだったが、今回は視界にもだ。

カミーユは俯いたまま両耳を両手で塞ぐ。そんなカミーユをちら見した黒虎が、耳の機能を一時弱くしてくれたらしく、嬌声が小さくなってホッとする。

「はくば」

黒虎が白馬を呼んだ途端、黒虎とカミーユ、最中だった男は別の部屋へと転移していた。

黒虎の力って本当にすごい。さすが王様。

「告げた刻でおまえも承知したはずだが」
つい今までまぐわっていて全裸の白馬をさげすむ目で見ている黒虎の声が怖い。
「少しくらい待ってくれてもいいじゃないか」
白馬はもう少しだったのにとか際どいことをぶつぶつ言いながらも下ばきを上げてくれて、カミーユはホッとした。
「性交は約を違えてまでしなくてはならないことか?」
黒虎は白馬を一瞥する。
「僕があんなにたくさんの娘とまぐわうのは、くろとらのせいでもあるんだよ」

どういうこと?

カミーユが見上げると、黒虎は呆れ顔を作っていた。
「ひとりにたくさん産ませれば済むことをひとのせいにするな」
「相性とかあるよね?その上、魔力が高いから着床率が低いし、たくさんしないとできないし。くろとらには可能でも僕たち・・・には無理なの!僕がスキモノみたいに言わないで!」

だからといって一度に何人もを寝台に侍らせることないよね。

カミーユが思ったことと同じ感想なのだろう黒虎が呆れ顔をしたままなのは頷けた。

「くろとらが、そのニンゲンしか嫁に迎えないから、僕にお鉢が回ってくるんだよ。高く質の良い魔力を持つ子をたくさん作れって。ニンゲンじゃ、高い魔力を持つ子なんて望めないし、オスじゃたくさん産めないでしょ」
「子を作るためだけに嫁を取るみたいないい方はやめろ」
「それは建前だろ」
「違う」

間髪入れず否定する黒虎を見上げる。

「カミーユ以外の嫁はいらない。カミーユとの子は欲しい。それが普通だろう」

見上げるカミーユの顔がかっと熱くなった。白馬も目を丸くしている。
「な、…!」
しどろもどろのカミーユの肩をぽんと黒虎が軽く叩く。
白馬があ~あと声を上げた。
「はいはいはい。わかりましたよ、くろとら
白馬が指を鳴らすと卓と人数分の椅子が現れた。タイミングを計ったように扉が開き、かわいらしい従者たちが紅茶を淹れた茶器を配置し、部屋を出ていく。
「それで、本日の目的はなんなのかな。嫁の嫁としての生殖器はほぼ消滅してるみたいだけど」
「カミーユをいやらしい目で見るな」
「裸を見たんじゃなくて体内でしょ。オスに興味ないし」
白馬が優雅にさわやかな香りのする紅茶を一口含む。
「それで、ご要件はなんでしょうか、くろとら

「無事に子が生まれるまで、天界が平穏を保てるよう協力してほしい」
「どうかお願いします」
頭を垂れる黒虎とカミーユに白馬は茶器を持ったまま瞠目する。

くろとらは天界で絶対の存在。
異母兄弟であるはくばには寛容に接してくれているが、本来ならば軽口を叩けるような存在ではない。
はくばなど簡単に捻りつぶせる魔力を持つ天界の王。
誰かに頼みごとをするとか、ましてや頭を垂れるなど考えられないことなのだ。

黒虎の隣に座り、卓につくほどに頭を下げているカミーユに、白馬はふっと表情をやわらげた。

「こんなくろとらを見れるなんて、天界半分押し付けられた甲斐があるってことかなあ」

茶器を置いた白馬は、益々僕のところに年頃の娘が寄ってくるなあと心中で呟いた。



*

白馬の協力を得る諾をもらってから、地方の有力神様らとも会談を設けるなど、天界の平和を護るべく黒虎は立ち回っている。
白馬の住む宮殿に行く時は「絶対一緒にお願いに行く」と強硬な態度をとったからか連れて行ってくれたけど、地方の有力神様たちも交えた会合の時は「許可しない」とカミーユは置いて行かれた。
天界の平和を護るために協力を要請しようと言い出したのはもちろんカミーユだ。黒虎は面倒くさそうな顔をしていたが、協力を得られないなら子供は諦めてといえば、しぶしぶ了承してくれた。

それでも、白馬にはちゃんと頭を下げて協力を願い出てくれたし、カミーユを見る目は本当に優しい。人間界で小馬鹿にしたように見られていたのは何だったのか。今はそっちの方が嘘だったのではと思える黒虎のやわらかい視線と手つきに結構戸惑う。

相手が人間であったなら好かれているのかなと思うところだけれど、神様にそんな感情があるのか疑わしい。

『カミーユ以外の嫁はいらない。カミーユとの子は欲しい』

魂が好みだっていうのと好きというのはちょっと違うよな。
惹かれたっていうのはどういう意味なのか。
…俺としては魂云々じゃなく…って何考えてんだ!?

ぶんぶんと頭を左右に振っているところへ、灰虎が甘い水を入れた水差しとコップをトレイに乗せて籠に入ってきた。
「どうしましたか」
「…あ、うん。運動不足で体が鈍ってるからちょっと体操…」
「高慢だと思っていたくろとら様の殊勝さと、その変わりようの理由を考えておられましたか」
甘い水を注いだコップを差し出され、反射で受け取ったカミーユは灰虎の顔を凝視した。
「……心をよめるのか」
「まあ、多少は」
灰虎はにっこりと微笑む。
ばつが悪くなったカミーユは顔を背け、甘い水をごくんと飲んだ。
「多少不安ではありましたが、カミーユ様のお心の変化に安堵いたしました」
灰虎の言葉に疑問を持ったカミーユが振り返る。
「異界の者との婚姻は、心が通じ合わないと子ができないと言われております」
「え!?そうなのか?」
「私の生まれる前の話しですので真偽のほどはわかりませんが、人間界から輿入れした者とは心を通わせるまで全く子を授からなかったと」

……それって、意に沿わないままの人間をこっちに連れてきちゃったんじゃないのか!?

カミーユの心をまたよんだのか、灰虎は少し顔を背け視線を逸らした。

やっぱそうじゃんか!人攫い!!

「大昔のことはさておき、カミーユ様」

話しを無理矢理切り変えてきた灰虎がカミーユを見つめる。

「くろとら様の御子を成すことには覚悟を決めたようですが、それはくろとら様への好意、と受け取ってもよろしいのでしょうか」

好意

「そっ、そりゃ、いやなやつとはさすがにあんなことできないだろ」
「その好意とは詳しくはどのようなものでしょう」
カミーユは受け取った甘い水を一気に飲み干し、トレイにコップを戻した。勢い余って水差しを倒しそうになったが灰虎が抑えてくれる。
「そんなの灰虎に関係ないだろ!なんか眠いからもう寝る!」


黒い毛皮に頭までもぐりこんだカミーユに一礼をした灰虎は籠を辞し、自身の執務室へ移る。

くろとら様の御子を拝謁する日はそう遠くはないかもしれないですね。
心中でそうごちる灰虎の笑みは穏やかだった。







【補足】カミーユを見せたくないから神様を城に集めず出向く黒虎
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