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第一章 後宮編(前)
むしろ、美しい ※
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マーガリッタは現在、六組の騎士と側女の閨教育を見張っている。そして、週に一度は皇帝の寝所へ赴き、閨番を務めていた。
彼女は今まで、皇帝に何人かの側女を推薦してきた。皇帝の信頼は厚い。
「マーガリッタよ、良い側女はおるか?」
そう、皇帝からさらっと訊ねられる程度には。
「最近、エマの対応が悪くなっててな……。ちっとも心が籠っておらんのだ。もっとサービス精神旺盛な側女はおらんか?」
「はっ……」
マーガリッタの頭に、ジネットの姿がよぎる。
だがジネットを勧め、皇帝の渡りがあればフィンセントがどうなるか……。
──私……フィン兄様に刺されてしまうかも。
フィンセントはジネットに首っ丈だ。ジネットの前で、フィンセントは今までに見たことのない顔ばかりする。
ジネットを前にしたフィンセントの目元は、ずっと緩みきっているのだ。
自分がジネットを推薦したと知ったらどうなるか……マーガリッタは想像するだけでぞっとする。
マーガリッタは皇帝に営業スマイルを向ける。
「アデラ様はいかがでしょう? サービス精神旺盛で、容姿も健康的な美人です。髪も金髪ですよ」
「アデラか……。中庭でちらりと姿を見かけたが、快活そうな娘だったな。よし、今夜はアデラを呼ぼう」
マーガリッタは別の側女を皇帝に勧める。
フィンセントに恨まれたくないからだ。
皇帝もまんざらでもないようで、鼻の下を伸ばしている。六十歳になるのにお盛んなことだ、と感心した。
帝国は大陸中の国を手中に収めている。属国を治めるのに一人でも多くの皇族を必要としている。性豪な皇帝がいれば、それだけ治世が安定するのだ。
「おおそうだ。フィンセントはどうしている? 閨番を降りてから久しく姿を見ていないが……。元気にしておるのか?」
皇帝の口からフィンセントの名が出、マーガリッタは肩をびくりと震わせる。
「確かフィンセントは今、側女の世話をしているんだったな……。どんな娘だ?」
──まずい。
バカ正直にジネットの特徴を言えば、皇帝は興味を持ってしまうかもしれない。だからと言って嘘をつくことはできない。
「そ、そうですね……。婚姻歴のある二十四歳の女性で、とても落ち着いた方ですよ。白銀の髪と青い瞳が印象的な儚げな美人です」
「落ち着いた……儚げ……う~ん」
なるべく、皇帝の性癖に刺さらない特徴をあげる。
案の定、皇帝は眉尻を下げた。
「……儂の好みではないなぁ。だが、多種多様な娘を後宮に置かねば、外交上問題になる。フィンセントには、儂の分も側女に心を砕くようにと言っておいてくれ。寝所を訪れないと現状を憂う娘もいるからのう」
後宮には、なんとか自国に皇帝の血が欲しいと息巻いてやってくる他国の王族も多くいる。
ジネットは元夫と離縁したことがきっかけで後宮に入ったので、当てはまらないが。
「はっ……」
皇帝の命に、マーガリッタは一礼した。
◆
──当面は、フィン兄様とジネット様の間に邪魔は入らないだろう。
今日も天井裏の隙間から、マーガリッタはフィンセントとジネットの閨教育を見守っている。
フィンセントもジネットも真面目だからだろうか。
寝台の上で裸になっていても、あまりいやらしさは感じられない。
──むしろ、美しい……。
外は雲一つない晴天だ。白いカーテン越しに、光が注がれる明るい室内。シルクのシーツが張られた豪奢な寝台の上で、男女がまぐわっている。
フィンセントは軽くあぐらをかいていて、その脚の中央には白銀の艶やかな髪が見える。
「ジネット様、口内だけでなく、唇も使ってください。そう、大事なのは緩急です。ほら、手もお留守になっていますよ」
「んうぅっ、んっ、んっ」
背を丸めたフィンセントは、ジネットに細かな指示を出す。
彼の股間に埋めたジネットの頭の動きが、より一層早くなった。
マーガリッタの忠告が効いたのだろう。
あれから、フィンセントは毅然とした態度で閨教育に望むようになった。
フィンセントは、マーガリッタが渡した薬を飲んでいるのか、以前よりも勃起の持ちはよくなっているようだがそれでも限界はやってくる。
ジネットに攻められ続けたフィンセントは、うぅっと呻き声を漏らした。
「ぷはっ……! フィンセント、最近味が薄くなったような気がするのだけど?」
口内に精を吐き出されたらしいジネットが、指先で口端を拭いながら言う。
「……三日に一度のペースで絞られておりますから。精が新鮮なのでしょう」
「私はもう少し濃いほうが好みよ?」
ジネットは閨教育に慣れてきたらしく、からっとした笑顔で笑う。
ここからでは見えないが、向かいにいるフィンセントはおそらく苦笑いを浮かべていることだろう。
「私、口淫が上手くなったと思わない?」
「ええ、とってもお上手です。……そろそろ次の段階に進んでもいい頃かもしれませんね」
閨教育のカリキュラムはある程度決められている。
側女には、海千山千の皇帝を満足させられる技巧を求められているからだ。
「次は何をするの?」
「今度、道具を持ってきますから。その時にご説明しますね」
「道具……!? 恥ずかしいのはいいけれど、痛いのはちょっと……」
「無理には進めないので、ご安心ください」
次に何をするのか話しながら、二人はごく自然にごろんとその場に横になる。
「本当に、あなたが私の教育係で良かった。だって、こんなことをしていてもちっとも嫌じゃないし、むしろ楽しいぐらいよ」
「ありがとうございます、ジネット様……」
またジネットはフィンセントに笑顔を向けると、横たわった彼の頬や輪郭を手で撫でる。
フィンセントもはにかんだ笑顔を見せていた。
──ジネット様、まるでフィン兄様のお姉さんみたい。
天井裏でマーガリッタはそんなことを思う。
ジネットからそこはかとなく漂うお姉さん感に、マーガリッタも胸を高鳴らせていた。
彼女は今まで、皇帝に何人かの側女を推薦してきた。皇帝の信頼は厚い。
「マーガリッタよ、良い側女はおるか?」
そう、皇帝からさらっと訊ねられる程度には。
「最近、エマの対応が悪くなっててな……。ちっとも心が籠っておらんのだ。もっとサービス精神旺盛な側女はおらんか?」
「はっ……」
マーガリッタの頭に、ジネットの姿がよぎる。
だがジネットを勧め、皇帝の渡りがあればフィンセントがどうなるか……。
──私……フィン兄様に刺されてしまうかも。
フィンセントはジネットに首っ丈だ。ジネットの前で、フィンセントは今までに見たことのない顔ばかりする。
ジネットを前にしたフィンセントの目元は、ずっと緩みきっているのだ。
自分がジネットを推薦したと知ったらどうなるか……マーガリッタは想像するだけでぞっとする。
マーガリッタは皇帝に営業スマイルを向ける。
「アデラ様はいかがでしょう? サービス精神旺盛で、容姿も健康的な美人です。髪も金髪ですよ」
「アデラか……。中庭でちらりと姿を見かけたが、快活そうな娘だったな。よし、今夜はアデラを呼ぼう」
マーガリッタは別の側女を皇帝に勧める。
フィンセントに恨まれたくないからだ。
皇帝もまんざらでもないようで、鼻の下を伸ばしている。六十歳になるのにお盛んなことだ、と感心した。
帝国は大陸中の国を手中に収めている。属国を治めるのに一人でも多くの皇族を必要としている。性豪な皇帝がいれば、それだけ治世が安定するのだ。
「おおそうだ。フィンセントはどうしている? 閨番を降りてから久しく姿を見ていないが……。元気にしておるのか?」
皇帝の口からフィンセントの名が出、マーガリッタは肩をびくりと震わせる。
「確かフィンセントは今、側女の世話をしているんだったな……。どんな娘だ?」
──まずい。
バカ正直にジネットの特徴を言えば、皇帝は興味を持ってしまうかもしれない。だからと言って嘘をつくことはできない。
「そ、そうですね……。婚姻歴のある二十四歳の女性で、とても落ち着いた方ですよ。白銀の髪と青い瞳が印象的な儚げな美人です」
「落ち着いた……儚げ……う~ん」
なるべく、皇帝の性癖に刺さらない特徴をあげる。
案の定、皇帝は眉尻を下げた。
「……儂の好みではないなぁ。だが、多種多様な娘を後宮に置かねば、外交上問題になる。フィンセントには、儂の分も側女に心を砕くようにと言っておいてくれ。寝所を訪れないと現状を憂う娘もいるからのう」
後宮には、なんとか自国に皇帝の血が欲しいと息巻いてやってくる他国の王族も多くいる。
ジネットは元夫と離縁したことがきっかけで後宮に入ったので、当てはまらないが。
「はっ……」
皇帝の命に、マーガリッタは一礼した。
◆
──当面は、フィン兄様とジネット様の間に邪魔は入らないだろう。
今日も天井裏の隙間から、マーガリッタはフィンセントとジネットの閨教育を見守っている。
フィンセントもジネットも真面目だからだろうか。
寝台の上で裸になっていても、あまりいやらしさは感じられない。
──むしろ、美しい……。
外は雲一つない晴天だ。白いカーテン越しに、光が注がれる明るい室内。シルクのシーツが張られた豪奢な寝台の上で、男女がまぐわっている。
フィンセントは軽くあぐらをかいていて、その脚の中央には白銀の艶やかな髪が見える。
「ジネット様、口内だけでなく、唇も使ってください。そう、大事なのは緩急です。ほら、手もお留守になっていますよ」
「んうぅっ、んっ、んっ」
背を丸めたフィンセントは、ジネットに細かな指示を出す。
彼の股間に埋めたジネットの頭の動きが、より一層早くなった。
マーガリッタの忠告が効いたのだろう。
あれから、フィンセントは毅然とした態度で閨教育に望むようになった。
フィンセントは、マーガリッタが渡した薬を飲んでいるのか、以前よりも勃起の持ちはよくなっているようだがそれでも限界はやってくる。
ジネットに攻められ続けたフィンセントは、うぅっと呻き声を漏らした。
「ぷはっ……! フィンセント、最近味が薄くなったような気がするのだけど?」
口内に精を吐き出されたらしいジネットが、指先で口端を拭いながら言う。
「……三日に一度のペースで絞られておりますから。精が新鮮なのでしょう」
「私はもう少し濃いほうが好みよ?」
ジネットは閨教育に慣れてきたらしく、からっとした笑顔で笑う。
ここからでは見えないが、向かいにいるフィンセントはおそらく苦笑いを浮かべていることだろう。
「私、口淫が上手くなったと思わない?」
「ええ、とってもお上手です。……そろそろ次の段階に進んでもいい頃かもしれませんね」
閨教育のカリキュラムはある程度決められている。
側女には、海千山千の皇帝を満足させられる技巧を求められているからだ。
「次は何をするの?」
「今度、道具を持ってきますから。その時にご説明しますね」
「道具……!? 恥ずかしいのはいいけれど、痛いのはちょっと……」
「無理には進めないので、ご安心ください」
次に何をするのか話しながら、二人はごく自然にごろんとその場に横になる。
「本当に、あなたが私の教育係で良かった。だって、こんなことをしていてもちっとも嫌じゃないし、むしろ楽しいぐらいよ」
「ありがとうございます、ジネット様……」
またジネットはフィンセントに笑顔を向けると、横たわった彼の頬や輪郭を手で撫でる。
フィンセントもはにかんだ笑顔を見せていた。
──ジネット様、まるでフィン兄様のお姉さんみたい。
天井裏でマーガリッタはそんなことを思う。
ジネットからそこはかとなく漂うお姉さん感に、マーガリッタも胸を高鳴らせていた。
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