契約妻と無言の朝食

野地マルテ

文字の大きさ
上 下
33 / 34
後日談

※ 軽い復讐

しおりを挟む






 私たちはランチの時間が過ぎても、裸のまま抱き合い、ベッドの上に転がっていた。ベッドの周りには今朝方脱ぎ捨てた衣服がそのまま散乱し、ひどい有様になっている。今朝まではお日様の匂いがしていた寝室は、精の臭いが充満していた。あの清らかだった日々が嘘のようだ。

「エリオン様……」

 うっそりと微笑み、エリオンの厚い胸板に頬を寄せる。汗でしっとりした肌の感触が心地いい。鼻を寄せるとスンッと男の匂いがした。けして今は良い匂いを発しているわけではないだろうに、彼の素の匂いが好きだと思った。彼を愛しく思い、さらに身体を寄せた。
 位置的に仕方がないが、自分の双丘が彼の固い胴に当たり、むにゅりと潰れると、慌てたような声が頭上から振ってくる。

「あ、アレクシア、もう……」

 精も根も尽き果ててしまったエリオンは、勃っても吐き出すのは、先走りのような透明な精液だけになってしまっている。いくら久しぶりの交合とはいえ、私は少々貪りすぎてしまったようだ。ついさっきも私は彼と向かい合った状態で、彼の腿の上に跨り、腰を押し付けるように動いた。肉棒の丸い先端が奥の快いところに当たり、夢中になって腰を振った。あのもどかしい刺激は麻薬だ。もっともっとと欲しくなる。もっとどろどろなった自分のなかを抉って、かき混ぜて欲しい。思い出すだけでも堪らない気持ちになり、自分の太ももを擦り合わせる。くちゅりと水音がした。散々精を吐き出された下腹の奥には、出し切れていないものが残っていた。

「すごく熱くて硬くて気持ちよかったです。足先が痺れるほど良くて……たくさんねだってしまってごめんなさい」

 素直な感想を口にする。ヘレナから『ちんちんの何がどう良かったのか言わないと、次に繋がらないよ。子作りは継続が命だって、うちのお姉ちゃんが言ってた』とアドバイスを貰ったのだ。
 私はくたりと力を失った、エリオンの陽根にそろりと手を伸ばす。先ほどまでは触れればぴくりと反応してくれたのに。今はもう少し握ったぐらいでは動かない。それでも誘うように竿に指先を這わせた。

「いや、あの、アレクシア、俺はもう……」

 エリオンはとまどい、困ったような掠れた声を出すも、私の手自体は止めなかった。柔らかな竿部分をぎゅっと力を入れて握り込むと「うっ」と苦しげな反応が返ってきた。そのまま、くたりとした肉竿を上下に軽くさする。イメージは乳搾りだ。彼の肉棒を伸ばすようにしごいた。

 軽い仕返しのつもりだった。エリオンと出会ってから合計二年近くになるが、彼には何かと振り回されっぱなしだったから。

 エリオンの雄は若いからか、もう精液は出せなくても、いちおう水平には勃つらしい。嬉しくなった私は重怠い身体を起こし、エリオンの脚の間に半端強引に座ると、彼につけられた半月型の紅い痕が浮く乳房を、肉棒にむにゅりと押し付けた。二つのふくらみの間に挟みこむと言ったほうが正しいかもしれない。両手で乳房を持ち上げるように寄せ、肉棒の先端をすっぽり包みこむ。丸い先が白い谷間へ吸い込まれるように消えていく。

「殺すつもりか……」

 エリオンは本気で命の危機を感じたらしい。なにやらとても物騒なことを言っている。肉杭の先を胸の間に埋められて苦しいのか、眉根を寄せていた。しかし、やはり私を止めるつもりはないらしく、シーツをぐっと掴んで何かに耐えている。

「やだぁ、エリオン様ってば、大袈裟ですね」
「大袈裟じゃない……っ! あっ、ゆ、胸を揺らすな! あぁぁっ、だ、だめっ、先っぽをそんな……!」

 さすがに私の胸でエリオンの陽根をすべて挟むのは不可能なので、とりあえず先端だけを乳房で包みこみ、身体をごと揺らした。ゴム鞠のように胸をぼんぼん弾ませるたび、力を失いくたりとなっていた肉棒が、私の乳房の間でまた熱を持つ。硬さは少し物足りないが、エリオンは私の中で七回も吐き出したあとなのだ。これだけでも充分だろう。

「あ、アレクシアぁっ、うぅっ、うっ、やわかいっ、はぁっ、やわらかっ、……」

 エリオンは柔らかい柔らかいとうわ言のように言い、私の胸の間で透明な体液をうっすら滲ませている。翡翠の瞳は虚で、目の下にはうっすら隈が出来ていた。口は開きっぱなしで、端からは唾液が一筋滴っている。一般的には情けない顔だろうが、それでも彼は美しかった。容姿が良いのは得だなと思う。

 エリオンはおっぱいが好きだ。今日もあれから尖りをちゅうちゅう音を立てて吸い、乳房に顔を埋めて気持ちよさそうにしていた。
 だから大好きな胸でしごけば、彼が喜ぶと思ったのだ。

「アレクシアっ、でるっ、でるからっ、はっ、はぅっあっ」

 肉竿の下にある睾丸が軽く迫り上がるも、丸い先から出たのは透明な液だ。乳房で挟んだまま、また力を失った肉棒の先端に舌を這わせ、鈴口を刺激するように舌先をぐっと押し当てた。青臭いような苦味が口のなかに広がるが、嫌いな味じゃない。

「ぁっ…………」

 エリオンが信じられないと言わんばかりの顔をしてこちらを見るので、私はにっこり微笑んで「美味しいですよ?」と言った。すっかり動けなくなった彼の身体の上に跨ると、私は身をかがめて彼にちゅっと口づける。寝ている彼には恥ずかしくて出来なかった行為だが、散々睦み合った今なら簡単に出来た。

「一年半も出来なかったんですよ? もっと頑張ってください。それに、私を襲うつもりだったのでしょう? 七回ではぜんぜん足りません」

 これは色々された復讐だ。
 それに今後の結婚生活のためにも、夫婦の主導権イニシアチブを握っておくことは大切だとヘレナからも助言されていた。私は貧乏子爵家の娘で何も持たない。植民地のことがあったとはいえ、それでも名のある伯爵家出身のエリオン相手に、優位になれるものが必要だった。思いついたのは閨だ。エリオンは性豪だが、女は体力さえつければ何回でも出来る。清らかだった時代も私は毎日スクワットを欠かさずやっていた。ただ漫然とエリオンの事務処理の手伝いをしていたわけではないのだ。いつかは来るであろう閨の日に備え、体力を作っておいたのだ。

 完全にただの柔らかな肉の棒と化したエリオンの雄の上に跨り、秘裂をぐっと押し当てた。肉の花弁で棒を挟みこみ、そのまま腰を前後に動かすと、エリオンは苦しげに呻きだす。

「エリオン様、気持ちいいですか?」
「ああ、気持ちいい。気持ちいいが、もう無理だ……無理……」

 もっとエリオンを攻め立てたかったが、彼はこの後気を失うように眠ってしまった。普段からこんな事は出来ないが、休みの日ぐらいはいいかもしれない。私も眠る彼の隣で瞼を閉じた。久しぶりにとても満たされた気持ちだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

おしどり夫婦を演じていたら、いつの間にか本当に溺愛されていました。

木山楽斗
恋愛
ラフィティアは夫であるアルフェルグとおしどり夫婦を演じていた。 あくまで割り切った関係である二人は、自分達の評価を上げるためにも、対外的にはいい夫婦として過ごしていたのである。 実際の二人は、仲が悪いという訳ではないが、いい夫婦というものではなかった。 食事も別なくらいだったし、話すことと言えば口裏を合わせる時くらいだ。 しかしともに過ごしていく内に、二人の心境も徐々に変化していっていた。 二人はお互いのことを、少なからず意識していたのである。 そんな二人に、転機が訪れる。 ラフィティアがとある友人と出掛けることになったのだ。 アルフェルグは、その友人とラフィティアが特別な関係にあるのではないかと考えた。 そこから二人の関係は、一気に変わっていくのだった。

婚約解消から5年、再び巡り会いました。

能登原あめ
恋愛
* R18、シリアスなお話です。センシティブな内容が含まれますので、苦手な方はご注意下さい。  私達は結婚するはずだった。    結婚を控えたあの夏、天災により領民が冬を越すのも難しくて――。  婚約を解消して、別々の相手と結婚することになった私達だけど、5年の月日を経て再び巡り合った。 * 話の都合上、お互いに別の人と結婚します。白い結婚ではないので苦手な方はご注意下さい(別の相手との詳細なRシーンはありません) * 全11話予定 * Rシーンには※つけます。終盤です。 * コメント欄のネタバレ配慮しておりませんのでお気をつけください。 * 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。   ローラ救済のパラレルのお話。↓ 『愛する人がいる人と結婚した私は、もう一度やり直す機会が与えられたようです』

処理中です...