契約妻と無言の朝食

野地マルテ

文字の大きさ
上 下
32 / 34
後日談

※ 何度も否定した想い

しおりを挟む



「愛してる、愛してるよ、アレクシア……」
「あっあぁあっ、もうっ、もうだめっ……!」

 体勢を変えられて、私はなおも性的にエリオンから攻め立てられる。シーツの上に両手のひらと膝をつき、お尻をぐっと突き出した格好で、後ろから剛直をぐちゅりと差し込まれた。心地よい圧迫感に歓喜の悲鳴が漏れ、背中がのけぞる。私に愛を囁くエリオンの声はどこまでも甘く切ないのに、行為はまるで野にいる獣のように激しい。彼が動くたびに粘着のある水音と、肌と肌とが打ちつけあう、ぱんっぱんっという乾いた音が寝室に響いた。剥き出しの潤んだ粘膜内を、熱くて硬い剛直で力強く擦られるだけでも堪らないのに、エリオンは私の股の間へ腕を回すと、下生えをかきわけて勃起した淫芽を指先で軽く摘んだ。

「ひあぁっ!」
「うぅっ、締まる……!」

 ぷっくり紅く腫れているであろう淫芽に触れられて、私は堪えきれず、下腹におさまったままのエリオンの雄を搾るように締めつけてしまった。彼は小さく呻き声を出すと腰をぶるりと震わせて、また私のなかへと白い昂りを吐き出す。断続的に叩きつけられるような熱い飛沫に、私まで達しそうになった。

「アレクシア、好きだ……」

 二回連続で私のなかへ欲を吐き出し、少し柔らかくなった自身を引き抜くと、エリオンはシーツの上に倒れこんだ私に覆いかぶさってきた。汗で黒髪を少し濡らした彼はひどく妖艶だった。うわ言のように好意の言葉を口にする。好きだと言われるたびに胸の奥が締め付けられた。

「んうっ」

 こちらは息もたえだえ、疲労困憊なのに、エリオンはまだ足りないと言わんばかりに私の唇に唇を押し当てると、舌をねっとり絡めとり、啜りあげようとした。お互いの舌同士が擦れあうたびに甘い痺れが走り、頭がくらくらする。さっきも思ったが、何故か今、唾液の味がひどく美味しく感じる。鼻腔をくすぐる、ふわりと香るグリーン系の香水が混じった彼の匂いも、高めの体温も、湿った肌の感触も何もかもが愛しい。私の身体を軽々とあつかう、力強さも。心の奥深くからふつふつと湧き上がってくる感情に突き動かされ、気がついたら私もエリオンと同じような言葉を、また口にしていた。

「っ……私も好き……! 愛してます」

 かつては何度も否定した想い。エリオンの私への態度や行動は本当に酷いものだった。和解してからもなかなか素直になれず、私はずっと苦しかった。今、彼に好きだと言うたびに心がすっと軽くなっている。不思議だ。あれほど認めたくないと思った感情だったのに。口にしてみればなんて事なかった。

「何度聞いても夢みたいだ」
「夢だったら困りますよ」
「……そうだな。俺にこれが現実だと教えてくれ」

 私の額にはりついた、髪をよける手つきが優しい。嬉しげに細められる翡翠の瞳は慈愛に満ちているのに、与えられる快楽は暴力的なまでに激しい。

「あうっ、あっ、だめ、もうっっ……」

 両脚を足先が天井へ向くように持ち上げられ、そのままの体勢でまた、勃ちあがった剛直をねじ込まれた。脚を閉じられているからか、隘路あいろがより狭まり、彼の雄の感触がはっきり伝わってくる。ビクビクと波打っていて熱い。
 腰を打ち付けながら、エリオンは私のかかとに恭しく舌を這わせる。やめさせなきゃと頭では思うが、気持ちが良すぎて止めたくないという気持ちが遥かに優ってしまう。私の足指を咥えこみ、指の股ひとつひとつに丁寧に舌先を潜り込ませるエリオンはひどく扇情的で、私はまた大きく背中を反らせてしまった。

「ぁっ、あぁぁ~~…………っ‼︎」


 胸をはずませ、生理的な涙で濡れた目で、エリオンを見上げる。彼にはまだまだ私を貪る余力がありそうだ。

「……こう言ったら君は嫌がるだろうが、君のなか、すごく気持ちいい。出ていきたくないな」

 私の脚を下ろすと、媚肉内の感触を愉しむかのようにエリオンは己をゆっくり、深く抽送させ始めた。彼が大きく前後に動くたびに、結合部から何かがぐちゅりと漏れ出る音がする。剛直の先がこつんと快いところに当たると、下腹にぐっと力が入った。

「たくさんして……エリオン様」

 駄目だといったり、ねだったり。今の私はめちゃくちゃだ。やっとやっと与えられた快楽に、私の情緒はすっかり壊れていた。

「ん、どうしたい?」
「乳首、吸ってください……きつく」

 今日はまだろくに胸の愛撫をされていなかった。愛液が滴る隘路ばかり攻め立てられて、胸元はほぼノータッチ。エリオンはあれほど私の胸が好きそうだったのに。
 私が胸への愛撫をねだると、エリオンは黙って、私の硬く尖らせた紅色の先端をぱくりと口に含む。口のなかでころころと転がされるように舌先で弄ばれ、堪らず甘い声が漏れる。片手で口元を覆い顔を背けようとすると、手首を掴まれた。

「……駄目だ、アレクシア。もっと可愛い声を聞かせてくれ」
「恥ずかしいです」

 足指を舐められて達した女が何を言っているんだと自分でも思うが、胸で気持ちよくなってしまうのも恥ずかしいのだ。

「平気だ、可愛いから」

 まったくフォローになっていない言葉を紡ぎ、エリオンは傾国の笑みを浮かべる。顔が良いのは本当にずるい。何もかも許したくなってしまうから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

処理中です...