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《番外編》本編終了後のお話
ドカ喰い大好き!リオノーラ様《節制編⑤》
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木製の剣を激しく打ちつけあう音が、昼間の演習場に響き渡る。
「はぁぁっ!」
リオノーラはレイラから教わったアレスの弱点を突こうと一撃を繰り出すが、それは難なくかわされてしまう。
明らかに熟練度が違う。まるで大人と子どもの打ち合い稽古のようだ。
一本を取れるイメージがまるで湧かず、リオノーラは焦る。弱気になりそうになる心を、彼女はなんとか奮い立たせる。
(レイラは『戦に絶対はない』と言っていたもの! ここでアレス様から一本取って、私はケーキを食べるのよ!)
元々リオノーラは不利だった。彼女はアレスよりも頭一つ分背が低い。剣術は背が高い方が圧倒的に有利なのだ。
「あっ……!」
カンッと高い音を立て、リオノーラが持っていた木製の剣が埃っぽい地面に落ちる。
リオノーラは自分の両手を見つめる。久しぶりに振るったからだろう。両手ともぶるぶる震えていた。
アレスはリオノーラが落とした木製の剣を拾った。
「……今日はこのくらいにしましょうか」
「ま、待ってください! もう一回だけ……!」
「今日はリオノーラも頑張りましたから、一個だけ、小さいケーキなら帰りに買ってもいいですよ」
そんなお情けで買ってもらうケーキなど、食べたくなかった……いや、それでもケーキは食べたいとリオノーラは思ったが、ここで辞めたら女がすたる。
「お願いします! もう一回だけお願いします!」
すでに手には力が入らなくなっている。息も切れ、体力も限界だ。でも、辞められなかった。
「……分かりました。一回だけですよ」
「ありがとうございます!」
(私がこんなにぼろぼろになってるのに、アレス様は涼しい顔してる……)
アレスは呼吸一つ乱していない。最低限の動きでリオノーラの一撃をかわし、軽い力で彼女の木製の剣を叩き落としている。難しいことなど何一つしていないように見える。ここまでの域に達するのに一体どれだけの研鑽を積んだのだろうか。
(私など、遠く及ばない……!)
だが、一本取って美味しくケーキを食べたい。
リオノーラは木製の剣を握ると、再びアレスに立ち向かっていった。
◆
「はぁぁ~……勝てるわけないですよね……」
「まぁでも、頑張りましたよ。俺相手にここまで粘れる人間はそうはいません」
あの後、やはりアレスから一本も取れず、リオノーラは負けた。
菓子店で小さなバタークリームケーキをひとつ買い、リオノーラは食べさせてもらっていた。もう、手が震えてフォークも握れないのだ。
「美味し……」
久しぶりに食べたバタークリームケーキは、涙が出そうになるほど美味しく感じた。
四角く切られたやや黄み掛かった白いケーキに真っ赤な丸いゼリーが中央にひとつだけのせられたそれは、宗国の伝統的な菓子だ。
ケーキはあっという間に食べ終わる。名残惜しい。もう二つ三つは余裕で食べられたのにと、リオノーラは胃を押さえた。
「歯をみがいてシャワーを浴びたら、今日はもう寝ましょう」
アレスは食器を片付けながら言う。
「そうですね~。今日はもうへとへとです」
布団に入ったら秒で寝てしまいそうだ、とリオノーラはあくびを噛み殺す。
だが、彼女の夜はまだ終わらなかった。
《つづく》
「はぁぁっ!」
リオノーラはレイラから教わったアレスの弱点を突こうと一撃を繰り出すが、それは難なくかわされてしまう。
明らかに熟練度が違う。まるで大人と子どもの打ち合い稽古のようだ。
一本を取れるイメージがまるで湧かず、リオノーラは焦る。弱気になりそうになる心を、彼女はなんとか奮い立たせる。
(レイラは『戦に絶対はない』と言っていたもの! ここでアレス様から一本取って、私はケーキを食べるのよ!)
元々リオノーラは不利だった。彼女はアレスよりも頭一つ分背が低い。剣術は背が高い方が圧倒的に有利なのだ。
「あっ……!」
カンッと高い音を立て、リオノーラが持っていた木製の剣が埃っぽい地面に落ちる。
リオノーラは自分の両手を見つめる。久しぶりに振るったからだろう。両手ともぶるぶる震えていた。
アレスはリオノーラが落とした木製の剣を拾った。
「……今日はこのくらいにしましょうか」
「ま、待ってください! もう一回だけ……!」
「今日はリオノーラも頑張りましたから、一個だけ、小さいケーキなら帰りに買ってもいいですよ」
そんなお情けで買ってもらうケーキなど、食べたくなかった……いや、それでもケーキは食べたいとリオノーラは思ったが、ここで辞めたら女がすたる。
「お願いします! もう一回だけお願いします!」
すでに手には力が入らなくなっている。息も切れ、体力も限界だ。でも、辞められなかった。
「……分かりました。一回だけですよ」
「ありがとうございます!」
(私がこんなにぼろぼろになってるのに、アレス様は涼しい顔してる……)
アレスは呼吸一つ乱していない。最低限の動きでリオノーラの一撃をかわし、軽い力で彼女の木製の剣を叩き落としている。難しいことなど何一つしていないように見える。ここまでの域に達するのに一体どれだけの研鑽を積んだのだろうか。
(私など、遠く及ばない……!)
だが、一本取って美味しくケーキを食べたい。
リオノーラは木製の剣を握ると、再びアレスに立ち向かっていった。
◆
「はぁぁ~……勝てるわけないですよね……」
「まぁでも、頑張りましたよ。俺相手にここまで粘れる人間はそうはいません」
あの後、やはりアレスから一本も取れず、リオノーラは負けた。
菓子店で小さなバタークリームケーキをひとつ買い、リオノーラは食べさせてもらっていた。もう、手が震えてフォークも握れないのだ。
「美味し……」
久しぶりに食べたバタークリームケーキは、涙が出そうになるほど美味しく感じた。
四角く切られたやや黄み掛かった白いケーキに真っ赤な丸いゼリーが中央にひとつだけのせられたそれは、宗国の伝統的な菓子だ。
ケーキはあっという間に食べ終わる。名残惜しい。もう二つ三つは余裕で食べられたのにと、リオノーラは胃を押さえた。
「歯をみがいてシャワーを浴びたら、今日はもう寝ましょう」
アレスは食器を片付けながら言う。
「そうですね~。今日はもうへとへとです」
布団に入ったら秒で寝てしまいそうだ、とリオノーラはあくびを噛み殺す。
だが、彼女の夜はまだ終わらなかった。
《つづく》
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