【R18・完結】私、旦那様の心の声が聞こえます。

野地マルテ

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結婚九年目の真実

とうとうバレてしまった

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 二人目の子が産まれて三年程経ったある日のこと。
 チェチナは「もう一人ぐらい産んでもいいかもしれないわね」などとお気楽なことを考えながら、ベッドの端に座り夫の来訪を待っていた。

 結婚してすでに九年目になる。男児と女児に恵まれ、家族は皆健康。夫ウィンストゲンは四十近いが、見た目だけなら三十代前半と言っても通じるぐらい若々しい。
 絵に描いたように順風満帆な家庭生活。問題があるとすれば、相変わらずウィンストゲンの心の声が聞こえるぐらいだが、チェチナにとってもはや「夫の心の声は聞こえて当たり前」のものなので、特に問題視はしていなかった。

 そんな、ある日のことだった。

「チェチナ、待たせたな」
「ウィンストゲン様!」

 チェチナはやってきたウィンストゲンを笑顔で出迎える。今夜もたくさん仲良くしたい。彼女は夫の腕に自分の腕を絡めるが、彼の表情は浮かなかった。

「どうかなさいましたか?」
「君に話があるんだ」

 改まってどうしたのだろう。ウィンストゲンの真剣な表情に、チェチナの表情も固まる。
 二人は並んでベッドの端へ座った。

 常日頃、ウィンストゲンの心の声が聞こえているので、自領の運営がそれなりに上手くいっていることは知っている。誰か近しい人の体調が悪いだとか、そういったことも聞いていない。何か、突発的な問題が起こったのだろうか。ウィンストゲンの表情は厳しい。
 チェチナがあれやこれや考えていると、ウィンストゲンは口を開いた。

「チェチナ、君は……。私の考えていることが分かるのか?」
「えっ……」

 チェチナの心臓がどくんと跳ねる。
 結婚してもう九年目。さすがにもうウィンストゲンにはバレないだろうと、高を括っていた彼女の秘密。
 夫の心の声が聞こえることがバレてしまった。

「ウィンストゲン様……」
「どうなんだ?」

 どうなんだと尋ねるウィンストゲンの語気は、強い。いつも穏やかな夫の口調には、怒りが滲んでいるような気がする。
 これはもう誤魔化すことが出来ないと、チェチナは観念した。

「申し訳ございません」
「いつからだ?」
「結婚初日からでございます」

 これで幸せだった家庭生活が終わってしまうのだろうか。ウィンストゲンからしてみれば、考えていることが妻に筒抜けなのだ。気持ちが悪いことこの上ない状況だろう。
 結婚してから数年は、心の声が聞こえていることがバレないよう苦心していたが、子どもが二人産まれ、ばたばたしているうちに適当になっていたような気がする。


「……今度、屋敷の一部を建て直すだろう? 本格的に両親の遺物を整理しようと、蔵書などを整理していたんだ。そうしたら、本棚の奥から死んだ母の日記が出てきたんだ。そこに気になる記述があった」
「お母様の日記、ですか?」
「ああ、どうも母は父との夫婦関係に悩んで隣国の魔導師の力を借りたらしい。母は父の考えが分かるようにするために、この屋敷内のあるものに魔術の細工をしたようだ」
「隣国の魔導師……? 私がウィンストゲン様の心の声が聞こえるのは、魔術によるものなのですか?」
「心の声と言うのか」
「ええ、あなたが考えていることが、声になって私には聞こえるのです」
「そうか。やはり母の日記の内容と一致しているな」

 ウィンストゲンは顎に手を当てると、フンと息を吐く。

「君が、私の考えていることが声になって聞こえるのは、母のしわざだ」

 結婚九年目。今まで謎だったことが明かされる時が来た。
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