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第21話 女癖
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淑音がロウドの部屋から退室すると、宿屋の主人の娘とすれ違った。娘の方が淑音に気づいて振り返って呼びかける。
「あなた……。ロウド様のところに行ってきたの?」
「え、あ、はい。そうです」
まだキスの余韻が残っているせいで、淑音の顔は上気してしていた。
これではあらぬ誤解をされてしまうかもしれないと、淑音は顔を背けたが、娘は目ざといらしくじっとその様子を伺っている。
「どう? 良かった?」
娘はあろう事か、とんでもない事を聞いてきた。淑音は当然ながら動揺する。
「なっ、なんですか!?」
「え、そりゃあ……ねえ。ロウド様のご様子とか」
最近の宿娘は随分と強引な性格をしているのだな、と、淑音は気圧された。
娘は夢見がちに、斜め上を見つめながら言う。
「わたしも下の店で飲んでるおっさん達の相手をするくらいなら、ロウド様に遊んで貰いたいのよ」
「は、はあ……」
「あなた、ロウド様の何? それに、ロウド様の事も色々知りたいわ」
勢いよくまくし立てられると、淑音も口ごもってしまう。それに間違ってもロウドがどこかの身分ある人間のようで、支配者になりたがっている、と説明する訳にもいかない。
「えーと、わたしもロウド様のお仕えしたばかりで何も分からないのです」
辛うじてそれだけ言った。
「えー? 身分も知らない方の従者になったわけ? それっておかしいわよ。何か訳ありという事かしら」
年頃の少女特有の、尽きない興味に振り回されるように娘は続ける。従者ではなく、本当は奴隷なのだが、それを説明するのも色々面倒だ。
せめてもの抵抗として、淑音は困り顔で彼女を見つめる。その表情にははっとしたものがあったらしく、娘は口元を両手で「いけない」というように押さえた。
「まあ、訳ありとあれば追求するのも無粋ね」
既に無粋な振る舞いをしていることは、棚上げして彼女は言う。
「わたしはユラハ。あなた達しばらくここに滞在するのでしょう? 顔を合わせることもあるだろうから、よろしくね」
宿屋の主人の娘──ユラハは、満面の笑顔を淑音に向けた。
それから、まだ仕事が残っていたのを今更思い出したらしく、右手に大きなかごを抱えてパタパタと廊下の奥に走って行ってしまった。
******
淑音が部屋に戻ると、今度はレオとチサトの間で何やら言い争いがおこっているようだった。
いや、言い争いというよりはレオが必死にお願いして、それをチサトが拒否しているような感じだ。
「何事?」
呆れたように、疲れたように淑音は言った。実際、色々あり過ぎてとても疲れている。
出来たらもう休んでしまいたい気分だ。
「いや、淑音。チサトをモデルにスイレンちゃんの絵を描かせて欲しいとお願いしたんだけど……。拒否されて」
「だから、そんなわたしの知らないものの為に描かれるのは嫌だと言っているのです」
レオが説明し、チサトが反論するように言う。
チサトの言い分はもっともだと、淑音は思ったが、ことスイレンちゃんに関しては、出来たら絵にして手元に置いておきたい気持ちがあった。
「あの……チサトさん……。ダメですか?」
淑音が物欲しそうにチサトを見ると、今度は困ったようにチサトが反応する。
「……ダメというか、嫌なだけで……」
レオに対するように強い拒否を示す訳ではなかったので、もうひと押ししたら行けるかもしれないと、淑音は悪い考えが膨れ上がるのを感じた。
「でしたら──」
と、チサトがおずおずと言う。
「淑音様と一度戦ってみたいです。コロシアムでも戦いぶりを見ていました。相当に修練を重ねられた方とお見受けします。もし、一度手合わせしてくれたら、絵の事……、考えてもいいです」
「え……、手合わせを? それは、むしろわたしの方がして欲しいくらいだったから、構わないけど」
淑音も気になっていた。
チサトが一体どれくらいの実力であるのか。歳の近い修行者が今まで近くにいなかったこともある。
道場では全員が淑音より年上の人間たちだった。自分より年下の少女と、それもかなりの実力の持ち主と戦うというのは、嫌でもワクワクするような出来事だ。
「では、明日」
「ええ」
淑音とチサトは約束をして、握手を重ねた。淑音はチサトの手を握りながら、その手の小ささにやはり驚きを隠しきれない。こんな小さな手で、今までロウドを護衛してきたというのだから。
そこで、淑音はおやと気がつく。
「ミツキと、ミリィは?」
「あのふたりには、先に食事をするように言っておきました。そこの男にも言ったのですが、食べるよりも絵を描かせろとうるさく付きまとわれて」
「そんな言い方ないだろ!」
レオは悲しそうに言った。
レイレンちゃんに関する件で、レオはすっかりチサトに嫌われてしまったらしい。
チサトはこれ以上レオに構ってはいられないというように、淑音に向き合った。
「淑音様も下で食事致しましょう」
「あ、うん。レオも、いじけてないで下に行こう?」
淑音は流石にレオが可哀想になって、彼にも呼びかけた。
「あ、ああ。俺も行く」
三人で連れ立って下の酒場に降りていった。
酒場は先程より人で溢れ、活気に満ちていた。それぞれのテーブルごとに男たちが何人かで集まりあい、思い思いに何かを話しては、大笑いしている。
端の方に空いている席があったので、淑音達はそこに座ることにした。
「ロウド様が前払いでかなりの額を支払っておられるので、何でも好きな物を頼んで構いません」
席に座りながらチサトが説明する。
改めてロウドはどれだけのお金持ちなのかと考えると同時に、奴隷にまで普通の食事を提供するというのは、多分普通でないのだろうなとも思う。
ろくな食事も与えられず、毎日過酷な労働に駆り出されるのが奴隷の普通だ。
ロウド以外の人物に買われていたのなら、今よりもっと過酷な状況に置かれていた事は想像に固くない。
異世界にたどり着いて、奴隷として売られてしまった所までは悲惨の連続だったが、自分は運がいいかもしれないと、淑音は思った。
同じように思ったらしいレオが隣で、
「美味い……。こんな美味いの食べたことがない。俺は奴隷という扱いでいいんだよな……。なあ」
と、出てきた食事に舌づつみをうちながら感動したように言っていた。
「あなた達は、表向きはロウド様の奴隷ですが、ロウド様自体にはそんな認識はないでしょう。買い取ったからには、少しは役に立って欲しいという気持ちはあるでしょうが」
チサトが説明した。
レオが食事に夢中になってあまり聞いていないのを見て、チサトは小さくため息をついて、今度は淑音の耳元に語りかけた。
「淑音様は、契約なさいましたか?」
「え、うん。……契約しました」
「そうですか。わたしもロウド様と契約を結んだのです。これからは共に、ロウド様のお役に立てるように致しましょう」
「そうだね……」
チサトはなんだかんだロウドに厳しい声を向けることもあるが、このように言うからには余程にロウドを信頼しているだろう。淑音は、チサトの目を見てそれが分かった。
「契約は呪いの様なものです。契約はロウド様が危険に面した時、わたし達を自然とロウド様の所に導きます」
そんな効果があるとは露知らず。
淑音は驚いた。だが、だからこそ護衛でありながら、主人を好きに行動させていたのかと納得もする。
「どんな風に分かるの?」
「ロウド様の感覚を一瞬感じ取ることが出来るようになります。見ている風景、匂い、音、それらからロウド様の居場所を特定する事が出来るのです。ただし、自分が見たこともない場所に行かれてしまうと検討もつかなくなってしまうので意味はありませんが」
成程と、淑音は頷く。
「ですから、協力してロウド様をお守りしましょう」
「うん。出来ることはしようと思う。守るっていうけど、旅の危険からとか、そういう」
「それも勿論ですが、それだけではありません。ロウド様が何処まで話されたかわかりませんが、ロウド様は相当に立場の高い方です。いつそれを理由に、生命を狙われるかも分かりません。ですから、万全に用意が必要なのです」
ここまで言って、チサトはやや深い溜息をついた。それから、半眼になって続ける。
「それと……。ロウド様は女癖があまりよくありません……。だから、ロウド様に裏切られたと思った女性が、生命を狙ってくる場合もあります。刃傷沙汰になったことも、一度や二度ではありません。ロウド様にその気がなくても、本気になってしまえば、周りが見えなくなるもの……らしいです」
言外にわたしは知らないが、と言うようにチサトは続けた。
そうなると宿屋の主人や、その娘ユラハの勘繰りも全くのデタラメという訳ではなかったという事だ。
ロウドに気を許しかけていた気持ちが、自然と引き締まった。
「ですから、ロウド様が羽目を外されないように。羽目を外した後も、お守りするように、わたしは日夜励んできたのです……」
疲れきった声を出すチサトに、淑音は心から同情した。ふしだらな主人に幼い護衛。かかる負担はどれ程のものだったのだろう。
ロウドは美貌を持ち合わせ、お金もあるとなれば、お近づきになりたい女性は引く手数多だろう。
これはこれで大変な主人に仕えることになったと、淑音は思った。
「……また、懲りずに……」
チサトが酒場の反対端に目線をやりながら、こめかみを押さえるようにして言った。
淑音も目線をそちらに向ける。
見れば、ロウドのテーブルにミツキが座ってお酒を片手に楽しそうにしていた。
ミツキの方からロウドに身体を寄せて、誘惑するように微笑んでいる。ミツキは額に傷があることを除けば、健康的でスタイルも良く色気もあるから、ロウドとしても満更でもない顔をしていた。
顔に微笑を浮かべながら、ミツキの耳元で何やら囁いている。
「いきなり、買ってきた奴隷に手を出そうとするとは……」
チサトは目の前の肉を凶暴に噛みちぎりながら、怒りを表している。
淑音にとっても何だか面白いことではなかった。
そういう事に免疫がない淑音にとって、そういう行為に何となく抵抗感がある。それが自分でなくても、自分の知り合い同士がそういう関係になるのに心の引っ掛かりを感じた。
──でも、わたしには関係ない。関係ない。わたしが口を出すことでは無い。ふたりが望むなら勝手にすればいい。
そう思いながらもやはり、気持ちは落ちつかなかった。
「あなた……。ロウド様のところに行ってきたの?」
「え、あ、はい。そうです」
まだキスの余韻が残っているせいで、淑音の顔は上気してしていた。
これではあらぬ誤解をされてしまうかもしれないと、淑音は顔を背けたが、娘は目ざといらしくじっとその様子を伺っている。
「どう? 良かった?」
娘はあろう事か、とんでもない事を聞いてきた。淑音は当然ながら動揺する。
「なっ、なんですか!?」
「え、そりゃあ……ねえ。ロウド様のご様子とか」
最近の宿娘は随分と強引な性格をしているのだな、と、淑音は気圧された。
娘は夢見がちに、斜め上を見つめながら言う。
「わたしも下の店で飲んでるおっさん達の相手をするくらいなら、ロウド様に遊んで貰いたいのよ」
「は、はあ……」
「あなた、ロウド様の何? それに、ロウド様の事も色々知りたいわ」
勢いよくまくし立てられると、淑音も口ごもってしまう。それに間違ってもロウドがどこかの身分ある人間のようで、支配者になりたがっている、と説明する訳にもいかない。
「えーと、わたしもロウド様のお仕えしたばかりで何も分からないのです」
辛うじてそれだけ言った。
「えー? 身分も知らない方の従者になったわけ? それっておかしいわよ。何か訳ありという事かしら」
年頃の少女特有の、尽きない興味に振り回されるように娘は続ける。従者ではなく、本当は奴隷なのだが、それを説明するのも色々面倒だ。
せめてもの抵抗として、淑音は困り顔で彼女を見つめる。その表情にははっとしたものがあったらしく、娘は口元を両手で「いけない」というように押さえた。
「まあ、訳ありとあれば追求するのも無粋ね」
既に無粋な振る舞いをしていることは、棚上げして彼女は言う。
「わたしはユラハ。あなた達しばらくここに滞在するのでしょう? 顔を合わせることもあるだろうから、よろしくね」
宿屋の主人の娘──ユラハは、満面の笑顔を淑音に向けた。
それから、まだ仕事が残っていたのを今更思い出したらしく、右手に大きなかごを抱えてパタパタと廊下の奥に走って行ってしまった。
******
淑音が部屋に戻ると、今度はレオとチサトの間で何やら言い争いがおこっているようだった。
いや、言い争いというよりはレオが必死にお願いして、それをチサトが拒否しているような感じだ。
「何事?」
呆れたように、疲れたように淑音は言った。実際、色々あり過ぎてとても疲れている。
出来たらもう休んでしまいたい気分だ。
「いや、淑音。チサトをモデルにスイレンちゃんの絵を描かせて欲しいとお願いしたんだけど……。拒否されて」
「だから、そんなわたしの知らないものの為に描かれるのは嫌だと言っているのです」
レオが説明し、チサトが反論するように言う。
チサトの言い分はもっともだと、淑音は思ったが、ことスイレンちゃんに関しては、出来たら絵にして手元に置いておきたい気持ちがあった。
「あの……チサトさん……。ダメですか?」
淑音が物欲しそうにチサトを見ると、今度は困ったようにチサトが反応する。
「……ダメというか、嫌なだけで……」
レオに対するように強い拒否を示す訳ではなかったので、もうひと押ししたら行けるかもしれないと、淑音は悪い考えが膨れ上がるのを感じた。
「でしたら──」
と、チサトがおずおずと言う。
「淑音様と一度戦ってみたいです。コロシアムでも戦いぶりを見ていました。相当に修練を重ねられた方とお見受けします。もし、一度手合わせしてくれたら、絵の事……、考えてもいいです」
「え……、手合わせを? それは、むしろわたしの方がして欲しいくらいだったから、構わないけど」
淑音も気になっていた。
チサトが一体どれくらいの実力であるのか。歳の近い修行者が今まで近くにいなかったこともある。
道場では全員が淑音より年上の人間たちだった。自分より年下の少女と、それもかなりの実力の持ち主と戦うというのは、嫌でもワクワクするような出来事だ。
「では、明日」
「ええ」
淑音とチサトは約束をして、握手を重ねた。淑音はチサトの手を握りながら、その手の小ささにやはり驚きを隠しきれない。こんな小さな手で、今までロウドを護衛してきたというのだから。
そこで、淑音はおやと気がつく。
「ミツキと、ミリィは?」
「あのふたりには、先に食事をするように言っておきました。そこの男にも言ったのですが、食べるよりも絵を描かせろとうるさく付きまとわれて」
「そんな言い方ないだろ!」
レオは悲しそうに言った。
レイレンちゃんに関する件で、レオはすっかりチサトに嫌われてしまったらしい。
チサトはこれ以上レオに構ってはいられないというように、淑音に向き合った。
「淑音様も下で食事致しましょう」
「あ、うん。レオも、いじけてないで下に行こう?」
淑音は流石にレオが可哀想になって、彼にも呼びかけた。
「あ、ああ。俺も行く」
三人で連れ立って下の酒場に降りていった。
酒場は先程より人で溢れ、活気に満ちていた。それぞれのテーブルごとに男たちが何人かで集まりあい、思い思いに何かを話しては、大笑いしている。
端の方に空いている席があったので、淑音達はそこに座ることにした。
「ロウド様が前払いでかなりの額を支払っておられるので、何でも好きな物を頼んで構いません」
席に座りながらチサトが説明する。
改めてロウドはどれだけのお金持ちなのかと考えると同時に、奴隷にまで普通の食事を提供するというのは、多分普通でないのだろうなとも思う。
ろくな食事も与えられず、毎日過酷な労働に駆り出されるのが奴隷の普通だ。
ロウド以外の人物に買われていたのなら、今よりもっと過酷な状況に置かれていた事は想像に固くない。
異世界にたどり着いて、奴隷として売られてしまった所までは悲惨の連続だったが、自分は運がいいかもしれないと、淑音は思った。
同じように思ったらしいレオが隣で、
「美味い……。こんな美味いの食べたことがない。俺は奴隷という扱いでいいんだよな……。なあ」
と、出てきた食事に舌づつみをうちながら感動したように言っていた。
「あなた達は、表向きはロウド様の奴隷ですが、ロウド様自体にはそんな認識はないでしょう。買い取ったからには、少しは役に立って欲しいという気持ちはあるでしょうが」
チサトが説明した。
レオが食事に夢中になってあまり聞いていないのを見て、チサトは小さくため息をついて、今度は淑音の耳元に語りかけた。
「淑音様は、契約なさいましたか?」
「え、うん。……契約しました」
「そうですか。わたしもロウド様と契約を結んだのです。これからは共に、ロウド様のお役に立てるように致しましょう」
「そうだね……」
チサトはなんだかんだロウドに厳しい声を向けることもあるが、このように言うからには余程にロウドを信頼しているだろう。淑音は、チサトの目を見てそれが分かった。
「契約は呪いの様なものです。契約はロウド様が危険に面した時、わたし達を自然とロウド様の所に導きます」
そんな効果があるとは露知らず。
淑音は驚いた。だが、だからこそ護衛でありながら、主人を好きに行動させていたのかと納得もする。
「どんな風に分かるの?」
「ロウド様の感覚を一瞬感じ取ることが出来るようになります。見ている風景、匂い、音、それらからロウド様の居場所を特定する事が出来るのです。ただし、自分が見たこともない場所に行かれてしまうと検討もつかなくなってしまうので意味はありませんが」
成程と、淑音は頷く。
「ですから、協力してロウド様をお守りしましょう」
「うん。出来ることはしようと思う。守るっていうけど、旅の危険からとか、そういう」
「それも勿論ですが、それだけではありません。ロウド様が何処まで話されたかわかりませんが、ロウド様は相当に立場の高い方です。いつそれを理由に、生命を狙われるかも分かりません。ですから、万全に用意が必要なのです」
ここまで言って、チサトはやや深い溜息をついた。それから、半眼になって続ける。
「それと……。ロウド様は女癖があまりよくありません……。だから、ロウド様に裏切られたと思った女性が、生命を狙ってくる場合もあります。刃傷沙汰になったことも、一度や二度ではありません。ロウド様にその気がなくても、本気になってしまえば、周りが見えなくなるもの……らしいです」
言外にわたしは知らないが、と言うようにチサトは続けた。
そうなると宿屋の主人や、その娘ユラハの勘繰りも全くのデタラメという訳ではなかったという事だ。
ロウドに気を許しかけていた気持ちが、自然と引き締まった。
「ですから、ロウド様が羽目を外されないように。羽目を外した後も、お守りするように、わたしは日夜励んできたのです……」
疲れきった声を出すチサトに、淑音は心から同情した。ふしだらな主人に幼い護衛。かかる負担はどれ程のものだったのだろう。
ロウドは美貌を持ち合わせ、お金もあるとなれば、お近づきになりたい女性は引く手数多だろう。
これはこれで大変な主人に仕えることになったと、淑音は思った。
「……また、懲りずに……」
チサトが酒場の反対端に目線をやりながら、こめかみを押さえるようにして言った。
淑音も目線をそちらに向ける。
見れば、ロウドのテーブルにミツキが座ってお酒を片手に楽しそうにしていた。
ミツキの方からロウドに身体を寄せて、誘惑するように微笑んでいる。ミツキは額に傷があることを除けば、健康的でスタイルも良く色気もあるから、ロウドとしても満更でもない顔をしていた。
顔に微笑を浮かべながら、ミツキの耳元で何やら囁いている。
「いきなり、買ってきた奴隷に手を出そうとするとは……」
チサトは目の前の肉を凶暴に噛みちぎりながら、怒りを表している。
淑音にとっても何だか面白いことではなかった。
そういう事に免疫がない淑音にとって、そういう行為に何となく抵抗感がある。それが自分でなくても、自分の知り合い同士がそういう関係になるのに心の引っ掛かりを感じた。
──でも、わたしには関係ない。関係ない。わたしが口を出すことでは無い。ふたりが望むなら勝手にすればいい。
そう思いながらもやはり、気持ちは落ちつかなかった。
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