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西の辺境-衛兵養成所 編
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「カミーユ。今宵はおまえに辛い使命を告げに来たのだ」
ランベルト最高位宰相閣下が国王邸のカミーユの部屋を訪れるのは稀どころか初めてだった。ランベルト邸に住んでいた時でさえ一度しか部屋には来ていない。
ランベルトは一年半ほど前に退官した宰相に変わり最高位宰相になった。コンスティアンの宰相職は三名とその助手で構成されているが、当時31歳だったランベルトが最高位に就く時はかなり王宮内でも話題になった。コンスティアン国歴代宰相中、最年少での就任だったからだ。
最高位宰相に就任してからのランベルトは以前にも増して冷徹な雰囲気を醸し出していたが、今は苦渋に満ちた表情をしていて、尚更カミーユは緊張した。
「衛兵養成所へ行って欲しい」
思っていた言葉と違い、カミーユは暫し何も言えなかった。
衛兵養成所はコンスティアン全土に点在する。王宮内ではないが王都にもある。衛兵養成は最短でも一年を要することはここ二年での勉強でカミーユも知っていた。基本、寄宿舎に入ることも。
約二年前の一月にレアンドロ王太子殿下は戴冠し、コンスティアン国王陛下となった。戴冠日には成婚式もあり、隣国:ラインハルト皇国第二皇女であるアリエル姫を迎え妃としている。
カミーユは男性であるがレアンドロ陛下の愛人である。
コンスティアンには後宮制度もなければ一夫一妻制をしいているうえに同性婚も認められていない。
なので側妃でも愛妾でもなく愛人だ。
愛人とは公ではない立場であり、王族専用の遊廓であるハーレムの住人と同じような位置づけだ。
ハーレムに住まう男女は不特定の王族を相手に枷を務めるが、愛人は特定の者にだけだ。愛人とハーレム住人との大きな違いは住まう場所と相手が特定か否かだけである。
愛人をやめてほしいと言われると覚悟していたカミーユは、ほんの少しだけ安堵した。ただ、寄宿舎入りは免れないだろう。それでも週に一度は休みが与えられると聞くし、その度にここに帰ってくればいい。
カミーユは心中でそう己を宥めた。
「養成所はレオニダだ」
追加の言葉にカミーユの大きな瞳がさらに大きく見開かれた。
紺青の瞳が揺れたことに気付いたランベルトの胸が軋む。
レオニダ。
王都から馬車で五日もかかる辺境村だ。単騎で駿馬を飛ばしても片道二日はかかるだろう。
「…レオニダではないとだめなのでしょうか。もっと他に王都に近い」
「…私の意図が分かっていないわけではあるまい」
カミーユの瞳がさらに揺れた。それでもカミーユは唇をきゅっと真一文字に結んでから、ランベルトに答えた。
「……分かっています」
コンスティアン建国以来最大最強と言われる魔力を持つ現王レアンドロには、次代の優秀な子を成すという使命がある。成婚から二年が経とうとしている今現在、アリエル妃との間に子はひとりもいない。妃との間にだけではなく、レアンドロには血を分けた子が未だにひとりもいなかった。
カミーユを王邸に迎えてから、レアンドロはハーレムに一度たりとも足を向けていない。
「……しかしながらそれは、…ランベルト最高位宰相も分かっていたことではないですか」
カミーユの言葉にランベルトの表情筋は少しも動かない。
「…レアンドロ…陛下は、女性がだめで、だから、俺が、連れて来られたんだから…!」
カミーユは王都から北東に位置する辺境にある精霊村出身だ。
王族と精霊の村人しか知らないことだが、精霊村は王族の伽を務める者を排出するために存在する。精霊の血を継ぐ者との性交は魔力の安定を図る最良の方法と言われている。カミーユは、三年ほど前、女性を受け付けない身体のレアンドロの伽をするために王宮に連れて来られた少年だった。
伽を務めるために王宮に来た少年とレアンドロ殿下は逢瀬を重ねるに連れ次第に惹かれあっていたのだが、互いのことを思う余り破局を迎える寸でまで行き、周囲の人々の協力もあり漸く結ばれたという経緯がある。
だが、コンスティアンを治める王と同性のカミーユではどうあっても結婚は出来ず、カミーユは王の愛人と言う微妙な立ち位置にいた。
カミーユは少しでも周りに認められる人間になろうと勉強に鍛錬に勤しむ日々を送っていた。
衛兵養成所は剣術や弓術を学ぶには適した場所だ。体の鍛錬もできる。だが、三ヶ月に一度の長期休暇以外は王都に戻ることも出来ない距離にある養成所に入ることは躊躇われた。
「陛下は女も抱ける」
ランベルトの返答に今度こそカミーユは動揺した。
「なに言ってんだよ。だって俺が王宮に連れて来られたのは」
動揺したカミーユは敬語を使うことも忘れている。
「レアンドロ殿下が精通を迎えてから数年、伽を務めていたのは皆女性だ」
「…うそ」
「嘘ではない。当然、閨作法も然るべき家柄の女に」
「嘘だ」
「……」
「…嘘じゃなかったら、俺はずっとレアンドロに騙されてたってことになるじゃないか…」
「カミーユ…」
「ランベルトだって俺を騙してたってことじゃないか」
「カミーユ」
「放せ!」
190センチを超える身長のランベルトほどではないが、カミーユもかなり背が伸び、鍛錬の甲斐もあって全体にうっすらと筋肉のついた美しい肢体に成長していた。この二年で見た目はすっかり少年ぽさが抜けたカミーユだが、たった今ランベルトから受けた告白はショックが大き過ぎて動揺していた。
肩を掴み宥めようとしたランベルトの手を力任せに剥ぎ取る。
「落ちつけ。話しを最後まで聞け」
「なんで騙したんだよ。もし女も大丈夫だったなら、俺じゃなくて他の…」
「あれぇ。カミーユちゃんはあいつが女とデキるんだったら俺は王都に来なかったのにって言いたいのかぁ?」
声に振り向けば、大男が寝台に寝そべっていた。
真っ黒の髪に黒褐色の肌。黒のワンピースを纏った大男を目にして、カミーユの感情が一気にそちらに向いた。
「俺の寝台に寝るなと言っただろう!」
「こんなにでっかいんだからカミーユが一緒に乗っても平気だぞ」
「誰がおまえとなんか一緒に寝るか」
「ランベルトがいるからってそんなに照れるな。いつもはもっと素直に」
「嘘をつくな!」
「怒るなよ。綺麗な顔が台無しだぞ」
大男は愉快そうに笑いながら寝そべった横をぽんぽんと叩く。
「俺様が添い寝をしてやろう。ついでにレアンドロなんぞ忘れるくらい快楽に溺れさせてやる。ほら来い」
こいつが来ると調子が狂う。いつも俺のことをばかにしてからかいやがって。
今日こそしっかり抗議してやろうと寝台に一歩足を踏み出したカミーユの肩を、ランベルトが後ろから掴んで引き留めた。
「聖獣様。ここはレアンドロ陛下の親愛なる御方の部屋でございます。入室はどうか御遠慮下さいと今までも何度も申し上げておりますが」
そう。こいつは魔獣。じゃなかった。レアンドロの契約獣だ。
今は人間に変化しているが、正体は…なんだろう。獣は間違いないけど、実在の動物に例えるならいちばん近いのが虎だと思う。
魔力の質量が多い王族には、成人を過ぎると聖獣が契約をしてくれる場合があるんだそうだ。契約獣のついた王族はさらに強力な魔導を使えるようになるらしく、聖獣に選ばれるということはとても名誉なことだと本には書いてあった。
こんなのに選ばれるのが名誉だって?と思うのだが。
「ランベルトって本当にカタイなー。そんなんだから、好きなヤツ口説くのに何年もかかって」
「余計なことは言わなくて結構です」
“聖獣様”とか言っておきながらランベルトはぴしゃりと大男の言葉を遮った。
「聖獣様。カミーユに大事な話しがあるのです。席を外していただきたいのですが」
「あー分かった分かった。そんな怖い顔することないだろ。そんなだからいつまでたってもあいつは気付かずに」
「だから余計なことは言うなとさっきから言っていますよね」
ニヤニヤ笑いながら大男に化けた聖獣が寝台から上半身を起こした。
「はいはい。退散してやるよ。カミーユちゃん、またな」
「金輪際、無断でカミーユの部屋に入室しないでくださいね」
ランベルトの次の言葉に応えることなく、あっという間に聖獣の姿は部屋からかき消えていた。
ランベルトとカミーユは意図せずに同時にふうと息を吐き出していた。
「陛下の聖獣様はお調子者で困ります」
聖獣の愚痴をぽろりと零したランベルトは、カミーユの身体を反転させ、しっかりと目を見据えて話しだした。
「カミーユ。陛下は決しておまえを騙しているわけじゃない。…陛下が成人される前、王族はもとより、お父上である前陛下や正妃様などとも関係を断絶したことは知っているだろう。それに起因するのだ」
「ぇ」
カミーユの胸の奥がぎゅっと掴まれたように痛みを訴える。
…王族を、魔力を持つ者を、忌み避けたのかもしれない。
過去に大切な人を自身が持つ甚大な魔力のせいで失ったようなことを聞いた。
…そういえば、女性を抱けないとレアンドロの口から直接聞いていたわけではない。
失くした人というのはもしかしたら愛した女性だったのかもしれない…。
「詳しくは話すことなどできないが…すまない」
カミーユは静かに頭を振った。
「…レアンドロが自身の過去についてとても苦しんでいるのは分かっています」
まだレアンドロが王太子だった頃、自分が少しでも癒しを与えられる存在になれればいいと、カミーユは現陛下の手をとった。王になれば妃を娶り、子を成さなければならないことは承知していた。これは避けては通れないことなのだ。アリエル妃と過ごした翌日カミーユのもとを訪れるレアンドロは苦痛を耐えたような表情を時折見せていた。互いに幾分無理を承知でそのことには触れずにきた。あんなに辛そうな顔を見せるのだ。…どんな方法で子を成すのか些か疑問に感じてはいたが、女性を抱けるのなら…アリエル妃との間に子供をもうけることができるのなら、カミーユにそれを阻む権利など無いのだ。
カミーユは男で、レアンドロの子を成すことなどできないのだから。
ランベルト最高位宰相閣下が国王邸のカミーユの部屋を訪れるのは稀どころか初めてだった。ランベルト邸に住んでいた時でさえ一度しか部屋には来ていない。
ランベルトは一年半ほど前に退官した宰相に変わり最高位宰相になった。コンスティアンの宰相職は三名とその助手で構成されているが、当時31歳だったランベルトが最高位に就く時はかなり王宮内でも話題になった。コンスティアン国歴代宰相中、最年少での就任だったからだ。
最高位宰相に就任してからのランベルトは以前にも増して冷徹な雰囲気を醸し出していたが、今は苦渋に満ちた表情をしていて、尚更カミーユは緊張した。
「衛兵養成所へ行って欲しい」
思っていた言葉と違い、カミーユは暫し何も言えなかった。
衛兵養成所はコンスティアン全土に点在する。王宮内ではないが王都にもある。衛兵養成は最短でも一年を要することはここ二年での勉強でカミーユも知っていた。基本、寄宿舎に入ることも。
約二年前の一月にレアンドロ王太子殿下は戴冠し、コンスティアン国王陛下となった。戴冠日には成婚式もあり、隣国:ラインハルト皇国第二皇女であるアリエル姫を迎え妃としている。
カミーユは男性であるがレアンドロ陛下の愛人である。
コンスティアンには後宮制度もなければ一夫一妻制をしいているうえに同性婚も認められていない。
なので側妃でも愛妾でもなく愛人だ。
愛人とは公ではない立場であり、王族専用の遊廓であるハーレムの住人と同じような位置づけだ。
ハーレムに住まう男女は不特定の王族を相手に枷を務めるが、愛人は特定の者にだけだ。愛人とハーレム住人との大きな違いは住まう場所と相手が特定か否かだけである。
愛人をやめてほしいと言われると覚悟していたカミーユは、ほんの少しだけ安堵した。ただ、寄宿舎入りは免れないだろう。それでも週に一度は休みが与えられると聞くし、その度にここに帰ってくればいい。
カミーユは心中でそう己を宥めた。
「養成所はレオニダだ」
追加の言葉にカミーユの大きな瞳がさらに大きく見開かれた。
紺青の瞳が揺れたことに気付いたランベルトの胸が軋む。
レオニダ。
王都から馬車で五日もかかる辺境村だ。単騎で駿馬を飛ばしても片道二日はかかるだろう。
「…レオニダではないとだめなのでしょうか。もっと他に王都に近い」
「…私の意図が分かっていないわけではあるまい」
カミーユの瞳がさらに揺れた。それでもカミーユは唇をきゅっと真一文字に結んでから、ランベルトに答えた。
「……分かっています」
コンスティアン建国以来最大最強と言われる魔力を持つ現王レアンドロには、次代の優秀な子を成すという使命がある。成婚から二年が経とうとしている今現在、アリエル妃との間に子はひとりもいない。妃との間にだけではなく、レアンドロには血を分けた子が未だにひとりもいなかった。
カミーユを王邸に迎えてから、レアンドロはハーレムに一度たりとも足を向けていない。
「……しかしながらそれは、…ランベルト最高位宰相も分かっていたことではないですか」
カミーユの言葉にランベルトの表情筋は少しも動かない。
「…レアンドロ…陛下は、女性がだめで、だから、俺が、連れて来られたんだから…!」
カミーユは王都から北東に位置する辺境にある精霊村出身だ。
王族と精霊の村人しか知らないことだが、精霊村は王族の伽を務める者を排出するために存在する。精霊の血を継ぐ者との性交は魔力の安定を図る最良の方法と言われている。カミーユは、三年ほど前、女性を受け付けない身体のレアンドロの伽をするために王宮に連れて来られた少年だった。
伽を務めるために王宮に来た少年とレアンドロ殿下は逢瀬を重ねるに連れ次第に惹かれあっていたのだが、互いのことを思う余り破局を迎える寸でまで行き、周囲の人々の協力もあり漸く結ばれたという経緯がある。
だが、コンスティアンを治める王と同性のカミーユではどうあっても結婚は出来ず、カミーユは王の愛人と言う微妙な立ち位置にいた。
カミーユは少しでも周りに認められる人間になろうと勉強に鍛錬に勤しむ日々を送っていた。
衛兵養成所は剣術や弓術を学ぶには適した場所だ。体の鍛錬もできる。だが、三ヶ月に一度の長期休暇以外は王都に戻ることも出来ない距離にある養成所に入ることは躊躇われた。
「陛下は女も抱ける」
ランベルトの返答に今度こそカミーユは動揺した。
「なに言ってんだよ。だって俺が王宮に連れて来られたのは」
動揺したカミーユは敬語を使うことも忘れている。
「レアンドロ殿下が精通を迎えてから数年、伽を務めていたのは皆女性だ」
「…うそ」
「嘘ではない。当然、閨作法も然るべき家柄の女に」
「嘘だ」
「……」
「…嘘じゃなかったら、俺はずっとレアンドロに騙されてたってことになるじゃないか…」
「カミーユ…」
「ランベルトだって俺を騙してたってことじゃないか」
「カミーユ」
「放せ!」
190センチを超える身長のランベルトほどではないが、カミーユもかなり背が伸び、鍛錬の甲斐もあって全体にうっすらと筋肉のついた美しい肢体に成長していた。この二年で見た目はすっかり少年ぽさが抜けたカミーユだが、たった今ランベルトから受けた告白はショックが大き過ぎて動揺していた。
肩を掴み宥めようとしたランベルトの手を力任せに剥ぎ取る。
「落ちつけ。話しを最後まで聞け」
「なんで騙したんだよ。もし女も大丈夫だったなら、俺じゃなくて他の…」
「あれぇ。カミーユちゃんはあいつが女とデキるんだったら俺は王都に来なかったのにって言いたいのかぁ?」
声に振り向けば、大男が寝台に寝そべっていた。
真っ黒の髪に黒褐色の肌。黒のワンピースを纏った大男を目にして、カミーユの感情が一気にそちらに向いた。
「俺の寝台に寝るなと言っただろう!」
「こんなにでっかいんだからカミーユが一緒に乗っても平気だぞ」
「誰がおまえとなんか一緒に寝るか」
「ランベルトがいるからってそんなに照れるな。いつもはもっと素直に」
「嘘をつくな!」
「怒るなよ。綺麗な顔が台無しだぞ」
大男は愉快そうに笑いながら寝そべった横をぽんぽんと叩く。
「俺様が添い寝をしてやろう。ついでにレアンドロなんぞ忘れるくらい快楽に溺れさせてやる。ほら来い」
こいつが来ると調子が狂う。いつも俺のことをばかにしてからかいやがって。
今日こそしっかり抗議してやろうと寝台に一歩足を踏み出したカミーユの肩を、ランベルトが後ろから掴んで引き留めた。
「聖獣様。ここはレアンドロ陛下の親愛なる御方の部屋でございます。入室はどうか御遠慮下さいと今までも何度も申し上げておりますが」
そう。こいつは魔獣。じゃなかった。レアンドロの契約獣だ。
今は人間に変化しているが、正体は…なんだろう。獣は間違いないけど、実在の動物に例えるならいちばん近いのが虎だと思う。
魔力の質量が多い王族には、成人を過ぎると聖獣が契約をしてくれる場合があるんだそうだ。契約獣のついた王族はさらに強力な魔導を使えるようになるらしく、聖獣に選ばれるということはとても名誉なことだと本には書いてあった。
こんなのに選ばれるのが名誉だって?と思うのだが。
「ランベルトって本当にカタイなー。そんなんだから、好きなヤツ口説くのに何年もかかって」
「余計なことは言わなくて結構です」
“聖獣様”とか言っておきながらランベルトはぴしゃりと大男の言葉を遮った。
「聖獣様。カミーユに大事な話しがあるのです。席を外していただきたいのですが」
「あー分かった分かった。そんな怖い顔することないだろ。そんなだからいつまでたってもあいつは気付かずに」
「だから余計なことは言うなとさっきから言っていますよね」
ニヤニヤ笑いながら大男に化けた聖獣が寝台から上半身を起こした。
「はいはい。退散してやるよ。カミーユちゃん、またな」
「金輪際、無断でカミーユの部屋に入室しないでくださいね」
ランベルトの次の言葉に応えることなく、あっという間に聖獣の姿は部屋からかき消えていた。
ランベルトとカミーユは意図せずに同時にふうと息を吐き出していた。
「陛下の聖獣様はお調子者で困ります」
聖獣の愚痴をぽろりと零したランベルトは、カミーユの身体を反転させ、しっかりと目を見据えて話しだした。
「カミーユ。陛下は決しておまえを騙しているわけじゃない。…陛下が成人される前、王族はもとより、お父上である前陛下や正妃様などとも関係を断絶したことは知っているだろう。それに起因するのだ」
「ぇ」
カミーユの胸の奥がぎゅっと掴まれたように痛みを訴える。
…王族を、魔力を持つ者を、忌み避けたのかもしれない。
過去に大切な人を自身が持つ甚大な魔力のせいで失ったようなことを聞いた。
…そういえば、女性を抱けないとレアンドロの口から直接聞いていたわけではない。
失くした人というのはもしかしたら愛した女性だったのかもしれない…。
「詳しくは話すことなどできないが…すまない」
カミーユは静かに頭を振った。
「…レアンドロが自身の過去についてとても苦しんでいるのは分かっています」
まだレアンドロが王太子だった頃、自分が少しでも癒しを与えられる存在になれればいいと、カミーユは現陛下の手をとった。王になれば妃を娶り、子を成さなければならないことは承知していた。これは避けては通れないことなのだ。アリエル妃と過ごした翌日カミーユのもとを訪れるレアンドロは苦痛を耐えたような表情を時折見せていた。互いに幾分無理を承知でそのことには触れずにきた。あんなに辛そうな顔を見せるのだ。…どんな方法で子を成すのか些か疑問に感じてはいたが、女性を抱けるのなら…アリエル妃との間に子供をもうけることができるのなら、カミーユにそれを阻む権利など無いのだ。
カミーユは男で、レアンドロの子を成すことなどできないのだから。
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