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※ 悪夢からの

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 リオノーラはこの日、悪い夢を見ていた。
 
「ううっ……」

 ベッドの上で、小さく呻き声を漏らしながら何度も寝返りを打つ。
 眉間には皺が寄っていた。

 見ている夢の内容は、愛する夫アレスが敵の刃に倒れるというものだ。
 背中の、それも腰の辺りに刃を深々と突き刺され、夥しい血を流している。
 アレスは騎士歴二十年。学徒動員で服役していた時代も含めれば、二十二年、職業軍人として働いている。後ろから刺されるようなヘマは絶対にしそうにないし、そもそもアレスの背後を取れる人間がこの世にいるとも思えないが、それでもリオノーラは夢に見てしまっていた。

 衛兵が駆けつけ、すぐに止血処理を始めるも床は血に染まっていく。呼吸が止まらないよう、衛兵はアレスの胸を上から何度も強く押していた。

「あっ……ああっ……」

 アレスの顔から血の気が失せていく。
 信じられない光景にリオノーラは手で顔を覆い、その場に座り込むことしか出来なかった。


 ◆


「……リオ! リオノーラ!」

 自分の名を呼ぶ声に、リオノーラはハッと目を開ける。
 目の前には、夫アレスの顔があった。
 部屋はほのかに明るい。アレスの心配そうな顔がはっきりと見えた。

「……すまない。うなされていたから起こしてしまった。大丈夫か?」
「だ、旦那様……。怪我は、怪我は大丈夫ですか?」
「怪我?」

 先ほど見た夢の内容に引きずられているリオノーラは、涙を浮かべてアレスを見上げる。

「怪我などしていないが……?」

 困惑したアレスの顔に、リオノーラは自分が夢を見ていたことに初めて気がつく。

「旦那様が刺された夢を見てしまって……。起こしてしまい申し訳ありませんでした」

 今日もリオノーラは息子と一緒にアレスの部屋に泊まりに来ていた。もはや週に一回のルーティンだ。

「……夢か。俺を刺したやつはどんなやつだった?」

 アレスは汗に濡れたリオノーラの前髪をはらってやりながら、そう問いかけてきた。夢の話とはいえ、刺されたと言ったら気分を害するだろうかと思ったが、アレスの口調は穏やかだった。

「どうと言われましても……。相手の顔は覚えていません。ただ、旦那様が刺されたのがショックで……」

 とても恐ろしい夢だった。アレスを失ってしまうのではないかと目の前が真っ暗になった。
 隣りで横たわるアレスに抱きつきたいぐらいの心境であったが、夜中に起こしてしまっただけでも迷惑をかけているのにそんなことは出来なかった。

「俺は常に上着の内側に胴当てをつけているし、よっぽどのことがない限り内臓に達するような裂傷は負わないだろうが、念の為気をつけよう。何かの前ぶれかもしれんからな」
「縁起でもないですわ」

 アレスはリオノーラを宥めるような口調でそう言った。

「でも、気をつけてくださいね。旦那様に何かあったら私……」
「絶対に何もないとは言い切れないが、君を悲しませるようなことは極力避けよう」
「旦那様……」

 夜着の上から、腰に手を這わされる。するりと腰の曲線にそって撫でられたリオノーラはびくりと下半身を震わせた。

「このまま眠る気分にはなれないだろう?」
「え、ええ、ですが……」

 アレスから、誘うように身体に触れられたリオノーラは困惑する。今から夜のことをしては明日に差し障るのではないか。それこそ、自分が見た夢が正夢になってしまうのではないかと怖くなった。

「不安に思わなくてもいい。俺は明日、午後からの勤務だ」

 アレスはリオノーラが考えていることを難なく言い当てると、顔を近づけてくる。
 リオノーラは戸惑いながらも瞼を閉じると、その口づけを受け入れた。

「んうっ……」

 舌が口内に入ってくる。熱を持ったそれは、官能を誘うように舌や口裏を舐め回す。胸に湧いた不安ごと、舐め取られていく。
 口づけをされている間も、身体を弄られていた。
 ワンピース型になった夜着の裾を捲りあげられる。
 下着は付けていなかった。

 丸出しになった太ももを性急な手つきで撫で回される。
 アレスは珍しく余裕が無さそうだった。

 (こういうことがしたかったのかしら……?)

 眠る時、特に誘われるようなことはなかったはずだ。
 家族のことなど、他愛のない会話を少しした後、普通に眠った。
 それが今、食いつくような口づけをされながら、肌の感触を確かめるように触れられている。

 結婚してからすでに十年以上になるので、アレスから今更何をされても恐怖を感じることはないが、余裕のない手つきで抱かれるとちょっと、いや、かなり胸が高鳴る。

 深い口づけが済んだ後は、ボタンが外されて剥き出しになった首筋に吸いつかれた。薄い皮膚にぴりりと軽い痛みを感じる。
 あまり痕がつくような行為はして欲しくないといつもは考えているが、今夜はアレスを失ってしまう夢を見たからか、痕跡を残して貰えるのは嬉しく感じた。

「……もう、いいか?」

 余裕が一切無さそうなアレスの声に、リオノーラはぞくりとする。頬が痛くなるほど熱を持つ。リオノーラは、言葉を発することなくこくこくと頷いた。

「あっ、……」

 脚を大きく広げられ、濡れた脚の間に熱いものが押し入ってくる。膣壁を押し広げるそれは、何だかいつもよりも硬いような気がした。

「俺が死ぬと思って怖かったか?」

 アレスは少し長くなった黒い前髪をかきあげながら、ベッドに横たわるリオノーラに問う。

「お、恐ろしかったです……」

 どうして挿入したタイミングでこんなことを聞くのだろうか。

「他にどう思った?」
「頭の中がっ……真っ白になって……あっ」

 一物を挿れた後、普段なら馴染むまで待って貰えるのだが、今夜は挿れたとほぼ同時にゆっくりとだが腰を動かされている。
 濡れているので痛みはないが、馴染む前から膀胱裏を亀頭でごしごしと擦られると、それだけで快楽の高みへ昇ってしまいそうになる。

「悲しかったか? 辛かったか?」
「あ、あぅ、辛かったです……っ」

 ボタンが外された夜着の隙間に手を入れられて、乳房を握り込まれる。すでに尖りきっていた乳頭を指先で摘まれると、リオノーラはびくりと背を浮かせた。

「こんなに締め付けて……。そんなに俺のことが欲しかったのか?」
「あっあっ、欲しかった……ですっ!」

 たまにアレスは言葉攻めのスイッチが入ることがあり、何かを尋ねながら性的に攻めてくることがあった。
 こういう時、リオノーラはあっさり快楽に堕ちることにしている。抗ったところで特に良いことはないからだ。
 行為が長引くだけである。

「もっとください、旦那様……!」
「ああっリオノーラ、愛らしいな」

 欲しい言葉が貰えたらしいアレスは、普段は絶対にしないような蕩けた顔をして覆い被さってきた。
 前屈みになったことで、一物の先が深いところまで入ってきた。柔らかな最奥を抉る。ぴりぴりとした刺激を脚先に感じながら、リオノーラはアレスの背に腕を回す。アレスはすでに上下を脱いでいた。

 こうやって抱き合っていると、先ほど見た恐ろしい夢がどんどん遠ざかっていく。

 (今夜は旦那様の部屋にいて良かったわ)

 変な時間帯に一人で目覚めていたら、不安で寝つけなくなっていたかもしれない。
 こうやって今、夫の熱を感じていられるのは運が良かった。
 ……そう、リオノーラは思っていたのだが。

 アレスは一度欲を吐き出しただけでは満足せず。

「今夜は不安で眠れないだろう。朝まで抱き合っていよう」
「あ、朝まで……?」

 それから外が明るくなるまで、行為をするはめになったのは言うまでもない。

 <完>

 良かったらエールをください!!
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