契約妻と無言の朝食

野地マルテ

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※ 夢かもしれない

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「どうして泣く? アレクシア」

 エリオンは私のなかを緩く穿ちながら淡々と聞いてきた。

 ──あなたに犯されてるからよ‼︎

 ……と言いたかったが、そもそも誘ったのは私からだ。半年間にもおよぶ無言の夫婦生活に嫌気がさした私は、閨のことがしたい子どもがほしいと駄々をこね、彼はただ、私の誘いに淡々と応じただけである。

 私が黙って顔を背けると、彼は着たままだったシャツの袖で口元を拭い、ボタンをすべて外して後ろ手に脱ぎはじめた。
 戦神の彫像のような肉体があらわになり、息をのむ。なかなか上を脱がないので、てっきり彼の身体は傷だらけなのかと思いきや、意外にも傷らしい傷は見当たらない。胸板はぶ厚く腹筋は六つどころか八つに割れている。くっきりと筋肉が浮いた綺麗な身体だった。

「……どうした? 俺の身体に興奮したのか? 締めつけが強くなった」
「そんなことないですっ!」

 私の否定の言葉に、エリオンは喉をくくっと鳴らして笑った。
 美形の微笑みはほんと、心臓に悪い。
 いたずらっ子のように白い歯を覗かせて笑う彼に、今までに無いほどドキリとした。
 半年間も夫婦でいたはずなのに、彼のこんな表情をみるのは初めてだ。

「アレクシア」

 顔を近づけられ、また唇にキスをされる。一回目のキスよりも胸がどきどきするのは何故だろう。二人とも生まれたままの姿になっているからか、それとも身体を繋げているからだろうか。

「……もう痛くはないか?」
「平気です……」

 ──熱い……。

 気遣わしげに問いかけられる。
 不思議ともう結合部は痛くはないが、どこもかしこも、熱をもったように熱かった。特に熱いのはエリオンの雄がおさまったままの下腹の奥だ。エリオンが抽送するたびに粘着のある水音がする。少しだけ膣壁内に余裕が出来たからか、彼の形が分かるようになってきた。滑らかなのに硬くて熱い不思議な感触だ。

「はっ……はぁっ、ふあっ……ぁっ……」

 ──すごい、奥に入っていく……。

 腰を軽く揺さぶりながら、少しずつ肉の棒を奥に進められ、最奥のぶにぶにしたところに丸い先がコツンと当たると、そのままぐっぐっと優しく押された。何故だか分からないけど、奥のぶにぶにしたところを押されると足先が痺れ、足の指がきゅっと丸まった。

 奥を刺激されながら、片方の乳房を咥えられ、じゅっとキツく吸われる。乳首は芯を持ち、固くなっていた。先程まではくすぐったいだけだった行為が、今はむしょうに気持ちがいい。どうしようもない堪えきれないもどかしさに涙がとまらなくなり、口を閉じていられなくなった。

「はぁっ……だんなさまっ、あぁっ……!」

 全身に汗がびっしり浮く。ふと見ると、エリオンのすべらかな額にも玉のような汗が浮いていた。彼の艶のある黒髪も少し濡れている。

「すまない、アレクシア。君がそんなに感じているのに、俺はもう持ちそうにない……っ」
「えっ、きゃあっ⁉︎」

 エリオンは上体を起こすと、私の両腰をがっちりと固定するように掴んだ。そしてそのまま、今までゆっくりだったのが嘘のように、彼はがつがつ私の中を貫きはじめた。
 まったりとした気持ち良さを感じていたのに。急に腰を揺さぶられ、私はまた快楽の高みへと昇ってしまった。
 しかしエリオンは止めることなく、絶頂を迎えた私の中を執拗に何度も何度も貫きつづける。
 仮眠室の簡易ベッドがぎしぎし音を立てて揺れた。

「あぁぁっ、ああっ、だめ、だめっ……! あっあっあぁっ!」

 それからどれだけ時間が経ったのか。
 私が二回達した後、下腹の奥に愛液が漏れ出るのとは違う、熱い液体がどくどく注がれるのを感じた。私の中におさまったままだった肉棒がぶるんと跳ね、何かをびゅっびゅっと勢いよく吐き出したのだ。

 おそらく私の中で吐精したのだろう。
 妙な達成感が胸に沸き、破顔が止められない。

「……嬉しいのか?」
「え、あのっ、その……」

 自分で自分の気持ちが分からない。嬉しいといえば、そうなのかもしれない。
 私はろくにエリオンと何もしないまま、彼と離縁するものだと思っていたから。

「君が悪くない気持ちなら、このままもう一度したい」
「えっ、あ、はい、ど、どうぞ……」

 おかわりを要求され了承すると、首筋に端正な顔を埋められた。エリオンが付けているグリーン系の香水の匂いが鼻腔をくすぐる。今まではあまり意識したことがなかったが、この人から漂う爽やかな香りは好きかもしれない。あと、筋肉質な固い身体も、高めの体温も。

 せっかくだし私からも触っちゃおうと思い、エリオンの逞しい肩や背中にべたべた手を這わせていると、私のお腹の中におさまったままの彼の雄がまた大きくなったような気がした。

「あっ……」
「あんまり煽るな。なかなか終われなくなるぞ」

 私の首筋を舐めていたエリオンが少しだけ顔をあげる。その表情は少し不満げだ。

 ──終わらなくてもいいかも……。

 俗本で読んだ、性行為の気持ちよさというのがどういうことなのか、少しずつ分かってきたような気がする。もっとこうしていたいなと思ったのだ。

「もっとこうしていたいです。夢かもしれませんし……」
「夢? それは困るな」
「だって、旦那様は昨日まで、私とほとんど口すらきいてくださらなかったわ」
「……悪かった。なかなか会話の糸口が掴めなかったんだ」

 そんな馬鹿なと思った。抗議したかったのに、唇に唇を重ねられながら、隘路におさまったままだった雄でまた力強く穿られたので無理だった。
 愛液や精液をまとわせた肉棒で敏感になったところを執拗に擦られると、下半身の震えが止まらなくなった。また脚の先がきゅっと丸まった。
 膣壁は、私の意思とは関係なく、エリオンの精を絞り取ろうとなおも執拗にうねり、蠢く。私が締め上げるからだろう。エリオンはとても苦しそうだった。

「あんっ、ああっあっ、あ、はぁっ」
「また出る……アレクシア……っ」

 熱い飛沫がまた私の胎を満たす。
 綺麗に結いあげていたはずの自分の髪はめちゃくちゃになり、全身色々な体液でべとべとになった。清潔そうだった簡易ベッドのシーツにも染みが出来ているかもしれない。

 二回吐精し、やや柔らくなった自身をエリオンは私の中から引き抜いた。白くてねばついた体液が糸をひき、彼の肉棒や陰毛にまとわりついている。

「出血の痕があるな。……はじめてなのに連続でして悪かった。痛かっただろう?」

 一筋の赤い痕跡。たしかに今、下腹に痺れるような痛みを感じているが、痛みよりもむしろ充足感のほうが強いかもしれない。

「大丈夫です……」


 私はこうして、いきなり処女を失った。
 いつもどおり無言の朝食をとっていたはずなのに。わけがわからない。

 ──二年契約の契約妻のはずが、契約満了金が払えないから無期限の妻になってほしいと言われて、拒否したら抱かれた。いや、私が閨事もしないのに結婚生活を続けるなんて嫌だと言ったから、私から誘った形になって……。

 私の頭上には、いくつもの疑問符がぽぽぽんと浮かんでは消えていった。
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