契約妻と無言の朝食

野地マルテ

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後日談

※ 蹂躙

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 ベッドに押し倒された状態で、なおも口内を蹂躙された。歯列につるりと舌を這わされ、そのまま上顎を舐め上げられる。久しぶりの口づけだというのに、エリオンはまったく容赦がない。大きな手で頭の裏を抱えられ、さらに奥まで舌をねじ込まれた。さすがに呼吸が苦しくなってきて、彼の胸をドンと押す。口の端からつつっと唾液が伝う。

「はぁっ……はっ」

 何でこの人はいつも極端なのだろうか。夕べまで手を繋いで眠るだけだったのに。その手を握り合う行為ですら、お互いに恥ずかしがっていたのが嘘のようだ。

「もう……! なんでいきなり……!」
「すまない……。止められなくて」

 眉尻を下げ謝りながら、エリオンは私の下着に手をかける。手際よくガーターベルトを外し、ストッキングを抜き取ると、丸まった二つのそれを床の上にぽんと転がした。人が身につけているものを無理やり剥ぐその様は完全なる強姦である。下半身を丸出しにした男に、私は襲われようとしていた。いや、彼の下半身を丸出しにしたのは私だけれど。

 あれよあれよという間に、ショーツも脱がされ、私は産まれたままの姿になった。エリオンに膝をぐっと掴まれ、脚を大きく開かされて慌てる。彼はなんと、私の秘部をろくにほぐしもせずに、己の剛直をいきなり突き立てようとしていたからだ。股間に手を当てて止めようとしたが、無駄だった。そんなものはすぐに振り払われてしまう。

「エリオン様、いきなりはダメです……!」
「充分濡れているじゃないか」

 濡れているかもしれないが、いきなりは怖い。エリオンの雄は彼の体格に見合った大きさをしていて、太くて長いのだ。まずは指で慣らすか陰核に触れて一回絶頂を迎えさせて欲しかったのに。

「挿れていれば、じきに良くなる」
「あああぁっ……」

 膝裏を掴まれ、秘部を曝け出されたと思ったら、上から強引に肉の杭を突き立てられた。挿れにくかったのだろう。彼は体重をかけて半端強引に私の中へ昂りのすべてを一気に押し込んだのだ。しばらく閉じられたままだった媚肉の壁がめりめりと割り開かれ、戦慄く。その刺激だけで私は快楽の頂きへと昇ってしまった。媚肉がうごめき、エリオンの雄を絞るように締め付ける。

「アレクシア、……快い」

 下腹の奥で収まったものがぶるんと跳ね、その後すぐに熱い飛沫がびゅっびゅと奥に当たるのを感じた。相変わらず一発目は出すのがとても早い。しかし、欲を吐き出しても彼の肉棒の硬さは少しも失われなかった。まだ私は快楽の頂きから降りきっていないのに、エリオンはそのまま私の最奥をぐりぐりと抉る。強すぎる刺激に私は叫んだ。

「ああぁっ! エリオン様……! だめ、深い……っ!」

 丸い形をした出っぱりが、私の中心を深く深く抉る。最後に繋がったのは一年半も前の事だというのに、私は彼の形を覚えていたのだろうか。彼の雄を丸ごと包みこむように締め付ける。最奥の柔らかなところを突き上げられるたびに、甘い痺れが下半身に走った。

「だめじゃない……アレクシアはこれが好きだっただろう?」
「ううっ……好きです……っ」

 たまに思い出しては、落ち着かなくなるぐらいには最奥を攻められるのが好きだった。なかなか、認めたくはなかったが。

「うっ、うっっ」

 抽送されているわけでもないのに、接合部からはぐちゅぐちゅと粘着のある水音がする。じっとり濡れるとますます媚肉内が敏感になる。強すぎる刺激に後ろ手でシーツを掴んだ。
 エリオンは暑くなったのだろう。昂った雄を私の中に挿れたまま上体を起こすと、シャツを脱ぎ出した。露わになる肉体を見上げる。少し痩せたかもしれない。西国で過酷な戦をしたらしいのに、彼の身体にはやはり傷らしい傷はない。相変わらず、鍛えあげられた素晴らしい肉体をしていた。

「少し痩せられましたか?」
「今の流行の服はタイトだからなあ。筋肉は少し落とした」

 何も身につけていない状態になったエリオンは、再び私の上に覆い被さると、唇にちゅっと口づける。軽いキスのほうが胸がときめくのは何故だろうか。胸の奥が疼くと、なぜか下腹もうねる。

「もう中で動いてもいいか?」
「はい」

 ゆっくりとした腰の動きで、エリオンは私の中を穿ちだした。もう中の水嵩は相当なものなのだろう。一往復するたびに、結合部からお互いが出したものがぐちゅりと押し出され、お尻の谷間をしとど濡らす。

 ──熱い……。

 ぐっしょり濡れているはずなのに、下腹が熱くて堪らない。ずっと欲しかった刺激がたしかに与えられているはずなのに、もどかしい。もっと深く繋がりたくて、私はエリオンの首に抱きつき、彼の細腰に脚を絡めた。

「エリオン様、もっとして」
「アレクシア……っ」

 屈んだままだと動き辛いかもしれないと思ったが、エリオンはそんなもの関係ないとばかりにそのままの体勢で腰の動きを早めた。まだ新しいベッドがギシギシと音を立て始める。

「ああぁっ、いいの……! もっと、して……っ!」

 膣内のざらついた天井が、出っぱりのある肉棒で擦られる。あまりにも快すぎて目尻からぽろぽろ涙が溢れた。ずっと忘れられなかったのだ。エヴニールでされた行為の数々を。陵辱と言っていいことをされたのに、恐怖も感じていたのに、それ以上に快楽を覚えていたのだ。どれだけ嫌だと思おうと思っても抗えない、快感を。
 エリオンは行為に夢中になっているのか、荒く息を吐き出している。汗で濡れたすべらかな肌を愛しく思い、厚い筋肉で覆われた肩や胸板に手を這わせていると、ふいに手首を掴まれた。

「……煽ってはだめだ」

 どうして? と聞きたかったが、そのまま手首をシーツに縫い止められ、口の中を貪るようにキスされたので無理だった。この一年半にも渡る静かな関係が、幻だったと錯覚してしまうぐらい、激しい行為に翻弄される。でも、嫌じゃない。

「エリオンさまっ、すき、好きです……」

 エリオンは答えない。私を見つめる翡翠の瞳が歪められる。泣くのを我慢しているのかもしれない。彼は私の首筋に顔を埋めた。

 ──もしかして、伝わってなかった……?

 私は今まで自分の気持ちはエリオンにバレバレだと思っていた。彼に恋をしているのが一目瞭然すぎてカッコ悪いなとさえ、思っていたのだ。
 エリオンから好きだと言われてもはぐらかしていたのだ。結婚しているのだから、毎日一緒にいるのだから、それだけで自分の気持ちは充分伝わっているだろうと思い込み、自分からは愛情を言葉にしなかった。
 絞り出すようなエリオンの声にはっとした。

「ずっと嫌われたままだと思っていた……。復縁に承諾してくれたのも、君は生活のためだと割り切っていたのかと……」
「あっ……」

 思えば、エリオンにはたくさん「嫌いだ、クズだ」と言ってきたし、三ヶ月前に復縁してからも、軽い悪ふざけの感覚で嫌いだと言っていたような気がする。もう「嫌い」と言うのが、半端口癖になっていた。最低すぎる。さっと血の気が引いた。

「ご、ごめんなさい。何も言わなくても、私の行動はバレバレで……。てっきり私の気持ちは分かっていらっしゃるかと」
「散々嫌いだと言われてきているのに、好意があると勘違いできるほど、俺はおめでたい頭をしていないな……」
「そうですよね……」
「そんな状態で、いきなり好きだと言われたらどうなると思う?」

 ──どうなるって。

 私の中に埋められた滾るものが、さらに大きくなったような気がした。
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