9 / 11
過去の思い出
※初夜
しおりを挟む チェチナは今日、十歳年上の伯爵家当主ウィンストゲンと結婚式を挙げたばかりの新妻だ。
ナイトドレスに身を包んだ彼女は悩んでいた。
ウィンストゲンから、口から発していないはずの声が聞こえるのだ。
(あの声は一体なんなのかしら……。ウィンストゲン様は何も話されていないのに、声が聞こえるなんて。私、頭がおかしくなってしまったのかしら)
ウィンストゲンは口では妻の自分を愛し、伴侶として対等な存在だと認めるようなことを言っているのに、『あの声』は完全に自分のことを子ども扱いしていた。
結婚したばかりの夫から聞こえる謎の声。湯殿に浸かりながら考えたが、あの声が彼の本音なのではないかとチェチナは考える。小説でああいうのを読んだことがある。しかし、小説の設定では大概は逆だった。表向きは新妻に興味のない様子なのに、頭の中は新妻のことでいっぱいというのが物語のセオリーなのに。
チェチナがベッドの端に座り、うんうん唸りながら考えていると、戸が叩かれた。彼女は慌てて返事をする。
扉の前にはウィンストゲンがいた。彼は柔和な笑みを浮かべている。
「チェチナ、準備は良いだろうか?」
ウィンストゲンはゆったりとした綿のシャツとズボン姿だった。上下は揃いの生成りの服で、明らかに夜着姿だ。チェチナの胸が緊張で跳ねる。とうとう、初夜を迎える時がやって来たのだ。
「はい……!」
「すまないな。本当は君と関係を築いてから初夜をするべきなのだろうが……」
「大丈夫です! 覚悟は出来ておりますから!」
「そうか」
元気いっぱいに答えるチェチナに、ウィンストゲンは小さく笑うと、彼は彼女を抱き寄せた。
チェチナはウィンストゲンの腕の中で胸を高鳴らせる。どのような夜になるだろう。生成りのシャツからは清潔な匂いがする。彼の胸元に頬を寄せると、じんわり温かく、心地良い。
彼女が瞼を閉じたその時だった。臀部へ腕を伸ばされたと思ったら、そのまま尻を鷲掴みにされた。
(えっ……⁉︎)
尻たぶに指が食い込むのではないか。それぐらいの力加減でむにりと掴まれ、ぐにぐにと揉まれている。
性急な行為にチェチナは戸惑うが、身体が固まってしまってウィンストゲンを止めることが出来ない。
《子どもかと思っていたが、尻の肉付きは良い。本で読んだ知識だが、これなら出産も可能だろう》
ウィンストゲンはなんといきなり尻の感触を確かめ出した。普通は口づけを交わすなり、手の甲や髪にキスなりを落としてから行為を始めるものだろう。それを、両手を使っていきなり尻を揉むとは。
しかも尻を揉むと同時に股間も擦り付けている。チェチナは腹部に擦り付けられている硬くて熱いものに小さく悲鳴をあげた。
「どうした? チェチナ」
「あ、あの……そんな……いきなり……」
「やはり嫌になったのか? 交合が」
《怖がっているのか。やはり見た目通り子どもだな》
呆れたような、ウィンストゲンの第二の声。
チェチナは慌てて否定する。
「違います! したいです! 交合を!」
「そうか。今夜は頑張ろうな」
全力で交合がしたいと宣言してしまったチェチナは首まで真っ赤になる。何なのだ、このやりとりは。いくら家同士が決めた結婚とはいえ情緒がなさすぎる。
しかし、彼女の戸惑いはこれで終わらなかった。
◆
《う~ん、なかなか解れないな。こんなことで果たして繋がれるのだろうか》
「うっ……あっ」
ベッドの上、チェチナは大きく股を広げたまま、天井を見上げていた。その瞳には光はない。
彼女は脚の間にウィンストゲンの指を三本も咥えこんでいる。それまで何も受け入れたことの無かった蜜口は限界まで押し広げられ、皮膚が突っ張っていた。
チェチナは股だけでなく、胸のまわりも唾液でベタベタにしていた。ウィンストゲンに執拗に愛撫されたことで、薄紅色だった尖りは硬くなり、赤く充血している。
(どうして……こんな……)
ウィンストゲンの愛撫はとにかくねちっこかった。交接時にチェチナに怪我を負わせたくないのは分かるが、だからと言って十回も絶頂を迎えさせるのはやりすぎだ。指でがつがつ隘路を攻められたせいで、チェチナはウィンストゲンの指で処女膜を失っていた。
チェチナはもう、慣れぬ衝動を受け入れすぎて動けなかった。少し油断したら気を失ってしまうかもしれない。身体がとにかく重怠い。頭の中も霧掛かったように思考が回らない。
「もうそろそろいいかもしれないな。チェチナ、挿れるぞ」
「はぁい……」
本来ならば怖く思うはずの初めての挿入も、チェチナは逆にホッとした。この執拗な愛撫が終わるのなら、何でもいい。
《はぁ、緊張するな……》
しかしこの挿入でも、ウィンストゲンはやらかしてしまう。彼がじっくり解してくれたおかげで、つるんと肉棒は根元まで入っていったのだが。
緊張すると第二の声が吐露した瞬間、
「うっっ……」
ウィンストゲンは「しまった」と言わんばかりに、苦悶の声を出す。なんとチェチナの奥へ自身を埋めたと同時に、彼は果ててしまったのだ。
《しっ、しまった。「あたたかいな」と思って気が緩んだら出てしまった……!》
「旦那様?」
「す、すまない……」
下腹の奥にじわりと広がる温かいもの。膣に収まったものはビクビクと跳ね回っている。未知の感覚にチェチナが目を丸くしていると、またウィンストゲンの第二の声が飛んできた。
《挿れたと同時に果ててしまうなんて。これでは童貞だったとバレてしまう……!》
「えっっ」
(ウィ、ウィンストゲン様が童貞……⁉︎)
ウィンストゲンは社交界でも評判の美男子で、色々な女性との交際が噂されていた。舞踏会でも常に派手な女性達に囲まれていたのだ。
それが、童貞とは。
やはり、この第二の声は彼の真実を告げてくれているのではないか。男性が己の性体験の無さについて暴露しないだろう。普通。
一瞬、チェチナは彼が同性愛者なのではないかと勘繰ってしまったが、一応自分のことを抱けているので異性愛者ではあるのだろう。
チェチナが戸惑っている間にも、脚の間に収められたものはむくむくと力を取り戻している。昂りを吐き出したことで一度は柔らかくなっていたが、チェチナがウィンストゲンの真実を知った衝撃で蜜口を窄めたことが、刺激になったようだ。
「チェチナ、行為を続けてもいいだろうか?」
「は、はい」
「すまない、いきなり精を吐き出してしまって……。驚いただろう」
ウィンストゲンは眉尻を下げているが、チェチナ的には抱いて貰えるか不安に思っていたので、むしろいきなり精を吐き出して貰えて嬉しいぐらいだ。
「私は……嬉しいです。旦那様が私相手に出来なかったらどうしようって思っていましたから」
「何を言っているんだ。君は魅力的な女の子だ。そんなことあるわけないだろう」
ウィンストゲンは腰をぐいぐい押し付けながら、熱っぽく見つめてくる。肉棒の丸い穂先が、最奥に当たっているらしい。柔らかなところをぐっと押されると鈍い痛みが走った。
チェチナは苦悶の表情を浮かべて、ウィンストゲンの背を叩く。
「うぅ、旦那様……深いです!」
《すごい、奥まで挿れると亀頭からまるごと包み込まれるようだ。チェチナの中はなんて温かく柔らかいのだろう。締め付けはとてもキツいが、肉壁に扱かれるのは気持ちいいな……》
「ああっ、あ!」
初夜の時は、まだ行為の最中でもウィンストゲンの心の声が聞こえていた。初めて知る女の味にウィンストゲンは陶酔していた。チェチナはウィンストゲンの背に腕を回し、必死になって彼の行為を受け止める。
「チェチナ」
「は、はい……んんぅっ」
名前を呼ばれ、チェチナが顔を上げると、すぐさま唇を唇で覆われた。彼女の目はまた点になる。結婚式で交わした口づけとは比べものにならないぐらい、それは強いものだった。口づけというよりも、喰らいつかれると表現したほうが正しいかもしれない。勢いが強すぎて歯が当たってしまった。
最初こそ痛みや圧迫感ばかり感じていたが、ウィンストゲンの性急な口づけを受け入れながら、下腹を攻められ続けているうちに、少しずつ苦しみ以外の感覚も湧いてきた。
「ふうぅっ」
ウィンストゲンは腰を打ちつけながら、チェチナの紅い唇を舐めて、吸った。
結合部からは粘着ある水音が絶えず漏れていて、チェチナは自分の身体が変わってしまったのだと思った。自分の股がこんなにも濡れるだなんて。
肉棒で濡れた中を抽送されるたびに、びくりと腰が小刻みに浮き、媚肉内が戦慄く。小刻みに迎える絶頂が心地よく、チェチナはウィンストゲンに身を任せながらうっとりしていたのだが、彼はまた苦しげな声を漏らした。
「チェチナ、駄目だ……うっ、また」
ウィンストゲンは腰を震わせると、またチェチナの中へ精を吐き出す。股間をぐっと押し付け、胎の奥へ奥へと白濁を注ごうとするのは本能だろうか。
「旦那様、大丈夫ですか?」
ウィンストゲンが苦しそうに吐精するので、チェチナはよしよしと彼の背を撫でた。この行為は攻め手の方が辛いのかもしれない。
《うまく出来ただろうか……。キスをしたのも今日が初めてで、歯が当たってしまって恥ずかしい》
「とっても良かったと思いますよ?」
彼の心の声があまりにも自信なさげだったので、チェチナは思わず返事をしてしまった。いや、しかし、キスも初めてとは。今夜は驚きの連続だ。
「本当か? もうしたくないとは思わないか?」
「そんな! 旦那様とくっついていられて気持ち良かったです」
チェチナが鈴の音のような声で笑うと、また下腹に埋められたものの質量が増した。さすがにチェチナも焦る。こう何度も何度も抜かずに行為を続けられては、体力的に厳しい。
《チェチナも気持ちよく感じてくれた……良かった。今夜は初夜だ。若い彼女を満足させられるように頑張ろう》
「えっっ」
すでにチェチナは満足していた。へとへとだった。出来ればこのまま行為を終わらせて欲しいと思っている。しかし、三十近くなって初めて女の味を覚えてしまったウィンストゲンの暴走は止まらない。
結局ウィンストゲンはチェチナを抱きに抱き潰し、次の日からは『多くても二回』という暗黙のルールが二人の間に出来るのだが、それはまた別の話だ。
43
お気に入りに追加
1,245
あなたにおすすめの小説
盲目の令嬢にも愛は降り注ぐ
川原にゃこ
恋愛
「両家の婚約破棄をさせてください、殿下……!」
フィロメナが答えるよりも先に、イグナティオスが、叫ぶように言った──。
ベッサリオン子爵家の令嬢・フィロメナは、幼少期に病で視力を失いながらも、貴族の令嬢としての品位を保ちながら懸命に生きている。
その支えとなったのは、幼い頃からの婚約者であるイグナティオス。
彼は優しく、誠実な青年であり、フィロメナにとって唯一無二の存在だった。
しかし、成長とともにイグナティオスの態度は少しずつ変わり始める。
貴族社会での立身出世を目指すイグナティオスは、盲目の婚約者が自身の足枷になるのではないかという葛藤を抱え、次第に距離を取るようになったのだ。
そんな中、宮廷舞踏会でフィロメナは偶然にもアスヴァル・バルジミール辺境伯と出会う。高潔な雰囲気を纏い、静かな威厳を持つ彼は、フィロメナが失いかけていた「自信」を取り戻させる存在となっていく。
一方で、イグナティオスは貴族社会の駆け引きの中で、伯爵令嬢ルイーズに惹かれていく。フィロメナに対する優しさが「義務」へと変わりつつある中で、彼はある決断を下そうとしていた。
光を失ったフィロメナが手にした、新たな「光」とは。
静かに絡み合う愛と野心、運命の歯車が回り始める。
婚約者の心の声を知りたいと流れ星に願ったら叶ってしまった
仲室日月奈
恋愛
辺境伯の娘レティシアの婚約者は「寡黙な貴公子」として有名なエリオル。
会話が続かないエリオルとの将来に一抹の不安を抱える中、流れ星に願い事をしたら、彼の心の声が自分にだけ聞こえるように。無表情の裏で、レティシアに純粋な好意を寄せる心の声の数々に驚く日々。
婚約者を見る目が変わった流星群の夜から、二人の関係は少しずつ変化していく。
片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく
おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。
そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。
夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。
そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。
全4話です。

【完結】夢見たものは…
伽羅
恋愛
公爵令嬢であるリリアーナは王太子アロイスが好きだったが、彼は恋愛関係にあった伯爵令嬢ルイーズを選んだ。
アロイスを諦めきれないまま、家の為に何処かに嫁がされるのを覚悟していたが、何故か父親はそれをしなかった。
そんな父親を訝しく思っていたが、アロイスの結婚から三年後、父親がある行動に出た。
「みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る」で出てきたガヴェニャック王国の国王の側妃リリアーナの話を掘り下げてみました。
ハッピーエンドではありません。
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫
梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。
それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。
飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!?
※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。
★他サイトからの転載てす★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる