6 / 14
シーラの夫ジョン
しおりを挟む
シーラの夫ジョンは、どこでもいる中年の男だった。
厳格な家で育ったジョンは、父親の言いつけの元、子供の頃から勉強ばかりさせられていた。
猛勉強の甲斐あり名門の寄宿学校に入ることができ、安定した役所の仕事にもありつけた。
しかし、ジョンの心の中にはずっと不満が燻っていた。
ジョンは物心ついた時からずっと男が好きだった。
街を歩いていても、目で追うのは男ばかり。
しかし、その事実を父親に知られるわけにはいかなかった。罵倒されるのは確実で、臆病なジョンは父親から叱られることを酷く恐れた。
それでも、ジョンは男との恋愛を諦められない。
役所に就職し、実家を出たジョンはゲイの出会いの場を歩いて回った。
だが、ジョンはゲイ達にモテなかった。
元々ゲイは受け身であるネコあまりで、タチが少ない。
ジョンは二十代の時点で髪が薄くなっていて、運動が嫌いな彼は太っていた。ネコで見た目が冴えないジョンは、出会いの場に行っても相手にされなかったのだ。
そんなジョンは二十七歳の時、父親の紹介でシーラと結婚した。
本当は女と結婚なんかしたくなかったが、父親の命令には逆らえない。
しぶしぶシーラと一緒になったジョンだったが、彼女は優しく快活な女性だった。
ジョンは男が好きな男であったので、シーラに恋愛感情を抱くことはなかったが、それでも一人の人として彼女に好感を抱いた。
夜の生活も最初こそ上手くいなかったものの、一人息子ヨエルを授かった。
妻子との結婚生活は幸せそのもので、ジョンはこの人生で満足しようと考えていたが……。
三ヶ月前、ゲイの出会いの場を回っていた時代に出会った知人と再会した。
知人はチェスができる会員制のカフェを教えてくれた。チェスができる……というのは建前で、ここもゲイの出会いの場だということはすぐに分かった。
ジョンは当初、行くつもりはなかった。
家族を裏切りたくないという理性が、まだこの時の彼には残っていたのだ。
しかし、知人の言葉がジョンの理性を砕いた。
『このチェスカフェには、誰とでも寝るタチがいる』──と。
ジョンの胸がどくんと跳ねる。
誰とでも寝るということは、誰にも相手にされなかった自分とも寝てくれるかもしれない。
ジョンは夢見ていた。ベッドの上で、男から女のように愛されたいとずっと願っていたのだ。
ジョンがチェスカフェに行くと、そこにはひょろりと背の高いワンレングスの髪の男がいた。
サングラスの蔓を掴み、前にずらしながら、にこやかな表情を浮かべる男。
彼の名はジェイムス。
知人曰く、このチェスカフェの常連らしい。
ジェイムスはジョンが望んでいた言葉を次々にかけてくれた。
『可愛い』『セクシーだ』『惚れたよ』……と。
チェスカフェの二階は休憩室になっていた。
ジェイムスはジョンの太い腰に腕を回しながら、二階に誘った。
ジョンは頭の奥が痛くなるほど顔を真っ赤にしながら、階段を一段一段上がった。
この日、チェスカフェの二階で、ジョンの積年の願いは叶った。
厳格な家で育ったジョンは、父親の言いつけの元、子供の頃から勉強ばかりさせられていた。
猛勉強の甲斐あり名門の寄宿学校に入ることができ、安定した役所の仕事にもありつけた。
しかし、ジョンの心の中にはずっと不満が燻っていた。
ジョンは物心ついた時からずっと男が好きだった。
街を歩いていても、目で追うのは男ばかり。
しかし、その事実を父親に知られるわけにはいかなかった。罵倒されるのは確実で、臆病なジョンは父親から叱られることを酷く恐れた。
それでも、ジョンは男との恋愛を諦められない。
役所に就職し、実家を出たジョンはゲイの出会いの場を歩いて回った。
だが、ジョンはゲイ達にモテなかった。
元々ゲイは受け身であるネコあまりで、タチが少ない。
ジョンは二十代の時点で髪が薄くなっていて、運動が嫌いな彼は太っていた。ネコで見た目が冴えないジョンは、出会いの場に行っても相手にされなかったのだ。
そんなジョンは二十七歳の時、父親の紹介でシーラと結婚した。
本当は女と結婚なんかしたくなかったが、父親の命令には逆らえない。
しぶしぶシーラと一緒になったジョンだったが、彼女は優しく快活な女性だった。
ジョンは男が好きな男であったので、シーラに恋愛感情を抱くことはなかったが、それでも一人の人として彼女に好感を抱いた。
夜の生活も最初こそ上手くいなかったものの、一人息子ヨエルを授かった。
妻子との結婚生活は幸せそのもので、ジョンはこの人生で満足しようと考えていたが……。
三ヶ月前、ゲイの出会いの場を回っていた時代に出会った知人と再会した。
知人はチェスができる会員制のカフェを教えてくれた。チェスができる……というのは建前で、ここもゲイの出会いの場だということはすぐに分かった。
ジョンは当初、行くつもりはなかった。
家族を裏切りたくないという理性が、まだこの時の彼には残っていたのだ。
しかし、知人の言葉がジョンの理性を砕いた。
『このチェスカフェには、誰とでも寝るタチがいる』──と。
ジョンの胸がどくんと跳ねる。
誰とでも寝るということは、誰にも相手にされなかった自分とも寝てくれるかもしれない。
ジョンは夢見ていた。ベッドの上で、男から女のように愛されたいとずっと願っていたのだ。
ジョンがチェスカフェに行くと、そこにはひょろりと背の高いワンレングスの髪の男がいた。
サングラスの蔓を掴み、前にずらしながら、にこやかな表情を浮かべる男。
彼の名はジェイムス。
知人曰く、このチェスカフェの常連らしい。
ジェイムスはジョンが望んでいた言葉を次々にかけてくれた。
『可愛い』『セクシーだ』『惚れたよ』……と。
チェスカフェの二階は休憩室になっていた。
ジェイムスはジョンの太い腰に腕を回しながら、二階に誘った。
ジョンは頭の奥が痛くなるほど顔を真っ赤にしながら、階段を一段一段上がった。
この日、チェスカフェの二階で、ジョンの積年の願いは叶った。
245
お気に入りに追加
315
あなたにおすすめの小説
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる