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《番外編》本編終了後のお話

ドカ喰い大好き!リオノーラ様《節制編⑦》

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 アレスと熱い夜を過ごしたリオノーラ。
 途中から記憶がないし、朝起きたら全身鬱血痕だらけで驚いたが、きっとこれで孕んでいるだろう──そう考えていたのだが。
 三日後、無事月のものが来た。最近遅れぎみだったのだが、きちんと予定どおりに来た。

「ああぁっっ……!!」

 リオノーラはその場に崩れ落ちる。
 妊娠すれば、この苛烈な節制生活から逃れられると、希望を抱いていたのに。

「体調は大丈夫ですか? 暖かくして休んでいてくださいね。家事は俺がやりますから」
「アレス様ぁ……」

 リオノーラが妊娠していなくとも、アレスは表情一つ変えなかった。彼はティンエルジュ家の婿なので、彼女がいつまででも妊娠しないと立場が悪くなる一方なのだが。
 すでに二人は婚姻関係を結んでから二年が経過している。同居を始めたのはここ数ヶ月の話で、身体の関係が初めてあったのも、同居してからだ。
 だが、周囲はそんなことは知らない。
 アレスの立場をこれ以上悪くしないためにも、リオノーラは一刻も早く妊娠しなければと焦る。

「予定どおり月の務めが来たのは良いことですよ。節制の効果が出ている証です」

 湯気が立つ飲み物をリオノーラの前に出しながら、アレスは表情を緩める。
 なんて優しいひとなのだろうかと、リオノーラは目の端に涙を浮かべた。

 そして、一ヶ月後──

 そこには幾分ほっそりとしたリオノーラがいた。

「体重はあんまり変わってないですけど、色んなところが引き締まっている気がします」

 リオノーラは鏡の前で腕を広げ、くるり、くるりと回る。
 節制して、一番変化があったのは首まわりだろうか、かなりすっきりした。

「カロリーナさんと筋トレしたおかげかもです!」
「それは良かった」

 胸の前で両手に握り拳を作るリオノーラに、アレスは柔らかく微笑む。

「これでティンエルジュに帰っても、お父様に叱られずにすみそうです。節制部屋にはもう入りたくありませんし」

 リオノーラはほっと胸を撫で下ろす。
 彼女の父親である侯爵は娘の体型変化にうるさく、彼女がほんの少しぽっちゃりしただけで節制部屋と称した鉄格子付きの部屋に閉じ込めた。
 これで実家に帰っても、節制部屋に閉じ込められることはないだろう。

「……今なら、ティンエルジュ侯があなたを節制部屋に閉じ込めた気持ちが分かります」
「えっ、何でですか!?」
「リオノーラは、すきあらば屋台街まで買い食いに行ってしまいますから」
「もう! そんなことしませんよ!」

 ぶんぶんとリオノーラは腕を振る。

「子どもができるまでは、買い食いもドカ喰いも封印します!」

 この宣言から、長女テレジアが誕生日するまで四年を要するのだが、まだこの二人は知らない。


《おわり》

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