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甘い罠にはご注意!?
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「節制成功おめでとう。5キロも痩せるなんてすごいじゃないか。……たいしたものは用意できなかったが、俺からのご褒美だ」
痩せにくくなる停滞期を乗り越え、リオノーラは節制に成功した。元の体重は65キロで、5キロ体重が減ったところでまだまだ肥満体型ではあるが、まるころっとした印象はかなりなくなった。
「ご褒美ですか?」
ドレスを買ってもらう約束だったが、アレスの手にあるものはどう見てもドレスではない。ケーキでも入ってそうな厚手の紙の箱だ。
(ご褒美……嫌な予感がするわね)
あの箱の中身は絶対に甘いものだろう。
バターと砂糖の塊に違いない。
「開けてみてくれ」
「はい……」
アレスに促され、恐る恐る箱を開ける。
中身は想像通りのものが入っていた。
いや、ある意味想像を超えていたかもしれない。
「これは……!」
飴色の丸い菓子が、横に二つ縦に五つ、長方形の箱の中で並んでいる。
ほのかに香るシナモンに、砂糖でじっくり煮込まれたリンゴ。見ているだけで、口の中が唾液でいっぱいになる。
リオノーラはごくりと喉を鳴らした。
「君の大好きな一口タルトタタンだ」
「おおお……」
(か、輝いて見える……!)
リオノーラは節制のため、この一ヶ月はほとんど甘いものを口にしていなかった。ただでさえ甘いものが欲しくて欲しくて堪らない状態になのに、目の前にあるのは大好物の一口タルトタタンだ。
(これ、大好きなのよね……)
コイン大の小さなタルトカップの中には、飴色のリンゴが詰まっている。この一口タルトタタンは、煮込んだリンゴとタルト生地で構成された割とシンプルなお菓子なのだが、甘いリンゴとさくさくのタルト生地の相性は抜群で、一つ食べたら最後……すべて食べ終わるまで手が止まらなくなる魔性のお菓子なのだ。
「くっ……!」
リオノーラは瞼を閉じると、奥歯を食いしばった。
このまま見つめ続けたら、絶対に耐えられなくなる。
「食べないのか?」
「た、食べたいのはやまやまなんですけど……」
一つ食べたら、絶対にその一つだけではおさまらない。アレスに勧められるがまま、一口タルトタタンは口の中へと次々に吸い込まれていくだろう。
「せっかく、君に喜んでもらいたくて用意したのに……」
アレスのしょんぼりした声に、リオノーラは瞼を開ける。そこにはタルトタタンの箱を持ち、悲しげに背を丸める美男がいた。
「うっ……!」
リオノーラは憂いを帯びたアレスの表情に弱かった。弱っている彼を見るとなんとかしてあげたくなってしまう彼女は、典型的な弱ラーだ。
リオノーラの中では、二つの人格が戦っていた。
一つは「旦那様を悲しませるなんてとんでもない! ご褒美は美味しく食べるべき!」と息巻く都合の良い妻と、もう一つは「せっかく節制を頑張ったのに! ここでお菓子を食べてしまうなんてとんでもない!」と拳を握るストイックな妻だ。
なお、前者が秒で勝ったのは言うまでもない。
「じゃ、じゃあ、一つだけ……」
食べることを承諾したリオノーラを見て、アレスは端正な顔を綻ばせた。
「そうか。じゃあ俺が食べさせてやろう。あーん」
「あーー……あむ」
口にタルトタタンが入れられる。
そして次の瞬間、リオノーラに衝撃が走った。
「んっっ!!」
カッと見開かれる大きな瞳。
もぐもぐと咀嚼するその顔は一気にとろけた。
「おっ、いしい……!」
(前食べた時より、ずっと美味しい……!)
以前食べた時よりも、甘さは幾分マイルドになっているが、その分リンゴの酸味の爽やかさが良いアクセントになっている。
これならいくらでも食べられそうだ。
「旦那様、もう一つください」
「おう、いいぞ。もっと食べろ……」
リオノーラは箱に手を伸ばすと、即座に口へ運ぶ。
シャクシャクとしたリンゴの歯応え、鼻に抜けるシナモンの香り、口の中いっぱいに広がるバターの濃厚な味わい。タルト生地のサクサク感が楽しい……。
(私今、タルトタタンを食べているのに……。次のタルトタタンを食べたくて仕方ない……!)
すでにリオノーラは左右の手それぞれにタルトタタンを持っていた。この菓子の憎いところは、タルトのカップの中にリンゴ煮が詰められているので、手づかみで食べても手が汚れないのだ。容易に二刀流が可能であった。
「ふううっ!」
(美味い……! 美味すぎる!)
リオノーラはタルトタタンのあまりの美味しさに、涙を流した。
──十分後。
「あああっっ!」
そこには空箱を前に、頭を抱えるリオノーラがいた。
「いやぁ、美味しく食べてもらえて嬉しいよ。また持ってくるからな」
「おおぅ、あおぅ……」
アレスは上機嫌だが、リオノーラは後悔の涙を流していた。
<完>
いきなりハートマークがサブタイの隣についていて驚きました…(汗)
押してくださった方、ありがとうございます。
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痩せにくくなる停滞期を乗り越え、リオノーラは節制に成功した。元の体重は65キロで、5キロ体重が減ったところでまだまだ肥満体型ではあるが、まるころっとした印象はかなりなくなった。
「ご褒美ですか?」
ドレスを買ってもらう約束だったが、アレスの手にあるものはどう見てもドレスではない。ケーキでも入ってそうな厚手の紙の箱だ。
(ご褒美……嫌な予感がするわね)
あの箱の中身は絶対に甘いものだろう。
バターと砂糖の塊に違いない。
「開けてみてくれ」
「はい……」
アレスに促され、恐る恐る箱を開ける。
中身は想像通りのものが入っていた。
いや、ある意味想像を超えていたかもしれない。
「これは……!」
飴色の丸い菓子が、横に二つ縦に五つ、長方形の箱の中で並んでいる。
ほのかに香るシナモンに、砂糖でじっくり煮込まれたリンゴ。見ているだけで、口の中が唾液でいっぱいになる。
リオノーラはごくりと喉を鳴らした。
「君の大好きな一口タルトタタンだ」
「おおお……」
(か、輝いて見える……!)
リオノーラは節制のため、この一ヶ月はほとんど甘いものを口にしていなかった。ただでさえ甘いものが欲しくて欲しくて堪らない状態になのに、目の前にあるのは大好物の一口タルトタタンだ。
(これ、大好きなのよね……)
コイン大の小さなタルトカップの中には、飴色のリンゴが詰まっている。この一口タルトタタンは、煮込んだリンゴとタルト生地で構成された割とシンプルなお菓子なのだが、甘いリンゴとさくさくのタルト生地の相性は抜群で、一つ食べたら最後……すべて食べ終わるまで手が止まらなくなる魔性のお菓子なのだ。
「くっ……!」
リオノーラは瞼を閉じると、奥歯を食いしばった。
このまま見つめ続けたら、絶対に耐えられなくなる。
「食べないのか?」
「た、食べたいのはやまやまなんですけど……」
一つ食べたら、絶対にその一つだけではおさまらない。アレスに勧められるがまま、一口タルトタタンは口の中へと次々に吸い込まれていくだろう。
「せっかく、君に喜んでもらいたくて用意したのに……」
アレスのしょんぼりした声に、リオノーラは瞼を開ける。そこにはタルトタタンの箱を持ち、悲しげに背を丸める美男がいた。
「うっ……!」
リオノーラは憂いを帯びたアレスの表情に弱かった。弱っている彼を見るとなんとかしてあげたくなってしまう彼女は、典型的な弱ラーだ。
リオノーラの中では、二つの人格が戦っていた。
一つは「旦那様を悲しませるなんてとんでもない! ご褒美は美味しく食べるべき!」と息巻く都合の良い妻と、もう一つは「せっかく節制を頑張ったのに! ここでお菓子を食べてしまうなんてとんでもない!」と拳を握るストイックな妻だ。
なお、前者が秒で勝ったのは言うまでもない。
「じゃ、じゃあ、一つだけ……」
食べることを承諾したリオノーラを見て、アレスは端正な顔を綻ばせた。
「そうか。じゃあ俺が食べさせてやろう。あーん」
「あーー……あむ」
口にタルトタタンが入れられる。
そして次の瞬間、リオノーラに衝撃が走った。
「んっっ!!」
カッと見開かれる大きな瞳。
もぐもぐと咀嚼するその顔は一気にとろけた。
「おっ、いしい……!」
(前食べた時より、ずっと美味しい……!)
以前食べた時よりも、甘さは幾分マイルドになっているが、その分リンゴの酸味の爽やかさが良いアクセントになっている。
これならいくらでも食べられそうだ。
「旦那様、もう一つください」
「おう、いいぞ。もっと食べろ……」
リオノーラは箱に手を伸ばすと、即座に口へ運ぶ。
シャクシャクとしたリンゴの歯応え、鼻に抜けるシナモンの香り、口の中いっぱいに広がるバターの濃厚な味わい。タルト生地のサクサク感が楽しい……。
(私今、タルトタタンを食べているのに……。次のタルトタタンを食べたくて仕方ない……!)
すでにリオノーラは左右の手それぞれにタルトタタンを持っていた。この菓子の憎いところは、タルトのカップの中にリンゴ煮が詰められているので、手づかみで食べても手が汚れないのだ。容易に二刀流が可能であった。
「ふううっ!」
(美味い……! 美味すぎる!)
リオノーラはタルトタタンのあまりの美味しさに、涙を流した。
──十分後。
「あああっっ!」
そこには空箱を前に、頭を抱えるリオノーラがいた。
「いやぁ、美味しく食べてもらえて嬉しいよ。また持ってくるからな」
「おおぅ、あおぅ……」
アレスは上機嫌だが、リオノーラは後悔の涙を流していた。
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